Lightning&Rider2 ―――
重ねて言うが
それは一瞬の油断だった
聡明な彼女である
管理局にその人ありと言われた優秀な執務官が
怠惰や慢心で油断をするなどという事は断じてない
そう、彼女は――
この魔道士はただ仲間を……
戦友である烈火の将をほんの一瞬、心配しただけ
仲間思いの優しい心が期せずして
己を窮地に立たせてしまうのも戦場の慣わしなれば
それは無情で皮肉な話である
そしてやはり敵が埒外過ぎた
あそこまでの空爆を受け一方的に攻められながら
ハンター顔負けの技能で、二度は通じなかったであろう奇襲を見事成功させ
ワンチャンスをものにした騎兵――
サーヴァントライダーの手腕があまりにも常識外れだったからに他ならない
だが逆に言えばライダーにとっては何でもよかったのだ――
彼女にとってはチャンスなどいくらでも作れたし
もし作れなかったとしても、このサーヴァントには――空の敵をも殲滅する切り札がある
(どうやら、その必要は無かったようですが)
その使用に踏み込むほどに自身を追い詰められなかった小雀を
今、毒牙にかけようとするライダー
フェイトは入ってしまう―――
捕食動物がエモノを食らうために用意した魔の森に――
死へと続く魔の二人三脚
古来より罪人を処罰する刑の一つとして「牛引き、馬引き」というものがある
現代においても――寒気のする話であるが
縄で縛って自由を奪い、車やバイクにくくりつけて引きずり回すという
極めて陰惨で残忍な私刑が存在するが、、
これは、まさにそれだった
「くっ!!」
矢のように通り過ぎていく周りの木々と
片腕を極められ自由にならない体
大幅に制限された行動範囲
そんな有様で手を繋がれ
ライダーに引き回されるがままに森へと侵入したフェイト
「付いて来れますか? この私の速度に」
初めは自身の攻撃の通らない相手に苦戦させられたサーヴァントが今、
相手を嬲り殺しにする料理法を展開し、舌なめずりをする
ライダーの疾走は騎乗してない時点であすら、それは流星そのもので
並のものなら彼女のペースについていけるはずがない
その彼女に手を引かれ、木々生い茂る森林などに入ってしまったら――
為す術も無い獲物は障害物や木に激突し
叩きつけられるのを繰り返しながら、、
引き摺られ、引き摺られ、、、
彼女が足を止めた頃には
見るも無残な挽肉となって地面に転がっている事だろう
だが、、
ここで先ほどのライダーに負けないほどの
意地を見せたのは他ならぬ執務官である
「! ――――、ほう…」
ライダーが感嘆の声を上げる、その姿
木々の合い間を縫って翻るは稲妻
その枝を掻き分けてくるのは純白のマント
その空を切り裂いて飛ぶは―――黒衣の魔道士!
付いてきている!
フェイトがその高速のマニューバを展開し
森林をすり抜けて、、
逆にライダーを猛追するように後を追いかけているのだ!
追撃は終わらない――
最速同士の戦い
その領域は既にオーバーレブリミット
早くも問答無用のトップギアに突入していた
――――――
―――流れる景色は弾丸
―――いや、景色に対して自分が弾丸なのか?
―――どっちでも良い、、
―――そんな事を一寸でも考えている余裕は無い
共に流れる綺羅星と化した二人の思考がクロスする
追う者と追われる者が目まぐるしく逆転するこの戦い
その様相は――ある意味、必然だった
ランサーとシグナムの闘いが
武人同士の器量を確かめ合うかのような静かな立ち上がりだったのに対し
力と技と速力の極致であるのはフェイトもライダーも同じ
なのにどうしてここまで戦いの性質が決定的に違ってしまっているのか?
基本的に前へ前へと押し進む騎士達に比べ
この両名は全局面対応という意味での、本当のフットワークの使い手である事が起因?
