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Flame&Lancer2 ―――

ふと私は――主が闇の書の呪縛から解き放たれたばかりの頃
まだ幾分、幼さを称えていた頃の事を思い出す

自分の足で地面を踏みしめ歩く事の出来る喜び
今まで味わうことの出来なかった当たり前の幸福を享受すべく
主は毎日のように自分らを連れ回して、色々な所に出かけていた

ピクニック、海、山といった自然溢れる観光地から
夕方や休日、人でごった返した繁華街に至るまで
今までの人生を一気に取り戻すように――

決して晴れぬ罪と咎
管理局に半服役状態の身故に
あまり派手な事も出来なかったが、、

ともあれそれは主が子供から大人へ――

決して楽ではない
しかし友と交わした尊い約束
歩んでいこうと決めた夢へと進む前の、、

ささやかな骨休めだったのだろう


そんなある日、いつものように守護騎士を引き連れて向かったのは
駅前にあるゲームセンターという同世代の子供達に大人気の遊戯施設だった

一通り回って遊んで
その日、一番の琴線に触れたのはモグラ叩きという遊びだったか…
子供たちの間ではポピュラーなゲームだ、今更説明するまでもないだろう

何でも対戦方式のこのゲーム
二人以上でプレイをしてより多くのモグラを叩き殺した方が勝ちというルールだった筈だ
子供にやらせるには血生臭い遊びだ…と眉を潜めたのを覚えている

そこで主を差し置いて熱くなっていたバカが一人
私と同じ、闇の書――夜天の書の守護騎士プログラム、鉄槌の騎士ヴィータ
私の、、まあ人間風にいえば姉妹のようなものだ

「アタシにこの武器を使わせた以上……
 例え、はやてが相手だとしても負けるわけにはいかねー!
 見てろ……! 全員、ぶっ潰してやるぜ!!」

「潰したらあかんよー」

優しい独特のイントネーションの声で鉄の騎士を嗜める主
バカは聞く耳を持たない

結局、、渾身のラケーテン・ハンマー(ピコピコバージョン)で基盤に大穴を空けた奴
リンディ提督に給料を前借りして店には弁償

本人は罰として一週間、主の作る食事の代わりに
シャマルの料理を食わされる羽目になった


―――何故、今……

こんな他愛のない事を思い出していたか、だと?

答えは簡単だ

何の因果か…今の私が、、まさにソレをプレイ中だからだ


ああした遊びには私とシャマルは積極的に参加せず、後ろで見ているのが通例だったのだが
今更ながらに後悔している

何事も経験だ
私も少しは嗜んでおくべきだった

まあ、、、ここまではいい
過ぎた事を悔いても始まらん

だからこそ今
少し困った事になっている、という話に移そう


正直な話、、先ほどから嫌な汗が止まらん

この相手にしているモグラがとにかく尋常でない強さでな…
悉く音を置き去りにしながら、私に向けて突進してくる

それが穴からピョコッピョコッと顔を出した瞬間
私は全霊を以ってその頭を切り飛ばす――まさに骨をも砕く勢いでだ

服装は遊興に出かける時のカジュアルな軽装でなく――全身重武装
おかげで熱くてかなわん、、激しい運動に甲冑は不向きだな

さて、、既にスコアは何点台なのか――

そこには親切にこちらのプレイ結果を教えてくれる表示もなく
相手は可愛らしい装飾で飾られたモグラではなく無骨で飾り下のない点――
その赤い点が地面――前面に張り巡らせた私のフィールドからポツポツポツと矢継ぎ早に顔を出し
それを残らず叩き落す

先ほどから時間無制限で繰り広げられるソレ
本来ならクレジットを入れてプレイする筈の遊戯は――今回は無料

そして一つでもモグラを打ち漏らした場合は即ゲームオーバー
その結果は、、、


私の命の喪失、という至極単純なルールだった


――――――

「―――い、、、オイ! コラ聞いてんのか?」

突然、その耳に男の声が入ってきた事により
騎士は己が意識を深層より浮上
春雷の槍渦巻く戦場へと帰還を果たす

「………………」

切り離した意識、人としての部分が
重労働を科している肉体そっちのけで昔の夢を見ていたらしい

騎士が「シグナム」という一個の自我を確立する為の部分が
その器である烈火の将の体に再び灯り
彼女は今のその現状を大まかに理解する

何かをがなり立てている槍の男に向かい、

「すまんが聞いていなかった、   ……何だ?」

にべもなく答えた

「いや、だから…大したもんだって誉めたんだよ」

「そうか」

「何だオイ……初めの打ち合いから見積もって明らかにお前の反射速度を超える速さで突いたんだぜ?
 それを既に36合、、涼しい顔して凌いだかと思えば――今度は気絶したみたいにボケっとしやがって、、」

