Lightning&Rider ―――
剣と槍の織り成す凄絶なる凌ぎ合い
互いの心身を削っての攻防繰り広げられる
フィールド中央――
その戦場の周囲をまるで周回するかのように飛び回る二対の閃光があった
機動6課ライトニング隊隊長=フェイトテスタロッサハラオウン
そしてサーヴァント=ライダー
先ほど見知られぬ峠道にて
追いつ、追われつのデッドヒートを繰り広げた二人
そのステアリングを握っていたもの同士が
期せずして再び、互いのテールとノーズを突き合わせる
「止まれ!!! まずは話を、、ッッ」
下がるフェイトに追うライダー
対話の機会を持とうと何とか距離を離そうと試みる執務官であったが
四方から襲い来る暴力の嵐を避け、潜り、凌ぎながら絶叫する彼女の声を
紫の女怪は全く耳に入れない
彼女にはランサーのように戦闘そのものを愉しむ趣向は無い
その身は、人が眩しげに見上げる栄誉や誇りとはただただ無縁の存在、故に戦に美学も求めない
機先を制したなら一気にそのまま獲物の全身を引き裂くのみである
その互いの凄まじい速度は先ほどの前哨戦とは比べ物にならない
当然だ……先ほどはそれぞれが重い箱と貧相なフレームに縛られた、謂わば楔に縛られた状態であったのに対し
今はその重石から解き放たれた、、彼女たちは世界最速の走狗であるのだから
美しきステルスランナーの夢の競演
それは常人の鑑賞を許さぬ、スピードの向こう側の光景
1000分の1のレンズのフィルターを通して見たとしても
その金と紫の美しい髪が残像となって尾を引くのを辛うじて移すのみであろう
「貴方はッ、、スカリエッティの、、、うっっ!??」
一時も止まない猛攻
その一撃がフェイトの胸元を一文字に裂く
彼女の手に握られる、小型の短剣とその柄から伸びる鎖のようなもの
まるで日本の戦国時代――兵法家の一部が愛用したとされる鎖鎌を模したような武装であった
それを以って攻めに攻める紫紺の騎兵
その連撃はSランク魔道士の彼女をして全く口を挟む隙を与えない
そう、フェイトは今や時空管理局のSランク魔道士である
攻勢に回れば殲滅兵器
守勢に徹すれば鉄壁の要塞
まさに次元世界にて最強の二つ名を与えられし存在
時空管理局が各地の紛争鎮圧や次元犯罪者と戦うにおいて戦略の要となる者たち
それが局の魔道士の中でもエリート中のエリート=「オーバーS」と呼ばれる彼女らなのである
そんな自分が―――完全に受けに入ってなお、相手の攻撃を凌ぎ切れないという事実、、
(この、、強さは……!)
つまり相手は「Sランク」に匹敵する戦闘力を持った個体
フェイトの全身を覆う汗は、その半分が冷たいものであろう
何せS級同士の戦いは町一つ、山一つをゆうに壊滅させるのだ
法外な力を持つ者同士の邂逅は並大抵の事態ではなく
その力が行使されるに当たっては万全の備えとA級以上の結界魔法の使い手が必須、、
そのどちらも……今、自分に用意出来るものはない
思考を巡らすは一瞬
だがこの二人の間での一瞬は人を十数人はラクに殺せる一瞬だ
フェイトの喉元に杭の様な短剣が迫る
「くうっ!!」
それをスウェー……否、身体を捻りながら後方に倒れこみ回避するフェイト
後ろに下がりながらそんな体勢を取れば常人ならばたちまち転倒し
後頭部を地面に打ち付けてしまうだろう
だが、そこは彼女の空間姿勢制御の妙
低空飛行にして、片手で自身の全体重を支えながらのバク転
そしてまるで体操のムーンサルトのように身体を反転させて
華麗に地面を滑りながら着地する黒衣の魔道士
だがライダーもそれに負けてはいない
地面スレスレで縦回転した相手の上空を取るように彼女は飛翔
相手の回転の僅かな隙をつき、その死角に回りこむ
「! シールドッ!!」
着地して開けた視界に紫の肢体がどこにも無い事を察したフェイトが
今のアクションで己の死角となった方角、地点を高速で先読みし
そこに稲光を放つ防御壁を張る
「ギュイィィィィ―――という
魔力壁と物体が衝突した音が鳴り響く
「―――、?」
魔道士の海老反り縦回転に合わせて同方向に飛び込んだライダーが
その死角を突いて後方に回り、頚椎を貫こうと放った短剣の一撃が、、
間一髪、フェイトの防御魔法によって阻まれる
今まで知覚しなかった所に突然現れた壁に阻まれ、そのまま弾かれるライダー
一つの攻防が為され、しかし互いに一時の静止も許さない
地面を滑るように動き出す二人は変わらず――紫が攻め、金色が凌ぐ
それはどこまでも激しく美しい舞いのようだった
(駄目だ……守勢に回っていたら、、)
そんな中、歯噛みしたのは金髪の執務官である