確かにそれも一つの原因であるが、大元はもっと根本の部位にある
魔獣同士は本能の赴くままに噛み合うが故に
その戦場もまた 「噛み合う」
だがハンター同士は自分の間合い、距離、戦場を絶対に妥協しない
優れたハンターであるならば、熱くなって獲物と取っ組み合いをするなど以ての外
どうやって自陣に追い込み、罠にかけ、敵を引き込めるか、、
もう既にそこから彼らの戦いは始まり、そこで勝敗は決まってしまっていると言っても良い
故に訓練された捕獲者と
神話によって生み出された天然の捕食者
彼女達のその戦場は、まずどちらの陣地に相手を引っ張りこめるかであり
故に一所に留まらず
地を駆け、空を裂きながらに打ち合っては離れ
並走しながらに睨み合い、決して止まる事は無い
騎士同士の激突がまさに戦争…
互いの陣と陣の犯し合いだとするならば
彼女達はまるでランナー同士のラリーの応酬
重戦に対して軽戦
どちらかが「手段を選ばず」相手をクラッシュさせてでも頭を抑えた方が勝利する
そんなキャノンボールの如き様相を呈してきた二人の戦闘
あるのは強襲、急襲、速攻
そんな金色と紫の肢体が苛烈に美しく踊り狂う様は
視認できるのならば、、
激しく情熱的なシンクロナイズのように映っただろう
迫る幾多の障害物
手を鎖で繋がれた者同士、その間10mの魔の並走
どこまでも、どこまでも上がっていく速度
だが、それだけではない
この戦いが真に彼女達に牙を剥くのはこれからだった
「っっ!!!」
フェイトの視線の先――
その眼に映る敵の姿は妙齢の女性
美しい髪、美しい肌
スラリと伸びた肢体に完璧といって良い、美の化身のような様相
闘いなど知らぬ、琴などの優雅な楽器を弾いて小鳥と戯れているのが似合いそうな、、
そんな女神のような女性の細い腕から伸びるは無骨な鎖
それが黒衣の魔道士の手首にしっかりと巻きつき、一定以上の離脱を許さない
そんな状態でこれだけの障害のある森を
縄で繋がった二人が並走したらどうなるか――?
当然、彼女と相手が並ぶ合い間には無数の木があり
今、ついにその一本を間に挟んで通過する二人
「ううっ!!」
「―――、、」
瞬間、ビィィィンと張り巡らされる鎖に捕らえられるフェイトとライダー
急激なGに内蔵や背骨を圧迫されながら
マッハに近い速度で直進していた二人が
強制的に方向転換
両者は支点となった木を中心に、アメリカンクラッカーのように弧を描き
振り子の如き軌道にて互いに急接近する
「――死になさい」
紫の球がその杭のような短剣片手に迫る
「……! はぁぁぁぁあああッッ!!!!」
金色の球が裂帛の気合と共に大鎌を振るう
仕掛けたライダーは勿論
フェイトとてこうなる事は読んでいた
その軌道が交差する地点が敵と切り結ぶ時、、
そういう戦いになるという事は森に入った時から承知している
玩具のクラッカーならば、互いの球はつがいの仲良しだ
遊びに耽る子供の笑顔を作るため、仲むつまじくカチン、カチン、と
小気味良い旋律を奏でるのだろう
だが―――この二つの球にはそんな気は毛頭無い
ぶち砕く!!!
その初っ端の激突で相手の球を粉々に粉砕すべく
美しく扇状の軌道を取って旋回――Gに揺られた髪が横に流れる
それは上から見たら、閉じる扇子を模した組体操に見えた事だろう
互いのラインが歪にクロスする
長物である大鎌を器用に右手で扱うフェイトと
敵を捕らえたまま、左手に握られた短剣を構えるライダー
二つの閃光じみたクラッカーは遠心力に振り回されるままに―――激突!
