ズガガガガガガガガ、!!!

今や何十回と繰り返されてきた乱撃の音が木霊する

中空から奇襲する紫の刺客
それをかわしきれず、正面にて受けてしまうフェイト
再び繰り返される屠殺の乱撃

だがしかし、その攻めている筈の騎兵が
相手の魔道士に対し微かな違和感を感じる


(―――回復している……?)

そう……ここに来て今にも折れてしまいそうな彼女の体に
再び力が戻ってきているのを見逃すライダーではなかった

今や累計数百をゆうに超える打ち込みと共に
ライダーとフェイトの視線が交わり、、
騎兵は、その相手の瞳を訝しげに見据える

―――限りなく座っている、その瞳を


そして何と瀕死の筈のその体が一歩、また一歩と
ライダー対し、距離を詰めていく

フェイトとライダーの攻撃は共にカミソリのような鋭さを持っているが
ライダーのそれは加えてマサカリのような重さをも併せ持つレギュレーション違反ともいうべき代物だ

まともにブチ当たれば、どちらが先に砕けるかなど火を見るよりも明らか――

なのに今、摺り足で少しずつフェイトは相手の間合いに入っていく

自殺行為をも超えた有り得ない蛮行

降り注ぐ暴力の嵐に自らを晒しながら
それでも一歩、また一歩
騎兵との間を詰めていく

明らかに死に近しい身であるが故に彼女の脳内で作用する
致命の気配を鋭敏に感じ取る、その剥き出しの神経

こうなってくるとズキズキと痛む痛覚すらが有難い

意識を覚醒させる起爆剤は
今の魔道士にとって、いくらあっても多すぎるという事はない

そしてその様相――
ゾッとするような行動とは裏腹に
まさに烈火の如く活路を切り開こうとしたシグナムとは対照的なものだった


執務官=フェイトテスタロッサハラオウン

ここで焦って無謀なチャージをしたり
思考を散らして敵の攻撃を受け損なったらそこで終わりな状況下、、

彼女は氷の、否……
そよぐ風のように―――静かで冷静だった

それは必然
彼女には激情に身を焦がして発揮する爆発力も
高町なのはのような出力任せの突破力もない

冷静さを欠いたら、ただ窮地に陥るのみ
キレてマイナスになるような事はあってもプラスになるような事は無い
大雑把な大降りやミスを繰り返して自滅するだけだ

ならばこそ――ピンチの時こそ研ぎ澄ます

それは義理の兄であるクロノハラオウンの教えであると共に
今や彼女の物でもあるハラオウン家の魔道士の教義だった


   研ぎ澄ませろ――研ぎ澄ませろ――

   そして待つんじゃなくて……自分で作るんだ

   待ってたって来るわけが無い

   自分から踏み込まない人間が
   チャンスなんて掴める筈ないよ……


繰り返し、繰り返し、自身に呪文のように言い聞かせるフェイト


   掴むんだ、、

   相手の一瞬の隙を突いて斬って落とす、、


   その瞬間を――


今や瞬き一つせずに見開かれた
水晶の様に透き通った瞳

覚醒に次ぐ覚醒がライダーの猛攻から致命の一打を外しながらに――
逆にサーヴァントにプレッシャーをかける

「―――、この…」

舌打ちする騎兵
更なる膂力と速度で以って相手に叩きつける攻撃が打ち落とされ、空を斬る

そして受けに回りながらに思考を巡らす魔道士

その状況――

冷静な判断として、やはりアギトに念話を返したいという思いがあった
恐らくはシグナムと共にいる妖精に 「こちらは無事だ、そちらの状況を教えてくれ」 と伝えたかった

別行動を取ってより約10分以上――
チームとして状況を交換する事は何よりの必須事項であるからだ

――――冷静さと共に、かつてない集中力を取り戻した身

もはや彼女に焦燥の色は微塵も無い
兄譲りの高速演算を取り戻した彼女の頭脳が
状況を、最善を模索し、回転に回転を重ねる

(………………?)

そう、、、ここでフェイトの思考に一抹の取っ掛かり

冷静さを取り戻したが故に気づく――その事態に


(…………念話?)

