英霊ナノハに関する第一回報告書第六次中間報告
関連項目『対魔力の別世界の魔法、魔術への効果』
対魔力とは、文字通り魔力に対する耐性であり、つまるところ魔術に対する耐性である。
ここでは別世界の魔術、魔法についての効力について、簡単にだが記しておこう。
まず基本的にだが、異世界の魔法、魔術に対しては、対魔力は効力を持たないことが多い。
その理由は簡単で、同じ『魔力』でもその内容が同じとは限らないからである。
そしてその世界に無い魔導技術であるからして、英霊相手でも通じてしまう場合が多々あるのだ。
そしてここで問題になってくるのはミッドチルダ式や古、近代ベルカ式などである。
過去に提出した報告書では、ミッド式やベルカ式にも、対魔力は有効であるという描写をした。
これは何故か?それは魔導師のいう『魔力』と魔術師のいう『魔力』とは同一のものだからである。
……まぁ、厳密に書くと少し違うのだが。魔導師の魔力の元である『魔力素』とは魔術師から言わせると『マナ』であり、
それを加工した魔導師の『魔力』は魔術師の『魔力』とは同じだが違うモノなのだ。
なんというか、水を水で薄めたようなもの、要するに量は多いが薄いのだ。
──平均的な魔導師と魔術師が、純粋に魔力量を比べると、大体20倍前後の違いがある。
だが、それほどの魔力量の差があっても『魔術』特に上級のものに、ミッド式などで干渉するのは難しい。
ここが『薄い』と表現した理由であり、詳しくは長くなるので省かせてもらうが
要は、ミッド式などで『魔術』に干渉するには大量の魔力がいる。とだけ覚えてくれればいい。
(──因みにミッド式などでも緻密かつ精密な術式の使い手
──例えばユーノ・スクライアやクロノ・ハラオウンなど──ならば、
比較的少量の魔力量で『魔術』に干渉出来る。これは魔術というのは
つまるところ概念同士の潰し合い、どちらがより矛盾のない
秩序だったモノを構築出来るかの勝負──に、起因すると思われる。)
さて、いささか脱線してしまったが結論としては
『対魔力はミッドチルダ式始めとする、リンカーコアを使用する大部分の魔法には有効である。』
ということだ。……因みに、もしリンカーコア式の魔法で対魔力Aを通したいのなら
ミッド式ならプレシア・テスタロッサが使用した
次元跳躍攻撃魔法『サンダーレイジO.D.J』
などを始めとする、超高度な魔法か、
キャロ・ル・ルシエが使役するアルザスの黒い守護竜『ヴォルテール』が誇る
殱滅砲撃『ギオ・エルガ』
のような、大気中の魔力を集めて放つ超高密度魔法──つまりは収束砲を使うかである。
──最も、『ギオ・エルガ』が対魔力Aに通用するのは、ヴォルテールが竜だということもあり。
人間が対魔力Aを抜くにはどれほどの──ここではあえて──マナを蒐集し、
制御しつつ、集束、再収束し、撃たなければならないのか……。
普通の魔導師ならば、SDFのような、物体加速の魔法での質量攻撃が無難であろう。
ベルカ式は元々が近接特化の術式なので、紫炎一閃などを始めとする、デバイスに魔力を上乗せするものは、殆どが有効。
さらに付け加えるならば、魔力変換資質を持つものならば、魔力が完全にその属性へと変換するので、対魔力に関係なく
ダメージを与えることができる。『魔力の雷』ではなく『魔力を変換した雷』であるのがミソということだ。
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二人のマスターを降ろし、セイバー、アーチャーがそれぞれマスターを庇う形で前に立つ。
(因みにはやては、遠くで再び出したビットに守られながら、ナノハが逐一、念話で報告している)
「さて、どこから説明しましょうか」
それを待ってから周りを見渡すナノハ
「アーチャー、これは…どういうこと?」
「なに、タカマチがいろいろと説明してくれるそうだ。何か聞きたいことはあるか?凛」
「……なにそれ?どういうこと?」
「ふん、聞くところによると、タカマチはキャスターではないらしい」
「本当だぜー」
なにやらボソボソ喋る赤色二人に、ヤル気のない声で肯定するのは、朱い魔槍を肩に担いだ格好のランサー。
どうやら不完全燃焼らしいが、またわざわざ誤解させる気もないようだ。
