第7話「ホテル・アグスタ」

ミッドチルダ首都南東地区上空、ストームレイダー内部。

「それじゃあ、これからの六課の方針と今日の任務について説明するやね」

ヘリの内部では部隊長であるはやてから直々に説明がされていた。
周りにはスターズ隊長であるなのはとライトニング隊長であるフェイト。
フォワードメンバー四人に式とシャーリー。
更にはシャマルとザフィーラが乗っている。

「これまで謎やったガジェット・ドローン製作者とロストロギア・レリックの収集者が現状ではこの男…」

一同の目の前にモニターが開き、そこに一人の男の写真が表示される。

「生体関連の違法研究で広域指名手配されている次元犯罪者ジェイル・スカリエッティ。
この男が深く関わっている線で調べる事になったで」

「この男についての捜査は主に私が進めるけど、皆も一応覚えておいてね」

フェイトの言葉にフォワードメンバー四人は返事をする。
が、式たけはスカリエッティの写真を睨みつけながら黙ったままだった。

「式……どうかしたの?」

「いや、別に何でもない。
説明を続けてくれ」

その事を心配したなのはが声を掛けるが、式は軽く受け流した。

フェイトの説明が終わった後、リィンがモニターを操作する。
すると、さっきの写真の代りに大きな建物の映像が映し出された。

「そして今向かっている場所はここ……ホテル・アグスタ」

「骨董美術品オークションの会場警備と人員警護…、それが今日のお仕事だよ。
今回のオークションでは取引許可の降りているロストロギアが幾つかあるの。
その反応をレリックと誤認したガジェットが現れる可能性が高いから私達が呼ばれてってわけ。
皆分かった?」

なのはの言葉に全員が頷いた。



「それじゃあ配置について説明するね。
スターズとライトニングのフォワードメンバーは先にいるシグナム副隊長とヴィータ副隊長の指示を受けた後外の警備。
館内の警備は私とフェイト隊長、はやて部隊長が担当するね」

「おい、オレは一体どうすれば良いんだ?」

自分の名前が呼ばれなかった為、式が不満な顔をしながら聞き返した。

「式は遊撃戦力としてシャマル先生の所で待機。
シャーリーと一緒にデバイスの調整を進めて。
もしかしたらぶっつけ本番になるかもしれないから・・・」

その言葉に式とシャーリーは神妙な面持ちで頷いた。

実はまだ式のデバイスのテストは終わっていないのだ。
なのは達が新型デバイス「ディレクティ」を起動させようとした直後に召集が掛かった為、何も終わっていなかったのだ。
その為、式は「ディレクティ」の作動はおろか、能力の詳細も何も聞かされていない状態だ。
さしもの式もその事に内心、若干の不安を抱いている。
だが、その気持ちをかぶりを振りながら押さえこんだ。

(いや、そんな事は関係ないか……。
私はいつも通りに、自分のやり方でやれば良いだけだ)

そうこうしているうちに、ヘリはホテル・アグスタに到着。
フォワードメンバーはシグナムとヴィータの指示を受け外の警備に。
なのは達隊長陣もドレスに着替え館内の警備に向かう。
式もシャマルやシャーリーと共に屋上へと移動を始めた。




スバルとティアナはお互いに自分の持ち場を警備しながら念話で会話をしていた。

『今日は八神部隊長の守護騎士揃い踏みかぁ。』

『そういやそうね。
スバル、あんたは結構詳しいわよね、副隊長たちのこと。』

『お父さんやギンねぇからちょっと聞いてるだけだから。 
 副隊長達やシャマルさん、ザフィーラは八神部隊長が個人で保有している戦力ってことと、それにリィン曹長が合わさった6人は無敵の戦力って言われてること……くらいかなあ。
 まあ、八神部隊長の出自とか能力は特秘事項だから私も詳しくは知らないんだけど……
 ティア、なんか気になるの?』

『いや、別に……』

『そっか、それじゃまた後でね。』

『うん。』

 そうして念話が切れた後、ティアナはゆっくりと考え始めた。

(やっぱり……六課の戦力は無敵を通り越して異常だ。
 一体八神部隊長はどんな裏技を使ったんだか……)