まさに扇が閉じた瞬間、その先端にてバチィッッ、と火花が散ったかのように
それぞれの肉体の機能を停止させるために放った凶器を
それぞれが紙一重でかわし、両者は交錯して位置を入れ替える
それにより、支点になった大木は二人の手に繋がれた鎖によって絞首刑に処され
ミチミチと繊維に食い込む金属の様相がまるでふ菓子のような柔らかい固体を握り潰すかのような光景の元に
やがてばつん、と――力任せに切断される
「う、、くっ!」
支点が無くなった事で運動力が正常に作用し
半ば強制的に宙に放り投げられる両者
並の人間ならばこの時点で脳は極限までシェイクされ、三半規管はズタズタだ
なのに何事も無かったように二人は姿勢制御をその身に施し
フェイトは宙へ、ライダーは木の枝へ着地
一瞬たりとも止まる事が罪悪であるかのように、再びロケットじみた加速で並走を始める
鎖一本――
たかが鎖一本でそのフィールドは慣性の法則、作用反作用、振り子の原理
その他ありとあらゆる運動法則がマーブルのように溶けあい二人に牙を剥く――
異次元の戦場と化していた
フェイトはもはやライダーの引き寄せに逆らわない
その時折来る、力任せの牽引に対し身を預け
高速飛行における姿勢制御、体制の維持を最優先にして軌道の乱れを最小限に抑えている
この綱引き……本当に本当の全開ならば、、
フルドライブや、オーバードライブならば
いかに敵の膂力が凄まじかろうと、そう簡単に力負けするわけがない
問題は極められているのが彼女のリスト、、人体の急所だという事である
力に逆らえば、傷つくのは自分のみ
相手の膂力と引き合いをしようものなら、手首がねじ切れてしまうだろう
森林を縫うように駆け抜ける二対の影は魔速を超え
もしもこのようなスピードで仮に障害物――
木々に衝突などしようものならまず無事では済まない
神域の守りを持つ管理局魔道士であれ
驚異的な肉体を持つサーヴァントであれ
高所から落とされたトマトの如く、醜く潰れた肉片になるのみである
重力の制約を受けずに宙に身を泳がす金の閃光に対し
木々を足場に互角の立ち回りを見せる紫の流星
大木を挟み、枝を挟み、岩を挟んでの激突
ある時は上と下、ある時は斜め上と斜め横
縦横無尽の衝突が起こる度に森のオブジェは二人を繋ぐ鎖という名の紅い糸によって粉砕されていく
だが、、、その戦局が動く
幾度かの打ち込みの後、、
「あっ、、、!?」
フェイトが相手の挙動の変化――
互いを振り子の玉にする支点となった木がまたもや砕け
両者があさっての方向へ投げ出されるその瞬間――
刺客が起こそうとしているアクションに得も知れぬ悪寒を走らせ、目を見張る
そう、、ライダーが鎖を進行方向と真逆の方向へと引き
渾身の力で並走のベクトルを捻じ曲げたのだ
「うあ、、!?? ああああぁぁぁぁああああああああああああああああッッッ!???」
凄まじい絶叫が森に響き渡る
妙な話だが互いに激突のタイミング、リズム――
つまりは並走の息が合ってきていた二人
両者にかかる予測不能のGや運動の法則を感覚で掴み始めていた両者
知らず無意識に力の流れを読み、互いに生ずる影響が最小限で済むよう働きかけていた
その暗黙の協力を――騎兵が乱す
先ほどまでは予定調和の如き美しさを持った二人の二人三脚にノイズが走る
ライダーが太股まで露になった両の足で自身の足場である古木を挟み込み、、
空いている腕で枝を掴み、この疾走に無理やり制動をかけたのだ
結果、どうなるか――
高速で前進する体と、逆側に引かれた腕
体の一部分だけが逆に引き寄せられたその結果、、
フェイトの左肩が歪に捻れ、、引き千切られるほどに伸びていく
「あ、、、、かッ、ぁ、、、、―――」
全身が捻じれる感覚
内蔵が雑巾のように絞られる感覚に嗚咽を漏らすフェイト
当然、こんな制動をかけたライダーの両足や全身も無事では済まない
挟み込んだ足場だけでは、この急制動を達成する事かなわず
彼女は己が鎖を自身の肉体に巻きつけ、大木に自ら縛り付ける事で己を固定させていた
「―――、、!」
その牽引力たるや、大木すら耐え切れずに切断されるほどのものだ
金属の縛鎖がライダーに食い込み、その白い肌を軋ませる
だがそれでも――あくまでライダーにとっては予想していた痛み
心構えも出来ている負荷ならばいくらでも耐えられる
だが、全く予想外の、全く逆方向の運動エネルギーを総身に受けたフェイトは――
気が狂うほどの激痛に襲われ