そうだ、、

先ほどアギトの念話が確かに自分に届いたという事実――

これが意味する事は、、

…………………、、、、

ここに転送された時
自分達の状況を知るために様々な事を試行した

それで知った事の一つに、この地域(?)は
何かのジャミングでも受けたのかのように通信の一切が通じなくなっていたという事実
でありながら、完全にそれが途絶えたというわけではなく
近い距離での念話ならばそれが可能であるという事だった

どれほどの距離ならば念話が可能なのか
シグナムやアギトと三人で色々と試して、既に確認済みである

と、いう事は――


(………そうか、、このポイントは)


管理局において経験を重ねた執務官というのは
やがては一艦隊を任されるほどの重役ポストに位置する事となる

当然、広い観察眼と戦場を把握する力は必須であり
フェイトのその思考が
今の地理的現状を高速で形成していくのにそう時間はかからなかった


そうだ、、森の木々から差し込む風や光、空気の流れから
ひたすらに出口を模索し、脱出する事をばかり考えていたが…
度重なる方向転換と剣戟の果てに辿り着いたこの地点は――

(戻ってきていたんだ……少しズレているけど間違いない、、)

今、フェイトが立っている地点は
まさに魔道士と騎兵が並走を始めたスタート地点からかなり近い場所
つまりは魔道士の戦友である騎士が戦っている場所からもそう遠くない地点にいるという事だった

その地点を今、デバイスの補助を受けて大まかながらに叩き出す、、

(近い……間違いない)

流転に流転を重ねる戦況の中
その思考に電流を走らせるフェイト

下手をすれば、、いや上手くすれば――

この状況を打破し、同時にシグナムのフォローに回るには――


(、、、、、、、、、、、、、よし……)

一つの決意を秘めた表情の元

彼女はまた一歩、――――――


「――― 大したものですね……消える前の蝋燭の輝きというものは ―――」


――――、!???


その一歩を踏み出した瞬間、、

耳に詩人のような女の声が響くと共に
その眼前に紫紺の髪たなびく顔があった

「うっっっっ!!?  あ、、グッッ――――」

その女神の囁く様な声を――

自身の肉体を貫いた衝撃が掻き消していく


油断は無かった

針のように研ぎ澄まされた集中力は健在だった
なのに、なお…

その防御の隙間を縫った騎兵の驚速の足先蹴りが――
フェイトの鳩尾に槍のように突き刺さったのだ

「ですが、かつて私は勇猛極まりない勇者ならば腐るほど見てきましたし――」

その攻撃に対し、ブンと斬り払った鎌はゆうに二秒は遅かった
その右手から伸びたサイスの魔力刃が力無く虚空を彷徨うと共に
よろめきながら、後方に力なくたたらを踏む魔道士

「限界の一つや二つ、ゆうに超えてきた彼らの命をこの手で刈り取ってきました」

「あ、、、、、ぅ………」

魔道士の体が崩れ落ち、その場でたまらず両膝をついてしまう

「些か浅慮に過ぎるのでは? 命を投げ打った程度で我が身に届くと、、
 ――――――、聞こえていますか?」

、、、聞こえてはいなかった

衝撃が背中まで突き抜けた感触に耐え切れず
ビクンと痙攣する魔道士の肩
横隔膜が軋み、彼女の呼吸を止める
悲鳴すら上げられないほどの嗚咽に咽び、、

瞳孔の開きかかった双眸で辛うじて相手を見上げ
ブルブルと震える右手に持つバルディッシュを相手に向けて牽制するのが、、
今の彼女に出来る精一杯の仕草だった

そして今、死に物狂いで詰めた間がその一蹴りで再び押し戻され、、

昏倒する魔道士を前にライダーが再び跳躍
更なる攻撃を敢行するために彼女の頭上
その森の木々に再び身を窶していた

「、、ぁ………ゲホッ、、うう……」

涙混じりに咥内に溜まった内包物を吐き出して
ヨロリと立ち上がるフェイト

「――あ………甘くない、、、流石に」

ガクガクと笑う膝
青ざめた表情

くの字に曲がった体を推して
力なくその一言だけを呟く彼女

限界の体力を今のでゴッソリと持って行かれた

明らかにヤバいダメージ
食らってはいけない一撃だった事は明らか


「………」

しかし、、その双眸に宿った力は些かも消えていない

口元についた吐しゃ物を手の甲で拭い、上空をキッと見据える

何かを決意したような光も
魔力を込めた両の足、肢体も
地面に根を張ったその姿勢も
その彼女なりの不退転の意思の現れも

まるで衰えてはいなかった

当然だ
彼女はそこまで楽観的ではない

あの程度の無茶でこのまま相手を圧せられるとは元より思っていなかった

弾き返される事も百も承知
ただでさえ神速を以って迫り来る騎兵
それに加えて隠れ蓑になる木々を利用した身のこなし

到底見切れるものじゃないのは周知の事実――


そして恐らく……いや、間違いなく

―――次の相手の攻撃が、自分にとっての止めになる

残り体力を鑑みてもこれ以上は持たない
ここでは魔道士はライダーに勝てないし
一方的に引き裂かれるのを待つばかりという予想は
ここに些かの狂いも無く実現する

だが――

(それでも……)

