第10話「絆へ」

訓練所周辺

夜も更け、辺りを暗闇と月明りが支配する中、なのははモニターを見ながら一人黙々とキーボードを叩いていた。
その顔には何時もの明るい表情は無く、何処か沈んだ感じを漂わせていた。

「なのは」

「フェイトちゃん……」

そんななのはに心配そうな顔をしたフェイトが声を掛けてきた。
六課隊舎へと戻る道をなのはとフェイトは歩きながら話をする。

「さっき、ティアナが目を覚ましてね、スバルと一緒に謝りに来てたよ」

「うん…」

「なのはは訓練場だから明日朝一で話したらって伝えちゃったんだけど…」

「うん…ありがとう」

暗い表情を浮かべながら返事をするなのは。

「でもごめんね…。
私の監督不行き届きで…。
フェイトちゃんやシグナムさん、ライトニングの二人に式まで巻き込んじゃって…」

「ううん……私は全然。
シグナムも気にしてないし、心配しないで…」

フェイトが慌てた様子で否定する。

「皆の様子どうだった……?」

フェイトに不安な表情で聞くなのは。

「ティアナ達は、やっぱりまだご機嫌斜めだったかな…。
エリオ達は全然気にしてないし、式もシグナムと一緒に自主練してるから……」

「そっか……」

少し考え込みながら返事をする。

「まぁ…、明日の朝、ちゃんと話すよ。
フォワードのみんなと…」

そう言った後、二人はこの話しを終わりにした。
明日やこれからの訓練についてや、他愛もない話しをしながら六課隊舎へと入って行く。
そしてちょうど玄関口をくぐったところで、館内に警報がなり響いた。





六課管制室

管制室では対応の検討が行われていた。
本来ガジェットはレリック、又はレリックと誤認したロストロギアを発見した場合に出現する。
しかし……

「航空2型4機編隊が3隊、12機編隊が1隊」

「発見時から変わらず、それぞれ別の機動で飛行中です」

現状を報告するルキノ達。

「場所は何にも無い海上、レリックの反応もなければ付近には何もない」

モニターを見ながら呟くはやて。
そう、今回はガジェットが出現した地域には、レリックの反応やロストロギアの反応が全く無いのだ。
これが普通にレリックを強奪しようとしていたならば、隊長陣やフォワードメンバーを投入すれば
事は簡単。
しかし、今回の場合は明らかに罠、又は何かの思惑があるとしか思えない。
はやてはそこに疑問を持っていたのだ。

「テスタロッサ・ハラオウン執務官、どう見る?」

フェイトの方に振り返りながら、はやては状況の見解を求めた。

「犯人がスカリエッティなら、こちらの動きとか、航空戦力を探りたいんだと思う」

はやての問いに、フェイトは現状での自分の意見を述べる。

「うん、この状況なら、こっちは超長距離攻撃を放り込めば、済むわけやし」

「一撃でクリアですよ~」

はやての考えにリィンが賛成する。

が……

「しかし、それでは向こうにデータをくれてやるようなものです。
向こうは壊れても良い機械が破壊される代わりに貴重な戦力データが手に入る…。
損得以前の問題になりますね…」

そこにシグナムが超長距離攻撃の意見を否定する。
指摘された通り、はやても内心それには同意だった。

「まぁ、実際この程度のことで隊長達のリミッター解除ってワケにもいかんしな…。
高町教導官はどうやろ?」

「二人の言う通り、こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに今までと同じやり方で撃退、かな?」

なのはの意見に、はやてとグリフィスは頷いた。




機動六課へリポート

ヘリポートに集まる隊長達とフォワード組。

「今回の任務は空戦だから、出撃は私とフェイト隊長、ヴィータ副隊長の三人」

「皆はロビーで出動待機ね」

「そっちの指揮はシグナムだ、留守を頼むぞ」

なのは達がフォワード組に指示を出す。
エリオとキャロははっきりと、式も何時ものように気怠そうに返事をする。
スバルはいつもの元気がなく、ティアナは間を置いて小さく返事をした。

「あぁ、それからティアナ……?」

なのはに呼ばれ、驚きながらも静かに顔を上げるティアナ。

「ティアナは出撃待機から外れておこうか……」

その言葉に式以外のフォワードメンバーが驚きの表情を浮かべる。
実際、今日のようなことがあったので出撃は無理と判断したのだろう。

「そのほうがいいな…。
そうしとけ」

ヴィータもなのはの意図を察知し、ティアナに休むように促す。

「今夜は体調も魔力もベストじゃないみたいだし…。」

なのはとしては気を使って言ったつもりなのだろう。
しかし、当のティアナはそうは受け取らなかった。

「言うことを聞かないやつは…使えない…ってことですか?」

声の調子を落とし、低い声音でティアナは言う。
なのはもさすがにあきれたのか、気に触ったのかはわからないが、表情を厳しくしてティアナの目を見る。

「はぁ…、自分で言っててわからない?
当たり前の事だよ?
それ…」

「現場での指示は聞いてます。
教導だってサボらずやってます」

ヴィータがティアナのもとへ眉間に皺をよせ歩を進めようとするが、なのはがそれを制した。
目に涙が溜って行くティアナ。

「それ以外の場所での努力まで教えられた通りの努力じゃないと駄目なんですか?
私は…!
なのはさんたちみたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルも、式みたいな特殊な存在でもない……」