頭の中が真っ白になり
一瞬、完全に意識を失いかけてしまう
それはさながら、暴風にさらわれた凧を力づくで無造作に引き戻す行為に似ていた
その無体な行為は大概、ろくな結果を生まない
逆方向の力を同時に受けた貧弱な凧のフレームはグシャグシャに折れ曲がり
無残な姿をさらして墜落するのみなのだ
フェイトの断裂寸前まで伸ばされた肩の筋肉が
ミシミシと音を立てて軋み、全身に衝撃を走らせる
それこそ風に舞い上げられた凧のように迷走し、ふらつくその肢体
そして力なく落ちていく体が
前方の大木に吸い込まれるように激突の軌道を取る
制動がかかったとはいえ
今までの速度が尋常ではなかったのだ
その勢いのまま障害物に激突すれば、やはり肉体など簡単に砕けるだろう
突然のライダーの奇襲
それはこのチキンレースをあっさりと終わらせるフル・ブレーキングの縛鎖
それはフェイトの全身の筋繊維をズタズタにし
勝負を決めてしまったかに思われた
だが、、
この百戦錬磨の執務官はそんな事では終わらない
大木に激突する寸前、力を失った筈のフェイトの肢体が横に流れる
否、それは明確な意思を持って行われた
紛れも無い左のロール
「――、」
ライダーがその光景を見据え
(残しましたか……小癪な)
相手の生存を確認し、舌打ちをする
白いj肌に食い込む、全身に巻きついた鎖
それによって木に縛られた姿はどこまでも美しく
まるでギリシャ神話における、岸壁に縛られ、海神に生贄として捧げられた聖女を思わせた
彼女にとっても出自の近い故郷の出来事
だが自分がその聖女のようだ、などと言われたら
寡黙な彼女をして笑わずにはいられない
何故なら彼女は――どこまでいってもそのテの輩とは対極の存在
木から、その姿を解き放ち
フラフラと飛ぶ魔道士の後姿に向かって飛ぶライダー
彼女はどこまでいっても――
眼前の生贄を朽ちさせ
食らう側の存在だったのだから
――――――
「は、―――― はふ、、、――― は、、、、」
乱れた呼吸――
半分、白目を剥いた目尻から
堪えきれない激痛に涙が滲んでいる
神域と呼ばれるBJだが
意外な事に捻挫や骨折、間接への衝撃には驚くほどに弱い
否、それは全ての鎧やカブトに言えること
一トンの衝撃に耐えられる鎧兜でも
高所から落ちれば、体の骨は簡単にへし折れるのだ
ならば今の急制動がフェイトにもたらした影響は相当のもの
ダメージから、誰が見ても破綻するかに思われたその軌道は――
しかし一刻の乱れを残したのみですぐさまリカバー
信じられない踏ん張りを見せたフェイトテスタロッサハラオウン
クラッシュ確実のスピンを回復させたのだ
その結果は鉄面皮の騎兵をして驚きに目を見張るものだった
デスマッチの主導権を握っているこの女怪
仲良し二人三脚をやるために森に彼女を誘い込んだのではない
今ので決めるつもりだった――
敵の絶叫、、決まったと思った――
その確信を今、裏切った相手に再び憎悪の念を向ける騎兵
その相手であるフェイトは未だ朦朧とした意識のままに高速飛行を続けている
あの時、一瞬の不自然な力の流れをライダーから感じたが故に
咄嗟に身を捻って受身をとっていたからこそ取り返しの付かない損傷は免れた彼女であったが
それでも全身をバラバラに千切られるような激痛は、この魔道士の意識をほとんど飛ばしていた
それを救ったのは、、
ただただ染み付いた彼女自身の戦技と――その才能
厳しい訓練と教義の果てに
例え意識をなくしても、前後不覚の状態に陥っても
それでも戦術思考をやめない……
フェイトが戦闘中に思考を止める事は無い
彼女自身の心が折れない限り
その身体はひたすらに任務を全うする機械となり得るのだ
「ハァ、、ハァ、…………、ハァ、、、」
簡易治療魔法で痛みだけでも軽減するフェイト
荒い息、未だ虚ろな瞳で
それでもその目は敵の姿を見失う事はない
キッと睨みつけた、今自身の真横数m先に追いついてきた相手――
サーヴァントライダーに対し
並走しながらに彼女は極められた左手を掲げる
「そっちがその気なら……
こちらもちょっと強引に行かせて貰う……」
「――――! チッ、、」
ライダーが盛大に舌打ちをして
途端フェイトとの距離を詰めようとラインをずらして来る
そうだ、このサーカスのようなランデブー
引き摺り、翻弄し、
すぐに決着がつくと思っていたライダーの誤算が今、彼女に牙を剥く
この疾走、、もはや360度、どちらの方向に吹き飛ぶかすら分からない
