#1
どこのB級映画だこりゃようとヴィータの言うとおり、
モニターには地上本部に向けて進行する
頭の上半分が無い骸骨の群れと、応戦する地上本部の魔導師たちが映っていた
このままここを放置して他の援軍に行くわけにはいかない、
今現在地上にいる高ランク魔導師はそれほど多くは無い、
そのほとんどが巨人に集中している現状である、軽々しく動けない
「現在のところこの魔法生物が現れているのは正面だけのようですね」
「正面だけ?」
指示を仰ぐオペレーターに対し、ヴィータは顎に手をやって思案顔でモニターを見やった
地上本部の難攻不落さは折り紙つきだ、
JS事件の時のように裏から手を回してでもいない限り、
恐らく元六課の総がかりでもそう簡単には落とせまい
そんなところにせいぜいC、Dランクの魔導師と同程度の魔法生物を、
それも正面から馬鹿正直に進軍させるなど、
これを行っているのは用兵の初歩も解らぬ素人だとしか思えない
「そんな訳は無いよな?」
とりあえず裏口その他にいる者達に持ち場を離れず警戒する指示を出すよう、
地上本部の発令所に要請する
均衡を崩すのならば必ずどこかからの奇襲のはずである
現状だけ見れば正面に戦力を集中したくはあるが
“それを待っている”と考えるのが妥当だろう
3年前のJS事件で召喚士による奇襲を経験しているだけに地上本部側の対応も早かった
もとより自分の言うまでもないことだったか、と思い直し、
改めて自分達の戦力配分を考え直す
「そういや、あいつらは?」
「空尉が指示を出している間にヘリポートに向かって行きましたけど」
どうやらこの魔法生物の襲撃に対する思案をしているうちに行ってしまったらしい、
そうなるとこの件は知らない可能性もあるわけで、
ヴィータは追いかけるよりは早いなと、改めてヘリポートを呼び出した
『はい、こちらアルト、どうしましたヴィータ空尉?』
発進待機の態勢でヘリパイロットのアルト・クラエッタが通信に応じる
程なく、その後ろにオッドアイの女性が現れた
「ヴィヴィオ、状況がちょっと変わった、
戦力の配分を考え直さなきゃなんねぇからちょっとまて」
『了解です、あぁでも、
どっちみち出るならここにいた方がいいのかな?』
「そうだな、出撃するには変わりねぇからヘリポートで―――」
待機と言いかけたヴィータの声を通信の向こう側から聞こえてきた声が遮った
『お姉ちゃん、何か降ってきた』
『降ってきた、って何が?』
モニターの向こうでやり取りが聞こえる、
どうやら指先程の小さな『何か』がヘリポートにまばらに降り注いでいるらしい
「きな臭いな……
それで、一体何が降ってきたんだ?」
空間モニターに彼女達のデバイスを呼び出す、
自然に降るようなものではなさそうな辺りがいかにも何かありそうだ
『なんだか歯みたいだよね、これ?』
『動物の牙かな、フリードの歯がこんな感じだった気がする』
「動物の牙だぁ?」
いぶかしむヴィータの隣でユイがそう言えば、と何かを思い出した
「先日、義姉の勧めでギリシャ神話を読んだのですが」
「ギリシャ神話?」
確か97番管理外世界の神話だなと続きを促す、
今回の事件はその神話がキーワードである、聞き捨てならなかった
「―――確か、イアソンと言う男の話だったと思うんですが、
竜の歯から兵隊を作り出す魔法の話がありました」
そうなると、正門に集まっているのもそれだろうかと考え、
そこで気がついた
その歯が今へリポートに降っていると言う事は―――
『無駄口たたくのはそろそろやめようぜ、
ぼさっとしてるとヘリポートが使い物にならなくなる』
低い声が示すとおり、
ヘリポートのあちこちに魔法生物が現れ始めていた
「あそこに降ってきたって事は相手は空か―――」
「召喚にしては魔力が感知できませんから
―――何らかの手段で隠蔽した上で上空にいると考えた方が良さそうですね」
だとすれば居るのはサーヴァントだろう、
並みの航空魔導師では迎撃に向かうのは危険である
「あたしが行くしかねぇな」
このままばら撒かれ続ける前に、元凶をぶっ飛ばす
デバイスを握り締め、ヴィータは部屋を飛び出した
#2
一方、レールウェイ線路上
虎退治とかってこう言うモノなんだろうか?