不安な表情でティアナを見守るスバル、エリオ、キャロ。

「少しくらい無茶したって!
死ぬ気でやらなきゃ強くなんてなれないじゃないですか!!!」

なのはにくってかかるティアナ。
そんな二人の間にシグナムの腕が割込む。
その腕はティアナの胸ぐらを掴み寄せ、一気に殴り飛ばした。
ティアナの体は呆気なく吹き飛び、スバルは駆け寄り助けようとする。

「だだをこねるだけの馬鹿はなまじ付き合ってやるからつけ上がる」

早く行けとシグナムはなのはたちを促し、ヴィータに引きずられなのはもストームレイダーへと乗り込んだ。
ヘリが飛び立つのを見送ってからシグナムが言う。

「目障りだ、いつまでも甘ったれてないでさっさと部屋に戻れ」

倒れているティアナを見据えながら言い放つシグナム。
そのストレートな物言いにエリオとキャロはフォローを入れようとする。

「シグナム副隊長」

スバルがシグナムを見据えながら名前を呼ぶ。

「命令違反は絶対ダメだし、さっきのティアの物言いとか、それを止められなかった私は、確かにダメだったとおもいます」

スバルの言葉に顔をあげ、反応するティアナ。

「だけど・・・自分なりに強くなろうとするのとか!きつい状況でも、何とかしようと頑張るのって、そんなにいけない事なんでしょうか!!」

スバルの言葉を黙って聴くシグナム。

「努力や強くなろうとすること事態は別に悪いことじゃない…」

しかし代わりに答えたのはシグナムではなく今まで黙って光景を見ていた式であった。

「だけど、ティアナに関しては別だ。
こいつの行動は努力でも何でもない、ただの破れかぶれな行動だ」

式のストレートな物言いに黙り込むスバル達。

「なっ…なにもそんな言いかたしなくても「事実……」」

スバルの言葉を遮り式は続ける。

「ティアナ、お前はあの時魔力刃を受け止められた後、なのはに目掛けてそれなりの威力がある攻撃をやろうとしてただろう?
隣にスバルがいるのを分かってた筈なのにね…」

その言葉にハッとするティアナ。

「もし、本当に仲間を失いたくなくて、今まで鍛練や努力を続けてきたならあんな行動はとる筈もないしできる筈もない。
我を忘れて、感情に流されるままの行動、それがお前の努力の結果なのか…?」

あの時の状況を思い出すティアナ。

(そうだ……あの時…もし撃ってたら…スバルも…)

現に、あの時のスバルはなのはのバインドの影響で反応しきれていなかった。
もし放ったらスバルも一緒に、下手をしたらスバルだけ巻き込まれていたに違いない。
そう考えると、急に恐怖感がティアナを支配する。

「確かに、戦術の幅を広げるというお前の考えも理解できる。
これからの予測できない状況に対処するためにいずれやることだし必要なことだからな。
だけど、お前の得意分野の中距離での精密射撃も満足に出来ない内から、そんなことをしてもロクな成果は出ないと思うぜ?」

式の言葉に、ヴァイスに言われたことを思い出す。
『無理な詰め込みで、変なクセをつけるのも良くねぇぞ』と。

「式の言う通りだよティアナ……?」

突然の声に振り向くと、そこにはシャーリーが立っていた。

「皆、ロビーに集まって、私が説明するから…。
なのはさんのことと、なのはさんの教導の意味を…。」



機動六課隊舎ロビー

シャーリーはロビーについてからずっとキーボードを叩き続ける。
その横にはシャマル、シグナムが座り、向かい側にスバル、ティアナ、キャロ、エリオ、式が座っていてる。
沈黙続く中、シャーリーが口を開いた。

「昔ね、一人の女の子がいたの」

モニターに映るその女の子は9歳の頃の高町なのはだった。
魔法も何も知らず、普通に学校に行き、家族と幸せな日々を過ごす筈であった一人の少女。
今では想像すらつかないなのはの姿。

そしてシャーリーは説明をし始めた。

PT事件によりなのはの人生は大きく変ったこと。
闇の書事件の時のなのはの敗北。
そして勝つために選んだ、当時は安全性の危うかったカートリッジシステムの使用と体にかける負担を無視し、限界を突破した出力を出そうとするエクセリオンモード。

「だれかを救うため、自分の思いを通す無茶をなのはは続けた」

映像を懐かしむように見ながら言うシグナム。

「だが、そんなことを繰り返して、体に負担が生じない筈もなかった」

「事故が起きたのは…入局2年目の冬」

悲しそうな顔で話し始めるシャマル。

「異世界での捜査任務での帰り、不意に現れた未確認体。
いつものなのはちゃんなら何の問題もなく、仲間を守って何事もなく終わる筈だった。
だけど…溜まっていた疲労、今まで続けてきた無茶が、なのはちゃんの動きをほんのちょっとだけ鈍らせちゃった。
その結果が…これ…」