「召喚されるところをこの目で見たからな、クラスも分からねぇ、今日召喚されたばっかのサーヴァントだ」
「……だそうだ」
「?──クラスも分からないって……どういうこと?」
凛の最もな疑問にランサーは──
「そいつ、いきなり真名いいやがったんだ」
さらっととんでもないことを言い出した。
「はーあ!?なにそれ正気!?」
これにはアーチャーも呆れ顔、セイバーにいたっては『信じられない』と言った風に絶句している
「だろ?ちょっと普通じゃねぇよな」
「……だって仕方ないじゃないですか。クラス名なんてないんですから」
どん引きされたナノハは更にとんでもない爆発発言をした。
『!?』
「わたしは聖杯ではなく、こちらのマスターが持っている『夜天の魔導書』の術式で召喚されたので。
──最も、知識も流れ込んできていますし、聖杯が英霊を呼び出す術式に近しいものなのでしょうが」
「『夜天の…魔導書』?」
「数々の異世界を渡り、膨大な数の魔導技術を記録したロストロギアです」
「ロストロギア?」
「ロストロギアというのは──」
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ここから、ロストロギアから時空管理局までの大まかな説明をしたが、今更なので割愛。
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「ほぉ、そんなものがあるのか」
「成る程、一応の筋は通っていますね」
「……へッ!?」
時空管理局について一応の説明を終えた反応がこれである。
「?どうしましたか、メイガス」
「いえ……そんなにあっさり納得してくれるとは思っていませんでしたから……」
思わず頬を掻く仕草をするナノハにアーチャーが──
「当然だろうタカマチ、英霊というのは現代の『常識』に捕われず、また
魔界や神界などと普通に交流があった時代の人間もいる。
今更『別の世界があります。』などと言われても驚く者は居ても、信じないものは少ないだろう」
「あー、成る程……」
なんとなく呆然と答えるナノハ、そこでアーチャーはふと──
「ところで……凛、話についてきているか?」
振り向けばそこには、頭を抱えて唸る遠坂凛の姿が。
「時空管理局?何それ、別世界に行くなんて、完全に魔法じゃない。いやでもちょっとまって………」
云々かんぬん。どうやら思考がループ中らしい
「ところで……えー、タカマチ?あんたとアーチャーって知り合いなのか?」
なんとなく置いてきぼりをくらっていた士郎だが、会話が途切れたので言ってみる。
すると、ナノハとアーチャーは顔を見合わせ──
バッ、ババババ!(ナノハ「意見、求める」)
シュバ!シュシュシュシュ!(アーチャー「話す、許可」)
バッ!(ナノハ「了解」)
──なにやら奇怪な動きをした後、頷き合い──
「ええ、生前に少し。──わたしが彼を追う側で──」
「ふん、私がタカマチの組織から追われる側だった」
「──なんなんだ今のは!?手話か!?」
「ていうか、追う追われるって、穏やかじゃねぇな」思わず突っ込む士郎とランサー。
「えーと、追う追われるって言っても、殆んど恒例行事みたいなものですし。」
「恒例行事?」
と、ここでセイバーが食い付いてきた
「助けを求められると無償で手を貸して、それで結局貧乏クジを引かされて、後始末を押し付けらて。
わたしの組織に追われる。……という損な役回り。結構有名だったんですよ?『割りに合わない正g……』」
苦笑しながら話していたが、いきなり黙りこくるナノハ。
「──?どうしましたメイガス?」
ナノハが何かを言おうとする前に──
「──ふぅん、アーチャー?」
静かに声が響いた。思わず後ろを振り向けばそこには、にっこり笑う凛の姿が。
「あなた、記憶が思い出せない。……とか言ってなかったかしら?」
と、これみよがしに腕の令呪を見せ付ける。
「ま、まて凛。取り敢えず話を聞け……記憶がないというのは本当だ。
……ただ、タカマチの砲撃を見て少しだけ思い出したのだ!」
また無茶なことを言われてはたまらない。とばかりに、まくしたてるアーチャー。
「へー、じゃあ真名は?」
「それが……まだ思い出せない」
ぶちッ!
