番外編「烈火の将VS蒼眼の死神」

模擬演習場

機動六課フォワードメンバーが休暇をもらう三日前。
午後の訓練の総まとめとしてフォワードメンバー対隊長陣達による模擬戦が行われていた。
最初はエリオ&キャロのライトニング分隊VSスターズ分隊隊長なのはで行われ、結果は当然ながらなのはの勝利。
今はスバル&ティアナのスターズ分隊VSライトニング分隊隊長のフェイトの戦闘が行われ、模擬戦も大詰めに向かい始めている。

「はぁぁぁぁぁ、リボルバーシュート!!」

ウイングロードを足元に展開し、愛機リボルバーナックルのカートリッジをロードするスバル。
向かう先は空中にてこちらを見つめているフェイト。
デバイスから空薬莢が排出され、ナックルスピナーによって発生した衝撃波が勢い良く打ち出される。
それを軽々と避け自身の周囲に金色の魔力スフィアを展開するフェイト。
その全照準をこちらに突撃してくるスバルに向ける。

「クロスファイヤー、シュート!!」

そうはさせまいと廃ビル郡の中に潜んだティアナが、カモフラージュを施し周りに展開していた魔力弾を一斉掃射した。
フェイトの逃げ場を奪うかのように発射されたそれは並の魔導師であればチェックメイト確実の一手。
だがフェイトも本局では指折りの実力に入る歴戦の魔導師。

『sonicmove』

自身に向かってくる魔力弾全てを軽く一瞥し、神速の名を持つ加速魔法で弾丸の雨を潜り抜ける。
その最中、先程スバルを迎撃する為に展開していたスフィアの半分をティアナへと向ける。

「プラズマランサー、シュート!!」

雷の矢と化した五つの高速直射弾がティアナへと降り注ぐ。
先程の攻撃に残り全ての魔力を消費し、長時間の戦闘によって体力が皆無だったティアナは避ける暇も無くランサーの雨に呑まれた。

相棒の倒れる姿を横目で見ながらも、決死の攻撃によって作り出された隙を無駄にしない為スバルは駆け抜けるスピードを一層上げる。
狙うは死角からの一撃必殺。
ウイングロードをフェイトの下方に展開し、それを駆け抜けながらカートリッジを二発ロードする。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

リボルバーナックルに高圧縮された魔力を付加、更に加速によって生じたエネルギーを上乗せし、こちらの接近に気付いていないフェイトへと叩き込む。
だが咄嗟に接近を察知し、即座にバルディッシュで真正面から迎えうつ。

バチバチバチッ!!

魔力と金属が激しくぶつかり合う音が演習場中に響き渡る。
その光景を固唾を飲んで見守るエリオ、キャロ。

「ぐっ………!」

その最中徐々にパワー負けし始めたのか、徐々に後ろに押され始めるスバル。
本人もかなりキツいのか苦悶の表情を浮かべていた。

バキンッ!!

まるで鉄の棒がへし折れたような音が周りに鳴り響く。
その直撃、フェイトによって弾き飛ばされたスバルがウイングロードから落下する。

「うわぁぁぁぁ……ってあれ?」

悲鳴を上げながら落下するスバルを優しく抱き留めるフェイト。

「大丈夫スバル?」

「あっ……はい。
ありがとうございますフェイト隊長」

地上に降り立ちスバルを降ろすとフェイトはにこやかに模擬戦の終了を告げる。
それを聞きガックリと肩を落とすスバルであった。




ランサーの直撃を受け気絶し、タンカで医務室へと運ばれるティアナ。
それを見送った後、自身の相棒であるデバイスを掴み演習場へと向かっているシグナムがいた。

「なんか嬉しそうに見えますねシグナム副隊長」

「まぁ、当然なんじゃない?
シグナム副隊長は戦闘マニアだし、式との模擬戦楽しみにしてたしさ~」

「そう言えば前回の時はティアナさんの一件で中止になりましたものね」

そんな感じで屋上に上がって来たスバルと話す、エリオ、キャロ。
彼女らは前々から今回の模擬戦を見るのを楽しみにしていた輩だ。
六課の中で近接戦の実力はフェイトと一、二を争うレベルのシグナムと式の対戦なのだ。
これを見るのを楽しみにしないで他に何を楽しみにすれば良いと言うのだ?
シャーリーやフェイトも屋上に上がって来て観戦しようと適当に座る。

「副隊長と一対一の模擬戦だけど緊張とかしてない式?」

近くにて軽く準備運動している式に心配そうな顔で声を掛けるスバル。

「何でこんなことで緊張しなきゃいけないんだ。
本当の殺し合いをするならまだしも、たかが模擬戦だろ?」

「それはそうだけど……」

軽く呆れるような顔で話す式にスバルは少し困ったような声で答える。
そんなスバルの肩を叩きながらいつの間にか復活していたティアナが苦笑ぎみに「何を言っても無駄よ」と話す。
と言うか回復するの早いなオイ……。
そんな二人を無視しながら式は模擬戦場へと向かう。それと入れ替わるように入って来たなのはがモニターを展開しながら準備をする。