守りに回っていては一気に叩き潰されるという直感
ただでさえフェイトは先行先出し型のスピード重視の魔道士であり
防衛戦は装甲などの特性上、最も苦手とする戦法なのだ
相応の力を以って迎撃をせねば止まらない…
そう思い立った魔道士
金と紫の髪をなびかせて飛ぶ二対の光が交錯する中、
フェイトがバックステップから一転、初めて攻勢に出る
話を聞いて貰うにはまずは卓について貰わねば始まらない
己が掛け替えのない友達に教えられたそれを彼女は今、実践に移す
――バルディッシュ=サイス
金色に光る、彼女が持つには聊か無骨な巨躯
その杖の頭身から煌く一条の鎌
それを一切の重量を感じさせずに後方に振りかぶり――
フェイトは勢い良く横一文字に薙ぎ払った
それは彼女の動きと相まって加速に加速を重ねた雷光の一撃
ブリッツアクションと呼ばれる速度補助の魔法を伴う彼女の斬撃は
一流の騎士をして「見えぬ」と言わしめる不可避の領域にある
それをカウンターで相手の女性が踏み込んでくるタイミングに合わせて放ったのだ
普通ならばここで決まり、、
並の相手なら斬撃に反応すら出来ず、切り伏せられて地に侍る事だろう
―――並の相手ならば、、、であるが
「!!」
その切り払いを放ちながらに相手を見据えるフェイトの表情が歪む
紫の女性の中段を狙ったバルディッシュの一撃を
何と相手は中段の更に下に瞬時に沈み込んでかわす
まるで四足歩行の獣のように地に伏せ
低空にて潜り、頭上にてサイスの一撃をやり過ごしたのだ
魔道士が息を飲んだのはその、人の肉体が演じるにはひたすらに歪な四足直立が
この女性にはとにかく馴染んでいて――
くねるような腰や背中が、まるでヒトではないナニカに見えてしまったから…
だが空振りに終わった反撃からでも何かを掴むのが一流の戦術家だ
まるで押し寄せる暴風のようだった相手の踏み込みが今、一瞬だけ止まる
その機を逃すフェイトではなかった
振り切った鎌の切っ先が宙を裂き、体が泳ぐが
その勢いを殺さず、むしろ利用して――斜め後方にバックステップ
間髪入れずに後ろ手にサイスを構え、
「ハーケン、、、セイバァァーーー!!」
捻りを加えた姿勢から、その力を開放するように
返し中段の二撃目を放つフェイト
それは中間距離から放たれる三日月の光輪
巨大な鎌の刃部分が手に持つ杖の先端から勢い良く射出され
静止したライダーを薙ぎ払おうと迫る
「ふん、、」
まるで回転ノコギリのように空を裂いて飛ぶ金色の凶器は見るだけで圧巻の恐ろしさを秘めていた
だが、それを鼻で笑うように瞬間移動じみた横っ飛びでかわすライダー
凄まじい速度で放たれた光の刃なれど
そのような飛び道具にむざむざ当たってしまうほど彼女――
いや、サーヴァントという存在は甘くない
だが、フェイトにはそれで十分
相手の奇襲からこっち、まともに迎撃姿勢すら取らせて貰えなかった彼女が得たこの一時の間こそ
雷光が天に昇る絶好の機会だった
「―――テイクオフ!」
雷電纏う黒衣の魔道士
その対照的な白いマントを翻し
運動法則をまるで無視したロケットスタートのような離陸によって
フェイトはライダーの遥か上空にその身を翻していたのだった
――――――
一瞬で空高くまで舞い上がった肢体が
後ろ手に鎌を抱え、目下の相手――
ライダーに向けて手を翳す
「……………」
ようやく本来の自分の居場所、空へとその身を置く事の出来たフェイト
地上でこちらを見上げてくる恐るべき敵の追撃に備え、マルチタスク――並列思考で
同時7つの術式を展開しつつ、相手の動向を見る
――――――追撃は、、、無い
奇襲とはいえ、フェイトを防戦一方にまで追い詰めた敵の女性
この執務官をして「目にも止まらぬ」身のこなしで襲い掛かってきた美しき紫紺の刺客は
今、地上から黙ってこちらを見上げているのみ
その美しい髪が風を受けてたなびいている
「陸戦タイプ………」
いきなりの超速戦闘に入り
ギアを無理やりトップギアに入れた事による負荷か、、
既にフェイトの額には玉の様な汗が浮かび、荒げた息と共に肩が大きく上下している
正直、追撃が来なくて助かった、、
取りあえずは一息つける事にホッとするフェイト
(……でも油断は出来ない
あれほどの戦闘力を有する相手、、何をしてくるか分からない)
とはいえ、そこは現職の執務官だ
敵を前に緩めてしまうような真似はしない
視線は常に相手から外さず、敵の一挙一足投に神経を集中させている
「―――どうやら雀を取り逃がしたようですね」
対して、その姿を見上げながらにボソリと呟く騎兵
アイマスクの下に封じられた両目が今、称えるは如何な感情か?