「そんなわけないでしょ!!」
「事実なのだから仕方ないだろう!」
「…………………………!」
「…………………………」
「…………………!!」
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「──そんなことがあってから、執務官をやっていた親友と彼の間に一種のコネが出来ましてね、
何度か会わせてもらったことがあるんですよ。それとさっきの合図は作戦行動中に
極秘に意志疎通するためのもので、元々わたし達には念話というものがあるのですが──」
なにやら向こうで言い争いが始まったが、ナノハはキッパリ無視し、すらすらと質問に答えていった。
──しばらくするとアーチャーと凛の方も一段落ついたようだ。
「ハァ…ハァ…タカマチ、どこまでいった?」
「えー、わたしの右目についてと、さっきの合図に付属して念話についての説明に、生前の私達の関係を少し」
「その眼については私も聞きたかったが……生前のことはどこまで話した?」
「フェイトちゃん繋がりってことぐらい?」
「フェイト?……すまん。思い出せない」
「うーん、まぁ、そんなに長い付き合いじゃあ、なかったからしょうがないかな。
……あれ?じゃあなんでわたしのことは覚えてたの?正直、わたしも『矢』を見るまで忘れてたんだけど……」
ここでアーチャーは溜め息をついて
「私だって忘れていたさ、しかしキミは一種のトラウマだ、あの一撃は今でも忘れん……そうだ、クラスがないなら
いっそのこと『カイザー』とでも名乗ったらどうだ?『管理局の白い魔王』と呼ばれていた君には相応しいと思うが」
「……なにそれ、私そんなの知らないよ?」
「おや、知らぬは当人ばかりなり。か……」
クククッ。と愉快そうに笑うアーチャーだが──
「──ちょっと、あんた達だけで分かる会話しないでくれる?」
「あ…」「ぬ…」
──置いてきぼりを食らった方は冗談ではない。
凛を始めとしてセイバー、士郎、ランサー、さらには──
(タカマチさーん、暇なんやけど?)
(マスターを忘れるなんてダメダメですよー!)
──と、はやてやリインまでもが念話で抗議する始末。
「ううん!……では本題に入ろうか。……タカマチ、キミは何だ?」
バツが悪そうに咳払いをし、ひたすらストレートに問うアーチャー、それにナノハは間髪入れずに、
「夜天の魔導書によって喚ばれた、イレギュラーな八人目のサーヴァントです」と、答え。さらに──
「キミの目的は?」
「わたしのマスター、はやてちゃんを無事生還させることです」
「これからのキミの行動は?」
「……聖杯戦争に関わる気はないので、皆さんにわたしとの戦闘で消費した分の魔力を提供した後、
はやてちゃんを連れてこの街から出る。……と、いいたいところですが……」
ここで一旦目を伏せ──
「その前に管理局への一応の報告のため、わたしのマスターに聖杯戦争について教えてはくれませんか?
