休憩所

そこにはなのは、フェイト、はやての隊長陣とシグナム、ヴィータの副隊長陣。
更にシャーリーが深刻そうな顔をしながら話しをしていた。
内容は勿論、ティアナの誤射についてだ。

「気になってたんだよ、ティアナのこと。
強くなりたいなんてのは、若い魔導師なら皆そうだし、無茶も多少はするもんだけど・・・・。
時々、ちょっと度を越えている・・・」

ヴィータが常日頃から思っていた事を口にした。

なのはもティアナの事については前々から気になってたのだ。
ヴィータの言った事もそうだが、ティアナは些細な失敗でも極度に自分を責める癖がある。
別にその行為事態は問題ない。
失敗を悔やむ事は大切な事だし、次には成功させようという意気込みにも繋がる。
だがそれもやり過ぎとなれば話しは別になってくる。
極度に自分を責める事は自信の喪失に繋がる。
それはこれから戦っていくには致命的だと言って良い。

「だけどさ、オレが今まで見た限りあいつも馬鹿じゃない。
むしろ頭に関しては、あの四人の中じゃかなり上だと思うぜ。
そんな奴が、理由も無しそんな事をやるとはオレには思えないけどね」

突然の横槍にビックリするなのは達。
声のした方向を見てみるとジャージ姿に首にバスタオルをかけた式が立っていた。
ドリンクでも買いに来たのか手にはカードが握られている。

「あ、お疲れ様式。
お風呂上がりなの?」

フェイトが首に架けられているバスタオルを見てそう聞いた。

「ああ、さっきスバル達と入って来た」

そう言って式が隣りに座ると、なのは微かに体を強張らせた。
その姿を見たシグナムが微かに眉を潜める。
まあ……理由については読者の皆様はご承知だと思うが……。

「それで話しの続きだけど……どうなんだ?」

「ああ、それについては両儀、お前の言う通りだ」

そう言ってシグナムが一人の男の画像を映しながら説明を始めた。

ティアナに兄でかつて兄がいたこと。
両親が死んでからずっと育ててくれたこと。
執務官志望の兄が、任務中に亡くなったこと。
その任務で犯人に手傷を追わせたが、取り逃がしてしまっていたこと。
犯人はその日のうちに、地上部隊が捕まえたが、その件につき、心ない上司が酷いコメントをしたこと。
それが問題となったこと。
唯一の肉親が命がけで行った仕事が『無意味で役に立たない』事ではないことを証明するために、必死に頑張っていること。

「なるほどね……だからあいつ今日の任務や訓練の時にあんな無茶をしていたってわけか……」

式は任務や訓練時に見たティアナの必死な顔を思い出しながら呟いていた。

「エリオ君から聞いたんですけど…。
ティアナ、今一人で自主トレーニングをやってるみたいなんです」

「あいつ・・・休めって言ったのに・・・。
無茶しやがって・・・」

シャーリーの報告に顔を顰めながら答えるヴィータ。

「だから式にも一緒にどうしたら良いか考えて欲しいんだけど……」

「嫌だね」

フェイトの申し出を式はキッパリと断った。

「今のオレには他人の問題に構ってる暇はない。
それにその問題はティアナ自身がどうにかしなきゃいけない事だ。
オレ達が外からあーだこーだ言っても直るとは思えない」

そう言った後式は立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとする。
なのは達は式の言った言葉が的を射ている為に何も言えなかった。

「まぁ、一応どうすれば良いかは考えとくよ……」

その一言の後、式は自分の部屋に戻って行った。




翌日早朝

ピピピピピ………。

早朝からなり響く電子音。そしてカーテンから少し漏れる朝を知らせる光。

「ティア?」

鳴り響く音で目を覚ましたスバルは、ティアナを起こそうと2段ベットを降りる。
昨日、正確には今日だが、真夜中を過ぎてフラフラになりながら部屋に戻ってきたティアナが

「私、明日から四時おきだから…目覚まし…うるさかったらごめんね」
といって寝てしまった。

まぁそれ自体は大して問題はない。
あるとすれば起きると言っていた本人が未だにグッスリと寝こけている事だ。

「ティア、起きてよ、朝だよ?
朝練するんでしょ?
ティ~ア?」

「ん…ん~…。
ありがと…スバル、起きた…。」

布団の魔力からやっと抜け出しティアナがのっそりと起き出しベットから降りる。
昨日の疲れがまだ残っているのか、少し頼りない足取りだ。
そのまま机の上に置いてある訓練着を手に取り着替え始める。
するとその横でスバルも着替え始める。