死ねないのだ……絶対に、、

仲間を助けるために
大切な人と再び再会するために

その瞳が、その感覚が、
森の闇に溶け込みながら
自分の周囲を疾走する死の影を捉えようとフル稼働

木蔭を揺らす音

翻る紫の残滓

猛る空気

ザザ、ザ、と上空の枝を疾走する音だけが
この深き昏い森に木霊する―――


そんな中、その取り巻く状況の全てを糧とし
五感とそれを補助するインテリジェントデバイスがフル稼働
彼女の無二の相棒バルディッシュを頼りに相手の強襲に備えるフェイト、、

大丈夫だ……大丈夫

これほど刻んだのだ

相手の攻撃――
さっきの蹴りも含めたその速度、威力、角度

その全てを、今の今までこの身に受ける事で記憶した


だから………


次が勝負!!!!


もう一度、繰り返す

―――次の相手の攻撃が、自分にとっての止めになる

否、、、、、止めの一撃でなければならない――


その決意、気勢、戦意が
静かなる湖面の如き魔道士の思考にゆっくりと浸透していく中

フェイトから見て後方―――左上方の木蔭が
機雷が爆発したかの如く爆ぜ、


紫紺の流星が超高速にて彼女の頭上に飛来するのだった


――――――

人間の死角である斜め後方からの強襲

サーヴァントライダーが今度こそ獲物の細首を刈り取ろうと
今や明確な殺気を押し殺す事もなくフェイトの間合いに踏み込む

「…………!」

「――――、!」

互いにかわす言葉も裂帛の気合も押し殺し
だがしかし、その気勢だけは十二分に感じ合う

次が最後の攻防だと――分かっていたのだ、お互いに


止めに行くのはライダー

狩りにおいて確実に相手を仕留められると思い立った時、猛獣はその猛りや殺気を隠さない
ならば気勢を以って放つ次の攻撃こそがフェイトにとっての致命の一撃になる事は確実だ


最後の反撃に出るのはフェイト

受け損なったら今度こそ、、自分は終わる
でありながら彼女は引かなかった
フットワークが身上の彼女がベタ足で踏み止まり
その落ちてくる流星に対し、決死の覚悟で振り返る

その相手と正面に見据えて対峙した時――
既にライダーは魔道士の一足の間合いにまでその身を詰めていた

ギリ、と歯を食い縛るフェイト
その顔が緊張と、次に来るであろう絶死の猛攻の脅威に強張る

そして始まる、、


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ、、、、、、、、!


削岩機じみた連携

BJ、フィールドを全開にしての防御は――
この暴力の化身の如き彼女の猛攻を防ぐには足りなさ過ぎる

しなやかな足技
杭剣の鋭い斬撃と変則的な鎖が醸し出す
剛柔相合わさる凄まじいコンビネーション

壁の枚数が足りない、

装甲が薄い、

残り体力が絶対的に不足、、

軋む肉体
揺れる脳
悲鳴を上げる内蔵

防壁に弾かれずに抜けてくる一撃一撃が彼女の体をBJを切り裂き
それに守られた白い肌を鮮血に染め上げる

「あ、、ああぁ、、、うぅ………!!!!」

苦痛に歪むフェイトの表情

先ほどの焼き増しのような光景は
もはや長時間、続けられる事はないだろう
こうして敵の乱撃をまともに受け、その身を投じた以上
もはやフェイトには逃げる事すら許されない

そして元より―――彼女に逃げる気などない

それは捨て身とも言える短期決戦
これ以上、速度勝負や削りあいを挑んだ所で
このフィールドではフェイトに勝ち目は無い

ならば――全てを賭けて、まずはこの相手を止める

倒すなどという贅沢は言わない

一時だけでも昏倒させる一撃を――
相手を怯ませる一撃を――

出来る筈だ、、命を賭ければ……
相手を一瞬、止めるくらいなら

そして今一度、相手の暴風のような連携の中に飛び込んだフェイトが
その旋風に対して――

「はぁぁぁああああッッッ!!!!!」

愛杖バルディッシュを振り上げ、、渾身の力で打ち下ろし、―――――



、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、ぎぃぃぃん!!!!




