「第一回! チキチキ納涼怪談大会~!」

闇の書事件が終結を迎えて七ヶ月ほどたった、海鳴の町。午後11時。
八神家で、そんな大会は行われようとしていた。
はやては、嬉しそうに。
なのはは、うろたえながら。
フェイトは、少しおどおどしながら。
ヴィータは、憮然としながら。
この四人が参加者である。
他に参加者は、いない。

「えと……それで怪談って、何?」

フェイトが、やや恥ずかしそうに訊ねる。ミッドチルダ人には夏の日に、
暑さを和らげるべく怖い話をして涼しくなろうなどという発想はないらしい。

「うーんと、まあ、怖い話をするんだよ」

なのはの簡潔な説明。フェイトは未だよくわかっていなさそうな顔をしていたが、
とりあえずそういうものなんだと考えたらしい。

「ま、話していけば雰囲気つかめてくるやろ。そんじゃ、誰から話す?」


   ■■■


「……ま、こんなもんやろ」


だいたい話始めてから30分ぐらいが過ぎただろうか。
怪談というものをイマイチ理解していない風のフェイトとヴィータを除けば、
そんな話が出来るのはなのはとはやてだけ。
あいにく人を怖がらせる話し方ができないなのはは、結局そんなに話すことはなかった。
はやての独壇場である。
情感をつけての話術、時には声色を変えての雰囲気作り。
ほぼ30分間、はやてが話しっぱなしだった。

「けどま、魔法の力を得た後で考えてみれば、あんま怖くないわな」

少女たちが一様に考える魔法のイメージは、何となく古臭いもの。
しかしなのはたちが手に入れた魔法は、理論と実践により成り立つ科学と言える。
つまるところ、非ィ科学的な幽霊だの妖怪だのという話は、何だか現実感の無い話に感じてしまうのだ。

「うん。話としては面白いけど、あまり怖くはないね」

ずーっと顔色一つ変えずにいたフェイト。怖いというよりは、
面白いと感じるあたりが生粋のミッドチルダ人と言ったところか。

「そ、そうかな……?」

そして、なのはは怖がっていた。終始震えっぱなしである。


「……なーなーはやてー。カイダンって、要するにわけわかんねえ不条理な怖い話ってことでいいのか?」
「え? まあ、極端に言えばそうやな」
「だったらさ」

ヴィータは、にんまりと笑う。いたずらを思いついた悪がきのような笑み。

「あたしも話せるぜ、体験談で」


   ■■■


まあ、あたしたち守護騎士がまだはやてのとこに来る前の話だ。
『闇の書』はその資質を認めた者の前に現れ、守護騎士を召喚するだろ?
そん時は、いつもの繰り返しが行われるんだなー、とか思ってたわけでさ。
あたしたちもいつものやり方でいたんだよ。はやての時と同じようにさ。
『我ら守護騎士、ここに参上いたしました』ってヤツ。
返事がさ、やったら生気の無い声でさ。『誰でもいい。一つ、頼まれてくれないか』って。
もとより主の言うことを聞かなきゃならない訳だし、まあそれには異論はなかったんだよ。
ただ、その頼みごとってのがさ。


『自殺を見取ってくれないか』


はっきり言って、意味がわかんなかったぜ。だってさ、ありえねーだろ。
今から自殺するから、それを見取ってくれって。『君たちには迷惑をかけないから』とか言われても、
こっちもそんな願いは初めてだったからさ。まあそれで終わるなら、って感じであたしも、
シグナムもシャマルもザフィーラもそいつの顔を見てさ。その瞬間にあたしたちは死んだ。


……いや、まだその時は死んじゃいねーよ。目ェ見ただけで死ぬってのは流石にないからな。
どんな目だよ、それ。んまあとにかく、目と目を合わせた瞬間、
あたしたちは何一つ身動きがとれなくなっちまったんだ。
体中の筋肉がまったく動いてくれなくてさ。闇の書だとか、守護騎士とか関係ねえ。
魔法どころか呼吸だって出来なかったんだ。
それで、そいつ、そんなあたしたちの様子に何一つ気付いた感じも無くてさ。

『昨日の夜からだ。ずっと死のうと思っているんだけど、まったく死ねないんだ。
もしかしたら、どこかおかしいところがあるのかもしれない。そんな様子が見つかったら、
遠慮なく言ってくれ。すぐに修正して死ぬから』

とか言ってんの。こっちはしゃべれねーんだぜ。で、どうやって自殺すんのかと思えば、首を回しはじめたんだ。
後ろ振り向く感じで。で、さ。あたしたちもみんな首が同じように回ってさ。

そいつとまったく同じ動きをしているわけよ。

声も出せないし。出来ることは、っつーか首嫌でも回って、あたしたち全員後ろを振り向く形になったわけよ。でもさ。
そいつの首はまだ止まろうとしなくって。
明らかに首の皮も肉も骨もこれ以上ねじれないって悲鳴あげてんのに、首はそれを無視して回ろうとして。
そいつ、まだなんか言っていたんだけど、もう聞くどころの話じゃねーよ。
静止の声もあげることも出来ずに、守護騎士全員の首がいっせい、ぼきっ、て音出して、それであたしたちは死んだ。
で、本当に意識を失う直前、倒れこんだときに視界に入ったのがさ。上を向いてうつぶせになっている死体ども。


あたしたちとまったく同じ姿。

あたしたちは気付いたんだ。こいつらもこうやってまきこまれたのか、って。
まきこまれて死んだのがあたしたち以外にもいっぱいいたってことは、
あいつはずっと他人を巻き込んで自殺し続けていたってことなんだよ。
もしかしたら、今もまだ自殺し続けてんのかもしれねえ。他人を巻き込みながらな。


   ■■■


「と、まあこんな感じで―――あれ、どうしたなにょは。そんな震えて」

確信犯的な笑みを、ヴィータは浮かべていた。

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最終更新:2009年01月03日 01:18