──わたしにも知識は流れているのですが……やはり本人も知っておいたほうがいいですし」
と続けざまに返す。
「ふむ……それならちょうど良い」
ここでチラリと士郎を視、士郎はアーチャーを睨み返す。
「こちらも一人、未熟者に、聖杯戦争とは何たるかを叩き込みにいくところだ。一緒にくるといい」
そんな視線を受け流し、事もなげにそういうが──
「ちょっとアーチャー、勝手に話を進めないで、私はまだ、このサーヴァントの話を
信用したわけじゃないのよ。今までの話が全部嘘じゃない。っていう証拠はどこにあるのよ」
知らない者ならあれだけでは、わけの分からないサーヴァントを信用など出来ないわけで──
「このサーヴァント……タカマチだっけ?が、街の住人の魔力を奪ってない証拠は?」
当然こう言われるわけだ。アーチャーは顎に手をやり
「ふむ、証拠は……タカマチはそんな器用な真似は出来ない。と、知っているからだが……
キミには根拠の薄い盲信にしか聞こえないだろうな。さて……」
考え込むアーチャー。だが、助け船は意外なところからやってきた。
「──ちっ、弓兵風情に口添えするのは癪だが──。おい嬢ちゃん」
そう、ランサーが口を挟んできたのだ。
「ナノハはキャスターじゃねぇ、ってのは本当だ。さっきも言っただろ?俺は偵察が第一の命令でな、
他のサーヴァント全員に、もう会ってるんだよ。キャスターは別に居る……どこに居るかまではいえねぇがな」
と、アーチャー(というよりナノハ)のフォローに回るが
「仮にそれが本当だとしても、魔力を奪ってないってことにはならないわよ」
なおも、凛はナノハを信用しようとしない。しかしアーチャーは──
「それについては実際にやってもらったほうが早いな……タカマチ?」
「うん。じゃあ少し離れてくれるかな」
などと言い、ナノハも二つ返事で了承する。
各マスターとサーヴァントが(特にアーチャーは凛を連れて遠く)ナノハから離れると、ナノハは右腕を空に掲げ──
「修復」
『リカバー』
呟くと、右腕のコンソールに文字が走り、ボロボロだった右腕が、傷一つない状態に戻る。さらに──
「蒐集…開始」
『マジックスピナーオープン・スターライト』
右腕の周りに環状魔方陣が二重に出現し、それぞれが互い違いに回転を始める。すると──
「むっ……?」
最初に異変に気付いたのは、セイバーだった、何かに体が引っ張られるような感覚。さらに、
「セイバー、構えろよ…来るぞ!」
アーチャーが言い終わらないうちに──
ギュュュュュュュュン!!
ナノハの環状魔方陣が高速回転を始め、セイバーの『魔力放出』、凛の『魔術』、アーチャーの『矢』、ナノハの『魔法』
これらによって撒き散らされた魔力が、一気にナノハ目がけて集中する!
それは確かにスターライト──星の光が集うような光景だった──。
──時間にしてほんの数秒。
だが、それだけの時間で、ナノハは公園内の魔力ことごとくを蒐集し、
掲げた右腕の上には巨大な魔力の塊が出現していた。
「っつぁ……たまげたぜ。今までのだって相当驚いたが……こりゃ別格だ」
ランサーがこう言うのも無理はない。ナノハが蒐集したのは周りの魔力だけでなく──
体を維持する分の魔力までも、少量だが持っていかれたのだから。
「御覧の通りだ、ランサー、そしてセイバー。もしタカマチと敵対するというなら、間違ってもマスターは狙わないことだ。
もしマスターが死亡したのなら……報復にこの街のマナを枯渇させることぐらいやりかねん」
と、一番遠くに離れていたアーチャーが、戻りながら忠告する。
(…と、これぐらいハッタリをかましておけばマスターは狙わんだろう)
(ありがとね、エミヤくん。でも、念話して大丈夫?魔力結構使うんじゃなかったっけ?)
(なに、礼には及ばん。街一つは言い過ぎにしても、この周囲一帯の魔力ぐらいならば可能なのだろう?
