模擬演習場モニター前
モニター前でスターズと式の戦闘データを計測していたシャーリーは驚きを隠せなかった。
式の身体能力はさる事ながら、スフィアの射撃魔法や障壁をナイフ一本で無効化し、魔法無しで本体を破壊したのだ。
これを驚かずにはいられない。
「なのはさん……式さんの今の能力は一体……?」
「そっか、シャーリーにはまだ話してなかったんだよね。
あれが式のレアスキル『直死の魔眼』。
何でも物の『死』が視る事ができるんだってさ」
「物の『死』ですか…?」
シャーリーはわけが分からないと言った顔をしている。
まあ、それも当然の話しだろう。
なのは達でさえ、最初はどうゆう意味かチンプンカンプンだったのだ。
それを何も知らないシャーリーに分かれと言う方が無理な話しである。
「そうだね……。
説明すると長くなるけど……。」
なのはは自分達が式から受けた説明をそのままシャーリーに話して聞かせた。
「この世に存在する物が予め内包している『死』を視る事ができる……。
何か難しい話しですね」
「そうだね。
私だって今だにどうゆう意味かわからないもの」
なのはとシャーリーはお互いに苦笑しながら、再びフォワードメンバーと式の戦闘データを取り始めた。
だが、なのはの方はむしろ逆で内心寒気とも呼べる感覚を抱いていた。
昨日の式の説明を聞いた時点では彼女の眼をそれほど重要視していなかった。
せいぜい障害物を魔法無しで破壊できる便利な道具程度と言った感じだ。
だが、今の映像を見てその考えは間違っていると感じた。
式個人の驚異的な身体能力と魔法すら無力化する「直死の魔眼」。
そこにデバイスとミッド式かベルカ式のどちらかを加える。
それは圧倒的な力を持つ魔導師が生まれるのではないか?
勿論式本人のデバイスや魔法との相性、空戦適性の有無で変わってはくるがその可能性は十分に考えられる。
なのはは式の戦闘映像を見ながら、その事を嬉しく感じた。
「式がどんな魔導師に育つのか……これからが楽しみだな」
機動六課食堂
午前中のデスクワークを終えたフォワードメンバーは昼食を取っていた。
お昼時とゆうこともあり、周りは同じように昼食を食べている人で賑わっている。
「そう言えば、今日の訓練の時の式凄かったね~」
山盛りのパスタを取り分けながらスバルがそう言い出した。
訓練後、フォワードメンバー内ではこの話しで持ち切りだった。
今朝の訓練は、当初ティアナが予想していた結果を裏切り、好成績を残す結果で終わった。
スフィアを撃破した後、スターズと式は途中のガジェットやスフィアを蹴散らしながら一番乗りでターゲットポイントに到着。
その後、合流したライトニングと共に周りに展開していたガジェット軍を呆気なく破壊、スバルがターゲットを確保し訓練は無事終了した。
メンバーはその時の映像を見ながら、食事を取っている。
「そうですね。
最初、スバルさんから話しを聞いた時は僕も半信半疑でしたから、実際に見た時には驚きましたよ。
デバイス無しでガジェットを破壊するなんて普通はできませんから。
なのは隊長から式さんのレアスキルの話しを聞くまでは何がどうなってるか分かりませんでしたよ」
エリオが式の戦闘場面を見ながらそう呟いた。
訓練の後、スバル達フォワードメンバーはなのはから式の魔眼についての説明はある程度受けていた。
「えっと…確か名前は『直死の魔眼』でしたっけ?」
「そうそうそれそれ。
確か能力内容は何でも壊せる。
だけどさ、なのはさんのあの説明内容……理解できた?」
「全然理解できませんでした……」
「私もエリオ君と同じく……」
ライトニング二人は苦笑しながら、そう答えた。
「やっぱりか……私も全然理解できなかったんだよね~。
何か物の『死』が何たらかんたらって言ってたけど。
結構あれってどうゆう意味何だろうね。
ティアは分かった?」
スバルがティアナに質問を投げ掛けてみる。
が、当の本人はパスタを見つめながら何か思い詰めた表情をしていた。
訓練の後からずっとこんな調子である。
「ティア……ねぇティア。
もう……ティアナ!」
「え!?な、何よスバル…?」
業を煮やしたスバルが大声で叫ぶと、ティアナはやっと呼ばれてる事に気が付いた。
「何よ、じゃないよ。
訓練の後からずっとそんな調子だよ?