「ねぇ、なのは。
今回の模擬戦、なのははどちらが勝つと思う?」

フェイトがフィールドの設定をしているなのはに近寄りながら話す。

「う~ん……私は五分五分の戦いになると思うな。
シグナムさんと式はどちらもガチガチの近接戦タイプ。
となると勝負の決めどころは読み合いと純粋な技量の差だからね。
両者ともそのレベルは殆ど同じだから難しいところだよ……」

「そっか……」

なのはが苦笑しながら話すのを、お互いに対峙するシグナム達を見ながらフェイトは短い返事を返した。

「フィールド修復、及び再設定完了……。
二人とも~、何時でも始めてOKだよ」

その言葉を聞き、お互いに向き合って待機していた式とシグナムが各々のデバイスを発動させる。
シグナムは何時もの赤い騎士甲冑を身に纏いレヴァンテインを鞘から抜き構える。


式も自身のバリアジャケットを装備し、ディレクティを逆手に構えながらシグナムを見据える。

「どこまでやれるか見せてもらうぞ両儀……」

「ハッ……それはこっちの台詞だ。
悪いけど勝たせてもらうぜシグナム……」

自身の体を静かに戦闘のものへと切り換えて行く両者。
お互いに考えるのは模擬戦などと言う生易しいものではなく、限り無く殺し合いに近い真剣勝負。
その雰囲気は両者の周辺の空気と浸透していき、周りで見学しているなのは達隊長陣やフォワードメンバーにも感じ取れる程となっている。

「それではレディー……ゴー!!」

模擬戦開始の合図。

それと同時に式は地面を疾走し、先手必勝とばかりにシグナムへと向かう。
両者の間を埋めていた距離は一瞬で縮まり、右手に持たれたナイフが胴体を袈裟斬りにしようと放たれる。
だが振り抜かれたそれはシグナムへと届かず、金属同士がぶつかりあうとき特有の音を響かせながらレヴァンテインによって防がれる。

「ほぅ……流石はと言ったところか……」

「その余裕が何時まで続くか……なっ!!」

式は鍔競り合いの状態から力任せに振り抜き、そこから右、左と鋭い斬撃を次々と繰り出していき、それを回避していくシグナム。
そのお互いの動きは激しさがありながらも滑らかさや華麗さがあり、一切の無駄がない。
式の武器はナイフ、それにたいしてシグナムの武器は両刃剣。
普通に考えればそれぞれの武器の特性や威力、リーチなどの点で式はシグナムよりかなり部が悪い。
それに今回は模擬戦と言う事もあり化け物レアスキルである「直死の魔眼」は魔法にたいしての使用以外は禁止されている。
これだけの要因が揃えば「普通」の人間ならば、ヴォルケンリッターの将であるシグナムに勝つのはまず不可能だろう。
だが、式はその「普通」には到底当てはまらない。

「………っ!!」

自身の首目掛けて放たれたディレクティをレヴァンテインで受け止めたシグナムは微かに驚きの声を漏らした。
式の腕から放たれた一撃が予想以上に重いのだ。
本来ナイフという武器はその性質上、西洋剣のような重さを乗せた一撃を放つのは困難に近い。
なので大抵の場合、その軽さを生かし相手の急所や死角に素早く、かつ連続で攻撃を当て仕留めるのがセオリーとなっている。
だが式の場合は技量の高さもあいまって攻撃の一つ一つに異様なキレがある上に、ナイフとは思えないような重さの一撃を放ってくる。
そのせいかシグナムは最初に自分が思い浮かべたリズムが組めず、式のペースに徐々に呑まれてきていた。

「ちっ………!」

式の斬撃を弾き返し、シグナムは一度体制を立て直す為に空へと上昇した。
自分のリーチから逃れられ式は舌打ちをした。
アクセルフィンを使えば直ぐに追撃はできる。
だが以前使用した時に感じた、あのフワフワした感触が薄気味悪くて使う気にはなれなかった。
もう一つ手はあるのだが「アレ」はまだ不安定な状態なのでいざという時にしか使わないと決めていた。

