美しい金の髪をなびかせて――
白い羽を羽ばたかせて――
雀は森を抜け、空に舞い上がった――
逆おわん型の上昇軌道で綺麗な離陸を飾るその姿を
片時も見失う事なく、、鼠を追いかける猫の如き凄まじさを以って
爛々と光る目をマスクの下に隠した紫の女怪がそれを追走する
やるべき事は既に決まっているのだが、、
少し惜しい気もしている彼女である
恐らく、アレを放てば――彼女の亡骸は骨も残らないだろうから…
あの白い体に爪を立てて直に引き裂いてやりたかった
その口から断末魔の絶叫をあげさせたかった
泣き叫び恐怖する彼女の首筋をゆっくりと切開して
その滴る生命の奔流を浴びながらに、いつものように口を潤す――
それが出来ないのは口惜しい……本当に口惜しい
そんな残忍な悪鬼の思考に身を預ける美しきサーヴァント
これは仮定であり――今の状況下では何の意味もない事だろう
だがそれでも、彼女は…
あるいは主思いの心優しい一面を持っていたり
あるいは苦手な姉に突付き回されて泣きべそをかいていたり
あるいは小さくて可愛い物が大好きで、自分の大きな体ににコンプレックスを感じていたり
そんな憎めない、必ずしも人間と敵対する事もない一面を持ち合わせていたのだ
だがそんな側面は今の騎兵には一切無い
その内にある心が今、とある黒い感情に塗りつぶされている
彼女の反転した思考は――もはや件の神話の怪物と相違ない
今のライダーは主の命に従い生贄を狩り尽くす怪物だ
その高速で飛び荒ぶ影が既に――あの伝説の大蛇の化生へと変貌を遂げようとしている
「―――――、」
全力を超えた全力疾走
森の中を疾風の如く駆け抜けてきたその息は微塵も上がっておらず
マスクに覆われた眼は白いマントに釘付けだ
捕食者は獲物を狩る時、その対象以外のものは見えない
今、彼女の目には金色の髪がかかっているあの背中しか見えていない
――森を抜けた
――上昇する背中
可愛くて、でも憎たらしいまでに抵抗を続けた
あの雀が今………宙に舞い上がる
助かった、と思っているのでしょう?
九死に一生を得た安堵感で胸が一杯なのでしょう?
その顔が、、、
――― 次の瞬間、絶望と驚愕に染まり ―――
一瞬で――この現代より消えてなくなる、、
その至福の瞬間をこの目に収められるだけでも
サーヴァントでもない相手に「アレ」 を使ってしまう事の慰めとするには十分だった
そしてついに、フェイトに一足遅れて紫の閃光、サーヴァント=ライダーが
弾丸のような勢いを放ちながら森から飛び出してきた
「―――終わりです」
一言、、
それは別離の言葉
そして一体、何のための動作なのか?
己が武器であり、相手を貫く筈の手に持った短剣を彼女は自らの首に当て
その切っ先を自身に突き刺そうとしていた
自虐というには余りあるその行為に加え、彼女はその場に
まるで陸上選手のクラウチングスタートのように前傾姿勢で――
地面をザザザ、と滑空しながらに四つんばいになる
彼女独特の戦闘姿勢のそれよりも更に地に伏せ、、
これより襲い来る凄まじい衝撃に耐えようと口を引き結ぶ
愛しき生贄の一切合財を滅す、それは儀式
騎兵たる彼女の真の足を顕現させるために、今――
「、―――!?」
その瞬間――――
彼女の視界が森から抜けて開けた瞬間
頭上から降り注ぐ光がその両目を焼く
光は場全体に黄金の雷が降り注いだ事によって生じた物
自身に散々降り掛かりこの身を貫いた
あの魔術師によるものだと彼女にはすぐに分かった
「目晦ましのつもりですか――無駄な事を……」
嘲笑う騎兵
最期の抵抗にしてはそれはあまりに矮小で哀れだ
樹海の闇に慣れたこちらの目を潰すために放った苦肉の策であろうが、、
並の閃光弾を遥かに凌駕する威力で対象の眼球を焼いたであろう光は