「あっ!??」

―――その頼りの綱のデバイスを、、、

弾き飛ばされていた


――――――

地面から上空へと天を突くように
つま先から大腿までピンと伸び切った流麗なるフォルム
その蹴り上げられた騎兵の左足が――魔道士の唯一の武装である愛杖を弾き飛ばす

その脚力は今の消耗したフェイトの手から武器を弾き飛ばす事などあまりにも容易く
回転しながら魔道士の頭上に高々と舞い上がるはフェイトの相棒バルディッシュ――

だが、魔道士はそれを目で追うことも
相棒の名を呼んで頼る事も出来なかった


何故なら目の前―――

既に横から薙ぎ払うようなライダーの右回し蹴りがフェイトの眼前に迫っていたからだ

――空気が凍る

――血が凝固する

――全ての事象が決着へと集束していく


――その全てがトマッタ光景の中

最後に、、


「――――動かなければ痛みはありません」

女神のような女性は右足を彼女の首に叩き落しながらに


そんな事を言った


――――――

全ての時間が緩やかに流れていく
空気が凍り、凝縮していく


「調子に、、、、」


そんな中で森に響き渡る怒声は―――


「乗るなぁっっっっっっ!!!!」


その心優しい金髪の女性の口から放たれた

それはエリオやキャロや、他にもこの執務官を知る者が聞いたら
唖然とし……そして背筋を凍らす声色だっただろう

咆哮と呼んでも差し支えない絶叫が大気を震わせ、木々をざわめかせる

どう贔屓目に見ても激情家とは言えない彼女の性格
叫んだり猛ったりという行動がひたすらに苦手なこの執務官

どこか舌足らずで、、
皆で集まった時に歌などを披露した時は恥ずかしがって俯いてしまう、、

そんな彼女が――――吼えた…全身全霊で


だがこの世に生きとし生ける者は
皆、その時が来れば誰でもそうなるのだ

どんなに優しい者も
大人しい者も
弱き者も

自分の命、そして大切なモノを守る時――
あらん限りの力を振り絞って
吼えて、猛って、抗うのだ


そして雷光は飛ぶ

あろう事かその目の前の強大な相手に向けて
自ら羽をはためかせて、無謀な突撃を敢行する

その側頭部に迫るマサカリのような騎兵の背足
ライダーの脚力によって放たれた凶器じみた蹴撃は
彼女の顔面を蹴り潰すに余りある威力を以って、、

フォォォン、、!!という有り得ない風切り音を伴って迫る

その瞬間が近づいてくる…
魔道士の最期の瞬間…
それをゆっくりと、スローモーションのように見据える森の木々たち――

そして――――― 

ガチン、、!!!!!!!


という鈍い音が辺りに響き

その空間に微かな残響を残した


―――――――――――

、、、???


しかしそれは…………

妙な残響だった


否、それはあくまで微かに、であり
その後、ほとんどの音跡というものを残さず――

他愛のない音の残滓をこの空間に些かも滞在させる事はなかった


そこに多大なる違和感を残す


巷で横行する武道の祭典や催し物などで行われる
試割りやバット折りなどの光景を見たことのある者ならば
その違和感の意味が分かるだろう

物が砕ける音、何かが折れる音というものは
バキィィ!とかゴシャァァ!といったような
とかく周囲の耳に気持ち良いほどの音を残すものである

それが、、

今はほとんどなかった――


他ならぬライダーの蹴撃である

まともに入ったのならば何かが盛大に潰れたような
樹林立ち並ぶこの空間に響き渡るような
凄まじい炸裂音が響いていたはずだ

なのに、頭を蹴り潰し首の骨を折ったにしてはまるで味気ない、、
それは拍子抜けするほどに他愛のない音であったのだ


――――――

恐らく―――

彼女自身、その人生において
これほどに無謀な行動を行った事があっただろうか?