何度目かの応酬を終え、相手から距離を取りスバルは息をつきながらそう思った
相手の攻撃方法自体は理性も何もあったものではないただ振り回しているだけ、
恐らくは徒手空拳の心得など無いのだろうとは思うのだが、
急所を狙うその狙いだけは機械のように正確であり、
此方の狙いや間を外す“読み”に至っては達人の域だともいえる
3ヶ月前の事件で遭遇したマリアージュの方が余程人間らしい気さえしてくる程だ、
呼吸を整え、まったくやりにくいなぁとスバルは悪態をついた
『ソードフィッシュ01、聞こえるか
応答しろナカジマ防災士長』
念話が聞こえてくる、自分がこいつをひきつけている間に
列車からの避難と救助を任せた付近を管轄する陸士隊の隊長だ
声に出さず念話だけで答えると、乗客の避難が完了したことが告げられた
『地上本部からの応援は、現在期待できない状況だ、
これより我々もそちらの援護に加わる』
直接戦わず援護に回ると言うのは、
隊長を含め、彼ら陸士隊が皆Bランク前後の魔導師で、
戦っても勝負にならない事が一目瞭然だからだ
『とにかくこいつには近づかないよう気をつけてください』
『了解した―――あと数分で応援の魔導師が来るそうだ、
それまで何とか持たせるぞ』
『了解!』
つい先ほど地上本部からの応援は望めないと言ったばかりなのに一体何処から?
という疑問をひとまず脇に置き、敵に向き直る
戦闘直前に大雑把にデバイス経由で確認した情報によると、
この幽鬼の能力は触れたものを“自分の武器として『強化』する”力だという
その力が自己防衛に優れたインテリジェントデバイスすら支配するものである以上、
兎に角徒手空拳の自分が相手を引き付けるしかない
「マッハキャリバー、ギア・エクセリオン!」
スバルの掛け声にあわせ、両足に纏っていた愛機マッハキャリバーから
青光の翼が広がる
低く腰を落とし、右腕を構えた姿勢から両足の車輪だけを動かして突撃する
シューティングアーツと呼ばれる近代ベルカ式魔法の陸戦における曲者とされる由縁が、
このローラーブーツ型デバイスによる下半身を動かさずに動けるという点にある
この移動法は足運びによる予測が付けづらく、
フットワークをとらない為リズムも読みにくい
移動に下半身を使わない空戦になれたものならばさほど惑わされないものでは在るが
こと陸戦同士においてそれは大きなメリットになる
それはサーヴァントを相手においても変わらない
もっとも、今の相手はそのような物をお構いなしに挑みかかってくる、
読みにくいが故の躊躇などと言うものとは無縁の狂戦士であったが
ナックルダスターによる全身強化と、
リボルバーキャノンのコンビネーションで相手の動きを抑え機動力でかく乱する
攻防のバランスが崩れてきたなと、何度目かの浅い手応えにスバルは唇をかんだ
―――クセが読まれ始めている
今は辛うじて相手の攻撃を捌き、抑えているが、
それは相手が徒手空拳の殴りあいに慣れていないと言うアドバンテージ故であることを、
スバルは武道家としての勘で理解していた
それもそろそろ限界だ、応援が来る迄持ちこたえられるかどうか
「なんて、ね!」
弱気になりそうな自分を叱咤する、
味方が来るまで持ちこたえる、そのぐらいのこなせずしてどうする
顔面を狙って放たれた右ストレートをかろうじてかわし、
その腕を取って背負い投げを仕掛ける
『ソードフィッシュ01、砲撃で動きを抑える、
下がれるか』
「了解!」
受身らしい受身も無く地面に叩きつけられた相手に対し、
それでも警戒しながら距離をとる