 静かに、それでいて周囲への注意を怠ることなく六課の分析を始めるティアナ。

(全員がオーバーSクラスの隊長陣に加えて、副隊長達もニアSクラス……
 管制やバックアップのほうも将来のエリートばかり。
 私達フォワードだって、あの年でBランクのエリオに竜召喚っていうレアスキルを持つキャロ。
二人ともフェイト隊長の秘蔵っ子って言われてるし……。 
 スバルだって、今でこそ危なっかしい所が目立つけど潜在能力や可能性は計り知れない)

そしてもう一人……

(両儀式……。
スバルやエリオ以上の身体能力を持ち、明らかに慣れているとしか言い様が無い戦闘での身のこなし。
更にはあらゆる物を破壊するだけでは無く、魔法自体を無力化してしまう化け物級のレアスキル『直死の魔眼』……)

冗談じゃない、と思う。
自分達が何年もかけてようやく辿り着いた場所は、魔法も何も知らない異世界の人間にとってはたいした事も無い物。
これが笑い話でなくてなんなのだろう。
ティアナは自分の中に芽生えつつある暗い感情を押さえ込み、かぶりを振った。

「……やっぱりあの中で凡人は私だけ、か。」

確認するように小さく呟き、ティアナは目を閉じた。
ふう、と息を吐き閉じていた目を開く。
そこには、決意のようなものが宿っていた。

(でも、そんなの関係ない。
私は証明しなくちゃいけないのだから。
例えどんな強い敵でも、きつい任務でも……
―――ランスターの弾丸は全てを貫けるんだって。)

小さく、しかし強く心の中で言い放った、その時であった。

「……通信、本部から? 
え、敵襲!?」





機動六課がそれに気付くのはすぐそのあとだった。

シャマルのデバイス、クラールヴィントが反応する。
すぐさま、シャマルは機動六課本部へと通信を繋ぎ、アルトに連絡をとって、状況の説明を仰いだ。

『来ました、ガジェット・ドローン陸戦一型機影30、35!
陸戦三型2、3、4…。まだ増えます。』

その通信は近くで「ディレクティ」の調整をしていたシャーリーと式にも聞こえていた。

『前線各員へ、状況は広域防衛戦です。
ロングアーチ1の管制指揮と合わせて、私、シャマルが指揮をとります。』

各員へと繋がるシャマルからの通信。
隊員たちは了解の通信を入れ、それぞれの場所に向かう。
ティアナも現場の状況を知るためにシャマルからデータをもらった後直ぐにスバル達の元へと向かって行った。

「シャーリー、式のデバイスの調整は後どれくらいで終わりそう?」

「後、5分程で何とか……」

「分かったわ。
とにかく急いでちょうだい……」

「分かりました」




フォワードメンバー前線。
戦闘が開始されてからある程度の時間が立った時、キャロが召喚魔法の気配を探知した。
その直後からガジェットたちの動きが突然変わりはじめる。

「何よこいつら、急に動きが……!」

ティアナがクロスミラージュで攻撃しながら思わず毒づいた。

エリオやスバルも急に動きが良くなったガジェットに翻弄され苦戦している。

「遠隔召喚…来ます!!」

キャロが全員に警戒を促す。
キャロの言うとおり、姿を現すガジェット一型三十機、三型二機。

「これ、召喚魔法陣!?」

「召喚って、こんなことも出来るの?」

驚くエリオとスバル。

「優れた召喚士は転送魔法のエキスパートでもあるんです。」

キャロの言葉を聞きながらデバイスに弾をこめる。

「何でもいいわ、迎撃!行くわよ!!」

ティアナの声に、みんなが覇気の篭った返事をする。

(今までと同じだ…証明すればいいんだ!!)

クロスミラージュを構えるティアナ。

(自分の勇気と能力を証明して…、私はそれで、いつだってやって来た!)