それに、管理局に来られてもやっかいだ。魔力も、どうせ魔力供給してくれるのだろう?ならば問題ない)
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──などという念話が裏にあったことは微塵も感じさせずに──
「分かったか、凛。タカマチならば『住民だけ魔力を奪う』などといった、細かい真似は出来ないのだよ。
そしてその必要もない。先ほども言ったとおり、街のマナ総てを喰い尽くせばいいだけの話だ」
「そんなことしたら聖堂教会が黙ってないわ!いいえ、魔術協会も
なにかしらのアクションは起こすでしょうね。街一つ分のマナを根こそぎ奪うんですから!」
なおも頑なにナノハを疑うが、アーチャーは困ったように。
「ふー、そこまで気が付くのならついでに気が付いてほしいものだ、先の戦闘で、誰にも気付かせずに
魔力蒐集していたのを忘れたのか?たった数分間であれだけのマナを集める事が出来るんだぞ?
数日間に分けて蒐集されたのなら、気付いたときには手遅れ。というわけだ。
……そして、君は一つ大事な前提条件を忘れている」
「……なによ」
「タカマチは『さっき』召喚されたばかりだそうだが……事件は何日前から起こっていた?」
「うっ……で、でもそれはランサーの言ってることが本当だったときの話でしょ?」
「先程の莫大な魔力が使用されたタイミングからすると、ランサーやナノハの言ってることが
真実だとする方が自然だと思うのだが。……全くどうしたというのだ、君らしくもない」
「……だって」
──ナノハは集めた魔力を加工しながらアーチャーと凛をみてたが──
─はぁ、困ったな。仲裁に入りたいけど、……余計話をこじらせる様な気がするし、
んー、エミヤくんが言ってもだめなら、私が何を言っても信用してもらえないだろうしなー。……ん?信用……?
「……あ、そっか」
思わず声がでてしまったが、思いの外声が大きかったのか、アーチャーと凛がこちらを向いていた。
─これは好都合
「ごめんね。自分のサーヴァントが、いきなり現れたサーヴァントを信用したら、マスターとしてはおもしろくないよね」
「……なに?」
何を子供の様なことをと凛を見ると、図星をつかれたのか自覚したのか、ともかく苦虫噛み潰した様な顔をしていた。
「……まさか凛、タカマチをあれほど疑っていたのは……」
「全く、相変わらず鈍いなー、アーチャーは」
クスクス笑う。ちなみに──その後ろでランサーもニヤニヤ笑ってたりするのは、書くまでもないだろう。
「でも……」
またしても不意に真顔になり。
「お願い。今だけは信じて」
果たして、凛は──
─ふぅ
「分かったわよ。取り敢えず一緒に教会まで連れていってあげる」
「──ありがとう(はやてちゃんリイン連れてこっちにおいで)」
しょうがない。といった風に渋々同行を許可した。
つまり──
「一時休戦、か……まあ、今さら再戦というのも間抜けな話だが」
とは言うものの、やはりつまらなそうなランサー。
「…………(ふぅ)」
先程のスターライトで魔力を取られていたため、
少し厳しい戦いを覚悟していたセイバーも戦闘体勢を解く。
「タカマチさん、これ」
そういって近づいて来た、はやてがナノハに渡したのは、セイバーに破壊されたままのデバイスだった。
「あ…すみませんナノハ、貴方の杖を…」
「これぐらいなら大丈夫ですよ。すぐに直せますから」
申し訳そうなセイバーをよそに、デバイスの自己修復機能を発動させる。
「……本当に貴方には驚かされてばかりだ。武具が自己修復機能まで備えているとは、
その杖は異世界とやらでは、さぞ名のある宝具なのでしょうね。」
「にゃ、にゃはははは~……」
普通にデバイスの標準装備だったりするのだが、そこは言わぬが花、というやつだろう。
曖昧な笑みを浮かべつつ
「……ん、終わり。っと」
大量の魔力の再利用化が完了し、アーチャー、セイバー、ランサーの順に魔力を供給した。
ところでセイバーは対魔力の所為で魔力が流せず──。