常に冷静に二手、三手、先を見て行動できるように余力を残しておくのが指揮官たる彼女の資質だった
だからその行動は自身の性質
資質すらも踏み越えた蛮行と呼べるものであっただろう

だが、、

無謀、蛮行に染まってなお、彼女は「雷光」

6課の中で唯一サーヴァントに速度負けしない
常人には影すら踏ませぬ最速の魔道士だ

そのタイミングを完璧に合わせた全力でのロケットスタートは――
「無謀」 な行動を 「無謀」 でなくす

このために、、
このために、、
散々打ち込まれた

窮地すらも己が糧とし
そして記憶した騎兵の攻撃の数々――

たった一つの攻撃を逸らすため――
そのための布石で今や彼女の体は
見るも無残な痣だらけの傷だらけだ


だが、その苦痛と血に塗れた努力が
垂れていた一条の蜘蛛の糸にようやっと手が届く――


それは所謂、打点のずれた音

当たりそこないの音、、

ライダーの「太腿」と、、、
フェイトの「側頭部」が当たった音――


一撃で首を刈るライダーの蹴りは
その最大の威力の生ずる背足を大きく外され……フェイトの頭を打った
つまりはこの止めである筈の一撃は魔道士に最小限のダメージしか与えていなかったのだ

「、、!」

息を飲むライダー

死中に活あり――などと言ってしまえば簡単だ
未熟な者同士の殴り合いならばこの打点のズレ
日常茶飯事に起こった出来事であろう

だがこのサーヴァント=ライダーの攻撃に対し、前に踏み込んで打点をズラす……
このような事が出来る存在など人間にいるわけがない

いくら高速戦闘での見切りに特化したフェイトとて
まともにライダーと向かい合った状態で
その全ての攻撃からこんな真似が出来る筈が無いのだ

だから――彼女は

――― 状況を作り出す ―――

牽制や繋ぎの来ない大降りの一撃
止めとなる一撃を、、相手が繰り出してくるその状況を――

そして全てのピースがカチリ、と嵌った
完全調和の元に踏み込まれた彼女の動きこそ

それはまさに疾風迅雷――

雷迅の名を冠するフェイトの戦技に相応しい切れ味を宿す

サーヴァント=ライダーの内の内
初めて相手の間合いを自分から犯す事に成功したフェイト

打点をズラしてなお、大蛇の尾のような一撃はフェイトの脳を揺らし
その膝がぐらつき、気を失いそうになる

だが、、

(じ、上出来だ……!)

それでも十分過ぎるほどの戦果なのは疑いようがない

もしまともに受けていれば自分の細い首などこの騎兵の前ではマッチ棒と同じ
一撃のもとに頚椎が丸ごとヘシ折られていただろう

意識を繋いだフェイトがその絶死の瞬間を踏み越えられた事にまずは一息
そしてすぐさま次の挙動に映る
この掴んだ勝機を生かせないフェイトではない

騎兵の放った右足を抱えてもう片方の左の軸足を払い
蹴り足の腿を持ち上げて突き倒し、、相手を崩す

「――う、!?」

その技巧すら神速
組み技専門ではない者の動きとは到底思えない流麗な挙動で
ライダーの両足を払い、バランスを奪って宙に浮かせたフェイトが、

「プラズマァァ、、、アームッッ!!」

彼女の持つ引き出しの奥の奥――
近接の最後の手段とも言うべき電撃を伴った篭手による一撃を、、

浮いたライダーの無防備な体に叩き込んでいた

「――――、!!!」

劈くような轟音が辺りに木霊する
まるで稲妻が落ちたかと錯覚するような大音響、そして闇を照らす光
捻れる空間と共にフェイトの右手からプラズマが発生し
その拳の軌道に雷の残滓が飛び散る

そしてその一撃が、騎兵の細い体に
吸い込まれるように打ち込まれていたのだ!

間違いなく、どう見ても、
それはクリティカルブローの手応え

その威力はフェイトの大魔力に呼応し
魔道士のバリアをブチ抜くベルカの騎士の一撃と比べても何ら遜色無いものであり
まさに雷神の鉄槌ぼ如き一撃が騎兵の胴体を砕き
貫き、その肉を高圧の電流で蒸発させ、、――


「――――、ふっ……!」

否、、

その打ち砕かれた筈のライダーの口から発せられるのは
嘲笑だったのか、それとも短い気勢を発したものか

ともかく、重ね重ね何という埒外――

そのフェイトの必死の反撃
重い拳の一撃ですらこの神話の怪物を揺らすには足りなかったというのか?

完全に不意を打ち、両足を払われ
宙に浮いた状態にしてコンマを待たずに叩き込んだ攻撃だったにも関わらず――

彼女はその攻撃にすら反応

両手を胴の前でクロスしてフェイトの打拳を完全にブロックしていたのだ!

