「やはり―――なーんか違うんだよなぁ
 なあ、ライダー……一旦、落ち着く気はねえか?」

長物を横に振るい、ライダーを吹き飛ばして間合いを取る男が意外な提案を突きつける

後方にたたらを踏んでバランスを崩すライダー

すかさず身構えるが――
男は頭をぼりぼりと掻きながら、今一釈然としない様子

「何がしたのですか貴方は?」

「それが分かれば苦労しねえんだよ」

「発言が莫迦丸出しですよ…?
 頭のネジでも飛びましたか」

「取りあえずな、今したい事はある
 お前なんぞと組んで敵と戦えなんて抜かしやがった阿呆を
 頭のネジが飛ぶまで殴ってやりてえ」

「その時は私にも殴る場所を残しておいてくれませんか?」

まったく何の因果でいけ好かない奴と組んで戦わねばならないのか

一糸乱れぬコンビプレイを見せる強力な敵に対して
一挙一足が互いの足を引っ張るこちら側

これでは個々の戦力で上回っていようと勝てるものか
こんな命令をシャレ以外で下すボンクラマスターなど死んでしまえば良いのだ

「それだ――俺はな、自分トコからこの事を聞いた覚えが全くねえ
 覚えが無いまま戦ってきた……強烈に戦意を掻き立てる何かに従ってな」

それは考えるに不可思議な会話

どちらもてっきり相手のマスターが仕組んだ事だと疑っておらず
それに疑問すら感じぬままに敵と交戦し、相手に夢中になり
そして今の会話でも誰を殴れば良いのかいまいち分かっていないのだから

「お前はどうだ? ライダー
 あの餓鬼から何と言われてここに来た?」

「………」

槍を肩に抱えて途端に鋭い視線を騎兵に向け
探るような目つきで問いかける槍兵のサーヴァント

途端、噴き出した違和感
無言のままに長い髪を掻き揚げるライダーもまた、、

「………」

言いようの無い居心地の悪さに今更ながらに気づく

「――――はて、?」

「ケッ……俺の頭のネジが何だって?」

互いに顔を見合わせたまま、うーんと唸ってしまう

妙だ――
これではまるでノータリンそのものではないか

「確かに記憶、状況に不都合があるようです
 それは認めましょう」

ノータリンでなければ――意思を剥奪された傀儡だ

自分たちはひょっとすると
何か別の意図を持つ者の術中に既に落ちているのかもしれない

「まあ、それはこの戦いを終わらせた後で考えても遅くありません
 取りあえず私は――あのフェイトの元に早く戻ってやらなくては…
 あの身が私の蹂躙の爪を、今か今かと待ち焦がれているかと思うと――」

「えらくあの嬢ちゃんにご執心じゃねえか?」

「ええ―――どうやら一目惚れをしたようです」

言って唇を艶かしくペロリと舐め上げるライダー
美貌の元・女神のおぞましくも妖艶な仕草は
心弱い者が見れば一瞬で魂を持っていかれてしまうだろう

「イヤだねえ……本能が食欲にのみ直結しているやつは」

「粗野な野犬に極上の美酒を見つけた時の感動など理解できませんよ
 私の趣向など貴方にはどうでも良い事――違いますか?」

違わなくは無いが――
冬木の地でもこの女怪は気に入った人間(あくまで味覚的に)をストーカーしまくって
ノイローゼにしてしまった前科がある

グルメの貪欲さは他の追随を許さないというが……
犠牲になったのが、弓と長刀を扱う切符の良い淑女で密かにランサーも狙っていた良女だけに
それに関しては苦々しい思いを拭えない