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「──では、次は私が──よろしいか、ランサー」
「ああ、構わねぇぜ」
既に風王結界は掛け直し、鎧の修復も終わっている。一つ頷くと、セイバーとナノハは手を繋ぐが──
「……む?」「……あれ?」
何故か魔力が渡せない。
「んー?…ああ、そういう事かな。となると……」
なにやらぶつぶつ呟いていたが、いきなり。
「セイバー、ごめんなさい」
そしてショートを越えクロスを越えた超密着状態──
ゼロレンジから一撃(くちずけ)をセイバーへかまし、瞬間、世界は凍った……。
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──という一幕があったとか。なんでも──
「わたしにもよく分からないけど……『いつか』『どこか』の仕返し。……かな?」
──だそうだ。ちなみに粘膜同士を接触させて、魔力を流すというのは、一応理に適っているのだが、
手のひらに傷を付け合い、その傷を合わせてそこから魔力を流す。などといったやり方もあるので、
もし対魔力を持つ相手に魔力供給をしたい場合には、好きなやり方を選ぶといいだろう。
他の二人も同じく対魔力もちだが、アーチャーはランクが低いため問題なし。
ランサーは──
────────────
「うーん、やはり弾かれますね、魔力量を増やせば強引に流せそうですが……」
「だったら早くやってくれ」
「でも、強引に流がすのはかなり痛いですよ?……お嫌でないのなら、
セイバーと同じ方法で流しますが?」
「おう、じゃあ──」
ーー選択肢ーー
1.セイバーと同じ方法で
2.いきなり口付けってのはちょっとな……。悪いが、強引に流してくれ
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──結局ランサーがどちらを選んだかは、想像にまかせるとしよう。
どちらにしろ『ナノハが魔力を流し過ぎてランサーの気分が悪くなった』という結果は同じなのだし。
ちなみにそのときの感想は──
『安い酒を飲み過ぎた気分に近い』
とのこと。失礼といえば失礼な話である。
……まぁ、ナノハもほとんど人工呼吸のノリなので、別に気にしてはいないようだが……。
────────────
「──さて、じゃあ俺はそろそろ行くぜ」
魔力供給を終えたランサーがそう言ったのは、当然のことだったのだろう。なにしろ、
最早他のサーヴァントに戦闘の意志はなく、ここで戦闘をふっかけても、二対一。場合によっては三対一になるだけだ。
いくらなんでもこの面子での一対多数で、何の犠牲もなしに勝てるとは思えない。
それに──しこたま流し込まれた魔力の所為かどうも体調が思わしくない。なんでも一日も経てばむしろ
この莫大な魔力が身体に馴染み、自在に使える様になるらしいのだが。
ならば──少し待つのもいいだろう。或いはそれを狙って過剰に魔力を供給したのか、
まぁどちらでも構わない。取り敢えず今日は引き上げだ。──そう判断を下し、帰還しようとしていたとき──
「──ランサー様」
背中にナノハから声がかけられた。いきなりの『様』付けにすわ何事かと振り向けば、
「ここまでのご助力、大儀でありました。お陰様で私の主を
護ることが出来ました。その事に最大限の感謝を」
と、完璧な動作で深々と頭を下げた。
「あ?あー、いや……」
自分として二対一というのが気に喰わなかっただけだし、強い相手と戦う事が英霊となった目的なので
礼を云われる筋違いはない、しかしだからといって『ふざけるな、お前の為に戦ったわけじゃない』
と、突っぱねるのもなんだろう。どう返したものかと思案していると
ナノハは顔を上げてイタズラぽっく微笑み
「……なんて、少し気取って見ましたが、如何でしたか?」
「……はっ、どこかの王族かと思ったぜ」
なんて言ってきやがった。こちらも軽口で返すが
「………………」
「……おい?」