しかし彼女の「目」に対し、些かの効果も得られない
そのような子供騙しなど無意味とばかりに案の定、この女怪が標的を見失う事はなかった
元々がマスクに覆われた両眼は、あまりの性能ゆえ特殊な場面でしか使わない
平時はこの騎兵はヘビのように感覚で敵を補足し捕らえているのだ
そして、、
その自身の感覚にくっきりと焼きついた金髪の魔術師に向かい
騎兵は己が全力の疾走を敢行すべく――
「―――ベルレ、、」
その真名を紡ぎ出す
猛り狂う魔力
凝縮していく「力」
そしてその杭を自身の首筋に深々と―――
深々と、、、、―――
………………
………………
彼女がその後、何をしようとしたのか
その行為に何の意図があったのか
分からないし、分かりようも無い
その先の光景は、、、
――― 誰にもワカラなかった ―――
「終わりだ」
それは槍のサーヴァントでもあの雀の声でもなかった
騎兵が今まさに空を駆け抜けようとした刹那
彼女の耳に聞き覚えのない第三者の声が響いた、、
そのすぐ後、求め焦がれた獲物の悲鳴――
搾り取られたかのような断末魔の叫びを聞く筈の――己の耳が、、
ゴシャリ、、と――
自らの肋骨が粉々に粉砕された音を聞いていたのだから、、、、、
――――――
――将にとっては気の遠くなるような10秒だった
――魔道士にとっては生きた心地のしない奔走であっただろう
だが、、それを無事に乗り越えた事によって得た「流れ」
此処に来てパズルのピースがガチリと嵌ったかのように
天秤は―――ライトニングの両名に傾く
混戦を避けるため、敢えて一対一に応じてきた四者であったが
ここで再び、期せずしてクロスレンジに集う騎士と魔道士とサーヴァント達
個別に展開していた戦場が今、完全に交わり
四人、八つの視線が近距離にて交錯する
その瞬間、フィールド全体に轟くはSランク魔道士の全開の、稲妻の如き弾幕だった
天変地異のように降り注ぐ黄金の雨と
ワイドで放たれた広域の砲撃が戦場を焼き尽くす
(全く無茶をする、、親友に似てきたぞ……お前は)
それはこの場にいる全ての者に等しく降り注いでいる
当然、、敵であるランサー、今この場に集ったライダーにも
そして味方である筈のシグナムにもだ
だが事前にそれを聞いていたシグナムは
全開の甲冑で自身の体を覆い、その雷撃から身を守る事が出来た
元々が低出力の雷槍と広域に広げた砲撃だ
予め来ると分かっていれば、この騎士ならば十分に耐え切れる攻撃であった
全身に響く稲妻の衝撃に歯を食い縛りながら、、今、烈火の将が動く
ここが、戦局を傾ける分岐点――
事態が相手側に有利な状況で膠着している以上
戦況を自分側に手繰り寄せるきっかけが欲しかったのは他ならぬライトニングの二人だった
ならばここで引っくり返さない手はない
この予期せぬ事態で先に動けたのは言うまでもなく――
デバイスの情報、念話による意思疎通によって状況を予見し
即席ながら対応策を練ったライトニングであった事は言うまでもない
機先を制した騎士と魔道士のコンビに対し
仕掛けた網に飛び込むが如く
まず、その餌食になったのは騎兵のサーヴァント=ライダー
標的を追いかけ、己が疾走を解き放とうと
宙を見上げ、視界が捉えた―――金色の肢体
それに手が届く
それを焼き尽くそうとした寸前
槍兵に背を向けて森側に向きなおり
ライダーの正面にて地を這うほどに十分に腰を落として待ち構えていたのは、、
剛剣を携えた騎士であった
血染めの甲冑を引き摺るように突然目の前に現れた騎士
雄々しい雄叫びのように翻る炎の魔力
決して軽症でない体を振り絞り
体内に残った力を一気に集約し
解放して炎の魔剣に叩き込み、
今、自分の目の前に飛び込んできた間抜けな敵に対しその業火を――
フルスイングしたのだ!