「そんな事より気乗りのしないランサー……貴方はどうするのです?」

「ううむ…」

気乗りのしないどころか、さっきまでノリノリだったから始末が悪い

特にあの赤髪の騎士――
時間を忘れて戦いに興じる事の出来る相手などそうそういるものではない

心震える戦いは大好きだ
そこに余念を抱く余地は無い
しかし本来騎士が一番大事にしなければならないのは信念

誰がために
何のために戦うのか

それをいつまでもおざなりにするわけにもいかず
それを今まで考えてもいなかったという事実に今は壮絶な違和感を感じる

「まあ、いつもは敢えて考えないようにしてるトコあるんだけどな…
 何せウチのは性根が腐ってやがるから」

「奇遇ですね――私も大半は思考を切って行動していますよ
 ウチのも頭が腐っていますので」

他の家ではマスターとサーヴァントは大概、上手くやっているというのに……
恋の花を咲かせたり、、結婚しやがった奴までいるのに……

とんだ貧乏くじ、、、
顕現した時から不幸が決まっているなんてあんまりだろう
額に手を当ててくっ…と、地面に涙を落とす両サーヴァント

こうなっては伝説の英霊も、うらぶれた日本のサラリーマンと変わらない

「………とにかく」

コホン、と一度咳払いをし、改めて話を戻すライダー

確かに不詳の事態に陥っているのかも知れないが
だからといってこんな男と漫談に費やしてやる義理は塵芥ほども無い

「貴方はどうするのかと聞いているのです
 仮にも音に聞こえた槍の使い手が戦いを放っぽり出しておめおめと帰りますか?」

「……」

それも、、
一つの選択なのかもしれない

帰って確かめたいことがある
何より……このまま取り憑かれたように興に従って
得体の知れない相手と戦い続ける事に不安と疑問を感じ始めている

「生憎、この槍に誓っちまったんだよなぁ…」

だが、しかしそれでも
何よりも優先せねばならない事が今の男にはあった

―――アトゴウラ
―――四枝の浅瀬

この誇りにかけて必ず
敵か己の死を以ってのみ戦いを終わらせるという赤枝の騎士の大禁戒
これを……男は既に発動させてしまっている

故に帰れない
その身は誓いを果たすまで強制的に戦場に留まらざるを得ないのだ

「何ですか……回りくどい事を言っておいて結局それとは」

「確かにな――余計な息継ぎだった
 どの道こいつを相手にブチ込まずには帰れねえんだ………なぁ?」

言って肩越しに上空を見上げ
その空に異様な存在感を以って佇む好敵手に同意を求める

愛すべき敵は既に其処に居た
こちらの様子を猛るでも憤るでもなく静かに見下ろす空の雄
ベルカの騎士シグナムその人だ

「共食いは終わりか?」

「ああ、紆余曲折あって何とかな
 待ってろって言ったのにわざわざ出向いてくれるとは
 まさか俺が恋しかったってんじゃないよな?」

「いや、焦がれて狂うかと思ったぞ
 私の生涯であれほどの施しを受けたのは初めてなのでな」

その怒りに燃える瞳は既に敵である両者に向けられている

「私もあまり気が長い方ではない
 その槍にも、隣の女にも随分と世話になった
 一刻も早く返したいのだが、、、もういいか?」

「律儀な女だぜ……いつでもいい――来な」

「大きな口を叩く
 私の胎内で死に掛けていた者が
 猶予を与えてやったのだから、その隙に尻尾を巻いて逃げれば良いものを……」

もっとも逃がす気などありませんが、と付け加えて
ライダーが嘲りの笑いを漏らす
そんな両サーヴァントを眼下に見下す烈火の将

「尻尾か」

そのデバイスを中距離形態――
シュランゲフォルムへと変容させる

「ならば竜の尾の一撃、受けてみるか…」

空恐ろしいほどに低い
唸るような声で――

彼女は静かに呟いた

途端、広がる空を一面の焼け野原のように薄橙色に染め上げる
其は彼女の抑え切れない炎熱の魔力
ガスバーナーのように放出する四対の翼が背中から吹き出し――

「まずは返すぞ――剣閃、、」

<ほい来た烈火!!>

<Max Macht!!!>

異なる三つの意思が
重なり、溶け合い
剣へと集中していく

轟々と空の大気を震わせ、体の周囲を歪に歪ませる騎士の様相
騎兵も槍兵も馬鹿ではない
もはや無駄口を叩く事も、余裕の笑みを灯す事もない

この尋常ではない気配
肌をチリチリと焼く殺気
脳に警鐘のように鳴り響く危機感


間違いなく来る
先の矢に勝るとも劣らぬ――


―――宝具級のナニかが!!!


「火竜――」

この日、初めてサーヴァントの二人の表情が戦慄に凍る

その場から踏み込まずに、横薙ぎのフォームから放たれるそれこそ
烈火の将シグナムが剣精アギトとユニゾンした時にのみ可能とされる最強を超えた最後の一撃


「いいいいいいっせんんっ!!」

それを今、眼前に向けて薙ぎ放ったのだ!!!


――――――

火・竜・一・閃・!!―――

連結刃の広大な範囲全てを薙ぎ払い、焼き尽くす炎帝の業火

アギトとレヴァンティンが思考を同化・同調させて膨大な炎熱を変換、加速して放たれるそれは
近距離特化型であるシグナムが剣精との出会いで新たに手にした究極の刃であると同時に
初めて己が全てを引き出してくれる主と出会えたアギトの秘めた力の発現でもあった

それは属性は違えど、まるであの聖剣の一撃に比するほどの凄まじさを以って敵に降り注ぎ
かつて空を埋め尽くすほどのガジェットドローン100体近くを一瞬で薙ぎ払った桁違いの力を発揮した

そんな常識外れの暴力が――槍兵と騎兵のいた地に降り注いだのだ!!