「何であんたまで着替えるのよスバル…?」

「私はティアの相棒でしょ?
だから私も一緒に朝練やるよ。
そっちの方が一人でやるよりは効率良いでしょ?」

そう言いながらにこやかに笑うスバル。

「そぅ…勝手にしなさいよ…」

そう言いながらさっさと訓練着に着替え終わる。

「そうだ!
ねぇ、どうせやるんだったらさ、式も誘おうよ?」

「はぁ?
何でそこであいつが出てくるのよ」

明らかに不満と言った顔を浮かべるティアナ。

「だって同じフォワードメンバーの仲間だけど、連携とかやったことなかったじゃん。
それに式って近接戦はあたし達の中じゃ一番強いから、何か参考とかになるかもよ?」

「まぁ、確かにそうよね……」

スバルの言い分も一理ある為にティアナは誘う事を渋々納得した。

が、当の式は「朝は眠いしダルいから」と言う理由であっさりと断った。
それを聞いたティアナが半ギレしたのをスバルがなんとか押さえこんだのは言うまでも無い。





模擬演習場

『フォトンランサー』

式の周りに展開していた六個の魔力スフィアから槍状の魔力弾が射出される。
それは約十メートル離れた六個のターゲットポイントの中心を見事に貫いた。

「うん、なかなかいい感じだね。
まだ魔力の圧縮に少しムラが残ってるけど射撃精度はさっきより格段に上達してるよ」

「いや、あいつらに比べたらまだまだだな……」

なのはが式の放ったフォトンランサーの評価を述べながら近いてくる。
当の式は微かに汗を浮かべてはいるが、疲れているという感じはしていない。

ホテル・アグスタでの任務から翌日。
この日から式もスバル達フォワードメンバーと共に本格的に訓練に参加する事になった。
訓練の内容はフォワードメンバーと違い、元々個人技能に関しては特化しているので、魔法自体への慣れと熟練度を上げるのが目的だ。
その為、式は訓練着では無くバリアジャケットを装備しながら訓練をしている。
が、それも本来の戦闘用のジャケットではなく、訓練用に魔力消費量を二倍に調整した物を着用しているのだ。
この状態で二時間ぶっ続けでやっているが、式は疲れを感じさせていなかった。
それに先程から訓練しているフォトンランサーやルフトメッサー、初めて使用したプロテクション。
これに関しての上達度も異常と言って良い程のものだ。
これには流石のなのはも多少驚いている。
ついでにフォワードメンバーの方はヴィータにコッテリと指導されていた為相変わらずグロッキー状態だ。
全員「何でなのはさんの訓練受けてるのに平然としてるの?」と言った顔だ。


「それじゃあ今朝の訓練はここまで。
今日は私もヴィータ副隊長も会議で居なくなるから午後の訓練はお休み」

「自由待機だからってあまり気緩みすぎるなよ~。
それじゃあ解散だ」

「「「「ありがとうございました!」」」」

四人の覇気のある返事が響く。

その後の行動はいつもと変わりなかった。
スバル、ティアナ、エリオ、キャロの四人はシャワーを浴び、制服に着替えた後デスクワークへ。
式の方は汗を流した後、慣れない早起きをした為か眠気が襲って来てベットへ直行。

午後は自由待機と言う事もありスバル、ティアナは今朝の自手練の続き。
エリオやキャロはアルトとのんびりお茶。
式はデバイスの調整と能力説明を受ける為にシャーリーの元へ足を運んでいた。



数日後

模擬演習場

「さーて、じゃあ午前中のまとめ、ツーオンワンで模擬戦やるよ。
先ずはスターズからやろうか、バリアジャケット、準備して」

「「はい!!」」

気合を入れて返事をするスバルとティアナ
三人が戦闘準備をしている間、ヴィータとシグナム、エリオ、キャロ、式はビルの屋上へと向かった。

今日はフォワードメンバーと隊長陣による模擬戦の日だ。
最初はスターズ組となのはによる模擬戦、次にライトニング組とフェイト。
式は遊撃戦力としての位置付けからシグナムと一対一で模擬戦をする予定になっている。