何しろヴィータとエリオが二人がかりで倒しきれなかった相手である
頑丈さも折り紙つきと見ていい
事実、砲撃が着弾する直前に、幽鬼は跳ねる様に飛び起きた
その直後、着弾の炸裂が幽鬼の覆い隠す
何処から来るか―――
爆炎の中から幽鬼が飛び出してくるのを警戒しながら身構えたスバルの前に、
煙の中からそれが飛び出した
「マッハキャリバー!」
プロテクションを展開して飛来したものを防御する
飛んできたのは横転したレールウェイの車輪であった
「しまった!?」
いつの間にやら相手は倒れた車両の上に移動して、
損傷した部分を足がかりに力ずくで部品を引き剥がしていた
「……ar……er……」
力ずくでへし折った二メートル程の歪んだ棒状の部品を持って身構えるのを見て取って、
スバルは唇をかんだ
相手の手に何らかの武器が渡るのはなんとしても避けたい事態であったが、
まさか列車から部品を引きちぎると言う行為に出るとは思わなかった
「こっちの砲撃を目くらましに移動するか……
まったく、知恵が有るのか無いのかよく分からん野郎だ」
「そうですね」
相手の手に得物がある以上これまで通りには行くまい
砲撃とバインドで足止めするべきだろうが、
果たしてうまくいくか
「……ar……er……」
低くうなるような声で幽鬼が何かを呟く、
ただのうなり声にしては何か意味をもつような気がするが、
何を意味するのかが聞き取れない
だが、それに首を捻っている余裕はなさそうだと思い直し、
飛び掛ってきた相手にリボルバーシュートの突風をカウンターで合わせる
叩き付けられた風に多少足止めされながらも、突き出された棒切れがこめかみをかすめ、
スバルは肝を冷やした
幽鬼の魔力に犯されたその棒切れは歪みがそのまま凶悪な牙と化していた
加えて相変わらずの本能に任せた出鱈目な攻撃でありながら、
その実その動きは紛れも無く達人の槍捌きである
精神と技術がここまで乖離するなど聞いたことも無い
それともこれが無我の境地と言うものだろうか?
いずれにせよ、地上部隊の陸士が相手に成るような状況ではない、
陸士隊からの射撃魔法を器用に叩き落す相手にそう思いつつ、
プロテクションを文字通り盾にして突撃する
「……ar……er……!!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
防御魔法を刺し貫く相手の一撃を左腕に圧縮展開したトライシールドで強引にそらす、
かわしきれずにジャケットごと肩を抉られながら、
スバルは相手の顔面に向けて拳を振り上げた
「振・動・拳!!」
足元に広がる同心円状のテンプレート
環状魔法陣により加速圧縮されたエネルギーを振動させ共振現象で対象を破壊する
機動六課で鍛えた魔力圧縮技術と先天固有技能“振動破砕”を組み合わせた
魔導師にして戦闘機人であるスバルの奥儀とも言える大技である
その威力は堅牢さで知られる高町なのはの防御魔法を叩き割る程の威力を誇る
幽鬼の黒い兜を正面から捉え、大きく吹き飛ばす
盛大に転がり、それでも立ち上がる相手に歯噛みする
―――左腕が使い物にならない
肩の肉が抉り取られ、強化フレームがむき出しと言う有様である
神経系のケーブルが断線したのかピクリとも動かない
こうも平然と立ち上がられては腕一本の犠牲は割に合わないと思いつつ、
何とか右腕一本で構えなおしたところで―――
『スバルさん!』
「キャロ?!」
突然の念話にスバルは周囲を見渡した、
今の声はキャロ・ル・ルシエだ、応援というのは彼女なのだろうか?
