翌日早朝
機動六課模擬演習場前
そこにはこれから訓練を始めるなのはとバリアジャケット姿のスバル、ティアナ、エリオ、キャロ達フォワードメンバーが整列していた。
「は~い、皆集まってるね。
それじゃあこれから早朝訓練を始めるね。
皆準備は良い?」
「「「「はい!!」」」」
その返事を聞いたなのはは満足そうに頷いた。
「だけどその前に……。
皆には今日から私達の仲間になる人を紹介するね。」
「仲間になる人ですか?」
スバルがキョトンとした顔で聞いてきた。
それは他のメンバーも同じで頭に?マークを浮かべている。
「うん、多分もうすぐ来ると思うんだけど……。」
「シャーリーさんといるあの人じゃないですか?」
エリオが機動六課隊舎の方から近付いて来る人物を指差しながらそう呟いた。
そこには朝から何故かご機嫌なシャーリーと不機嫌な顔をした式がいた。
「ねぇティア……。あの女の人どっかで見た事ない?」
「奇遇ねスバル。私もちょうど同じ事考えてたわ。」
スバルとティアナが式を見ながら同時に首を傾げていた。
「なのはさん、おはようございます~。」
「おはようシャーリー。
式もおはよう。ごめんね朝早くから来てもらって。」
「一体何なんだよ……。
もししょうもない理由で呼び出したんならオレは寝させてもらうぞ?」
式は欠伸をしながらなのはにそう言った。
「にゃはは、式の事を紹介しておきたかったし、ちょっと手伝って欲しい事があったからさ。
あ、皆に紹介するね今日から私達の仲間になる両儀式さん」
「名字で呼ばれるのは嫌いだから式で良い。まあ、宜しく頼むよ……」
式の妙に軽い挨拶を聞いたフォワードメンバーは少し唖然とした顔をしていた。
「ってあ~~!!」
そんな中スバルが突然式を指差しながら大声を上げた。
なのはやシャーリー、他のフォワードメンバーも驚いたのか仰天した表情でスバルを見ている。
式だけはめんどくさそうな顔をしているが。
「ちょ、何なのよスバル。いきなり大声を出して!」
「ティア覚えてない?この人昨日私達が保護した次元漂流者の人だよ!」
その言葉で思い出したのかティアナは驚いた表情で見ていた。
相変わらず式は平然としているが。
「そう言えば昨日お前らと会ったな…。確か青髪がスバルで、オレンジ頭がティアナだっけか?」
「あ、覚えててくれたんだ」
「オレンジ頭……。そ、それよりなのは隊長、何で次元漂流者である式さんが機動六課に入隊する事になったんですか?本来なら保護しなければいけない筈なのに。」
「式……別に話して良いよね?」
「ああ……」
その後なのはは式がこの世界に来た経緯。
元居た世界がパラレルワールドで戻れる確率が限り無く低い事。
はやてが式を機動六課に誘った理由などをフォワードメンバーにあらかた話して聞かせた。
最後の部分は式には聞こえないようにしていたが。
「そうだったんですか……すいません式さん無粋な事聞いて……」
「別に気にしてないから謝るな」
相変わらず無愛想な式。
それを見たティアナは、何かやりにくい、と感じながら顔をしかめた。
「それよりそこいるおチビ共も六課のメンバーなのか?」
「そうだよ、紹介するね。
エリオとキャロだよ。
二人共まだ小さいけど、優秀な魔導師なんだ。」
なのはの言葉の後何故かエリオとキャロは式に敬礼した。
二人の自己紹介が終わった後、なのはは今回の訓練の説明を始めた。
「それじゃあ訓練を始めるね。
今日はシャーリーからの要望で、式のデバイス用の戦闘データを取るのを兼ねてフォワードメンバーと式でガジェットを使った実戦訓練をやってもらうね。」
その言葉を聞いた式が眉をひそめた。
「おいなのは……それはオレも参加しないといけないのか?」
「当たり前だよ?
