―――空は快晴。
穏やかな気候は季節の感覚を麻痺させる。
潮風が頬に心地よく、海鳥の声は寂しさを緩和させる。
文句の付けようのない絶好のロケーション。
平穏を絵に描いたような冬木の沖合は、しかし。
この、超巨大宇宙戦艦によって、SFの世界に変貌していたのだった……!!
「いつ見てもでかいよな、ホントに」
冬木大橋からも姿が見えるこの戦艦、名を『聖王のゆりかご』という。
本来はフェイト達のいた世界のもの、それも超一級の危険物らしいこのデカブツは、現在のところ動きはなく、未遠川の河口沖にて停泊中。
ドクターを含めたナンバーズ組の宿泊施設と化している。
家に出入りするチンクに対し、船上生活に不便はないかと聞いてみたが、意外と快適という返事が来た。長期航行も視野に入った設計らしく、
物資さえ運び込めば別段不都合はないらしい。本来は『鍵』が無ければ全く動かないものらしいのだが、どういうわけか住環境分の動力は供給
されているとのこと。
実にいいかげんである。
こんなモノが日常になじんでいる辺りも含めて、さすがは虎聖杯といったところか。
遠坂が見れば頭を抱えそうな現状だが、幸か不幸か今は不在で、代わりに来たのはちびだぬきのみ。
こうして俺が不思議機械(ガジェットドローン)に乗ってお邪魔しても、何のおとがめもないのだった、まる。
「よっと。ありがとな」
機体にしがみついていた手を離し、甲板へ降り立つ。
丸っこいボディを軽くなでながら、内部への入り口を探す。
「えーっと……あぁ、あそこか」
さっそく発見、ここからは徒歩で向かう。
…………と。
何か今、どこかで見た男がいたような。
ニア 1.………気になる。
2.よしておこう。
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………気になる。
無視できそうもないので、意を決して近づくことにする。
その男は派手な柄のシャツを羽織り、クーラーボックスに腰掛けながら、釣り竿を海に傾けている。
…………いやまあ、そんな風貌の男なんて、一人しか思い当たらないのだが。
向こうはとっくに気づいていたのか、ある程度近づいたところで、こちらも見ずに声をかけてきた。
「よう、坊主。こんなところで会うとは珍しいな」
「……それはこっちの台詞だ。なんでこんなところで釣りしてるんだ、ランサー?」
クーラーボックスの向こうにあったバケツには、以前同様さまざまな釣果にあふれている。
魔法の竿は健在のようだ。
「いや、釣りの最中に知り合った嬢ちゃんがいてな。
話の流れで、ここで釣れる、ことになったっ! ってわけだ」
「おわっ?!」
竿の引きが強まり、途中でだいぶ説明をはしょったランサー。
というか今の、鰹じゃなかったか?!
「……まあ、なんとなくは解った。
けど本当に色々釣ってるな。港でもそうだったが、今度は輪をかけて無節操じゃないか?」
「確かに、2割増しぐらいは釣れてるかもな。こっちも見るか?」
そう言うと、クーラーボックスから立ち上がるランサー。
開けてみると、相変わらず鯖は多いものの、確かに雑多な品揃え。
何をどうやったのか、カニやアワビまで入っている始末。
「いやまて、アワビは釣れないだろ!?」
「ああ、それな。そっちは嬢ちゃんのだ」
「呼んだー?」
謀ったようなタイミングで、ザバァッ、と海から飛び出す人影。
「って、セインか」
「そうだけど、どうした?」
自分の能力(ディープダイバー)で潜っていたのか、水滴一つ付いていないセイン。
手には貝やら海老やら、収穫してきたものが抱えられている。
「元はと言えば、嬢ちゃんが針に引っかかったのがきっかけだしな」
「あー、あのときは……先客がいるなんて思ってもなかったから」
恥ずかしそうに頭をかくセイン。
そりゃなあ。ランサーのせいで人気なんてさっぱり無くなってたしなあ。
ランサーの方も、まさか港に素潜りをする少女がいるとは思うまい。
「それで、お詫びもかねて漁場を提供してる訳か」
「そ。ちょっとお裾分けしてもらってね」
「こっちにしても楽しめりゃそれで十分だしな。よっと」
竿を上げるランサー。
「サバだな」
「鯖だな」
「だね」
会話がとぎれる。
同時に、今日はドクターに呼び出されていたことを思い出す。
「じゃあ、俺は用事があるから。
二人ともがんばってくれ」
「おう、じゃあな」
「また後でねー」
漁を再開する二人を背に、ゆりかごの入り口へ向かう。
ようやく見つかったランサーの安息場(つりば)。
心ない闖入者によって、乱されなければよいのだが。
最終更新:2009年01月21日 20:12