奈落に堕ちていく自動車から相手の二人が脱出した様はこの目で見ている
相手が飛べる事は分かっていた
故に、その翼が羽ばたく前に仕留めようと思っていたのだが――
(また随分と頑丈な雀もいたものです)
フウ、と溜息交じりに、愚痴めいた思案に耽る騎兵
不意をついてあれだけの手数、あれほどの攻撃を放ったにも関わらず
相手に一発も効かせられなかった
長い金の髪と軽装のローブに身を包んだ魔術師の女
この自分が本気で攻めれば容易くヘシ折れるであろう、その華奢な体躯には
見たところ、擦り傷一つない
いくつか直撃したはずの攻撃もあったのだ
瞳はマスクで隠されているが、その感覚が事実を違える事は無い
確かに突き立てた短剣――
心臓と脳天を貫く筈の杭が――
肉体に届く前に力なく地に落ちる様、、
自身の武装が通らないという事実をはっきりとその目に認めていた
それに動きも速い
サーヴァントで1、2を争う自分の足に競り負けない程の速力を持つ彼女
すばしっこい身のこなしは野生の兎のようであり
時折見せる瞬間的な加速や旋回は戦闘機のようなモーター仕掛けのマシンを思わせる
そんな凄まじい機動力を駆使し、ついには自分の手から逃れてしまった獲物
かつてツバメを斬る為に魔法の域にまで術を磨いた剣バカがいたが……
自分もそんな端っこい相手を捕らえる術を磨いておけばよかったと思い立つ
(あの速度に加え、防壁に飛行能力……
まともに戦えばこちらの攻撃を届かす術はない、、厄介なものです)
期せずしてランサーと全く同じ憂き目にあうライダー
管理局魔道士が誇るその神域の守りと卓越した性能は
やはりそれを持たぬ者にとっては脅威以外の何物でもない
これは長丁場になりそうだと……美しき女怪はマスクの下の眼に光を灯らせる
「………問答無用で攻撃してきた事は、今は不問にします」
その獲物が、上空から右手を翳しながら何やら喋り出した
「そちらに何の意図があるのか私は知らない
でも管理局はちゃんと相手の話を聞く用意がある…
まずは武器を収めた後、話を聞かせて欲しい」
「――――」
何やら勘違い……
否、場違いとしか思えない言葉をつらつらと語り出す黒い金髪
取りあえずは沈黙を以って答えるライダー
「………貴方はルーテシアという娘を知っていますか?
または何かしらの関係が…?」
「――――」
取り付く島のない、というより
聞こえているのかと疑わしくなるほど、、
地に立つ女性は反応が薄い
元々、どこか浮世離れした雰囲気を醸し出している風がある
言葉が通じている事すら疑わしくなるフェイト
だが、その追及の手は緩めない
プロジェクトF……
もし彼女がスカリエッティの手の者だとしたら――
ルーテシアやその母の細胞から作られた彼女達のクローンという可能性は十分にある
ならば放っておける筈が無い
自分の母と、因縁深いあの狂気の科学者が世に残した忌わしき遺産
その傷跡を少しでも癒すのが、あの計画に深い因縁を持つ自分の使命だと彼女は思っているから、、
「話す事などありません――
サーヴァントはマスターの命によって動くのみ
どの道、貴方が死ぬ事に変わりは無いのですから」
思案に耽るフェイトに対し、その女性がようやっと口を開く
ハスキーで透き通った落ち着いた声だ
ゆっくりと紡ぐような声色はまるで歌うように美しく
だからこそ、その口から容易く――
死を連想させる言葉が紡がれる事に戦慄を禁じえない
(マスター……やはりスカリエッティ、、、)
サー、、、何やら聞き慣れない言葉が出てきたような気がするが
この女性と、そしてあの槍の男が誰かの指示で動いている事は間違いない
そしてその誰かとは言うまでもない、、
自分とシグナムが追いかけてきたあの男――
ジェイルスカリエッティ以外に誰がいるというのか?