「気絶していた」

「あぁん?」

「正確には余分な意識をカットした
 あのままでは貴様の攻撃を受けられぬと判断したのでな」

五感――視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚
そしてそれらの感覚が脳に伝達されて人は様々な思いや感情を働かせる
その多感な脳と神経の織り成す小宇宙は複雑を極め、今の地球の科学では到底、生成不可能と言われている

そう、、ヒトは複雑怪奇にして多感な生き物であり
その多くの機能は反射という形で、己が意志の働く前に肉体に作用する事で発揮される

だが今、騎士はその複雑に絡み合う神経と思考のうち
戦いに使用する以外の一切の機能を肉体から切り離した

まさに完全な戦闘機械となる事で
神経の伝達速度や反応を飛躍的にアップさせて
この相手の攻撃に対応したのだ

「無我の境地――無明の位って奴か……
 ありゃなかなか難しいんだが、、其処に至ったのはいつだい?」

「生まれた時から出来たぞ」

「……」

一瞬、言葉を失い
目をしばたたせるランサー

彼とて人の御業という意味でのあらゆるジャンルを研鑽し、磨き上げ
その練磨した強さによって英霊と呼ばれた男である
そんな彼が今、目の前の女がしれっと言った事の意味――
その凄さ、凄まじさを分からぬ筈がない

そして狂戦士の要素を持つほどに戦いに悦び、滾りを感じてしまう自分には
到底その域に入る事は出来ない事も理解していた

「姉ちゃん―――ひょっとしてお前……結構、凄い奴なんじゃねえの?」

後ろ手で後頭部を掻きながらに今更感のある事を言うランサー

「ベルカの騎士……ヴォルケン――むぅ、、、ひょっとしてお前さん、未来から来たとかそういうオチか?
 いや、俺のいけ好かねえ知り合いに一人、そういう面倒極まりないのがいてな」

「未来ではないが、ここではない所から来た
 時空管理局、、この星の住人にはその存在は秘匿され詳細は知らされていない
 ついでに言えばこのヴォルケンリッターという名も本来ならば歴史の闇に埋もれた名前…
 今はもう、命を賭した果し合いをする相手にしか名乗ってはいない」

「ああ、道理で―――」

聞いた事ない筈だ、と納得したようにうなづくランサー

これほどの使い手だ
歴史の影に埋もれたとはいえ
英霊の座にその名が一片も刻まれていないのはおかしい

肩にその長物を担いだままに何か胸の痞えがが取れたという顔をする槍の男
その漂漂としたした表情……
これが先ほどまでこの場に旋風のような槍戟を降らせていた者と同一人物だとは思えない

「んじゃま、素面に戻ったところで――もう一丁行くかい?」

「、、!」

再びギチリと―ー―空気が凍り、凝縮した

まるでハーフタイムを経て第二ラウンド突入といった
何かの遊戯かスポーツの試合でもするかの如き気軽さで、、、
ソレは――彼女に殺し合いの再開を促した

槍がゆらり、と正面
シグナムの正中線に向けて標準を定める

「…………」

対して再び、自分に向けられた紅き切っ先に相対する烈火の将
相手の切り替えに対しても微塵も浮足立つ事はない

当然である
彼女こそ生まれついての戦士
闘い殲滅するために生み出されし、とある魔導書の守護騎士プログラム
ある意味、サーヴァントに匹敵する戦闘マシンなのだ


(久々に踏み込んだが、、やはりきついか…)