ゴシャリッッッ!!!という何かが粉砕される音を響かせて
その溶鉱炉の如き熱気を放つ剣が敵の女の胴にぶちこまれていた
――――――
「―――ぁ、、、、」
何かがひしゃげる鈍い音を、確かにその耳に聞いた
何も見えなかった
獲物の姿以外の何も、、、
その獲物が逆にこちらに罠を張った事も――
自身の胴を薙ぎ払われた事も――
「は、、ふッッッッ、!?――――」
理解の及ばぬままに嗚咽に咽ぶ自身の体
全て気づいたのは――己の口が無様な悲鳴を上げた後の事だった
待ち構えていた騎士の渾身の一撃が
空へ釘付けになっていた視線の外
全く想定外の下方から、、伸び上がるような軌道でライダーの胴に打ち込まれる
短剣は首に当てた状態であったが
しかし彼女もまた槍兵と同じくサーヴァント
稲光を切り裂いて唸る白銀に、辛うじて反応する超絶的な反射神経
それが短剣の柄から伸びる鎖を胴の前に張り巡らせて
奇襲に対し、何とか防御の姿勢をとったのだが、、
完全に不意をつかれた状態の上
柔軟だが剛健さに欠ける鎖では、、
相手の攻撃を絡め取る事はできても弾き返すにはまるで足らない
ましてや騎士の渾身の一撃を受けられる筈もなく……
辛うじて、両断され上半身と下半身に分け放たれるのは防げたがそれだけ――
鎖の防御を抜けて打ち込まれる衝撃はミシミシッとその肉体に食い込み
炎纏う刃が金属越しでも十分な殺傷能力を持って彼女の白い肌を焼く
「かッ、――はぁっっ!?」
とても耐え切れるダメージではなかった
明らかな嗚咽を漏らすライダー
剣を打ち込まれた部位を視点にカクンと力なく
くの字に曲がる騎兵の肢体――
「おおおおぉぉぉぉぉおおっっっ!!!」
対し、自身の膂力に相手の全体重を加えたその全ての衝撃を
敵の肉体に打ち込んだ感触を存分に感じ取った騎士
シグナムがそのまま猛る戦意を気合に乗せて吼える
まさにド真ん中に放られ、真芯に捉えられた打球の如し
烈火の将の軸足がぎその場でぎゅるり、!と地面を抉る
顎を上げてごほ、っと喘ぐライダーの両足が更に地面から勢いよく浮き上がり
レヴァンティンが噴き出す炎熱の魔力を被って火だるまになり、、
ゴキャンンン、、!という鈍い音と共に
飛び出してきた方向にそのまま打ち返されてしまう
地面と垂直に吹き飛ばされるライダー
その体が後方の木に叩きつけられ
その木が無残に折れて――それでも勢いは止まらない
二本、三本と次々と大木に激突し
それを将棋倒しに薙ぎ倒しながら
ライダーは再び森の中に叩き込まれてしまっていた
「テスタロッサ・ホームラン……奴の直伝だ」
弾丸ライナーでバックスクリーン――
否、森林の奥にまで打ち込まれた敵を見据えて将が呟く
(へ、変な名前付けないで下さい!)
すかさず抗議の声をあげるフェイト
(フフ、、恥かしがる事は無いぞ)
肩先から足の指まで痺れの残る紛う事なきハードヒットの手応え
未だ残るダメージ、、全身の痛みはもはや誤魔化しようも無いが
それでもクリティカルヒットの感触は戦いで負った苦痛を一時、忘れさせてくれる
故につい、茶目っ気を出してしまう将であった
槍兵にさんざん透かされてきた剣が久しぶりに味わった感触は
間違いなく相手の女の防御の内側、、、
その肉や骨、内臓を砕いたものだ
相手が何であれ、これほどの一撃…無事には済むはずがない
そして、、
「行くぞ、レヴァンティン…」
すかさず森の中に追撃を敢行するシグナム
その目に危険な光を称え、彼女の外袴が敵に止めを刺そうと翻る
それは騎士の咄嗟の判断が起こさせた追撃――
はっきり言って今の自分達の状態でこの二人をまともに確保するのは難しい…
否、実質不可能だ
自分達と同等以上の相手を、この何の準備も整えていない状況でどうやって檻に繋ごうというのか?
