「キャスター!」
「了解や」
「逃がすと思うか?」

三人の掛け声が屋上に響く。空へ舞い上がる女と飛び掛かる男。
男の赤い槍は鋭く薙ぎ払われる。空気を震わせるその横撃も標的は瞬時に
はるか上空へと逃げ切っていたため惜しくも空を切った。

「ちっ空を飛びやがるのか…」
「マスター逃げてええかな?」
「あれは多分3騎士のランサーよキャスターが正面から戦っても不利。
あいつの今の攻撃を避けられただけで上出来よ。キャスター撤退を許可するわ」

睨み合う三人の動きは決まった。逃げを決めた女らに対し青い男は―

「キャスターあの男…」
「…簡単には逃がしてくれんようやね。魔力が集まってきとる」
「逃げたいようだがこのままじゃ任務不達成なんでな…やらせてもらうぜ」
「…マスター、くるよ!」
「くらいな…突き穿つ…死翔の槍…!!」

赤き魔槍に多大な魔力が凝縮し、男はそれを大きく振りかぶると
魔槍を怒号とともに宙空へと投擲した。
大気を切り裂き轟音を発するそれはまるで戦車砲から発射された徹甲弾のごとし。
一般人なら瞬く間に粉々となり地上に別れを告げなくてはならないであろう代物。
けれど、この魔槍を受けたのは夜天の王と赤い悪魔。
簡単に墜ちるはずなど、なかった。三角形の魔法陣、古代ベルカ式のシールド魔法、それが魔槍の穂先を受け止める。

「っ…なんつー一撃や…」
「…キャスターもつ?」
「パンツァーシルトだけやと厳しそうやな…せやけどマスターだけでもなんとか下げられるように…」
「駄目よ!ここであなたを失うなんて選択肢はないわ令呪を使ってでも!」

はやての首に回していた腕を離し凜は右手を握る。

(主…私にお任せを)
「!?…ザフィーラ?」
「キャスター、何!?」

魔力の盾と赤い槍が凌ぎを削る後方1メートルではやては懐かしい声を聞いた。
自分と人生を共に歩んだ家族にして仲間…それを思い出す。

「マスター、令呪は必要ないよ」
「魔力の盾はもうもたなそうじゃない…キャスター何を考えて…」

パンツァーシルトは激しくぶれ、全体に亀裂が入り一部において槍の穂先が食い込んでいた。
それを支えるはやての表情も厳しく頬には汗がつたっている。
余裕などどこにもない状況。ただはやての口調だけが不自然なほど楽観的だった。

「おいで私の騎士…」

瞬間、もう一つの魔力光が発生した。

「うおおおおおお!」

光ともに現れたのは濃紺と灰の大男。はやてと魔槍の間に割って入ると新しい障壁を展開した。
この障壁こそが夜天の王の最大の守り。

「なんだと!?」

投擲したゲイボルクはあと一歩というところまでキャスターを追い詰めていた。
だが、突然現れた男によって宝具は押し返されランサーにとっては意外な展開となってしまった。

「やりやがる…ならな、ルーンで押し切ってやる」
「主!攻撃を!」
「うん!」
「キャスターいけるのね?」
「任せといてや、マスター」

屋上にて印を組むランサーと白き魔術光を展開するはやて。

「the rune might of Addition」

魔力が一帯に溢れ交錯する。
先に完成したのはランサー。槍を対象としたその魔術はさらに赤く魔槍を染め上げ、守護獣に襲い掛かる。
魔術に鳴動するゲイボルクは先程のはやての時同様ザフィーラの障壁を打ち抜き始める。

「うが、ぐ…ぅおおおぉ!」
「キャスター!」
「もう少しや…よし、詠唱完了。遠隔発生から切替、発生時間短縮……闇に沈め…デアボリックエミッション…!」
「なに!?」

球形の純粋魔力攻撃ははやてを中心瞬く間に校舎を包みこんだ。

「がぁ!…こいつは…やべぇ」
「もう、逃げられんよ完全に捕えた」
「ちぃ…だが貴様の相方は取らせてもらったぜ」
「!?」

魔法の発動に集中している間にゲイボルクはザフィーラの障壁を突破し
ザフィーラの胸に深々とその身を突き入れていた。

「主…あなたをまた守れてよかった…」
「ザフィーラ…ありがとう」

はやてに振り返るザフィーラは満足気に微笑むと姿を薄れさせそのまま静かに消滅した。

「キャスター…」
「ええんや、私達はいつでもつながっとるから、
感じられるから淋しくはない」
「…」

淋しくはない。そう言い張るはやての表情は凜から見ればやはり淋しげに見えた。

「あ…マスター」
「なに?」
「デアボリックエミッションのスファア内に入ってきそうな一般人がおる」
「……解除して」
「ええの?私はええけど」
「ここで一般人を犠牲に勝っても家訓に背くことになるもの」
「了解。青男さんは見逃すわ」

はやてが手をかざすと黒い魔力光は形を失いはじめ冬の夜の中に溶けていった。

「で、あの男は?」
「いないね。もしかすると解除する前に逃げられてたかもしれん」
「そう。ま、いいわ。ところで、校舎に被害はないのよね?」
「多分…」

その日、衛宮士郎は無事に家路についた。

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最終更新:2009年06月15日 19:20