だが、その騎士の体の節々に電流のような痛みが走る
筋肉が己が意思を凌駕した動きに悲鳴を上げている

ベルカ最強の騎士としてその数えきれぬ戦場を駆けた剣
攻撃を視認出来ない敵との交戦経験などいくらでもある
それは航空隊として超々高速戦闘に勤しむ今でも同じ事

それに対し自身の剣は一撃必殺の剛剣であるが故に
速さに長ける者が相手だと、どうしても手数や相対的な速度で下回ってしまうのだ

その対処法―――
自身の天敵である 「速度」 に対する処方
この最強を誇るプログラムが既に確立させていない筈がない

槍兵を驚愕させた、シグナムが今見せたその領域こそ
己が機能を強引に底上げした自己ブーストの一種
かつて、あの忌まわしき闇の書事件にてフェイトと交戦した際
彼女の見えない攻撃を見事、裁いて見せた時も騎士はこの力の一端を使っていた

それは所謂、精神のリミッターカット
余分な機能や思考を人為的に遮断し、反射速度や伝達速度を上げる、
というか本来の完璧なる戦闘マシンへと戻す仕様
そのカットした物の中には当然、人として普通に生活を送るための
そのために必要不可欠なブレーキも存在していて、、

それを無くした体が悲鳴を上げるのは至極当然の事だ
薬で精神の箍を外した人間の人体が
女子供でも銀貨を握り潰すほどの力を発揮する事と同じである

そうだ―――
これは本来、自己を捨てて 「命を落とすことを前提として」 勝利を攫む
片道切符で後先を考えない事を旨に使用する決戦モード

様々な主の手を渡ってきた闇の書
その中には何の躊躇いも無しに「そういう」命令を下す輩も当然いて、、
そんな時、シグナムは……ヴォルケンリッターは当然のように
玉砕承知の戦場にその身を踊らせ、血路を切り開いたのだ

「…………」

故に当然、これは烈火の将限定のモードではない

スイッチの入れ方も効能もそれぞれ違うが他の3人――
守護騎士の全員がその内に持っている力なのだ

激情家の鉄槌の騎士などはシグナムとは逆で
その感情が極限まで高まり振り切れる事で、自己が切り替わる
瞳孔が開き、その幼い顔に鬼相を移し
目に見えるほどの様相の変化が小さなその手にもたらすは圧倒的な破壊力
タガの外れた筋力と魔力が叩き出す破壊の鉄槌は
かつてあの高町なのはを2振りで地に叩き付けた

転生を繰り返す彼女たち
その「記憶」は、擦り切れたテープのようにおぼろげな「記録」としてしか残っていないが
騎士にとっては当然、あまり良い思い出ではない

そう、、昔の事だ――

今、思い煩う事ではない

問題は………

それを今、、ここで使い――――そしてそこまでしながら、、

自身の体中に、至る所に刻まれた傷があるという事実だった

その手足、脇腹、胸、首に残る刃の痕…
致命傷ではないものの、逸らしきれなかった槍が己が肉体を削っていった事は明白

もはやオープニングヒットを奪ったなどという事実
先に相手の額を割ったという結果など何の意味も無い

今、目の前に展開しているモノはシグナムの予想、、
これまで交戦した相手、戦闘経験を鑑みても……
その最上に位置するモノであるのはもはや間違いない

そう、、、己が両目がまるで捉えられない攻撃を「普通に」放ってくる相手
小出しではなく、常時知覚全開にしてなお凌ぎ切れない猛攻
これは……相手の攻撃力が自分の総防御力を上回っているという事
この槍は凌ぎ切れないという結果を見事に突きつけたものだったのだ

