第八話「ホテル・アグスタβ」

式が間一髪でスバルを誤射から救ったすぐ後、援護に駆け付けたヴィータが到着した。
さっきまでの一部始終を見ていたらしく、顔には明らかと言って良い程の怒りが滲み出てる。

「ティアナ!!この馬鹿!!!
無茶やった上に味方撃ってどうするんだ!!」

地上には唖然と立ち尽くすティアナ。
ウイングロードの上ではスバルがあたふたしている。

「あ、あのヴィータ副隊長……。
今のは自分が障壁を張るのが遅れて……」

「ふざけろ…たこ!!
今のは完全に直撃コースだったろうが!!
もしあそこで式が間に合わなかったら…当たってたらタダじゃすまなかったんだぞ!!」

スバルの言い訳を聞いて更に怒りを募らせる。

「あの…でも…」

尚もティアナを庇おうとするが、今更何を言っても遅い。

「うるせぇ馬鹿ども!!
もう良い…あとはライトニングと式に任せる。
二人纏めてすっこんでろ!!!」

ヴィータの言葉を聞いたティアナは絶望的な表情を浮かべていた。

「スターズ2よりロングアーチへ。
スターズ3、スターズ4を後方に下げさせる。
ガジェットの迎撃はライトニングとウイング1を向かわせたから、私はこのままライトニング2の所へ向かう」

ヴィータがシャマルに通信を入れる。
因みにウイング1とは式のコールサインである。


『分かりました。
それではこちらはライトニングとウイング1のサポートに入るわ』




「了解だ、それじゃあ頼むぜ」

通信を切ったヴィータはシグナムの元へと向うために飛翔を始めた。



式、エリオ、キャロ最前線組

バリアジャケットを装備した式は、エリオ、キャロと共に新たに出現したガジェットの迎撃に向かっていた。
移動している最中、シャーリーから渡された通信機を通してディレクティの説明がされていた。

『式さん時間があまりないので手短に説明しますね。
まだ不完全ですが一応式さんの動きについていけるようにある程度調整しました。
最初は動き難いかもしれませんがディレクティが徐々に合わせてくれるので心配しないでください』

「そんな事はどうでもいいよ。
それより問題なのは魔法の方だ、オレは何も使えないんだぞ」

『そちらの方も大丈夫です。
式さんの戦闘データを分析して、最適な物を選んでおきました。
ディレクティの中にも予め記憶させておいたので発動などの補助も含めてサポートしてくれます。
それでは頑張ってください!』

『マスター、敵です!』

シャーリーとの通信が終わった直撃、ディレクティがガジェットの接近を警告する。
式の目の前にモニターが開き、敵の位置や数が表示された。
1型改が30機に3型が2機だ。

「エリオ、キャロ!」

「こちらでも確認しました。
どうしますか?」

「お前らはいつも通り2人でやれ。
オレが入ったところで連携が崩れるだけだ」

「分かりました。
式さんも気をつけて!」


その言葉と同時に大量のガジェット群を視認。
式はディレクティを逆手に構え、エリオもストラーダを両手で構える。
キャロは二人の後方に下がりフリードに指示を出す。

『エリオ、キャロ連戦でキツいとは思うけどもう少しだけ頑張って。
式もまだデバイスが本調子じゃないから無理しないでね?』

「「はい!」」

「分かったよ……」

シャマルの労いの通信を聞いた後、3人はそれぞれガジェットの破壊に向かった。

式は青い熱線や小形ミサイルを大量に放ってくるガジェット1型改の相手をしていた。
己の身体能力を生かしながら、段幕を軽々と避け、徐々に近付いていく。
一度ガジェットとの戦闘をしている式にとっては造作も無い事だ。
その圧倒的なスピードでガジェットの懐に入り込む。
機体の間を駆け抜けながら、滑らかな動きでディレクティを操り『線』を断ち切る。
その間の時間は僅か5秒。
呆気なく1型改4機が破壊された。

『マスター、幾つか使用をお勧めする魔法があるのですがどうしますか?』

ディレクティが式の目の前に使用可能な魔法の類を表示する。

「そうだな……取り敢えずお前に任せる」

『了解致しました。
発動については私がサポート致しますのでご心配なく』

そうこうしている内に目の前に1型改が10機出てくる。
そいつらは式を発見した途端、また熱線などを放ってくる。
流石に今回は弾幕がかなり濃い為、式も接近するのに苦労している。
一旦近くの木の裏に身を潜める。

「ちっ、流石にあいつらも学習能力はあるか…。
ディレクティ、あれをやるぞ」

『了解です、マスター』


式が右手に持ったディレクティに意識を集中させる。
それに反応するかのように刃が魔力を纏い始め、式の魔力光である白銀に輝き始める。
それを確認すると式は木の裏から飛び出し、4機のガジェットの『線』を視認。
そして右手のディレクティで高速の一閃を横に放つ。