式のデバイスを作る為なんだから。
それに私達の仲間になるんだから、これからは毎日訓練に参加しないとダメだよ?」
「めんどくさい……。」
式はそんな事必要ないだろと思いながらも渋々懐から愛用のナイフを取り出した。
「それが式さんのデバイスなんですか?」
それを見たエリオがそんな質問をした。
「良く見てみろ……これは只のナイフだよ。
だいたいこの世界に来たばっかりのオレがお前らみたいな武器を持ってる筈が無いだろ。
だから今日は俺の戦闘データを取るんだろ?」
「た、確かに……。
え?それじゃあ式さんはそのナイフで訓練に参加するんですか?」
「それがどうかしたか?」
それを聞いたエリオとキャロは驚愕の表情をしていた。
まあ、当然な反応と言えるだろう。
スバルとティアナも驚いてはいたが、昨日の光景を見ている為か落ち着いている。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ皆。
式は結構戦闘慣れしているし、これでも生身でガジェットを破壊してるんだから。」
全員の心境を察知したのかなのはがフォローを入れた。
その言葉に渋々納得したのかフォワードメンバーは模擬戦闘場へ移動した。
因みにシャーリーはデバイス開発を頼まれた時点で式の『眼』の事以外は教えられているので平然としている。
「おいなのは……あいつらにオレの『眼』の事を教え無くて良いのか?」
式は自分のナイフを弄びながらなのはに尋ねた。
「言葉で説明すると混乱するだろうから、見せた方が良いと思ってね。」
「まあ、確かにその通りかもな……」
式はフォワードメンバーの後を追いかけるように模擬戦場へ移動した。
余談たがこの時点式の服装が着物だと言う事に疑問を持ったのは誰もいなかった。
模擬演習場内部
全員がスタートポイントに着いた時、なのはから訓練の内容が言い渡された。
『それじゃあ、訓練の内容を説明するよ。
今回は予め設置されたターゲットを確保するミッション。
前々回の任務と同じと考えて良いよ。
出現してくるスフィアやガジェットを破壊しながらルートを進んで、如何に効率良くターゲットを確保するかがポイントになるから皆頑張ってね』
説明が終わった後、ティアナはなのはから渡された式のデータを見ながら今回のプランを考えていた。
ミッションの内容自体はそれほど難易度は高くない。今の自分達ならば焦らなければ十分に成功する自身がある。
しかし、今回は式と言う不確定要素がある。
魔法は全く使えない素人だし、武器は何の魔力も付加していない普通のナイフが一本。
身体能力はスバルやエリオの軽く上を行くがそれでも不安なのには変わらなかった。
正直この状態でガジェットを破壊したのが未だに信じられなかった。
なのはが言うのだからそこには嘘や偽りは無いだろう。
直接では無いにしろ自分やスバルもその光景を見ている。
さてどうしたものか……
「ねぇティア~早くしないとスタートの時間になっちゃうよ?」
「わかってるわよ……」
しょうがない、その場にならなければ分からない事もあるし戦闘経験もある程度あるらしいから何とかなるだろう。
今は何時も通りにやるだけだ。
そう割り切った後、ティアナはマップを広げながらフォワードメンバーと式に今回のプランを話した。
「それじゃあ説明するわよ。
今回はスターズとライトニングの二つに分けて行動するわ。
式さん、貴女は私とスバルと一緒に来てください。」
「分かった……それとさん付けはいらないしタメ口で別に良い。」
式は素っ気無い態度でそう言った。
「分かり……分かったわ式。
続きだけど、私達スターズは道路を使ったAルートを、ライトニングは反対側のビル群を使ったBルートで行って。
行動は必ずチームで行なう事、単独になった場合は直ぐに連絡して合流する事。
良いわね?」
「「「了解!」」」
「式もそれで良いわね?」
「ああ……」
各々の返事を確認した後、シャーリーからミッション開始のカウトダウンが始まった。
「3……、2……、1……、スタート!」
「スターズ、ライトニングGO!」
ティアナの合図と同時にスターズはAルートを、ライトニングはBルートを進み始めた。
スターズの進むAルートは直線的な道路などが中心のなだらかな道だ。
ビルなどの遮蔽物も少なく敵の位置も把握しやすい。
比較的安全な道と言えるだろう。
その道を進んでいると前方からガジェットⅠ型が左右から3機ずつ接近して来ていた。
敵もスバル達に気付いており、発見した後直ぐにレーザーで弾幕を張って来た。
「早速おいでなすったわね。
スバル、後ろから援護するわ。
アンタはいつもどおりに前で暴れて来なさい!式はまだ前に出ないで!」
「分かった!」
「…………」
そう言った後スバルはマッハキャリバーのローラーを唸らせながら右のガジェット群に接近。