屋上からスバル達の戦闘を見ているとフェイトが息を切らせながら走ってきた。

「あぁ、もう模擬戦始まっちゃってる…。」

その声に気付き、一同はフェイトへと向き直る。

「遅かったなテスタロッサ。
今はスターズ、次にライトニングの番だ」

「すいませんちょっと調べ物があったので……。
本当は私がスターズの模擬戦の相手もしようと思ってたんだけど…。
このところ、なのは全然休んでないし…。」

「なのはも訓練密度が濃いからな…。
ここのところ式のデバイスにも掛りきりだし、いい加減にそろそろ休ませないとぶっ倒れるぜ」

そう言いながら再びヴィータは空を見上げる。

「なのはさん…、いっつも僕たちのことをみててくれるんですよね…」

エリオが言ったその言葉に頷くキャロ。

「部屋に戻ってからも、ビデオを見て皆の訓練メニューを考えたりしてくれたりしてるんだよね」

フェイトが微笑みながら言う。

「おっ、クロスシフトだな」

魔力反応を感知したヴィータは、下で魔法陣を展開するティアナを見て、呟いた。

「クロスファイヤー!シュート!!」

ティアナの周りに展開していたスフィアから多数の魔力弾が放たれる。
しかしなのはをそれを簡単に見切り、あっさりと回避する。

「なんか・・・キレがねぇな」

「うん、コントロールは良いみたいだけど」

「気のせいか何処か集中できていない感じがするな……」

ティアナの攻撃に違和感を感じたヴィータ、フェイト、シグナムが呟く。

(あいつ…やっぱり今までの疲れが残ってるのか……?)

スバルとティアナが朝早くから練習していたのを知っていた式は内心で呟いた。

ティアナの攻撃を避けたなのはは前方を確認。
するとウイングロードを展開し、リボルバーナックルを構えながら真っ直ぐ突っ込んでくるスバルがいた。
なのははアクセルシューターを複数展開、次に来るであろう攻撃に備える。


「フェイクじゃない・・・本物!?」

なのはに向って真っ直ぐに突っ込んでくるスバルに、なのはは展開していたアクセルシューターを放つ。
桜色の魔力弾が滑らかな軌道を描きながらスバルに向かっていく。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

掛け声と共に右手にプロテクションを張り、アクセルシューターを強引に防ぐ。

「くっ・・・うぉりぁあああ!!」

気合と共になのはに渾身の一撃を放った。

「あのバカ、無理矢理突っ込みやがって……。
今のは無謀だぞ……」

今のスバルの攻撃を見て苦々しく呟く式。

「え、今の防いだように見えましたけど?」

その言葉を聞いたエリオが尋ねてくる。

「いや、右足と左手に一発ずつ掠めてる。
それに今のは防いだと言うよりは『ギリギリで持ち堪えた』って言った感じだし、あそこで無理矢理突っ込むよりは防御か回避のどっちかに専念した方が後の行動にも無理が無くなる」

「ほぅ、あれだけの短時間の行動をそこまで分析できるとは……。
なかなかの観察眼だな両儀」

今の分析に思わず感嘆の声を漏らすシグナム。

「別にたいした事じゃない。
それになのはも同じ事考えてるらしいぜ?」

式に釣られて再び全員が空を見上げると、なのはがスバルに何かしらの注意をしているのが分かる。
一通りの注意をした後、なのは姿が見当たらないティアナを探す。
すると、ビルの上でクロスミラージュを向けながら砲撃のチャージをしているティアナが見えた。

「ティアナが……砲撃…?」

その行動を不思議に思ったフェイトが呟く。
今までの訓練でティアナは砲撃系の魔法を使った事がなかった為、全員も同じ心境だった。

式を除いて。

「いや、違う。
あれは幻影だ」

魔眼で幻影を見破った式が言い放つ。
その言葉に微かに驚くヴィータ、フェイト、シグナム。

「てぇりゃあああああ!!!!」

カートリッジをロードし、リボルバーナックルに魔力を纏わせ、気合と共になのはに突っ込んでいくスバル。
なのははアクセルシューターを放つがスバルはそれらを強引にスピードを上げながら無理矢理避けきる。
なのはに向かって強烈な一撃を放つが展開していたラウンドシールドにはじき返される。
次にくるであろうティアナの攻撃を警戒し、ビルの屋上を見るがその姿はない。

「え!?
それじゃあ本物のティアナさんは……?」

ティアナの姿を探そうとキョロキョロするエリオ。

(私の予想が正しければ次にティアナがとる行動は……)

式がスバルの展開しているウイングロードの方をチラリと一瞥する。
そこにはカートリッジをロードし魔力刃を展開しながら駆け上がっていくティアナがいた。

(バリアを切り裂いてフィールドをつき抜く!)