『ルフトメッサー』

ディレクティより放たれた微かに白銀の色を纏う空気の刃は一直線にガジェットに向かい呆気なく機体を真っ二つにした。

ルフトメッサー
ディレクティによる斬撃の際に、周囲の空気を圧縮・加速し、空気の刃を作り出す射撃魔法。
以前にエリオが初めてのガジェット戦で使用した魔法だ。
しかしスピードや威力に関してはエリオの物とは桁違いと言っても良い程だ。

地面に着地すると、すかさず式は緩んだ弾幕の間を駆け抜ける。

『ロードカートリッジ』

ディレクティの柄からカートリッジが一発排出され、式の周りに白銀のベルカ式魔法陣が展開する。

『フォトンランサー』

魔力スフィアを5発生成、槍状に変化された魔力弾が発射される。
しかし魔力の形成が不完全な為か数発はAMFにより無効化された。
だが不意打ちを食らった2機はランサーに貫かれる。
残りの4機は咄嗟に障壁を張ろうとする。
が、式がそれを許す筈もなく、完全に障壁を張る前に胴体を一閃。
続けざまに機体の間を駆け抜けながら、次々とガジェットを破壊していった。

「す、凄い…」

近くで同じようにガジェットを迎撃していたエリオが思わず驚きの声を漏らす。
魔力運用や術式などはまだかなりのムラがあるが式は当然のように魔法を使っている。
幾らデバイスのサポートがあるとはいえ、本来ならばこう軽々と使える筈がない。
そして改めて思い知らされる、式の戦闘能力。
あの大量のガジェットを相手にしながらも傷一つおっていない。
これが式の才能なのか……。
そう思うとエリオは突然背筋が寒くなり、自然とこう思うようになった。

式が自分達の敵でなくて良かった、と……。


「エリオ君、右!」

キャロの警告が飛ぶ。
エリオは即座にストラーダを構え直し、右から接近してきたガジェットを振り向きざまに切り裂いた。

「ありがとうキャロ、助かったよ」

「ううん、気にしないで。
それよりさっきから変だけど、どうかしたの?」

「別に何でもないよ、ちょっと気になった事があっただけだからさ」

「おい、そこの2人!
喋ってる暇があったら、とっととこいつらの相手をしろ!」

式の罵声が2人に飛ぶ。
見てみると3型2機相手に戦闘をしている。
3型とは初めて戦うので流石の式も苦戦しているらしく、上手く懐に飛び込めないでいた。

「す、すいません!
キャロ行くよ!」

「うん、エリオ君。
お願いフリード、ブラストフレア!」

可愛い鳴き声と共にフリードが小さな火炎弾を放つ。
一見頼りないように見えるが中身はものすごい熱量と破壊力を秘めている。
それが横から式を攻撃しようとしていたガジェットに直撃し、体勢を崩す。
その隙に式は目の前のガジェットのベルトや触手を破壊。

「我が乞うは、清銀の剣。
若き槍騎士の刃に、祝福の光を。
猛きその身に、力を与える祈りの光を。
ツインブーストスラッシュ&ストライク!」

「ストラーダ!」

『ロードカートリッジ。
メッサーアングリフ!』




カートリッジが2発消費される。
それによりストラーダの穂先から大量の魔力が噴射され、ツインブーストの効果で刃には電気を付加した魔力刃が発生する。
エリオは両手でそれを構え、一気に加速を始める。
ガジェットがAMFを展開するが、ツインブーストの効果で無力化。
そのまま突撃し、一気に胴体を貫き、縦に振り上げ真っ二つに切り裂いた。

「へぇ~、あのオチビ共もなかなかやるじゃん」

式がエリオ達を見ながら感嘆の声を漏らす。

『マスター、フォルムチェンジの使用を提案しますがどうしますか?』

ディレクティの能力データが表示される。

「いや、まだ良い。
あんな奴にそれを使う必要はないさ」

『了解です、マスター』

ディレクティを逆手に構え、再び地面を疾走する。
ベルトや触手を破壊されたガジェットが、最後の抵抗とばかりに魔力弾を一斉掃射してくる。
だが、その程度の物は式にとっては攻撃とは言えない。
最小限の動きだけで、次々と魔力弾を回避しながら徐々に接近していく。
その姿はもはや風。

『ロードカートリッジ』

カートリッジを一発消費。
魔力によって空気が高密度に圧縮される。
それが微かに白銀の色を纏った風の刃として形成され始めた。
それが刀身に付加され日本刀程の長さにまで伸びた。
それを確認すると、式は帯から投躑用の小刀を取り出し左手に構える。
目の前にまで接近したガジェットのAMFの『線』を小刀で一閃し殺す。

