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#1

迎えのヘリにヴィヴィオを任せてから程なく、
ヴィータは公園でティアナと合流した
ヴィータに同行していたライダーに露骨に嫌そうな顔しているが
初対面が凡そ考え得る限りにおいて最悪だったので仕方がない

「それで、地下水路でアサシンが見つかったとか聞いたけどどうなんだ?」

「はい、まずコレが―――」

空間モニターを展開し状況の説明に入ろうとしたところで後ろから声をかけられた
振り返ると見覚えのある女性陸士がこちらに向かって歩いてくるところだった

「陸士108部隊ギンガ・ナカジマ准陸尉、
応援要請を受けこちらにまいりました、執務官、ご確認をお願いします」

「あ、は……はい、確かに」

敬礼にあわてて答礼を返しながら確認を取る、
合流予定の応援がどうやら彼女であるらしい
気心が知れていてかつ実力的にも心強い
―――サーヴァントが相手となると心もとないのは否めないが

「おぉ、そうか忘れておった」

その横で勝手に空間モニターをいじっていたライダーがやおら一人で納得する
一見でたらめに動かしていながら
戦術的に意味のある画像を的確に選んで呼び出している辺り抜け目がない

「何だよオッサン、なんか地下水路に思い入れでもあるのか?」

「うむ、何故アサシンが入り込んでおったかは知らんが―――
この地下水路、以前見たキャスターの工房に良く似ておる、
恐らく此度もここを根城にしているのであろう」

以前見たと言うことから考えてここにいるのはジル・ド・レだろう
アレから二週間程、その間にも数度その姿は確認され、陸士隊との交戦もあったが、
決定的な拠点が絞り込めずにいた、まさか地下水路にいるとは

「―――先に言っておくが、
あまり、女子供が見るものではないぞ?」

声のトーンが少し下がる、
子供の躯を引き裂き、それを媒体に異形の群れを呼び出す外道の住まいである
おそらくドクタースカリエッティの研究施設のほうがよほど人道的な場所なのだろう

「悪いけど、そういう仕事なのよ私たちは」

特にティアナからすれば執務官になってから凄惨な殺人現場ばかり見せられており、
既にある種の耐性が出来ていると言っていい、
実の所、状況による精神的ダメージを静かな怒りにすり替えているに過ぎないのだが

「覚悟の上となれば余も文句は言うまい」

いいながら腰に帯びた剣を抜き放ち振り上げる
さほど長くはないが豪壮な宝剣だ、いったい何をしようというのか?

「征服王イスカンダルがこの一斬にて覇権を問う!」

気合とともに剣を振り下ろす―――否、空間を切り裂くと
その裏側から轟音とともに一台の戦車が躍り出た
形の上だけで言うのなら、
それは二頭の牛―――牧場ではなく広大な地平を駆けるさまが似合うであろう―――
に引かれた壮麗に飾られた戦車である
だがその魔力は、歴戦のベルカ騎士ヴィータでさえ気おされて余りある

「これが、宝具……」

改めてその存在に息を呑む、
槍や剣といったものと違いつい見入ってしまうのは、
魔力を帯びたそれらと言うのをデバイスで見慣れているせいだろうか

かくして―――

「AAAALaLaLaLaLaie!!」

古式然とした戦車の御者台に揺られながら彼女たちは
公園近くの大型の排水口から地下水路へと入り込み、
物の数分としないうちに当たりにぶち当たっていた

足の踏み場もないほどに地下水路を埋め尽くした怪魔を片端から雷撃が打ち払い
車輪がひき潰していく、一方的ではあるが
正直なところB級のホラー映画のほうがよっぽどましな光景である

「遊園地のアトラクションにするには―――金は取れそうにねぇな」

「そうですね……」

この臭いだけで客が怒りそうだと軽口をたたくヴィータに同意して
酔うほどに濃密な血と臓物の臭いに顔をしかめながら、
戦車の防護力場の中で防護服を再構築しつつ同意する

それにしても至れり尽くせりなほどに攻防一体である、
コレに乗って走るだけで敵う者など居ないのではなかろうか?