「貴方は何者だ? 戦闘機人か?」
「サーヴァント=ライダー、、フフ……これくらいは教えて差し上げても良いでしょう
自分がどのサーヴァントに殺されたのかくらいは、知らせたところでバチは当たらない」
「……なら、、ライダー
貴方を管理局法第13条=公務執行妨害で逮捕する」
敵が正体と目的を明確にした以上、こちらも躊躇っている場合ではない
常の優しい態度からは考えられない厳かな視線を彼女に向け
そしてフェイトは言い放つ――法の執行者たるその宣言を
「拘束後、貴方には弁護士を呼ぶ権利が生ずる
局員の勧告にあくまで従わず、武装を解除しなければ裁判では更に不利に、、」
「―――――フ、、」
「………何がおかしい?」
流れるような口上に対し嘲りの笑みを返すライダー
静かに問い返すフェイトの口調も厳しい
「いえ、つくづく面白い事を言うもので……少し興味が出ました
この私に何の権利が生ずると?」
「弁護士を呼ぶ権利だ………それと貴方には、、」
相手のどこか嘲るような態度にも冷静に対処するフェイト
過去何十回何百回と繰り返してきた犯罪者に対する勧告を
この優秀な執務官は一文たりとも違えたりはしない
そしてその自分にとっては茶番以外の何物でもない能書きを
黙って (あるいは関心深げに?) 聞いていた騎兵である
「弁護士、ですか……ふむ――興味がありますね
原初に遡っての私の所業を現代の法に照らし合わせた場合
どう裁かれ、はたまた人の世において弁護の余地があるものなのか――」
何やら口に手を当てて、ブツブツ独り言を呟く女性
「私としてはいい加減、時効ではないかと思うのですが如何せん殺した者の数が多すぎる
しかしあの者どもは皆、人の家に無断で入り込み女神を嬲り者にしようとした――英雄とは名ばかりの鬼畜
そんな輩は石像にされて物干し竿の代わりにされても当然かと、、俗に言う正当防衛、というやつに抵触しないかと思うのですが如何?」
「なにを……何を言っている…?」
「いえ、こちらの話です」
やがて女は髪をすいっと掻き揚げて、
「まあ埒も無い口実はもういいでしょう? ――魔術師」
もはやこの場において言葉など何の価値もないと
フェイトの説得をピシャリと斬って捨てる
サーヴァントを相手に何を、、という心底うんざりとした態度は一先ずは出さない
相手にも相手の何らかのポーズがあるのだろう
どうせ殺す相手だ……さしたる興味も沸かない、、、
そしてフェイトもまた説得の無駄を悟り――その目がスウと閉じられる
「奇襲で私を倒せなかった以上
飛べない貴方に勝ち目は無い……それでもやるのか?」
「相手に敗北を認めさせるには聊か早すぎるのでは?
それに勝ち目がないというのは―――どうでしょう」
空に陣取り、得意げな表情の小雀
「その気」になれば英霊にとって
上空などは何のセーフティゾーンにも成り得ないというのに、、
そしてライダーを直下に迎えるフェイトの目がゆっくりと……
決心を固めるように開かれ、そして紡ぐ――
「―――――ランサー、、セット」
今の今まで一時も下ろさずに敵の女性に向けていた手から迸る金色の魔力の奔流
マルチレンジでの多彩な技を有する彼女が一つ、己が引き出しから手の内を見せる
――プラズマランサー
彼女の得意技にして全ての攻撃の基点となる技である
空間に顕現させた無数の雷属性の矢を敵に投擲する直射型射撃魔法
その黒いローブ姿の魔道士の周囲に次々と展開されていく二の腕ほどの長さを持った矢
これは全てフェイトの命のままに動く意思を持った猟犬だ
高い目標到達性能を持つ矢の数々を一斉に降らせる
敵は翼持たぬ者…
恐らく勝負は一瞬で決まるだろう
(完封する……下手に手加減するよりは一気に倒した方がいい、、)
そうだ、、敵のあの埒外の身のこなしと強さ
手心を加えては下手に生殺しになり、かえって重い後遺症を与えてしまう事になる
ならば全力――
初撃にて敵の抵抗、防御の意思すら奪う会心の一撃を入れ、ノックアウト
もしくは完全に戦意を奪ったところでバインドにて捕縛するのが一番良い
その右手が力ある者の言葉を受けて翻り、、
―― 瞬間、、紫の刺客が走り出す ――
先ほどクルマと自転車が下っていた一本道の林道の先
未だふもとに続く下りの峠を、道成りに駆け抜けていくライダー
それに対し、明確な攻撃の意思を示したフェイトの表情
そのままに10を超える雷槍に向かい、、
「………ファイアッ!」
敵を殲滅せよと命令を下した
フェイトとライダー
空と地上
一方的過ぎる爆撃戦が今、ここに幕を開ける
――――――
奔走するライダーを上空から追うフェイト
「ファイアッ!!」
執務官の号令一合、次々と対象目掛けて飛来する雷の槍
その逃げ足を妨げるため、足元へと集中砲火を集めていく
だが相手の女性は凄まじかった
その後ろを振り向かぬままにアスファルト上にて側転、バク転、ムーンサルト
さながら体操のショートプログラムのような身のこなしで次々と矢をかわしていく
(凄い……だけど、、!)