逆に反逆を受けて、たちどころに殺されてしまうだろう相手に対してである
故に今は捕獲できたとしても一人が限界
どちらかに再起不能――いや、、
二度と立ち上がれないようになって貰う事も視野に入れなければならなかった
あの優しい金髪の魔道士の手は出来れば汚したくは無い…
元々、この身は汚れ役に徹するに何の不都合も無い
これは――自分の仕事だ、、
そんな冷酷な思考の元――
騎士はその相手、、吹き飛ばされ悶絶する女の元へと駆ける
手に持つ魔剣が危険な炎を纏い
その残滓をアスファルトに撒き散らしながら――
烈火の将が、敵の消えたその森へと足を踏み込むのだった
――――――
フェイトの飛翔を真正面から見た槍兵
それは雄々しく立つ豪炎の騎士の頭上から、まるで迅雷が放たれたように移ったであろう
炎を巻き上げながらに鉄壁の構えを見せていたシグナムを隠れ蓑にして上昇した魔道士
その彼女が今、、
「、、、、ソニックムーブ!!!」
己が伝家の宝刀
神速移動魔法の詠唱を終え――ここに解き放つ
地上に稲妻を存分にばら撒いた雷神
これであの強力な二人を倒せるとは夢にも思わない
だが、その閃光によってフィールドは黄金の発光に包まれる
知らぬ者にとってはそれは謂わば
光の奔流に突然にして放り込まれる事と同義――
その目晦ましの効果は凄まじく、、
加えてサーヴァントと競れる速度を持つ彼女が
その機動力に更なるブーストをかけたのだ
不可視に不可視が重なり――
今や彼女の動きは英霊の視認すら超え
サーヴァントの目を持ってしても
その姿をロストさせるに十分な状況をこの魔道士は作り出したのだ
そしてただ一人、雷の弾幕を超えて上空へと舞い上がったフェイトが狙うは当然――
先程までシグナムが相手をしていた、赤き槍を携えたサーヴァント=ランサーである
シグナムの対面に位置していたあの蒼い軽装に身を包んだ男
ここにいる全ての者の視界から逃れた雷迅の魔道士が
ソニックムーブで上昇した勢いを些かも殺さずにそのまま
上空から急降下しつつ敵の頭上に迫る
先程の将との通信を思い出すフェイト――
シグナムは隠していたが、、
その呼吸が信じられないほどに乱れ
絶え絶えの吐息を漏らしていたのがすぐに感じられた
先ほどの冗談もこちらを心配させまいとしてのもの……彼女はそういう騎士だ
その声にもいつもの張りが無く、微笑は乾いた笑いにしか聞こえなかった
まるで半病人と話しているかのような、、
フェイトはあんなシグナムを見るのは初めてだった
(やっぱり、相当きついんだ…)
立っているのも辛い状況なのかも知れない、、、
キッと、、下方にいるであろう槍の男を
フェイトは真っ直ぐに睨みつける
友であり、尊敬する騎士であるシグナムをあそこまで痛めつけた相手
だが今は悔しさよりも冷静な判断を優先する――
仕掛けによって不意をつけたとはいえ
生半可な攻撃は通用すまい
故に、、
「行くよバルディッシュ、、アサルトフォーム――」
ここで投入するは彼女の切り札
アサルト――突撃の名を冠する
攻撃特化型のフォームへの変形を今、、自身の相棒に命じていた
<Yes sir...>
低くて含蓄のある声がそのデバイスから発せられ――
そしてフェイトの手から、、細い体躯に不釣合いな…
―― 無骨極まりない巨大な刃が伸びる ――
それこそが彼女の近接最大最強の武装
魔道士でありながら、騎士とすら拮抗せしめる
フェイトテスタロッサハラオウンの真の力
バルディッシュ=アサルト・ザンバーフォーム―――
あの闇の書事件、、
強大な敵――ヴォルケンリッターに対抗するために
フェイトとバルディッシュが苦心の末に選んだ力……その答えがこれだった
その天に突き立つような大剣は
彼女の出力不足、、低火力という弱点を補って余りあるものだ
古において騎兵を馬ごと叩き斬る剣 「斬馬刀」 がその起源とされている巨大な刃は
以来、甲冑ごと相手を屠る、城門を切り崩す等など様々な逸話において
その姿を見せる巨剣を模したものであった
グレートソード、クレイモアと呼ばれる騎士の持つ両手剣を
遥かに上回るその重量、刀身――
本来ならば彼女の膂力……否
人間の女性が振るえる類のモノでは断じてない
だがこと、フェイトによって顕現された黄金の刃は
超重の武装を思わせるシルエットでありながら――
実際は彼女の魔力によって編まれた擬似的な刃であり
その重量は、、、何と軽量クラスのそれと変わらない
故にこの雷光の速度を微塵も妨げる事は無いという
曰く――反則を絵に描いたような武装であったのだ
決戦モードとも言えるそれを、満を持して解き放ったフェイト
彼女は今、最速にして剛の牙――
否、巨人の鉄槌さえも手に入れた埒外の存在
神話の具現、、サーヴァントを切り伏せるに微塵も不足の無い
魔道士にして神速の剛剣使いと自身を化したのだ
(左だ! 奴の右目は塞がっている!!)
念話にてシグナムの怒号が飛ぶ
(はいっ!)