「ここまでのトンデモ使って勝てなかったって言ってたよな、
他の奴ってそんなやばかったのか?」

同じ疑問を感じたのかヴィータがはてな顔で問う

「宝具にも種類があってな、
ランサーの槍のような対人宝具や、この戦車のような対軍宝具だけでなく
対城に分類される宝具というのもある―――例えば、騎士王の剣がそれだ」

「あれか……」

確かにアレは反則である、
更地と化した元廃棄地区の光景が、ただ一太刀の斬撃によるものだと誰が信じよう

気のせいか血飛沫が薄くなってきた気がする
それにしても結構な時間走り続けている気がするが一体今どのあたりなのやら

「どうやら終点が近いみたいだな」

「えぇ―――準備は?」

ティアナの確認に各々得物を手に身振りだけで答え、
闇の中、続いていた血飛沫が途切れ戦車の疾走が止まる

この暗闇に果たして何があるのか―――
明かり代わりを兼ねたシューターを出しながら、彼女たちは暗闇へと踏み出した




#2

「―――っ!!」

人ならぬ声を上げながら女が地を蹴る、
振り乱された長髪に紛れて振り回された鎖つきの杭に跳ね飛ばされ、
エリオは驚きながら何とか姿勢を整え着地した
ベルカ騎士の一撃が人一人を跳ね飛ばすことは往々にしてあり、
それゆえ跳ね飛ばされたこと自体には驚きはない
彼が驚いたのは相手の人ならざる身のこなしによるものである

「はぁ―――!!」

ディードも二刀を構えて撃ちかかるが、
獣のように時に地に伏し、跳ね回る相手の動きが人のそれとは勝手が違いすぎ、
思うように追いきれない

「めんどくせぇ感じだなこりゃ」

砲弾まがいな杭の投擲を捌き、鎖を打ち払いながら男が眉をひそめる
曰く、動きが獣に寄り過ぎているということらしい

「前はもう少し艶があったんだが、な!」

軽口をたたきながら緑色の光線から身をかわす、
出所を視線だけで追うと、中空に中性的な雰囲気の執事が立っていた

「ディード、エリオ
―――二人とも、無事?」

「あ、うん」

「えぇオットー」

降りてきた執事によれば、
どちらが敵なのか聞いていなかったのでとりあえず見覚えのないのを撃ったらしい
結果はどちらも被弾無しで終わっていたが

状況見てから判断するって選択肢はなかったのかと男が突っ込んだが
本人に言わせると最近悪い虫(若い男性信者)がディードに近づこうとするため、
その位の歳の男性はつい警戒してしまうらしい

「もうすぐシスターシャッハが来る、
それまで逃がさないのがまずは僕らの役目」

肩をすくめる男を脇においてそう言うと両手に緑色の光を構える執事―――オットーと
頷きあうと、そのまま女に向かっていくディード

「おい坊主、嬢ちゃん二人に任せてねぇでお前もちっとはがんばんな」

見事なコンビネーションを見せるディードとオットーを横目にエリオに発破をかける
カートリッジの再装填をしていたエリオはストラーダの装填口を閉じながら
男がオットーが女性であることを見抜いていたことに目を丸くした

「どこで気づいたんですか?」

「うん? そんなもん見りゃ分かるだろ」

分かる―――のだろうか?
戦闘中にもかかわらず、まじまじとオットーを目で追ってしまうエリオ

「ふぅん―――
肉付きの悪い女は趣味じゃねぇって訳か」

「え?」

勝手に納得する男に踏み出しかけた足を踏み外し、エリオは顔を向けて聞き返した
見た目に反してスキモノだななどと言いながら感心する男の言葉に、
つい反射的に心当たりのある“肉付きのいい女性”のイメージが頭をよぎったのは
思春期の少年の条件反射ゆえ仕方がない

「ずいぶん緊張感のない話をしているな、ランサー」

「なに、あの嬢ちゃんたちが随分できるんでな、
お手並み拝見ってとこだ」

新たな声に振り返りもせずに答える、二人がかりで漸く一進一退と言ったところだが、
割って入れば連携を狂わせかねないのも確かである

「確かにコレは入りにくい―――
とは言え、旗色はあまりよくないですね」

新たに現れた二人を見てエリオは首を傾げた、
片方はなじみの、騎士カリムの片腕にして教会騎士きっての実力者シスターシャッハ、
だが、もう一人は?