しかし相手が回転に次ぐ回転を決め、上空へと舞い上がった時こそ絶好のショットポイント
どんなに優れた体術を持っていようと空に身を置いてしまってはその半分も使えない
魔道士が狙いをつける
相手が回避し得ない上空に舞い上がった瞬間
待っていたかのように四方から矢を集中させる
爆撃じみた射出音と共に翻る雷槍が
フェイトの指示の元、紫の女のいる中央に今まさに飛来したのだ
決まった…、、
その光景、フェイトでなくともそう思った筈だ
どれほどの軽業を披露しようが、この状況
射撃魔法で一方的に狙い打てるフェイトの勝利は揺るがない
翳した右手に込めた黄金の魔力を、ほう、と抜きかかるフェイト、、
「―――、、」
だが、、、、
そこでも悉く埒外だったのは敵の女性
その空中でしなやかな肢体が回転し
狙い撃ちにされる筈の彼女の、その体の周囲に剣閃が走る
それはまるで女の体から射出されたカマイタチの如し――
実態は、己が身を高速で回転させた体術のままに
両手に握った短剣を駆使して360度から来る射撃を全て切り払ったのだ
「、、、そ、そんな……」
唖然とするフェイト
空中に身を投じながら、投げられたリンゴをサクサク切って捨てる大道芸人のような所業
もっとも、練度はケタ違いだが、、
(流石に……この状況で自信満々なだけの事はある、、)
<Master...>
「大丈夫! 次弾セット!」
まるで昔、TVで見たサーカスか特撮映画でしかお目にかかった事のない超ウルトラCの数々
しかしそれらは全て、術技立てられた観賞用の技であり
実戦では決まりようの無い超絶アクションだ
それを、まさか……自分が繰り出した攻撃に対してされるとは、、
悔しさよりも見事さが先立ってつい目を奪われてしまうフェイト
女性の両肩、太股がその装束からはみ出し
扇情的な肌が限界まで露になっている
その足の先から頭のてっぺんまで――非の打ち所の無い「美」を持つ相手
そして見とれるほどに見事な動き、、
まるで異性……
否、同姓ですら虜にする魔性のダンサーのようだった
もっとも――それでも、、
バチィ!!
「―――、!」
雷撃を帯びた矢を切り払った騎兵が
稲妻が落ちたような衝撃に弾かれた
プラズマランサー、、
それは文字通り、電撃を帯びた矢だ
それに付加されるは「感電」
雷撃魔法には今や定番の属性がふんだんに込められている
掠っただけで体機能を麻痺させ
切り払ってもその残滓が肌を焼く
この執務官の攻撃一つ一つは全て
凶悪極まりないスタンガンじみた制圧武装なのだ
ライダーの綺麗な弧を描いていた回転が歪にゆがみ
バランスを大きく崩して地面に着地する
そして、、彼女が今、微かに目を見張る
切り払った矢は良い――
そのまま自身の短剣とぶつかり消滅していたから
だが、、先ほど身を捻ってかわし
地面に突き立った筈の矢―――
それが再び意思を取り戻して
自分に襲い掛かってきたのだ
「――面倒な…」
忌々しげに呟く騎兵であった
空から追い立てるフェイト
地を這うプラズマランサー
それを背にしてライダーは再び駆ける
獲物に過ぎない相手に背を向け、撃たれ続けながら逃走するという屈辱
その相手に対し、暗く残忍な復讐を胸に誓いながら――
――――――
最終更新:2009年01月13日 11:44