まさに死のツーリングと呼ぶに相応しいものであったが、、
フェイトはこの短時間で――もう慣れてしまったのだ
そして慣れてきたという事は余裕を取り戻したという事で
この絶死の高速飛行中においても
彼女の中にある多彩な引き出しを徐々に開けていけるという事になる
「フォトン、、、ランサー……」
木の枝を次々と横っ飛びで渡りながらフェイトに迫るライダー
だが―――遅い
森に入った当初は障害物を裂け
飛行する事に精一杯だった彼女の戦術思考が今
唸りを上げてその魔法を紡ぎ出す
フォトンランサー ―――
射出系だけで七色を誇るとまで言われるフェイトの魔法の一つ
彼女の周囲に出現した黄金のフォトンスフィア
そこから射出される矢は、先ほどのプラズマランサーのような誘導性能はないが
自身、最も効率の良い射撃魔法として多用してきた―――凄まじい連射性能を誇る魔弾である
「墓穴を掘ったね……私と繋がって、いる以上
もうこちらの射撃からは、、逃げられない」
未だ息は荒く、多少ろれつの回っていないながらも
それははっきりとした意思を以って敵――ライダーを見据える
迫り来る、恐るべき騎兵
それを悠々と、引き付けるほどに余裕を持って今、、
「ファイアッッ!!!」
彼女が幼い時、師事したとある使い魔の女性から初めて教わった
万感の思いの篭った魔法のセーフティロックを解除し、、
トリガーを引く
「――――、!!」
既に隣のライン
距離にして3m弱に差し迫っていたライダーが最後の跳躍を以ってフェイトに迫る
そしてそれと同時――
正面に見据えたライダーに対して
魔道士が、雷撃の連弾を盛大にブッ放した
ドン! ドン! ドン! ドン!という小気味良い射出音が森に木霊し
迫る騎兵を雷撃の魔弾が飲み込んでいく
一撃一撃の威力は低いが、速効性を求められたこの状況
計30発に及ぶマシンガンの如き連射を相手に叩き付けたフェイト
しかも至近距離、、
宙空で回避も出来ない彼女を包み込む硝煙
これは――決まった……?
手に馴染んだ感触は確かなベストヒットの手応え
これでKO出来ない筈が……、―――
未だ並走している両者
主導権を握っている相手が失速もしくは停止すれば
この危険極まりないデッドヒートも終わりを告げる
緊張に緊張を重ねたフェイトの神経が
安住の地を求め、弛緩の一途を辿ろうとする、、
「! バルディッシュッッ!!!!」
その安寧を一蹴するかの如く、フェイトは自らを叱咤した
止まらない、、
疾走は、、止まらない!
フェイトが絶叫を上げ
全域展開のラウンドバリアの指示を飛ばす
それよりもなお速く――
眼前、、立ち込める雷の硝煙から
灰色の煙を突き破るように飛来する紫、、!
打ち出された雷光の機関銃を身に浴びながら
それでも勢いを微塵も殺さずに間を詰めてきたライダーの姿がそこにあった
(そ、、そんな……耐えた!?)
直撃だったはずだ――
なのはのような高密度のBJを纏っているならともかく
生身の肉体が耐え切れる衝撃じゃない
悪くすれば致命傷、良くて全身麻痺
確実に相手を戦闘不能に陥らせるほどのダメージはあったはずだ
だが現実に、目の前には敵の姿
こちらの魔法を踏み越え、飛び荒び
今、眼前にそのしなやかで力強い大腿を晒した騎兵の姿があった
「う、、うっ!!?」
それは近接を遥かに超えた密着戦
次弾装填もサイスによる迎撃も間に合わなかったフェイトの上半身の
特に首に巻き付くライダーの両足
完全に両の太股が――ガッチリと魔道士の頚動脈の辺りを挟みこんでいる
「―――効きました、、大した魔術です…」
それは本心からの賛美
対魔力Bを誇る彼女の肉体に、それは確実に損傷を与え
全身を襲う痺れ、体内を貫かれた感覚は
サーヴァントをして深刻なダメージと認識させるに十分なものだった
捨て身の特攻など自分の流儀ではないが、、だが――
「これではいよいよ埒が明かない――
こちらこそ少し手荒に行きます……」
バリアか装填か迎撃か、、
一瞬の判断の分岐が仇となり
敵にこのような接近を許してしまったフェイト
「あ、、、く……!」
カモシカのような細い足は
同時にプレス機の如き暴力的な剛性を以ってフェイトの頚動脈と上半身を締め上げる
そして、、、
―――そのまま身を捻って回転
「うあっ!!」
首があさっての方向へと捻れる感覚に襲われる魔道士
卓越した反射神経で彼女もそれに合わせて飛ぶ
でないと、、頚椎をヘシ折られる…!