「シスターシャッハ、その人は」

何処かで見た気がする面影に思考をめぐらせながら問う、
純白のドレスに白銀の鎧という相反する要素を奇跡的なバランスで成り立たせる
彼女は何者なのか

「なんだそりゃ、お前の方こそ随分緊張感の無い格好してやがるじゃねぇか」

「何分剣も鎧も借り物でな、
―――それよりランサー、あのライダーおかしくないか?」

ようやくこちらを振り返ったランサーが少女の容姿に眉を顰めた後、
少女の物言いに、“呼ばれてきた”訳じゃないって事か、と一人納得する
どうも彼の知る限りでは日頃からこのような格好をしているわけではないらしい

「お前さんの言う通り、
アレじゃどう見てもバーサーカーの方が適切だ」

“コレ”が無ければだがと空を見上げて答えるランサー
血(あか)色に染まった世界の有様は複雑に編まれた魔術によるものである
決して見境無く暴れる狂戦士に出来ることではない

「騎士はやてはクラス名が見えないと言っていましたが?」

「なんか属性でもひっくり返る事態でも起きたのかね?
―――っと、流石に嬢ちゃんたちを止めた方が良さそうだな」

シャッハの言葉に鼻を鳴らしつつ、状況に対して槍を構えなおす

「行くぜ坊主」

「は、はい!」

風をまいて走る男に追いすがるエリオに感心しながら少女
―――アルトリアは何かに気づいたようにあたりに視線を走らせた

「どうしました?」

「いえ―――私たち以外の視線を感じた気がしたもので、
それよりシスター、私たちも行きましょう」

剣を構えてこちらも駆け出す、
そのあり方は容姿とは不釣合いなほどに力強い

「そうですね―――セイン、貴女もそろそろ働いてはどうですか?」

あたりに視線を向けることなくかけられた声にどこからか不平の声が上がる
曰く自分は直接戦闘系ではないのであんな化け物の相手は御免こうむるだとか

「分かりました、では貴女は他の教会騎士と騎士カリムらの護衛を任せます」

はいよという声とともに気配が遠ざかる、
あぁは言う物の根は真面目である大丈夫だろう

「さて、いきますか
―――ヴィンデルシャフト!」

デバイスの廃莢口からカートリッジが吐き出され、
シャッハもまた一陣の風となって走り出した




#3

「ISツインブレイズ」

両の手に赤い光剣を構えながらディードは深く踏み込んだ
対する相手は形こそ人ではあるがほとんど猛獣と相違ない
むしろ、次第に獣に近づいていっている気がする

「乗ってきてるとこ悪いがな嬢ちゃん、
あの面は狙うな」

「何故ですか?」

割り込んできた男が彼女の狙いを止める
ディードとしてはあからさまに目元を覆う仮面がどうにも怪しいと踏んでいたのだが、

「ありゃ多分魔眼殺しの類だ、
今の奴さんの状況には関係ない上にはずすと厄介なことになる」

「魔眼?」

聞きなれない言葉に首を傾げ、
飛んできた杭を二人がかりで器用に鎖ごと打ち払いながら改めて問い直す

「呪文も儀式も必要とせず、ただ“見る”だけで事を成す異能です
―――ランサー、それに加えて天馬に縁の有る英雄に心当たりはあるか?」

「無くはねぇな、
つっても其処まで業が深いとなると英霊と言うにはちと苦しいが」

横合いから口を挟んだアルトリアの問いに
それにしてもここまでギリシャ神話が多いとはねぇと言いながら
繰り出した槍を横なぎに打ち払い其処からさらに
目にも止まらぬ動きで突きこみながら追い込んでいく