ミシミシ、と騎兵の両の手に食い込むフェイトの拳
なれどその一打は彼女の急所を打ち抜く事はついには適わず…

奇襲失敗

やはりフェイトの命運はここに、、――


「はッ、あああぁぁああッッ!!」

「―――、!?」

否、、またもや否!

それは互いの意地と意地のぶつかりあい
断じて敗北を認めぬと主張する
二人の武姫の鬩ぎあいだった

フェイトは構わない…! 
その攻撃を止められてもまるで構わない!

まるで野球投手のオーバーハンド気味に叩き込んだ右の拳
それをガードされてなお、フェイトは振りぬく
己が魔力の全てを威力に変えて放たれたハンマーブローが
彼女の細腕から放たれるにはあまりにも法外な出力を以って
唸りを上げてライダーの体を後方に押し返す

さすがの騎兵も、体勢を浮かされた状態ではこの衝撃に対して踏みとどまれない

雷撃の炸裂する音がバチバチバチ、!と鳴り響き
後ろの木にまで吹っ飛ばされ、背中を打ちつけるライダー
それでも勢いは止まらず、髪に隠された背がミシミシと大木の幹にめり込む


「っ、――ついには素手で殴り出しましたか……」

ズル、と木にもたれかかる彼女
その決して止まらなかった動きが、、一瞬だが確実に止まった

何をやってもまるで応えていないと思っていたがそうではなかった
彼女は――我慢していただけ、、

サーヴァントとて不死身ではない
暖簾に腕押しに見えたフェイトの一撃一撃は
確実にライダーから体力を奪っていたのである

強力な回復力を持つ彼女達であるが
裂傷や感電、すぐには癒しきれぬ体の芯に残ったダメージは
既にこの騎兵をして無視出来ないものとなっている

しかしそれをこの戦闘中
今の今までフェイトに対しておくびにも顔に出さなかったのは
それはある種の意地であろう――

堕ちたりとはいえライダーは元・神族
人間如きに弱みを見せてたまるものか、という
彼女のプライドの表れがここにある

しかし痩せ我慢や強がりにも限度というものがあり
しかも今受けた拳は破れかぶれの一発ではなかった

ガードした両手を粉砕せんが如き一撃はれっきとしたフェイトの戦技の一つ
否、騎兵との戦闘が始まってより彼女の繰り出すその多彩な攻撃は
どれもが凡庸な一撃などない……全てが主戦力級の冴えを持った技

「―――本当に器用ですね貴方は…」

その七色の技巧に感嘆の意を表するライダー

そして自身の両腕が赤く腫れ、感電によって黒く焦げ
痛々しく前にだらんと下がってしまっているのを見て舌打ちする


(猛獣相手に素手で拳を叩きつけた気分だ…)

しかし打ったフェイトの表情にも喜色はない
はっきり言ってもう二度とやりたくない――そう顔に書いてある

やはりマルチウェポンとはいえ、その中でも得手不得手はある
近接の格闘はフェイトの資質からはもっとも離れた技法なのだ
スバルのような格闘特化型ならともかく自分の打拳など、、
この恐るべき相手は二度と貰ってくれないだろう

だが、、

―――それでも奇襲には成功した

全ての距離、あらゆる術式をこなせるオールレンジアタッカー
その本領発揮ともいうべき彼女の反撃は――

まだ終わらない


そう―――この敵を打破する武装は初めから、自分にとっては一つしかない


フェイトがまるで天を突くように
その手をおもむろに上空に上げた

「――、?」

ライダーが木にもたれながらにその手の先にあるモノを見て流石に息を飲む

それは弾かれたはずの、、


相手の杖――

華麗に上空で弧を描きながらに舞う、、バルディッシュだったのだ


自分が蹴りあげた筈の武器――
それがああも奇麗な軌道を以て――
持ち主の上空に舞っている筈が無い――

その違和感が――ある確信に変わり、怒りと驚きに染まる騎兵の表情


そう、、、あの時フェイトは武器を失ったのではない


弾かれたのではなく―――自分で放った
武装を飛ばされたように見せて
自分で投げ打ち、騎兵を誘ったのだ

相手の裏をかくために
先程も記したが、相手が止めを刺そうと大振になる攻撃…
それをここに引き出すために!