ティアナの傍らにオレンジ色の魔法陣が展開した。





フォワードメンバーが必死にガジェットを押さえていたが、それにも限界が来始めていた。

『皆もうちょっと頑張って。
今式がそっちに応援に向かったから』

シャマルからの通信を聞いたスバル、エリオ、キャロにやる気が戻り始める。

「守ってばっかじゃ行き詰まります。
ちゃんと全機落とします!!」

『ティアナ無茶よ!』

シャマルが静止の声をかけるがティアナは聞き入れなかった。

「大丈夫です。そのために毎日、訓練してきてんですから!
エリオ、センターに下がって!
私とスバルのツートップで行く!!」

ティアナの指揮でエリオが後退する。

「スバル!!クロスシフトA行くわよ!」

「OK!!ティア!」

ウイングロードを使いガジェットを翻弄するスバル。

(証明するんだ!)

消費される左右二発ずつ、合計四発のカートリッジ。
オレンジ色の環状魔法陣がティアナを中心発生する。
(特別な才能や、凄い魔力がやレアスキルが無くても、一流の隊長たちのいる部隊でだって、どんな危険な戦いだって…)

魔法陣と同色の無数の魔力弾が、ティアナの周囲を囲む。

(私は…ランスターの弾丸は…ちゃんと敵を撃ち抜けるんだって!)



スバルがガジェットたちを引き付けている間、エリオ、キャロは別方向からのガジェットに対処する。
数は三つ。
エリオとキャロの連携により、その三機を撃破した。
クロスミラージュの本体を魔力が電気の這うようなおとをたて、バチバチっと駆け抜ける。

『ティアナ!
四発ロードなんて無茶だよ!
それじゃティアナのクロスミラージュも!』

アルトからの制止がかかるが

「撃てます!!」

『Yes』

ティアナとクロスミラージュが答える。

「クロスファイアー!!」

その声を合図に、スバルは攻撃範囲内からの離脱に入る。

「シュート!!!」

十数発の魔力弾が一斉に発射される。
それがスバルを攻撃しようとしていた大量のガジェットを貫く。
ティアナは尚も叫び声を上げなら魔力弾を連射する。


「スバルさん!!」

突然エリオがスバルに向かって叫ぶ。
その尋常ではない様子に気付いたスバルは振り向いた。
見慣れた色の魔力弾がスバルに向かって飛んでくる。

「ヤバい!」

そう言った時にはもう光は目前にまで迫ってきていた。
直撃にそなえ、スバルは目を閉じ歯を悔い縛った。

が、何時まで立っても衝撃と痛みがこない。

恐る恐る目を開けると目の前には見慣れた赤い革ジャン。
そして手に持つのは銀色に鈍く輝く一本のナイフ。

「おい、大丈夫かスバル?」

そして聞き慣れたぶっきらぼうな声。

「式!」

そこにいたのは蒼き魔眼を持つ両儀式であった。

その姿を見たティアナ、エリオ、キャロも驚きの表情を浮かべる。
ウイングロードから飛び下りながら式はスバルを見上げる。


「その調子なら何とか大丈夫そうだな。
スバルお前は一旦下がってろ、後はオレとこいつでやる」

そう言って取り出したのは白い宝石のディレクティ。
そして何時もの自分の姿を思い浮かべながら呟かれる一つの言葉。

「ディレクティ……バリアジャケットセットアップ……」

『yes master。
barrierjacket set up』

その直後に式を包み込む白銀の色をした魔力。
その眩しさにフォワードメンバーは思わず目をつぶった。
光が収まり恐る恐る目を開けてみる。
そこにいたのはバリアジャケットを装備した式。
白い着物をベースになのはやスバルのバリアジャケットと同じ蒼と金色のラインが入った袖口。
同様に蒼の帯や羽織っている赤い革ジャンにも所々に金色のラインが走っている。
ブーツは茶色を基調としており、金属パーツが付属している。
そして手には柄が真紅、刃は白銀に輝くナイフがあった。

「さあ……次はオレ達が相手になってやるよ……。
いくぞディレクティ」

『yes master』

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最終更新:2009年01月25日 21:05