複雑な顔と、意味ありげな沈黙の後──。
「──では、もう会わないことを願って、……次に会うとするならば、
それは聖杯戦争に関わったということですから」
「……こっちとしてはそれはそれで構わないんだがな……じゃあな」
無理矢理話題を変えられたが追求はしない、別れの挨拶を交わすと、ランサーは夜の闇へと消えていった──。
「──では、こちらも行きましょうか──。はやてちゃん、おんぶする?」
ランサーを見送り、ナノハ達も教会へと歩きだす──。
その道すがら改めて自己紹介をすることになり──
「──えっと、衛宮士郎だ」
「…衛宮、士郎?…ふーん」
「……俺の名前がどうかしたのか?」
ここで意味ありげにチラリとアーチャーを見て(無論、誰にも悟られないように)
「……ちょっとね、知り合いに同姓同名の人が居たから驚いただけ」
(…エミヤくんと同姓同名…同一人物?…サーヴァントと敵マスター…自分殺し…『シンデレラ』?…まさかね…)
どこか上の空で士郎に返事をしつつ、フルスピードで思考するナノハ。
──ここでの『シンデレラ』とは『灰被り』の意であり、ナノハと馴染み深い、ある英霊を指す隠語である──。
────────────
丘の上の教会の神父──言峰綺礼から聖杯戦争について話を聞き、その帰り道、今日はもう遅いので、
衛宮家に泊めて貰うことも決まり。凛も、ここから先は敵同士と、別れようとしたとき──。
「…………ッ!?」
ひどく驚いた様子で、誰も居ない坂の上を睨むナノハ、その右目は既に翡翠色に染まっている。
「……どうかしましたか、ナノハ?」
ただならならぬものを感じたのか、先程の騒ぎを捨て置き、訪ねるセイバーに──。
「エリアサーチに反応がありました。……サーヴァントです」
そう言うや否や、右腕からコンソールの付いた鉄甲を外し、デバイスに組み込んだ。
とたん、デバイスが変形し、続けてナノハは穂先の近くに懐から取出しだマガジンを叩き込む。
「ストレージデバイス『鉄甲』アームドデバイス『槍』合体完了……。
さっきは侮って、こうする前に槍が壊されちゃったけどね」
『「砲槍(オクスタンランチャー)」モード、システムオールグリーン』
呟くと同時に、コンソールから宝石体へと変わった画面に文字が走る。
その意匠は──
「…レイジング‥ハート?」
英霊となる十年前、別れてしまった彼女の唯一無二の愛杖を踏襲したような形状をしていた。
「タカマチさん‥‥なのは‥ちゃん?」
「ふふっ、やっと分かってくれたね。……皆さん準備はいいですか?」
はやてに笑い掛け、そしてサーヴァント達に確認する。無言で頷く二騎のサーヴァント、そして──
「──ねぇ、お話は終わり?」
誰も居ないはずの坂の上から声が掛けられ、霧が晴れた様に唐突に現われたのは──
黒の大剣を携えた黒の巨人。
──そして白の髪と紅い瞳を持つ美しい女性だった──。
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『シンデレラ』について
書かないと分からないと思いますが、
ash氏の英霊ナノハashのことです。
ちなみに私の勝手な脳内設定では
とある世界で英霊ナノハはナノハashと会合し、その目的が気に入らず戦いを挑むが、
「ヴィヴィオを殺したことのない貴方に!……わたしの気持ちが分かるの?英雄さん?」
この言葉に動きを止めてしまい、消滅こそしなかったものの敗北し、その後何度か挑むが、
結局ナノハashの考え方を変えることが出来ず、もう一度会えたなら、今度こそ話を聞いてもらおうと考えている。
ということで、ライバル視ではないが、かなり意識している存在。
と、いうことにしています。
『調べ屋』アマネの話の内
英霊ナノハash=『シンデレラ』『ash』『灰被り』
英霊なのハサン=『ハサン』『あの子』
ほかの作者様のネタを使わせてもらうとき=『いつかどこか』
……と、するつもりなので、ご了承下さい。
最終更新:2009年04月22日 16:46