これが戦技――

これが技術――

ヒトが自分よりも強い個体と戦うために古来より練り上げ、生み出した戦術と技能
機動6課において双璧を為す 「スターズ」 と 「ライトニング」
英霊を相手にしてなお、その隊長の実力は伊達ではなかった

その片翼、高町なのはが破壊力と重厚さを担うなら
フェイトテスタロッサハラオウンは疾風にして華麗

まるで新体操のバトンのように奇麗な弧を描いて落ちてくる彼女の相棒が
今、担い手であるフェイトの手に戻る

小走り気味に助走をつけながらバルディッシュを空中でキャッチし
そのまま2m弱の高さに軽く跳躍し、相手に向かって滑空するフェイト

「行くよ! バルディッシュ!!!」

そのまま大気を切り裂くフルブーストにて超加速
木に寄りかかる騎兵に向かって今、―――乾坤一擲の突撃を敢行したのだ!


「つくづく見事なものです……」

刺客が木にしなだれかかった身を静かに起こしながらに言う

「が、所詮は悪足掻き――」

確かに華麗だった
この自分の目から見ても溜息が出るほどに

だがそれは所詮は単なる曲芸だ
殺し合いにおいて勝利に繋がらない大道芸に何の意味があろう?

………変わらない

自分の絶対有利は変わらない
こちらが圧倒的に有利な状況はまるで覆ってはいない

やっとで掴んだ起死回生を何とかものにしようと
傷だらけの雀が嘴を剥いて襲い掛かってくる

だが―――雀は雀

どれほどに奮起しようと彼女の行為は
大口を開けた大蛇の顎に飛び込むソレと何ら変わりの無い、愚かな行動である

悠々と迎撃の体勢に入る騎兵

まだ全然、自分には余裕がある
こちらに一発打ち込んだからといって勢いに乗ったのは良いが
だがしかし、こんな真正面からの飛び込み――サーヴァントにとっては強襲にすらなり得ない

相手にとっては恐らく最後の一撃となるであろうその斬撃を―――

容易く、無慈悲に、
呆気ないほどにあっさりと弾いて潰す

それで終わりだ


この魔術師はこちらの攻撃をまんまと読んで
捌いてかわしていい気になっているが
それはこの戦闘において互いに作用している事

彼女がこちらの攻撃を身に刻んで学習したように
こちらも相手の攻撃は見ている
ことにあの大鎌の左右上下から振り下ろす軌道はイヤというほど見せられ
もはやその全てに慣れ始めている

たまに不自然に速くなったりするだけの
それは何という事も無い斬撃だ

完全に見切っている、
無駄な一撃、

いくら速かろうと助走をつけようと――そんなもの、物の数ではない

今まさに金色の稲光のなって突進するフェイトを
迎撃し、ここに砕こうと身を翻すライダー
その髪がぶわり、!と宙にたなびく

が、、、

「――――な、!?」

その騎兵の両の瞳が今、、
初めて本当の驚きに染まっていた


――――――

サイスの軌道に慣れきったライダーが
眼前、その目に写した軌道は――

学習したと言い切った筈のその軌道は、、、


彼女が今日、初めて見る―――――

先ほどまでの横薙ぎの一閃と相対するような――直線

どこまでも直線
どこまでも最短の軌跡を伴う
まっすぐに突き入れられるその軌道は――

――― まるで槍 ―――

「――そんな、!?」

ライダーの驚愕の声
それが今、果たして音となって空気に木霊しただろうか?
この……瞬きする間もない攻防において、、


戦力を覆すのは戦術――
それは 「術」 という物が世に出てからの動かざる前提だ

なれど今日、フェイトの眼前に立った相手の有する戦力はあまりにも強大――
まさに神域に位置する存在であった

ならばそれを突破する戦術こそ、また埒外の物でなくてはならない

二重三重の構え? 
足りない、、全然、足りない

五重、六重、
いや、もっと、、もっとだ―――

戦闘開始からこちら、ありとあらゆる伏線を敷き
布石を打ち、奇襲に奇襲を重ね
今――それを一点に集中させる

フェイトの手に持つ無骨な黒杖
そこに顕現したのは――バルディッシュ=ランス形態

正式名称・バルディッシュ=シーリングモード―――

ノーマルモード(デバイスモード)である斧の形状からヘッドを反転させ
光の翼を広げたその形状はまさに、、期せずして最速の者が持つに相応しい武装――槍へと変化

マルチウェポンの妙
今まで湾曲を描いてきた魔道士の挙動は
打って変わって直線を描く刺突へと移行する

それはどこまでもどこまでも流閃に鋭角に――

フルブーストをかけたフェイトの肉体が
凄まじい速度を以ってライダーに飛来

サーヴァントを以ってして反応するのが精一杯の起死回生の一発が
完全に虚を付かれ、もはや正面を庇って手を翳すしかないライダーの
その右の手の平をザクン、と………完全に刺し貫いていた