「なかなかだな両儀。
正直始めから押されるとは考えていなかったぞ……」

「お前の強さは自分の目で充分に分かっているからな。
そんな奴に本気を出さないのは失礼だろ?」

その言葉にシグナムは微かに笑った。

「なるほど……ならば私も本気を出すとしよう。
先程のようなにはいかなくなるぞ?」

「上等だ。
御託を並べてないでさっさと来い……」

シグナムを挑発しながら、再び構えを取る式。
その直後、レヴァンテインを構えたシグナムが一気に降下をし始める。

『ダガーバレット』

式の周囲に六つの白銀の魔力スフィアが展開する。
それがナイフの形へと変化し、一斉に目標へと放たれた。

ダガーバレット
フェイトのフォトンランサーを式流にアレンジを加えた高速直射弾だ。
それを軽々と回避し、更にスピードを上げながらシグナムは式へと接近していく。

『ダガーバレット、アサルトシフト』

再び白銀の魔力弾が放たれるが、今度は数が十と多いうえに速度が早い。
シグナムはそれすらも軽々と避けるが、一つだけ直撃コースの物が迫る。
その弾を正面から真っ二つに切り裂く。
が、その直後シグナムの体を覆う程の爆発がおこった。

「えっ……今のなに!?」

スバルが驚きの声を上げる。
エリオやキャロも何がおこったのか分からないと言った表情を浮かべている。
ティアナは何か心当たりがあるのか、微かに納得したような表情を浮かべている。

「今のは近距離迎撃用の弾だね。
元々展開してから放つまでの時間が短いダガーバレットに、速度上昇と炸裂効果を付加したタイプ。
その分威力と射程距離が少し犠牲になってるけどね」

なのはが今の魔法について説明する。
人目見ただけで看破するとは流石はエースオブエース、魔王なのはさまだ。

「な、何だろう……。
今一瞬なのはさんからどす黒いオーラが……」

スバルが少し怯えた表情で静かに呟く。
ちっ……作者の語りを無意識に感じるとは流石はなのはだ。

模擬戦の方に視線を戻すとシグナムの周辺は煙が立ち込めていた。
式はあの程度の攻撃でダメージを与えたとは思っていない。
さっきの弾はシグナムの足を少しでも止める為に放った物だ。
いくら式とはいえあの高さからの斬撃を防げば少なからず腕が痺れて戦闘に支障をきたすだろうし、防御魔法を展開したとしても割られる可能性があったからだ。
なのでその目的は果たした。
あとはどうやってシグナムを上空から引きずり下ろすか……。
そう思い空を見上げる。
すると立ち込める煙から赤い『何か』が飛び出して来た。
いや、『何か』ではない。
それは紛れもなくレヴァンテインを構えながら突っ込んで来るシグナムだ。

「チッ……!?」

咄嗟にディレクティで斬撃を受け止めるがその衝撃の強さにおもわず顔をしかめた。

「あの程度の攻撃で止められると思ったのか?
私も甘く見られたものだな!!」

シグナムの容赦ない連撃が次々と放たれる。
必死にディレクティで受け流すが、捌ききれないのか微かに焦りの表情を浮かべている。
先程のお返しとばかりに繰り出される剣は予想していたといえ、生半可な対応ではとても耐えられない。
もしこれが実戦であり、直撃なんてすれば確実にあの世行きだ。
だが式とて剣の技術を磨き上げてきたプライドがある。
このまま終わるつもりはないし、負ける気なんてサラサラない。

(だったら……やる事は一つだ!)

焦りを感じていた体に活をいれ、ほぼ無意識と言って良い程に動いている自身の右腕に力をいれる。
受けに徹していては勝機は見出だせない。
なら、どうすれば良い?
簡単な話しだ、こっちからも攻めていけば良いだけの事だ。

シグナムの連撃を真っ向から弾き返し、こちらからも斬撃を放っていく。
ナイフと剣が激しくぶつかりあう度に幾つもの甲高い音が周りに響き渡る。
その光景にフォワードメンバーはただ唖然とするしかなかった。

シグナムの一撃を無理矢理弾き返し、バックステップで一度距離をとる。
着地と同時にカートリッジをロード、ディレクティの刃が白銀に輝くのを確認しるとシグナムに向けて一気に振り抜いた。

「ルフトメッサー…」

二発の風の刃が目標に向かって放たれる。
式の習得している魔法の中でも特にスピードと威力に秀でているルフトメッサーは一瞬でシグナムを捉える。
が、それとてシグナムの驚異的な反射神経の前では役に立たず、剣の一振りで弾き返される。
だが、それで良い。

「ディレクティ、カートリッジロード!!」

「yes master」

弾き返された直後、再びカートリッジをロードする式。
ディレクティの刃に高密度に圧縮された魔力、更にその上に同じように圧縮された大気を付加させる。
それにより日本刀と同じ長さ程の白銀の刃が現われた。
大気を圧縮させた刃の影響か式の周囲にはカマイタチが出現し、廃墟が次々と切り裂かれていく。
シグナムはそれを遠目で確認し、式が何をしようとしているのか直ぐさまに察知した。