そう言い、キーボートのボタンを押すシャマル。
すると体全体を包帯に包まれ、ベッドに寝かされたなのはの姿が映し出された。
その光景に唖然とするスバル、ティアナ、エリオ、キャロ。
流石の式もこの映像を見て顔をしかめていた。


「もう飛べなくなる、立って歩けなくなる…そんなことを聞かされてどんな気持ちだったか…」

シャマルが目を臥せる。

「無茶をしても、命をかけてでも譲れぬ場は、確かにある。
だが、ティアナ。
お前がミスショットをした場面は仲間の安全や、命をかけてでも、どうしても撃たねばならない状況だったか?」

シグナムの言葉にハッとするティアナ。

「訓練中のあの技は一体誰のための、なんのための技だ?」

顔を伏せ無言で唇を噛み締める。

「なのはさん…、自分と同じ思い…させたくないんだよ…。
だから、無茶なんてしなくていいように、絶対絶対、皆が元気に帰ってこられるようにって…。
本当に丁寧に…一生懸命考えて教えてくれるんだよ?」
震えているシャーリーの声に皆が沈黙する。




訓練所周辺

なのはの過去と教導の意味を教えられた後、ティアナは一人で色々と考え込んでいた。
シャーリーが言いたかったこと、無茶をし過ぎればいずれその負担が体に現れ大きな失敗をすることになる。
それは自分の頭の中では分かっているのだが、やはり自分が周りより劣っていると言う考えは捨て切れずにいた。

「何一人で考え込んでるんだティアナ……」

突然声を掛けられ、おもわずその方向に顔を向ける。
そこにいたのは、相変わらず着物に赤い革ジャンという出で立ちの式が立っていた。

「別に……今日色々なことがあったから頭を整理してるだけよ…」

シグナムに殴られた時に言われた言葉を思い出し、ティアナは式の顔を見れずそう言った。

「そうか……」

式はそう一言呟いた後、ティアナから少し離れた位置に座った。
少しの沈黙が流れた後、式が口を開いて質問をした。

「前から気になってたんだが……お前は何で自分の事をいちいち凡人と決め付けるんだ?」

質問を聞いた後、ティアナはポツリポツリと少しずつ自分の気持ちを話し始めた。
一通り話しを聞き終えた後、式は少し呆れた顔でこう言い放った。

「お前バカか?」

突然の罵倒にティアナは怒るのを通り越して、あっけらかんとしていた。

「普通に考えてみろ。
もし本当にお前が凡人で、才能がなくて、何の突出した才能が無かったりしたら、エース揃いの機動六課に誘われたりしたか?
誘われないだろ?
それに、お前は今は射撃と幻術しか能が無いって言ったよな。
なら、その射撃や幻術を今は余計なことを考えずにひたすらに磨いていけ。
そうすればお前は強くなるし、次のことを学ぶ土台がしっかりできるから、更に上を目指すこともできる。
何時ものお前なら到底考えられることだと思ったんだけどな」

式の言葉を黙って聞くティアナ。

「それにオレの世界じゃ、凡人でも時間と経験で強くなった奴はいる。
だから、お前も焦らずにそうしていけ……
さてと……オレの話しは終わりだ。
後は、そこにいる教導官にでも聞いてくれ」

そう言って二人が後ろを振り返ると、任務を終えたなのはが微笑みながら立っていた。

「それじゃあオレは帰「ま、まって…!」」

帰ろうとする式を引き止めるティアナ。

「あ・・あの・・・ありがとう」

俯きながらお礼を言うティアナ。

「別に礼を言われるような事はした覚えはないぜ」

相変わらずぶっきらぼうなな返事をしながら隊舎へと戻る式。
その姿を茂みに隠れていた4人はクスクスと笑いながら見ていた。




早朝の訓練所

「しっかし、教官ってのも因果な役職だよな~。
面倒な時期に手をかけて育ててやっても、教導が終れば、皆勝手な道に行っちまうんだから」

「まぁ、一緒にいる期間があまり長くないのはちょっと寂しいけどね」

キーボードを捜査する手を止め、ヴィータの方を向き答えるなのは。

「まぁ、そのあまり長くない期間にできる限りの多くのことを教えるのがお前たちの仕事だろ」

シグナムの言葉に微笑みながら頷くなのは達。

「「「「おはよ~ございま~す!!!」」」」

大きな声で挨拶をしながらスバル達が走ってくる。
式は相変わらず眠そうな顔をしているが。
そんなスバル達の姿を見て、なのはは誓う。

【何があっても、誰が来ても、この子達は落させない。
私の目の届く間は勿論、いつか一人で、それぞれの空を飛ぶようになっても】

こうして、いつも通りの早朝訓練がはじまる。

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最終更新:2009年02月21日 18:10