「―――くっ、、こんな事……!」

それでも止まらない
今やフェイトの体全体が巨大な槍そのものだ

手の甲を刺し貫かれ、その肌越しに眼前に迫る金色の刃
それを、息を呑み無様に顔を背けるように身を翻し
何とか串刺しを避けた騎兵

かわしきれなかった刃の切っ先がライダーの顔の横を通り過ぎ
右肩の鎖骨の辺りをゴリゴリ、と削っていく
そして貫かれた右手が魔力刃によって背後の木に勢い良く叩きつけられ、、縫い付けられた

初めて戦慄の声をあげる騎兵のサーヴァント

「ファイアッッッ!!!」

その工程は流れるように華麗に豪快に――

すかさず杖を離し
横に半歩ズレたフェイトが紡ぐは連携の二撃目

稲妻のようだった魔道士の突撃から遅れる事コンマ3秒
時間差で、フォトンスフィアから追随するように放たれた雷弾が
魔道士の脇をすり抜け、動けぬ騎兵に降り注ぐ

「―――くぅっ…!!」

自由の効く左で短剣を振るい
何とか襲い来る弾撃を打ち払うライダーであったが、、
到底、全てを弾く事など不可能――

磔にされた体に、その白い肌に次々と突き刺さるフォトンランサー

左ほどのお返しだとばかりに打ち込まれる凄まじいラッシュに
声にならない呻きを上げる紫紺のサーヴァント

(砲撃は、、間に合わない…!)

その締めにサンダースマッシャー辺りを打ち込もうと画策していたフェイトだが
とても詠唱が間に合わず、連携に組み込めない

故に、ライダーの左横に陣取ったフェイトが
今まさにハチの巣にされたライダーに向かって踏み込む

それは近接の間合い
本来ならば騎兵を相手にして
魔道士にとっては負の間合いであるという事実は――

右手、全身を串刺しにされ
木々に縫い付けられたこの敵の前には成り立たない

「―――ふざけた、事を……!」

悔しげに呻くライダー

――見えている
それは凄まじい速さで紡がれた連携なれど
サーヴァントにとっては不可視でも何でもない
敵がこちらに踏み込んでいるのはハッキリと見えているのだ

だのに、全身が縫い付けられてて動けない

その金髪の獲物の首を切って落とす筈の右手が、、木に縫い付けられてしまっている

そしてその横から、ライダーの身体の前にまるで掌底打ちのように手を翳し――
全魔力を集中したフェイトが今、高出力のシールドを顕現させたのだ

魔道士の左手に生ずる魔力の残光が
巨大な壁をその空間に作り出す

その、、ライダーがいる空間に――

手の先にいる騎兵
後ろは当然………大木だ

「――――、……か、、ふッッ!?」

質量と質量の狭間にその肉体を挟まれ
プレス機に押し潰されたようにメキャメキャと悲鳴を上げる体

拳を叩き込み
槍で貫き
銃で滅多打ちにして

――お次は盾で押し潰す

もはや何でもアリである

あのシーリングモードとて本来は魔力を凝縮して高出力で打ち出すためのモードであり
槍として扱った事はほとんどない

だがそんなセオリー何するものぞ

それは美しき術技の極みでありながら
裏を返せば形振りかまわぬバイオレンスアタック

だが、期せずしてそれは闘争の理想の姿――

技能と野蛮が上手く融合したその光景こそが
戦技の理想にして最強たるべき姿なのだ

もはや己の全てを持っていけとばかりに放たれたフェイトの近接連携が
余すとこなくライダーに叩き込まれ、

「ブレイクッッッッ!!!!」

その締めとなるバリアブレイクがここに炸裂する

「―――っっっっ!!!?」

魔力の爆発に飲み込まれる騎兵
ミチミチと軋む木の幹の右半分が圧力に耐えられず破裂する
それと同時にライダーの身体も、潰されかかったゼリーがその生じた隙間から押し出されるように
右後方に弾かれ、吹き飛ばされた

槍の魔力刃に縫い付けられた手がブチブチと裂け
木々の尖った繊維に背を傷つけられながら――

きりもみしながら数mほど飛ばされたライダーが
今度こそ、、その背を地に叩きつけられて――

フェイトの眼下に倒れ伏すのであった


――――――

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最終更新:2009年01月21日 08:50