互いの技量、性能を駆使した初戟の邂逅から
もはや後退の選択肢など捨てたとばかりの気迫を以って
火の如き苛烈さと山の如き堅固さを併せ持つ両者の戦い

だが、その天秤が徐々に相手に傾いている事に
表面上はおくびにも出さず、しかし初めに歯噛みしたのは他ならぬ烈火の将であったのだ

「…………フ、、」

だがその口に湛えるは更なる不敵な笑い

まさに吹っ切れたといった感じの彼女
その結果は何ら自分の不利な要素には成りえないと言わんばかりの表情だ

守り切れない?
だからどうした?
元より防御を固めて縮こまっているのは性に合わない

当然の事だ、、

戦は――――――守るだけでは勝てないのだ


「せぇあッッ!!!」

炎を纏う甲冑が、その凄まじい気合いと共に爆ぜる

それに対し一寸も動かしていない筈なのに
ゆらゆらと揺らめくように見える男の槍の穂先から溢れ出す魔力の残滓は
まるで死神の手招きのようだった、、

そんな不吉な気配漂う呪いの朱槍を前にして騎士は
牽制もフェイントも一切無しに――真正面から突進を敢行する

「―――来な」

その竹を割ったような潔さがひたすらに心地よい
喜色を満面にしたランサーが、これまた両の足を地に踏みしめ断固不退の様相にて対峙

騎士の踏み込みは豪壮なれど彼にとっては決して速くは無い
左右後ろの空間をふんだんに使っての防戦ならば、比較的少ないリスクで迎撃出来るだろう
だが、男がそんな無粋な真似をする筈がない

「せえええええりゃッッッ!!!!!!!」

ボッ、ボッ、ボッ、と陽炎のように
その朱艙の切っ先が分身を開始

一つが二つ、二つが四つ、四つが八つ――

否、分身などという生易しいものではない
それはまさに分裂、、

真紅の槍の煌きは幾多の刃閃を伴い、男の周囲を囲み
結界じみたその弾幕は不可侵の防御にして絶え間ない攻撃の序章、、
そのガトリンク砲の如き連撃が今また――駆ける剣士に襲いかかる

「ぬうッ!!!」

その姿、闘神・阿修羅の如き
本当に自分と同じく二つの腕のみで繰り出しているのか?と疑わずにはいられないシグナム

両の眼を極限まで見開く

「頼むぞ騎士甲冑、、今はお前の堅牢さが我が命運を左右する…」

その赤き結界に自ら踏み込むシグナム
それは全開で回る扇風機に手を突っ込む行為に似ていて
自殺行為にさえ見える、ゾッとするような光景だった

ともあれ、やる事は先ほどまでのもぐら叩きと同じ
装甲で一瞬止まった刺突を全部打ち落とす

そしてもう一つやる事が増えた

その無数の赤いモグラに一つ、狙いをつけ――――

それを二度と出てこれないように渾身にて打ち上げ、または打ち落とし、、
ヴィータではないが、その出所……
無数のモグラを排出する基盤を叩き壊す!

それは身の毛もよだつ相打ち戦法であろう
防御をアーマーに任せてのクロスカウンター
同時に肉体にヒットすれば必ず打ち勝てるという自信がなければ出来ない、まさに捨て身の戦法だった


――――――

赤き暴風渦巻く結界に踏み込んだシグナム

視界が紅で覆われる
朱に交われば、という格言が日本にはあるがこの状況はまさにそれ
その赤き閃光の中に飛び込んだ別の色は、たちまちのうちに朱に染まり
その色を塗りつぶされてしまうに違いない

そんな烈風さながらの猛攻の中
決して両目を逸らさず、一つ、、

剣を死に物狂いで振いながらに一つ、、、

まるでイナゴの大群相手に剣を振るうような
絶望的に埒のあかない光景を前にして、それでも一つ、、、、

、、、、、選ぶ! その一突きを

辛うじて見えた赤い線
点が、線として捉えたその閃光こそ
男の持つ槍の柄に他ならない

「せえいっっっ!!!」

10の刺突が彼女の防御を突き抜け、その肉体を削っていく中
その1の刺突に対し剣を振り上げるシグナム

バォウ!という、大気を根こそぎ持っていくような騎士のフルスィングは―――
男の槍を勢いよくかち上げ、、

「っ!? ちぃっ!!」

、、ない!

斜め下方から振り上げた姿勢が横に泳いでしまう

そのあまりの手応えの無さ
霞を切ったかのような感触に歯噛みする女剣士

「ようやっと亀が顔を出したか」

そこに空気を切り、大気を割って繰り出される
刺突4連に払いで締める計五つの赤い光

ボン、ボン、という、ある種小気味の良い音がシグナムの鼓膜を震わせる
だがそれは恐ろしい事に、まさに男の槍が通り過ぎた後に追随する形で鳴動する
間抜けなほどにタイミングのズレた轟音、、

「だがよ、、ちょっと見え見え過ぎだぜ、魂胆がよ!」

「っ……おのれ」

つまりそれは意味する所は一つしかなく、、
男の槍戟はその一つ一つがマッハの壁を優に超えているという結論に至ってしまう
信じられないことだが、、

(呆けたか私は……!)