「そうか、詳細は後で聞こう―――まずは結界を解くぞ」

獣じみた相手の動きに対し、踊るような踏み込みで間をつめると
繰り出した切っ先が風を巻いて閃く

「風よ―――!」

そのまま弧を描くように連撃を繰り出していく途中、
つむいだ声に従うように風が流れ剣に集まっていく、そして―――

「荒れ狂え!」

斬り上げた瞬間にその風が暴発し、相手はなすすべも無く跳ね飛ばされ

「おらよ!」

待ち構えていた槍の一撃をまともに腹部に受け女が受身も取れずに地面に落ちる
そこへ向けて白銀の風が再び疾走し、鮮血が舞った

「やったか―――いや、浅い!」

「首を落とすつもりでしたが避けられましたか」

ゆらりと立ち上がる女を見て二人が舌打ちする、
だが槍の傷に加え首を切り裂かれ見るからに重症である

「アルトリア、これ以上は―――」

「いえ、結界が消えていません、
致命であるのならば結界を維持するなど不可能のはずです」

シャッハの言葉に首を振る
確かに言われてみれば結界はまだ解けていないようだ
だがこのまま放置すれば死んでしまうのではないか
とはいえ交渉の余地があるほどの理性は持ち合わせていない相手である

魔力ダメージで昏倒させればなんとかと思い立ち、
シャッハがヴィンデルシャフトを構え飛び込む

「はぁぁぁぁ―――」

踏み込むシャッハに気づき、女が奇声と共に腕を振るう
異様に爪の伸びたそれを右の一刀でいなしながら左を振り上げ―――

「烈風一迅!」

返す刀で右の一撃を叩き込み大きく跳ね飛ばす

血の天幕が晴れ、重苦しい空気が取り払われていく
結界の維持にまわされていた魔力が打ち切られ消滅したのだろう
一同が安堵するその途中、女の顔から何かが落ちた

「あ……あぁぁぁぁ!!」

立ち上がった女が獣のような独特の姿勢で伏せるようにして咆哮する
垂れ下がり顔を覆い隠した長い髪が異様な雰囲気をかもし出し、
咆哮と共に噴出した首筋の血が勢いを増す

「シスター、下がってください!
ライダーは宝具を使う気です」

アルトリアの声に反射的に飛び下がろうとしたシャッハと顔を上げた女の眼が合う、
瞬間、意識がぶれる様な感覚を受けた後、着地に失敗し彼女は膝を突いた

「シスターシャッハ!?」

そのまま蹲ったシャッハにエリオたちが駆け寄る
シャッハの実力はこの場にいるベルカ騎士の中でも随一である
あの一瞬に彼女を追い詰めるだけの何かが起きたとしてそれは何なのか?

「参りました、
まさか見ただけで石化させるなんて言う希少技能者が存在するとは」

シャッハが白くなった自分の靴を指して言う、
よく見れば変色は少しずつ広がって来ているようだ

「セイン姉さま!」

「あいよ!」

ディードの呼びかけに地面から人が顔を出す
どうも彼女が先ほどから感じていた奇妙な視線の正体らしいとアルトリアは納得した
人が水面から顔を出すように地面から現れたその人物は、
シャッハを抱えて再び地面へともぐっていく、
これで少なくとも彼女については安全であると見ていいだろう

全員が意識をシャッハのほうに向けている間に事態はより深刻な状況に向かっていた
吹き出した血が不自然な軌道を描き複雑な文様を描き出していく

宝具が顕現する―――緊張に各々が得物を構えなおした瞬間

「■■■■■■■―――!!!!!」

鮮血が描く魔法陣が裏返り、
轟と音を立てて血の神殿が再生すると共に、女の存在が変質した

それは、かつて形の無い島に巣食ったゴルゴーンの怪物が
ミッドチルダの地に降り立った瞬間であった

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最終更新:2010年02月04日 14:16