「レヴァンテイン!!」

「jo wol!!」

カートリッジがロードされ、レヴァンテインの刃に灼熱の炎を纏う。

「紫電……」

「風牙……」

お互いに構えをとり、放とするのは必殺の一撃。
この一撃で勝負が決まる、それを無意識に感じ取ったのかなのは達も固唾を飲んで見守る。

「「一閃!!」」

両者同じタイミングで地面を駆け、甲高い音を発しながらほぼ一瞬で相手と剣を交じあわせる。
レヴァンテインの炎が式の頬を焼き、同じようにディレクティの刃から発した風がシグナムの体を傷付けていく。
二人の魔力を乗せた熱風がフォワードメンバー達のいる場所まで届き、攻防の激しさを物語る。

そして……

「決める……!」

式が鍔競り合いの状態から投躑用の小刀を即座に取り出す。
それにディレクティと同じ要領で魔力付加を施し、シグナムへ刃を向け切り裂く。

「ぐっ……!?」


予想外の攻撃によりシグナムは体制を崩し、これ以上のダメージを防ぐ為にディレクティを切り払い咄嗟にバックステップで回避する。
が、それを逃がす式ではなく空いた間合いを一瞬で詰め、ディレクティの刃をシグナムの首へ突き付けた。

「………っ!」

「チェックメイトだ……」

静かに自身の勝利を相手に告げる。
シグナムも負けを認めたのかレヴァンテインの刃を納め、戦闘体制を解く。

「私の負けだ両儀」





食堂

午後の模擬戦を終えたシグナムとヴィータ意外の隊長陣とフォワードメンバーは夕飯を食べていた。
因みに今日の夕飯は豪華でバイキング形式となっている。

「それにしても今日の模擬戦は凄かったよ式~。
シグナム副隊長と互角に闘うし、おまけに勝っちゃうなんてさ♪」

スバルが皿に大量……と言えるかどうかすら怪しい程の量の料理を乗せ、嬉しそうに呟く。
その言葉を先程から何回も聞いている式は半ば諦め顔の表情で半分聞き流している。
さっさと自分の分の料理を皿に乗せた後、席に座り食べ始めた。

「だけどこれは本当に凄いことだよ式?」

「そうだよ。
まだ魔法を使い始めて一ヵ月しか立っていないのにシグナムに勝つなんて普通なら考えられないことなんだから」

なのはとフェイトが次々と褒めるが式は謙遜でなく本心からの言葉を述べた。

「だけど実際は結構危なかったんだぜ?
シグナムが一回空中に退避した時、あのまま空から攻撃されてたら対応しようがなかったし、斬り合いの時だって正直ヒヤヒヤしたぜ」

「あれ?
だけど式さんって空戦適性ありましたし、飛行魔法も習得してましたよね?」

エリオが先程の会話から感じた疑問を投げ掛け、式の事情を知っているティアナが代わりに説明をした。
その理由を聞き納得したような顔でエリオは頷いていた。

「だけど式、これからは色々と覚悟した方がええで~?
なんてたってあのバトルマニアのシグナムを負かしたんや。
絶対に合うたびに模擬戦をやろうと言うやろうしね」

はやてがニヤニヤした顔で話すが当の式は無関心な顔で言い返す。

「だったらそのたんびに返り討ちにしてやるさ。
やるからにはこっちだって負ける気はサラサラないんだからな」

「お、流石は式。
言う事が違うやね~~」

はやてが茶化すように言うのをなのは達は苦笑しながら聞いていた。
だが式はこの言葉を言ったのを後で後悔する事になるのはまた別の物語である。




後日談パート2

「そうそう式、明日の午後の模擬戦は私とやるからね宜しくね」

「別に構わないけど……。
明日は確かオレとフェイトでやるんじゃなかったのか?」

何故か特大の笑顔を浮かべながら言うなのはに多少の不気味さを感じた式である。

「フェイトちゃんはライトニングの二人とやる事になったんだ。
だから式は私とだよ」

「……取り敢えず分かった。
それじゃオレはそろそろ休ませてもらうぜ」

なのはの言葉を聞いた後、その場から逃げるように部屋に戻っていった。
その姿をフォワードメンバーは首を傾げながら見ていた。

因みに翌日の模擬戦は以前の禁句発言のお返しとばかりに、

「あはははは、スターライトブレイカーなの!!」

「幾ら何でも無理があるだろ!!」

などと、ひたすら逃げ回る式を何かしらを吹っ切ったなのはがスターライトブレイカーで狙い打つという苛め状態であった。
余談ではあるが、この模擬戦を見た全員が口を揃えて「破壊神なのは」という新たな異名を言ったそうだ・

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最終更新:2009年06月11日 12:34