そしてそれは規則正しく打ち出されるゲーセンのモグラではないのだ
それが戦技によって繰り出される槍である以上、男の技量に比例して
変化もすればフェイントも織り交ぜてくる

それはまさに――相打ちや鍔迫り合いに持ち込むことすら困難な
触れる事叶わぬアンタッチャブル・レッド・サイクロン

「逃がさねえよ!!」

奇襲失敗の煽り、連撃にさらされ
あの最強のベルカの騎士が戦前を維持出来ずに後退
押し返されるようにバックステップさせられてしまう

そしてその後退よりも更に早い踏み込みで相手の間合いを犯し放たれる一撃が
下がりながらに振り払う太刀の、堅牢なアーマーの、
その隙間から針の穴を通すかのように、赤き点の一撃となってシグナムの心臓に迫る

「ぬっ、、おおぉッッ!!」

ガラ空きの左胸に今まさに突き立つ紅い切っ先を
剣持たぬ左手の手甲で力任せに薙ぎ払う騎士
辛うじて逸れた刃が彼女の鎖骨から上、、肩の肉をそぎ落とし
受けた手甲を半壊させる

肌に残していく傷はこれで20を超える
全身に刻まれた傷跡から滲む血が彼女の騎士甲冑を赤く滲ませる

もはや空から強襲するどころの話ではない
先の初戦のように、とてもじゃないが敵への助走距離など稼がせてもらえない
それに対し、中途半端に飛べば狙い済ましたような一撃が柔らかい腹を串刺しだ

アーマー頼りに一瞬阻まれる点を死に物狂いで打ち落とし、逸らす
そんな事をもうかれこれ10分弱―――

己が戦力を総動員して何とか今までは男の武と渡り合っている将であるが、、

これ以上ははっきりとジリ貧だ
このまま同じ展開を続ければ自分はもはや目で追うのも億劫になるような手数に
たちまちのうちに飲み込まれてしまう

この強固な装甲がなければ自分は一体何回殺されていたというのか?
敵のその力、純然たる戦闘力に戦慄を覚えずにはいられない


そうだ、、その戦慄と共に今、騎士の胸に湧き上がっているのは――

(こんな時でなければ……見惚れているところだな、、)

それは純粋な感動だった


古代ベルカにその名を刻む
一対一では負けは無し、とまで謳われたヴォルケンリッター
無敵の剣の騎士にして烈火の将の名を冠する無双の存在であるシグナム

その彼女をして、屈辱を通り越した感嘆を抱かせるほどに―――
目の前の蒼き槍兵の戦闘力、、その技能は常軌を逸していた

総合的な戦力では未だ自分が劣っているとは思わない
そんな弱気な考えなど断じて持つ彼女ではない、、ないのだが、
もしこれが仮に、初めに木剣と棍をそれぞれ渡され
その一振りのみで模擬戦をしろと言われたら、、どうだ?

そういった試合形式で臨んだ場合
純然たる剣技のみで勝負をした場合、、

「勝てるのか?自分は、、」と直感的に思ってしまう

何せ男はシグナムが 「攻」 「防」 の動作を鎧と盾と剣を総動員して賄うのに対し
その一本の細い槍のみで全てを担い
しかもそれでいてシグナムを上回る戦果を叩き出しているのだ

少し打ち合っただけだが間違いない
男はこちらのような、ミッドチルダの魔道士のような
フィールドもシールドも持ってはいない

本当に槍の一振りで――――このSランク騎士を圧倒している

剣士として、その技量の壮絶さ
そこに敗北感を禁じえない将である

(………ぬ、ぅ、、、ぐッ!?)

猛襲する槍兵がその本性を見せ始める

「はああッ!! はっはァッッ!!!!」

嬌声混じりの気合いと共に男はアクセルを終始ベタ踏み

更に、更に、加速ッ、加速ッッ!! 