バサリと風を打つ音が聞こえ、幽鬼が知らず上を向く
上空に広がる見覚えのある白銀の翼から青い影が舞い降りる
それがエリオではない事に首を捻るスバルだったが、
それよりも驚いたのが、その青い影―――長身の男だ―――が、
両の手にそれぞれ一つずつ槍を持っていたことだ
「この相手はコチラで引き受けよう」
振り返った男の涼しげな顔にガラにも無く見とれてしまい、
スバルは大きく頭を振って気持ちを整えた
なんだか酷くドキドキする、そんな状況ではないし、
そもそも自分はそういった事柄には疎い方だ、精々男が美系だなと思うぐらいである
一々反応するのは返って変だとスバルは思った
「あ、所属とか……は?」
「民間協力という扱いになっている、
詳しいことは後にさせてもらうが―――」
言いながら向かってきた幽鬼の振るう鉄棒を右の紅い槍で一閃する
「先ず、私のことはランサーと呼んでもらおう」
「あ、はい
―――その、スバル・ナカジマです」
なんだか場違いな反応をしている自分にやや首を捻りつつ、
他の陸士達のいる辺りまで後退する
フリードと共にそちらへ合流したキャロが自分の姿に息を飲んだのを見て、
スバルは改めて自分の様子を見直した
「あはは、結構ひどいね」
左肩は言うに及ばず、全身傷だらけである
我ながら良くやったものだ
「あ、でも―――」
あの人一人で大丈夫だろうか?
そう思って見てみると、ランサーと名乗った男と幽鬼との戦いは、
ランサーが優位に事を運んでいた
右手に構える紅い槍が閃くたびに幽鬼の持つ棒切れが小さくなっていく、
幽鬼の魔力に覆われ強化されているはずの歪な金属の塊を飴細工のように刻んでいく
槍の鋭さや彼の技量だけではない
紅い槍が棒切れに触れるたびに幽鬼の魔力が打ち消されているのが理由である
それに加え左手で振るわれる黄色い短槍が右の紅い槍の死角を巧みにカバーしている
単純な筋力や技量では決して出来ない動きについ見惚れてしまう
「凄いなぁあの人」
幽鬼の方も決して完封されているわけではない、
闇雲なだけでいながら精密なその動きはいまだ健在で、ランサーの優位自体は綱渡りだ
だが、幽鬼の力を肌で感じていた分だけ、ランサーの動きはスバルには驚きだった
「はあぁ!!」
幽鬼の得物を打ち払い、続けざま繰り出した左の短槍が額に叩き込まれる
先の振動破砕の影響もあったのかその一撃で兜が砕け散った
「素顔を見るのは初めてだが―――随分とした貌だな、バーサーカー」
元はそれなりに美形であったのだろう、
だが狂気に歪み、内より噴出す憎悪に壊され
眼窩の落ち窪んだ狂貌には在りし日の面影を感じろという方が難しい
「……Ar……thur……」
ようやく意味のある言葉をつむぐと共に、幽鬼を覆う霧が晴れて、
磨けばさぞ見栄えのするであろう漆黒のフルプレートメイルの拵えが露になる
「成程、騎士王と縁のある騎士だったか、
ならばセイバーに執着したのも頷ける」
幽鬼の言葉を聞き取って、納得顔で頷くとランサーが槍を構えなおす、
それを聞いて、幽鬼が繰り返していたのが人名だとスバルは納得した
彼の言う通りなら、この幽鬼―――ランサー曰くバーサーカーは、ある王に従っていたか、
もしくはその王と戦っていた騎士ということだろう
元々は高名な人物だったのかもしれないと思いかけ、スバルは気が付いた
―――じゃあ、なんで丸腰なんだろう?
ミッドの魔導師やベルカ騎士に代名詞たるデバイスが在るように、
地球の英雄にもその代名詞たる武器があるはずだ
何より露になった幽鬼の鎧は騎士と呼んで差し支えない代物である
ならば何故、剣のひとつも帯びていないのか?
確かにあの異能は脅威ではあるが、自分に合った武器を持った方が強いはずだし、
そう都合よく武器が手に入るとは限らない
―――もしそれが、持っていないのではなく、抜いていないのだとしたら?
其処まで思考が行き着いたところで、スバルは反射的に飛び出していた
リボルバーナックルに残っていたカートリッジを全弾ロードし、
二人の間に割って入ろうとして―――
鮮血が飛び散り、黄色い短槍が彼女のわき腹を貫いた
最終更新:2010年02月04日 08:31