『風牙一閃』

そのまま地面を疾走し、風の刃とかしたディレクティでガジェットの胴体を真っ二つに切り裂いた。






警備指定範囲裏手。

その建物の影に隠れるようにして立つスバルとティアナ。
ティアナはスバルに背を向け、建物の陰を正面にして立っている。

「ティア…向こう終わったみたいだよ?」

話かけずらい雰囲気の中、スバルは思いきってティアナに声をかける。

「私はここを警備してる…。
あんたは…あっちいきなさいよ…。」

ぽつりとティアナ。

「ティアは…全然悪くないよ…。
私がもっと…ちゃんと……。」

「いけっつってんでしょ!!!」

怒声をあげるティアナに圧倒され、スバルは渋々とヴィータたちのもとヘと戻っていった。
スバルが去った後、ティアナは壁に拳を打ち付けながら、静かに嗚咽を漏らしていた。



ホテル・アグスタ正面玄関前

一度5人に集合かけたなのはは今後の流れについての説明をしていた。
周りでは合流した陸士部隊が現場検証を始めている。

「報告は以上かな。
皆は一応このまま待機。
何もなければ直ぐに撤収だから、もうちょっとだけ頑張ってね。
式はこの後直ぐにシャーリーの所に行ってデバイスの点検をしてもらってね」

何時ものように式以外の四人が返事をする。
だが、ティアナだけは小さな声で返事をしていた。

「それと…ティアナは少しだけ私とお散歩しようか」

「はい……」





返事の後、なのはとティアナ茂みの方へ歩いて行った。
その後ろ姿を式は何か気になっている様子で見据えている。

「式、どうかした?」

その姿を見てスバルが心配そうな顔で声をかけてくる。

「いや、別に何でもない。
たいした事じゃないよ……」

その言葉を言った後、式はシャーリーの元へ向かうべく屋上に向かった。




機動六課隊舎前

任務を終えて現場を撤収したメンバー一同はそこで、なのはからの指示を待つ。
なのはが訓練をすると言うのなら、これから訓練だからだ。
まあ、式に至っては訓練をやれと言われてもサボる気バリバリだが。

「今日は、午後の訓練おやすみね。」

「明日に備えて、ご飯食べて、お風呂はいって…ゆっくりしてね。」

となのはの隣に立っているフェイトが言う。

それに式以外の四人は敬礼で答え解散となった。
日も半分沈みかけ、辺りが夕日に染まる中を、局員隊舎へと向かって歩いていく5人。
ティアナが不意に立ち止まりる。

「スバル…、私、これからちょっと一人で練習してくるから…」

と言い出した。

「自主練?私も付き合うよ?」

元気一杯答えるスバル。それに続き、エリオ、キャロ、付き合うと言う。
だが、ティアナはそれを丁寧に断り、一人訓練場へと向かって行った。





後日談

ティアナと隊舎前で別れた後、四人は疲れを癒す為に風呂に入っていた。
今日は珍しく式も一緒に湯船に浸かっている。
勿論エリオは男湯だ。

「そう言えばさ式。
一つ質問があるんだけど良いかな?」

「何だよ、藪から棒に…」

スバルが珍しく質問をしたので式は多少ながら驚いていた。

「今日さ初めてバリアジャケットを装備したでしょ。
あれのデザイン、私達みたいになのはさんやフェイトさんのベースにしてるのと違って、何時もの着物をベースにしてるじゃん。
あれ、どうして?」

「あ、それ私も気になってたんですよ。
どうしてですか?」

「別にたいした理由はないんだけど……。
それでも聞きたいのか?」

2人が同時に首を縦に振る。
だが2人はこの後理由を聞かなければ良かったと後悔する事になる。

「なのはみたいなコスプレマニアとしか思えないような、バリアジャケットを着るのが嫌だっただけだ」

それを聞いた2人は思わず唖然とした。
正に爆弾発言。
式は今まで機動六課の職員の大半が思っていた事をあっさりと言ってしまった。

「確かあいつは今年で19になるんだろ?
そんな歳の奴が、小さい子供が見るような魔法少女の格好のバリアジャケットを着るんだぜ?
オレはそんな事死んだってやりたくないね」

式の容赦無い本音が次々と炸裂する。

尚本人達は知らないが、実は脱衣所にてこの話しをなのはが聞いていたのだ。
風呂場に入ろうとした時にちょうど式の本音が炸裂していたのだ。

「あはは……私ってコスプレマニアなのかな……」

尚この時なのはが密かに心に傷を負い、虎視眈々と式にSLBをぶっ放そうとしたのはまた別の話しである。

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最終更新:2009年01月27日 23:58