「はっ、こいつは――!!!」

シグナムの咆哮と共に振るわれる炎竜の尻尾
舞い上げられた槍兵が絶句する

薙ぎ払われた森は一瞬で焦土と化し
アスファルトは焼け焦げて剥がれ落ち、下の地面を地層レベルにまで抉り取る
刃に少しでも触れた断崖は、そこだけ歪に削り取られてまるでザクロのよう――

「火力と範囲、共に対軍宝具並ですか――」

未だ収まらぬ大破壊
ライダーもその威力に驚愕せずにはいられない

手の内を隠しているのは自分だけではなかった
これほどの巨大な牙を今の今まで温存していたのだ、、あの相手は…!

刃が通り過ぎた大地に魔力の残滓が火柱となって巻き上がる
それは正しく煉獄の炎
草木一本残さない炎熱地獄の具現だ

―――――、、、、……

虫一匹逃がさないとはこの事か
其が降り注いだ後に生き残った者は無し

シグナムの一撃によって地形は大きく変貌し
突起に富んだ峠道は一瞬で平坦な焼け野原となってしまった

これが、、
これがSランクオーバーの全力

戦略兵器とまで比喩される彼女らの本気の力であった

「「―――、」」

で、ありながら
彼らもまた人を超えた英霊という事か、、

その炎から滅びを免れていたのだから
こちらも常識外れと言わずにはいられない

カリバーほどの速度が伴っていなかったのがせめてもの救い――

何とか直撃だけは免れた両者が
既に何も無い大地にぽつんと地に伏せながら――将を見上げる

煽られる熱気、超広範囲にまで及ぶ炎の蹂躙により
チリチリとその肌を焼く感触に不快感を露にする二人

何とか即死だけは防いだ二人だったが……
何の障害物も足場も無いこの状況で
空を飛ぶ相手を前にした時の絶望感たるやどうだろう?

一発で仕留められなかったとはいえ将の一撃は
この戦の天秤を、確実に傾かせてしまったのだ


だが、、、、


――― 燃え盛る炎の怒りはこんなものでは収まらない! ―――

「おおぉぉぉおッッッ!!」

<一閃だけど一閃じゃねえんだなこれが!!>

今度という今度こそサーヴァントの表情から一片の余裕もなくなり
初めて息を呑んで真っ青になる

シュランゲ=フォームで横なぎに振るわれた鞭の様な炎を
再び、今度は頭上にたゆませて――

「火竜一閃ッッ!!!!」

将は溶岩の塊のような熱帯びる蛇腹剣を
一気に振り下ろしたのだ

「っ! 連打だとぉ!!!???」

「馬鹿な、―――!?」

灼熱の鞭が今度はランサーとライダーの頭上から襲う

これほどの火力、これほどの出力
これほどの範囲の攻撃を連続で振るうなど考えられない!?

それぞれ左右に分け放たれる形で横に飛び
何とか黒焦げになるのを免れた両者

終末の炎が場に降り注ぐ
彼らを分け隔てるように地面に突き立った炎の壁は
ゆうに上空20mにも及び――

そのニ閃によって槍兵、騎兵共に
腕、足の感覚が奪われてしまっていた

当然だ
あれは宝具クラスの一撃
一度振るわれれば必ず相手を屠るレベルの攻撃だ

速度と予備動作が大きいが故に何とか直撃は受けずにいるが
それを無傷でやり過ごせるわけがないのだ

ジリジリと肌を焼け爛れさせるその熱気だけでも人を殺傷するには余りある
人外のサーヴァントは今、炎竜の巣穴にこぞって放り込まれたようなものだった

「驚いたねこりゃ……
 バカ力だけならマジでサーヴァントを超えてやがる」

二発続けて対軍宝具級の攻撃を放ってきたこの埒外
男の言った言葉は出力面で言えば、まさに的を射たものだ

「まともに向き合えば焼き鳥だなこりゃ…」

「ホットドッグの間違いでは?」

「洒落を効かせてる場合か――来るぞ!」

衝撃に弾かれ、左右に分け放される両者を見下ろし、


「今度は私が二人同時に相手をしてやる……纏めて来い!!」


一騎当千の英霊を前に――

ベルカ最強の騎士が雄々しく言い放つのであった


――――――

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最終更新:2009年11月11日 11:48