デスクワークの時も、珍しくミス連発してたし……。
体調でも悪いの?」
スバルが心配そうにティアナの顔を覗き込む。
「だ、大丈夫よ。
ちょっと疲れただけだから心配しないで。
ごちそうさま……」
そう言った後、食べかけのパスタの皿をテーブルに残し、ティアナは食堂をあとにした。
その後ろ姿をスバル達は心配そうな顔で見つめていた。
自分の瞼の上から朝を知らせる光が降り注ぐのを感じ、私は嫌々に目を開けた。
まだ、覚醒しきっていない頭を無理矢理叩き起こしながら、ベットを降りカーテンを開けた。
窓から外を見てみると、海が見え、空の天気は晴れ渡っている。
一通り見終わった後、この部屋での普段着である大きめのYシャツを脱ぐ。
その後部屋の片隅にポツンと置いてあるタンスの中から藍色の着物を取り出しそれに着替え始めた。
この着物ははやてやなのはが私の為に用意してくれた物だ。
材質はそれ程の物では無いけれど、色具合などがなかなかなので一応気に入っている。
それに着替え終わった後、愛用のナイフと投躑用の小刀を数本懐にしまい込む。
掛けてある何時もの赤い革ジャン羽織り、私は部屋を後にした。
私がこのミッドチルダに来た日から一週間が過ぎようとしていた。
基本的な生活洋式にそれほどの差が無かった為、私は直ぐに順応するようになった。
私のここ一週間の生活は特に変った事は無く、六課の隊舎の周りを散歩するだけの退屈な日々を過ごしている。
最初の数日はスバル達に誘われ暇つぶしがてら訓練に参加してみたけど、あのロボットもどきの相手ばかりなので早々に飽き、出るのをやめた。
その事を何処から聞き付けたのか、はやては嫌がる私の話しを無視して機動六課隊舎内の案内と副隊長陣などの顔合わせに無理矢理連れ回された。
桃色の髪をポニーテールにした騎士シグナム。
どう見ても十歳前後の少女にしか見えない赤い髪のヴィータ。
黄色い髪に穏やかな顔をしたシャマル。
狼のザフィーラ。
そして体長10cmぐらいで空中にフヨフヨと浮いているリィンフォースⅡ。
最初にあった時は相手が警戒心丸出しなのがヒシヒシと伝わって来た。
特にシグナムは完全に疑っている目をしていて、はやてが私の事情説明が終わるまでそれが続いた。
はやての話しによれば彼女達はヴォルケンリッターと言う名の騎士らしい。
具体的な話しはその時聞けなかったが、正直どうでも良かった。
引き続き隊舎の案内と人員の紹介、私の身分を示すIDカードを受け取る事でその日は終了した。
その後の数日間は以前と変る事が無く、周りを散歩したり、たまにスバル達の訓練を遠くから眺めるなどをして暇をつぶす日々が続いた。
そんな時、昨日突然なのはから連絡が入った。
内容は私用のデバイスが完成したので、明日来てくれという内容だった。
そう、私が今向かっている場所はシャーリーの研究室だ。
隊舎の中を5分位歩き、式は目的の場所を見つけて中に入った。
シュッと音と共にドアが開き、その中に足を踏み入れる。
部屋の中は作業機械などが並んでおり、その一角でなのはとシャーリーがモニターを開きながら作業をしていた。
式が入って来た事に気がついたのか、一旦作業をやめ二人とも向き直った。
「あ、来たね式。
良し、それじゃあ本人も来た事だしさっそくお披露目といこうか。
シャーリー見せてあげて」
「わかりましたなのはさん」
シャーリーがモニターを操作する。
すると式の目の前にあるデスクに宝石みたいな物が転送されてきた。
その形はなのはのレイジングハートの待機状態と同じで、唯一違うのは色が白であると言う事だけだ。
「これが・・・私のデバイスなのか?
何かスバル達のとだいぶ違うみたいだが・・・」
式が疑いの目をしながらそう呟いた。
「あはは、違うよ式。
これは待機状態で、使うときにはちゃんと武器化するんだよ」
なのはが苦笑しながら式にそう説明した。
「それにそんな心配しなくても大丈夫ですよ式さん。
開発は私となのはさん、レイジングハートさんの三人でやりましたから。
式さんの戦闘データを解析し、今でのデバイスのデータを考慮。
さらに最新の技術を使って開発したバリバリの式さん専用の最新型デバイスですから」
シャーリーはやや鼻息を荒くしながら自信満々にそう言った。
「それじゃ早速、性能テストでもしてみようか。
式も早く試してみたそうな顔しているし。
シャーリー模擬戦場は空いてる?」
「はい、今の時間なら誰も使用していないので大丈夫だと思います」
なのはの質問に答えた後、シャーリーは自分の工具を持って移動する準備を始めた。
「じゃあ移動しよう。
式行こうか。」
その言葉に反応し、式は自分のデバイスである白い宝石を握り締めた。
「ああ、わかった。
ところでシャーリー・・・・・こいつの名前は何て言うんだ?」
「この子の名前はディレクティ。
秩序を直す者と言う意味の名前です」
「ディレクティか・・・・」
自分の相棒となるデバイスの名を呟いた後、式はシャーリーの研究室を後にした。
最終更新:2009年01月20日 08:14