既に残像現象を伴うその動きは
減速という概念のコワれた暴走超特急

剣士が辛うじて往なした一条の閃光が
すぐさま戻ってきて彼女の横っ腹を、首筋のすぐ横を通り過ぎていく

何とか鍔迫り合いに持込み、せめて一呼吸、、
酸素を体に取り込みたい剣士であるがその隙もない

その場に踏み止まれず、得意の空からの打ち落としの機会もなく
先ほどから、じりじりと後退を余儀なくされる剣の騎士

恐らくはフェイトとの数え切れない模擬戦を含めた経験豊富な部分が
ギリギリで、その速度に対応する手助けにはなっているのだろう
でなければとうの昔に彼女は穴だらけにされている
まさにハチの巣の言葉通りに

だがそれでも対応できない部分があるのは目の前の男の速さが
ミッド、ベルカ式でいう所の「スピード」とは全然違う種類のものだからだろう
即ち、最速と謳われるフェイトテスタロッサに見られる高機動型の魔道士や騎士のような
魔力出力によるアクセラレーションが醸し出す純然たるスピードではないのだ、男の動きは

それは身のこなし、歩法、体捌き、フェイントを織り交ぜた気配の使い方に至るまで
その他無駄の無い理想の挙動、術を突き詰めた、、
全ての動作から「余分」を削ぎとっていった末に辿り着いた戦闘技術の頂とも言うべきもの、、

恐らく <距離を決めて先に目的地に着いた方が勝ち> という競争をやらせれば
フェイトのスピードは男を凌いでいたかも知れない

だが、これは徒競走ではなく白兵戦
技術、体術、生来持って生まれたセンスに恵まれた骨格
その全てを兼ね備えていなければ「術」というものは極められない

男のそれは―――まさに極めたとしか思えないレベルにあったのだ

先ほど、男がこちらの事を褒めていたが
それは今まさに彼女の台詞だった、、

見たところ、年の頃はどう見ても30も行っていない
軽薄な口調に初めは苛ただしさを覚えたのも事実
だが、そんな姿からは想像もつかない
ダイヤの如き強さと輝きを秘めた術技の結晶が目の前にあった

これほどの、、これほどの戦技、、、

間違いなく生涯を武に捧げた者のみが到達し得るといわれる――剣聖の域


攻防は続く

何回目か数えるのも馬鹿馬鹿しい往なしから
槍がシグナムの左の二の腕を削っていく
そこへ体を横にずらして、半身をきって踏み込む剣士

通り過ぎた槍が横に薙がれる形で彼女を追い
それを剣の腹で受け流しながら更に突進する将

とにかく肉薄して間合いを潰したいシグナム
体勢も保てぬままに槍の男の間合いに踏み込む
それはほとんど、剣技も何もない体当たりに近い

こんなものは横に往なしてしまえば良いのだが―――男は逃げない

不動の姿勢にて
女剣士の全てを受け止め、弾き返す意を秘めたその瞳が
彼女の必死の突撃を見据える

互いに引かぬ意思
剣と槍が交錯したままに激突する肉体
ガツンッ!、とぶつかる頭と頭
両者の顔が目と鼻の先にある――

時間にしてそれほど立っていないというのに
ようやっと、、という思いが胸を締める女剣士

そう……ようやく鍔迫り合いに持ち込めた、、

「………答えろ」

数多の赤い線を掻い潜り
辿り着いた閃光の内側
台風の目となる男の懐、、

相手の槍の柄を上から剣で押さえ
今、目の前にある男の顔を真っ直ぐに見据えながら――

シグナムが口を開く

「貴様は……いや――」

それは今や到底拭えぬ
目の前の男に対する疑問だった

「貴方は何故、私たちを襲った…?」

今や荒くなった息を隠せぬほどに消耗した彼女

だが、そんな事はかまわずに騎士は問う
目の前の――
戦技の究極の域に座すその男へと

「まだそんな事言ってんのか? いい加減、白けるぜ、、」

「いや、言わせて貰う……こちらには貴方のような者から命を狙われる謂れはない
 これほどの槍の使い手、さぞや名のある騎士と見受ける
 そのような者が、心から外道に付き従っている筈が無い、、、……何故だ?」

その胸に去来するは一人の悲しき宿命を負った騎士
ジェイルスカリエッティによって全てを奪われ、傀儡と化し
己が理想を、友との友情を求めながらこの剣にかかって死んでいった男の姿だった