ティアナはクロスミラージュで援護をしながら左のガジェット群に攻撃を開始。
式の方は珍しく人の言う事を聞いており、ナイフを持ちながらティアナの後ろを走っていた。。
「リボルバーシュート!!」
「バリアブルシュート!!」
カートリッジを一発消費するリボルバーナックルとクロスミラージュ。
それぞれから放たれる衝撃波と誘導式多重弾膜射撃。
それにより6体中の3体が貫かれた。
スバルは一体を蹴り飛ばした後、もう一体の後方に回り込み得意のシューティングアーツで撃破した。
今回のガジェットのAMFは一ヵ所にしか作用しないタイプ。
後方に回り込めばその影響は少ない。
蹴り飛ばした一体も脚技で倒した後馬乗りになり、そこからナックルダスターを叩込んだ。
ティアナも3発の誘導弾を巧みに操り最後の一体を貫いた。
3人は破壊した時の粉塵を突き抜けながら、先に進んでいる。
ティアナの方は消費したカートリッジを装填しながら周りを警戒している。
「大丈夫?怪我はない式?」
「怪我も何も、お前らみたいに殺り合って無いんだからするはずも無いだろ……」
「あはは……それもそうだね」
相変わらず無愛想な式に苦笑したスバル。
「スバル、式無駄話ししてないで行くわよ………スバル右!!」
「え………?」
ティアナの警告が飛ぶ。
スバルが咄嗟にその方向を向くと高魔力の直射魔法が飛んで来た。
咄嗟にプロテクションを張り防ごうとするが間に合わない距離にまで来ていた。
そのまま直撃を受けると感じ身構える。
その時式がナイフを構えて目の前に立ちはだかった。
「式!?」
スバルが思わず叫んだ。
スバルやティアナとは違いバリアジャケットなどを装備していない式が直射魔法をくらえば只じゃすまない。
それに式が持っているナイフでは防御したところで叩き折られるのが目に見えている。
しかしこの予想は呆気なく裏切られる事になった。
式が徐々に近付いて来る弾を見つめる。
そして1mにまで接近したところでナイフを一閃すると魔力弾は横に真っ二つに裂けてしまった。
「え!?」
スバルが驚きの声を上げる。
それもそうだろ。
デバイスでも何でもない只のナイフで魔力弾を切り裂くなど本来なら有り得ない事だからだ。
しかしティアナ落ち着いてそれを見ている。
スバルは忘れているかもしれないが、式は生身でガジェットを破壊しているのだ。
ならば魔力弾を切り裂く事できてもおかしくはないからだ。
「おい、大丈夫かスバル…?」
「え、うん…ありがとう式」
「なら良い。おいティアナ、あそこの丸いやつ……オレにやらせてもらうぞ。」
スバルとティアナが式が指を指した方向に目を向ける。
そこには以前Bランク試験の時にスバルが破壊したのと同じ中距離タイプのスフィアがあった。
「そんな、幾ら何でも一人じゃ「分かったわ」ティア!?」
スバルの言葉を遮るようにティアナが言った。
その言葉を聞いた後、式は右手のナイフを構えた。
そして体勢を低くし、スフィアに向かって疾走し始めた。
ティアナが式にスフィアの迎撃を任せたのには理由があった。
これから共に戦う仲間として式の戦闘能力を自分達の目で確認しておきたかったからだ。
なのはのお墨付きとガジェットを生身で破壊した事実があるとは言え、偶然という事も考えられたからだ。
それでは実戦では役に立たないし、下手すれば死ぬ事になりかねない。
スフィアとの距離は約15メートル。
式の身体能力を考えればこの距離を詰めるのに3秒と掛かるまい。
その間レーザーの弾幕が続いたが、全て『線』を断ち切りながら疾走した。
式が目の前にまで接近しようとした時、スフィアは特大の直射魔法を放った。
それは直撃すれば確実にケガを免れない一撃。
流石にヤバイと感じたのかティアナとスバルが式を助けようと走った。
しかし、その心配は無用だったようだ。
式は魔力弾が当たる直前に真横に回避したのだ。
スフィアも式が回避したのを確認したのか直ぐさま障壁を張るがそんな物は無駄だ。
強固な障壁もナイフの一振りにより『殺され』消滅。
「お前……暇つぶしにもならねえよ」
その一言の後、式はスフィアの『線』をナイフで一閃 した。
式はさもつまらないと言った表情で残骸となったスフィアを見ている。
ティアナはその光景を唖然として見ていたがスバルはおもいっきりはしゃいでいた。
「すごい、すごいよ式!
本当にデバイス無しで倒すなんてすごいよ!」
「うるさいスバル……。
まだ終わりじゃ無いんだ、とっとと先に行くぞ」
そう言った後式はスバルの横を通り過ぎ、先に進んでしまった。
「え、ちょっと待ってよ式。
ティア早く行かないと遅れるよ!」
立ち尽くしているティアナの腕を引っ張りながらスバルも式の後を追っていた。
「何よ……やっぱり凡人は私だけじゃない」
最終更新:2009年01月08日 06:55