なのはの頭上から魔力刃を向けながらティアナが突っ込んでくる。
スバルの方もリボルバーナックルを振りかぶりながらなのはに渾身の一撃を放とうとしている。

「一撃必殺!!!
てぇぇぇぇぇ!!!」

「はぁぁぁぁぁぁ!!!」

その攻撃は確実になのはを捕らえようとしていた。
そしてなのはが今まで感じていた違和感は確実な物となった。

「レイジングハート…モードリリース…。」

『all right』

デバイスを待機形態に戻したなのは。
目を見開くスバル。
直後、爆煙が三人を包み込んだ。
息を飲む見学者一同。
当たったのか、当たらなかったのか、気になるのはそこだ。
しかし、煙が晴れてみると、スバルのリボルバーナックル右手で、ティアナの一撃必殺の刃を左手で止める、なのはの姿があった。

「おかしいな…二人とも……どうしちゃったのかな…」

「あっ…」

「えっ…」

間抜けな声をあげるスバルとティアナ。

「がんばってるのは分かるけど…模擬戦は…喧嘩じゃないんだよ?」

いつもよりもトーンが低い声。

「練習の時だけ言うこと聞いてる振りで…本番でこんな危険な無茶するなら……練習の意味、ないじゃない…。
ちゃんとさ…練習通りやろうよ…。」

いつもの雰囲気ではないなのはの声と、無表情な顔にスバルとティアナは脅え始めた。

「ねぇ?
私の訓練…そんなに間違ってる?」

刃を受け止めている手から血を滴らせながら、なのは二人に問掛ける。
沈黙と緊張がはりつめ、それが堪らなくなったのか、ティアナは魔力刃を消し、後方のウイングロードに着地する。

「私は!!…」

カートリッジを消費。流れる涙を拭いもせず、ティアナは再びなのはに銃口を向ける。

「もう誰も…誰も傷付けたくないから…!!
亡くしたくないから!!」

「ティア……」

涙を流しながら自分の思いを言い放つティアナにスバルは何も言う事ができなかった。

「だから……強くなりたいんですっ!!!」

フェイト、シグナム、ヴィータ、エリオ、キャロはその言葉を悲痛な面持ちで見ている。
そして、その思いを聞いたなのは冷めた表情でティアナ見ていた。

「少し……頭、冷やそうか?」

小さいが良く通る声で言い放ってから、ゆっくりとした、しかし確実な動作で片手をティアナへと向ける。

「クロスファイア……」

「ああああぁあぁあああ!!
ファントムブレイ!!」

「シュート」

なのはの指先から桜色の魔力弾が幾つも放たれる。
その全てがまるで断罪のように、ティアナの体へと吸い込まれ炸裂した。

「ティアっ……!?
バインド!?」

咄嗟に体を動かそうとしたスバルを桜色のバインドが縛り上げる。

「じっとしてて……そこでよく見てなさい」

なのはが感情を一切排除したような音でスバルに告げ、もう一度指先に魔力を集中させる。

その示す先には、すでに戦意とかそういったもの全てを失い、ただ呆然と立っているティアナが居た。

「なのはさんっっ!!!」

スバルがやめてくれという思いで叫ぶが、無情にも魔力弾は放たれる。
それはティアナに全弾直撃し、大きな爆煙が上がる。

「ティアァァ!!!」

バインドに縛られた体を無理矢理動かしティアナの元へと向かうスバル。
なのはがティアナの落下速度を減速させ、ウィングロードに寝かせた。
スバルが駆け寄り名前を呼ぶが返事はない。

「今日の模擬戦はここまで……。
二人は撃墜されて終了だよ……」

静かに、しかし反論を言うのは許さないという感じで告げるなのは。
その姿を、スバルは涙を流し睨むような目付きで見ていた。

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最終更新:2009年02月21日 12:16