目の前の男の態度、、
初めは何の悲哀も映しているようには見えなくて
新たなナンバーズ……ジェイルスカリエッティの開発した戦闘機人の新型か何かかと思っていた

だが違う、、、

目の前の男は断じてそんな、こちらの見知える類のモノではない
剣を交えた騎士の直感でわかる
知らず彼女の口調にも畏敬の念が篭ってしまうほどの、、それは偉大な何かだ

一見ふざけた態度のその奥にあるモノ
交えた刃、かわした数百合は決してウソをつかない
その根底にある戦士としての輝き、、魂は誓って――ーテロリストなどに組する者のそれではない

「名のある、か……
 まあ、あるっちゃあ、あるんだが――シィッ!!」

これほどの男が何故、ジェイルスカリエッティ、、
あの人の命を弄ぶ外道に仕えているのかという疑問がどうしても拭えない

この局面、それを口に出すにはいられないシグナムのその頬を――紅い閃光が通過した

「くうっっっ、、!!」

更に半歩、後退を余儀なくされる騎士
その凛々しい顔の右頬に…・・・くっきりと赤い痕がつく

「外道とはまさに言い得てズバリだが――別に珍しい事じゃねえだろ? 
 手違いで、いけ好かねえ主に召し上げられるなんてのは
 この世知辛いご時世じゃ、そこらで起きている事だぜ」

「ならばやはり本意ではないという事か?
 話してくれねば分からぬ事もある……剣を交えるのはそれからでも遅くはあるまい?」

「………」

ここに来て一転、怪訝な表情を浮かべるランサーである

「おい、まさかお前――ビビってんじゃねえだろうな?」

「見損なうな………そうではない、、 
 貴方のような使い手にはそうそうお目にかかれるものではない
 故にだからこそ有象無象の無頼として、ただの犯罪者として相手をしたくないだけだ」

かつて全次元を恐怖に震わせた闇の書
その守護騎士の一人であった猛将も、今は法を守る時空管理局の一員である

そして管理局局員はその任務上において犯罪者と相対した場合、出来得る限りの対話をしなくてはいけない
いや、、それはどの法的機関でもそうであろう
だが戦いの最中において対話を成立させるという行為は傍で見ているよりも遥かに難しい

特にこうした一対一の戦いにおいて
コンマを奪い合う刹那の域で
呼吸一つ、瞬き一つが戦況を左右する中で
己を空に溶け込ませ、相手の乱れを誘い、その知覚を上回る一撃を叩き込むのが達人同士の戦いであるにも関わらず、、

そんな中、言葉を吐くというのは当然
闘いにおける呼吸や集中力を霧散させてしまう行為に他ならないであろう
ならば今まさに驚速の刃が飛び交う中で悠長に話しかけるなど出来よう筈もない
シグナムのこの行為は、自分の首を絞めているようなものだった

それでも、、

「かぁ、、、面倒くせえなぁ……御行儀の良い騎士様は」

彼女は惜しんだ

意見の食い違ったままにつく決着に納得のいくものなど無い――

そう教えてくれた、とある事件の事を脳裏に蘇らせながら……
彼女は槍の男を真っ直ぐ見据え、その解答を待つ

「別にな、喋るなとは言わんが……お前さんも騎士なら
 良い勝負の途中で敵に中断を促すような真似するんじゃねえよ」

槍の穂先を向けながらに叱咤するランサー
声にはその女騎士に対する失望の念がありありと籠っている

「敵……」

明確な敵意を持った――相手の意思

これほどの男が、はっきりとこちらを「敵」と明言した

―――あまりにもあけすけで
―――それでいてはっきりとした答え

それでも釈然としないシグナムに対し、ち…と舌打ちするランサー
男には無抵抗の相手を突き殺す槍など持ち合わせていないし
そんなつまらない結果は望んでいない

「強敵と刃を交えるのは光栄な事だ、、正直心が躍る 
 中断する気は無いし、決着は今ここで必ずつけよう
 だが槍の戦士よ、、剣を交えるにせよ……まずは立てるべき筋というものがあると思わないか?」