そして更に後押し
敵の視界を遮る負傷すらも視野に入れて
フェイトは敵に向かって飛翔する
薄氷を踏むような作戦だったが
ここまで――ここまで嵌るとは…
もはや流れは完全にこちら、、
勝利はもはや目前に感じられた
「はあああぁぁぁああああッッッ!!!!」
騎士の助言を的確に受けた魔道士が
まさに稲妻の如き速度と威力を以って気合一閃、、
地上にいるランサーの頭上を襲うのだった
――――――
―――彼の行動を遅らせたもの
確かに、執務官の咄嗟に敷いた戦術は見事の一言であった
それに数分違わず合わせたシグナムもまた秀逸
己とパートナーの技と特性と能力を余さず理解していなければ出来ないほどのコンビネーション
流石はライトニングの隊長と副隊長というべきか
………否、
それ以前から――
とある事件で出会ってより彼女達は互いをライバル視し、その技を高めあってきた――
ある種、姉妹のように過ごしてきた二人、、
故にこのくらいは朝飯前だ
その息はまさに阿吽そのものだ
あれだけの少ない作戦時間で英霊二人を絡め取る作戦を見事
二人は成功させて見せたのだから
だが、、、、いや――
――――――果たして、、
それだけか?
血に逸っていたライダーはともかく
本当にそれだけでこの相手
戦の申し子の如き男――
光の御子の二つ名で呼ばれる戦鬼をここまで出し抜けるものなのだろうか?
―――顔半分が血に染まった槍兵のやや左上方から
―――袈裟懸けの軌道にて迫る一条の稲妻
―――それに、、未だに反応できない男
現にこの局面の前、彼はシグナムの動きに気づいていた
違和感を感じ、いつでも対処出来るようにしていたのだ
他ならぬ「この男が」である、、
ならば如何なる仕掛けも無為に終わる可能性は高かった筈、、
十全の意識を以って迎撃に回るランサーを出し抜ける戦士など…
この世のどこを探せばいるというのか?
―――その、不可解…………
答えは、、、
至極単純だった
それは――
対面に凄まじい速度で飛び出してきた騎兵に起因するものだった
皮肉というより他は無い―――そんな結果、、
恐いもの知らずの魔獣のような男は
相手を恐れさせる事はあっても、自分が相手を恐れる事などありえない
そんな無双の存在であるランサーであったが、一つ――
このフィールドにおいて……否、、
「聖杯戦争に召還されたサーヴァントとして」 一つだけ、、
その身に戦慄を覚えるモノがあった
騎士の剛剣?
執務官の雷撃魔法?
否、確かにその二つは強力なれど、、 まだ足りない
その時、確かに、、
―― 男の体が明らかに強張った ――
その―――対面の森から出てきた女怪が地面に四肢をつき
「その」体勢に入った瞬間、、
男の危険を察知するアラームはガンガンガン!!!と狂ったように鳴り響き
意識も感覚も残らず引っ張られ、一瞬で全てがそちらの方に向いてしまう
シグナムがやっている何某の企ても
その他一切に対する注意も――あの瞬間、完全に霧散していた
フェイトとシグナムですら予測し得なかった
それは彼女達に取って僥倖極まりない幸運
男が戦慄を感じたモノこそ己が槍をも越える威力を秘めた神秘―――
ライダーの持つ騎兵の「疾走」に対してのものであったのだ
埒の無い話、、
その正面に見据えて放たれる騎兵の宝具の脅威は
ランサーがいかに戦技を駆使しようと
まともに貰えば問答無用で消滅は免れないほどのモノ――
つまりはそういう事だ…
皮肉にも味方であるライダーの動作が
ランサーをこの戦い最大の窮地に落とし込んでしまう事になった
その上空から飛来する稲妻に絶望的なまでに対処が遅れるという最悪の事態、、
「疾風迅雷――」
高速で飛来するフェイトの周囲に電迅が迸る
紡ぐ言葉は、この心優しき黒衣の死神が
己が渾身を込めて放つの意を秘めた必殺の言霊だ
両腕には、もはや不釣合いを通り越して
不条理なほどに巨大化し、星すら薙がんと振り上げる刀身があった――
否、それは正しく落雷の如き破壊力を秘めた天罰そのものであり
その黄金に輝く破壊の名を――
「プラズマ、、、、、ザンバー、、、、………」
彼女は静かに、、
内に秘めた魔力を押さえつけるように、、
その力の名を紡ぎ、、、そして繰り出した
大地に降り注ぐ雷の巨剣が空を裂き
アスファルトを粉々に叩き割る金色の一刀両断の光、――
「ぬうっ、――!? うおおぉっ!?」
それが槍兵の立つ地面
その横幅10mに至るほどの巨大な柱となって降り注ぐ
そして黄金の鉄槌の襲撃をまともに受けた蒼き槍兵の体が――
その光の奔流に巻き込まれ、、
迸る渦に飲み込まれたのだった
――――――
最終更新:2009年02月10日 05:43