相手の体を極めながらに宙を舞うライダーと
常人には到底理解し得ない反射速度でライダーの動きに合わせるフェイト
その両者の身が速度を保ったまま宙を彷徨い――
眼前に迫る大木の前方へと躍らせた
否、この軌道はライダーの故意によるもの
絡みついた足がフェイトの頭部を強引に引き回し
そのまま木の幹に向けさせる
このまま頭部を、あの障害物に叩きつける気だ
「ソニック、、、ムーブッ!!」
「―――、!?」
半身の自由を奪われ
為すがままに頭から追突するかに思われたフェイトが紡ぐは得意の移動補助魔法
ただでさえ、もつれ合っての高速並走に加え
サーヴァントライダーをして有り得ないほどの超急加速に
二人の体勢が、、軌道が歪にブレる
「く―――暴れ過ぎです、貴方は」
Gに翻弄された二人が絡み合い、組み合いながら
些かの減速も無しに、、正面の大木に激突した
ベキバキボキ、という――
嫌な、鈍い音が辺りに鳴り響く
それは間違いなく全身の骨が砕けた音、、
いや、違う―――
砕けたのは大木の方だった
フェイト一人が突き刺さる筈だった軌道を渾身のソニックムーブでズラされ
両者激突必至の軌道にて迎えた絶死の瞬間、――
ライダーの渾身の力を込めた蹴りと
フェイトのサイスの斬撃が同時に大木の幹に叩き込まれる
折れる、、いや、、
根元から吹き飛ぶ大木
薄い黄土色の繊維を撒き散らし
その天命を強制的に終わらせられる木々の破片を撒き散らしながら
相手の両足の呪縛から抜けたフェイト、そして振りほどかれるライダー
互いに突き放し、3間の間にて再び対峙する両者
「ハァ、、ハァ……ハァ、、、」
「―――――ふん、」
騎兵の姿がゆらりと歪にゆらめく
「ハァ、、…………っっ!!!」
それは先ほどと同じ感覚
ライダーの全身に鎖が巻き付き、足場である枝に両の足をかける姿を今度ははっきりと視認したフェイト
魔道士の全身を、急制動による衝撃で引き千切ろうとしたアレが来る
もう一度、あれを食らったら今度こそ意識を保てるか分からない
そして―――同じ手を二度食らう彼女ではない
ぐんと引き寄せられる右腕
肩の筋繊維が引っ張られる感触は先ほどと同じ
違うのは、今度は騎兵の動きを完全に見切ったフェイトが
その力の流れのままに急加速しながら飛翔
ライダーの膂力によって逆に勢いをつけたフェイトが
コマのように回転しながらライダーに迫る
片手しか使えない状態でのサイスの一撃はしかし
回転の遠心力を伴い、人一人の首など簡単に飛ばせる切れ味を醸し出し
騎兵の首筋に唸りを上げて迫る
「――この、、!」
自身を鎖で、木に縛り付けるように固定していたライダー
しゅるりとまるで生き物のように解ける戒めはしかし、フェイトの機転と術技の冴えに一歩遅れを取り
その黄金のサイスの一撃が彼女の首を一手に刈り取る
ウォン―、!という風切り音
辛うじて、のけぞるようにかわしたライダー
宙を舞うその肢体
直角に雄々しく立つ大木にまるでヤモリのように四肢を張り付け
魔道士を上目使いにねめつける美しき女怪
長いストレートの紫髪が今の斬撃で2,3本、ハラリと落ちる
「私の髪に傷を―――!」
「お互い様だ……」
もはやこのフィールドを完全に自分のものにした両者
二人の動きを制限するものは既に何も無く、縦横無尽に動き回る彼女らの姿は
それ自体が複雑怪奇な幾何学的文様の如し
フェイトの金の髪が振り乱れ、サイスが黒い装束で覆われた相手の胴を薙ぐ
ライダーの紫の髪が翻り、杭が相手の白くて細い首の中心を穿つ
それを同時にかわし
眼前に迫る岩を同時に攻撃して粉砕し
また距離を取る二人
二対の暴風が通り過ぎた余波で
物静かにその身をたゆたわせていた森林達の悲惨さは凄絶を極める
風圧で幹が飛び、剣圧で枝が裂け、足場にされた木々が軒並み倒されていく
もはやこの森にとって歓迎されぬ客と化した二人の美しい闘姫の舞踏
今やトップスピードに乗ったフェイトとライダー
スーパーコンピューター並の超高速戦術思考と
ヘビ、豹、蜘蛛、、人あらざる者の身のこなし
これこそ、、不可視の戦いと呼ぶに相応しい戦場
静寂な森のみが
この芸術を鑑賞する権利を持っていた
但し、その閃光に踏み拉かれる対価を引き換えに、という
理不尽な代償を無理やりに支払わされての権利なのは言うまでもなかった
――――――
最終更新:2009年01月13日 19:04