「は、……あくまで引かんか
 だが生憎と戦場で弱い奴と語る舌はねえ」

騎士の道理など些細な事と切り捨てるランサー
事実、男にとって襲う理由や真情など本当にどうでも良かったのかも知れない


―― どうせあのクソ神父の事だ……口にするのも憚られる、ロクな命令じゃないのだろうから ――


そんな事に気を揉むよりも男はとにかく戦いを欲していた

渇望する魂は言葉などでは癒せない
サーヴァントが唯一、その身の置き所に誇りを感じる事があるのなら
それはもう血潮飛び散る戦場以外に有り得ないのだから

「力を示しな、そうすりゃ口から何かしら零れるかも知れねえよ」

あくまでこのまま戦闘続行を促すランサー

そこまでして秘匿したい内容なのか、、
刃と刃でならば、あそこまで豪壮に互いを交換できる両者であるのに
言葉ではまるで歩み寄りを見せない二人

釈然としない――

そんな思いから
振るう剣にいつもの業火の如き猛りを乗せられないまま
相手の男に対し構えるシグナム


――――――、、、、、、、、、、、その時


「―――――、、、、、」



「………っ!!?」

将の全身に衝撃が走った

見開かれた顔に大きく張り付いた驚愕

あ、、と声が漏れた口が
しかしそれ以上の言葉を発する事無く
中途半端に開かれている

(い、今のは…………?)

それは、、、どこから聞こえてきたのか?


遥か南東
ここから見えるのは鬱蒼と茂る森

そこから――――


それは、、、何だったのだろうか?


山は山彦という、音が残響として残る現象があり
その残滓が確かに彼女の鼓膜を揺らした

が故に聞こえた―――


それは断末魔じみた悲鳴――

一体―――誰の、、、?


「テ、、、、、、」

半ば呆然とする思考が……
今、火をくべられた暖炉のように燃え盛っていく


(テスタロッサっっ!!!)


そう、、決まっている

この場において
将の耳に覚えのある声を放つ者など………一人しかいないのだ

今、まさにこちらと別の場所で戦っている戦友
フェイトテスタロッサハラオウン、その人の声以外には有り得なかった

歯噛みする騎士
焦燥に駆られるその思考

(まさか……そんなバカな、、)

あの皆が、何より自分が認めている6課の双翼
ライトニング隊長――閃光と称された最速の魔道士が、、、


――― こんな僅かな時間で ? ―――


「向こうは終わっちまったかな…」

目の前の男がポツリとそんな事を呟いた
それは、今の声が幻聴でない事の何よりの証――

シグナムの髪が逆立ち
元々の薄い赤毛が今や
真っ赤な炎のように揺らめき出す

「………、、」

もはやモタモタとやっている暇も余裕も一切ない

「―――へぇ……良い顔になってるじゃねえか」

男がその相貌を横目に見てニィ、と嗤う

「レヴァンティンッッ!!」 

烈火の将が相棒
その一振りの魔剣に一気に魔力を込める

そしてそれでは足りぬとばかりに
ベルカの結晶=カートリッジシステムがせわしなく稼動し
撃鉄音と共に薬莢の落ちる音が三つ―――

途端、騎士の女性のポニーテールが
否…全身の襞垂れが魔力の奔流と共に翻る

それは宙を焦がす炎となって
シグナムの剣に集約され、纏われていく

凄まじい気迫と熱気
ここへ来て三段ほどギアを跳ね上げたのが傍から見ても分かる

「本当に殺してしまうかもしれん…
 こうなった以上は後戻りは出来んぞ、、」

怒りに震える炎の剣士の口からは
もはや一切の甘さも焦燥も感じられない

怜悧にして底冷えのする声が響く

そんな騎士の様相を前にして 男の顔にも感極まったような笑みが灯った

「遅えよ――」

飄々とした口調はそのままに
槍を体の周囲で10ほど回転させたのは手慣らしのためか、、
何にせよ、それは中断された場を再び動かすためのゼンマイを捲く行為に似ていた

そしてピタッと後方に抱えたまま
相手の騎士の正中線を見据えたままに、

「始めっからそのつもりでぇ! 来やがれってんだッッッ!!!」

猛々しく吠えるランサーが再びこの場に赤き旋風を作り出す

烈火の剣と春雷の槍
その苛烈な戦いは、、、


まだ始まったばかりである


――――――

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最終更新:2009年01月13日 18:53