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#1

「おう、早かったな」

屋上にたどり着くと、ある意味で予想通り、ある意味予想はずれなことに、
ランサーはあっさりと見つかった

「どう思うよ、お前さん?」

「何がだ、ランサー?」

要領を得ない質問である
どう思う、とはこの世界についてか、それとも―――

「例えば、
今のお前であの“セイバー”に勝てるのか、とかな」

「それは―――」

不可能だとしか言いようが無い
武器の質も魔力量も向こうが確実に上である

今のアルトリアは多分に精霊に近い存在だ、
発揮できる肉体のスペックは同等といって良いだろう

だが、それはあくまで肉体だけだ
彼女はサーヴァントと違い自分で魔力を生成し、
現世に干渉できる実体を確保しているが、
それだけでは受肉したサーヴァントとさして変わらない
例えそれがこの世界の基準で言うところのSランク魔導師を
貯蓄量、生成量で軽く上回っていたとしても
自家発電する魔力の量などたかが知れている

対して今のこの世界に現界しているサーヴァントは実質的に魔力切れの心配が無い
ロストロギア『カレイドスコープ』による魔力供給は事実上無制限であり、
保有する個数に応じて多少の誤差はあるものの、
例え限界ギリギリまで消耗したとしても一呼吸の間があれば十二分に回復できる


武器の質はそれ以上に重要である
なし崩しにユスティーツアから譲り受けたデバイスはそれなりに頑健な名剣ではあるが、
やはり星の聖剣とは比べるまでも無い

「まぁ、そのあたりは仕方がねぇさ、
無いなら無いで何とかすりゃ良い」

自分から言っておいてよくもまぁ、と彼女は思ったが口には出さなかった
彼の言う通り、無いのなら無いなりにどうにかするしかない

「いっそ金ぴかとかち合ってくれれば楽なんだがな」

「それはあまり期待しない方が良い
現状、あの男がおとなしくしてくれていること自体行幸だ」

「はっ、違いねぇ」

言った端からもっと荒唐無稽なことを言うランサーにそう返す
かち合えば互いに潰しあうだろうとは思うが、
それが街中であった場合周囲の被害が保障できない

クゥと、その時奇妙な音がした

「お腹がすきました
ランサー、続きは食堂でしませんか」

「あん?」

建物の一角、泊り込みの見舞い客や職員用の食堂を指していうアルトリアに眉を顰める
ならさっきのは腹の虫かという些かあきれの混じった反応である

「おまえさんとメシってのも色気のねぇ話だ、
立ち話なら此処で十分だろう?」

「光の御子よ、それでは聖誓を破るつもりですか?」

聖誓を持ち出されては聞き捨てなら無い
更に眉を顰めるランサーにアルトリアはすました顔で答えた

「御身の聖誓は犬の肉を食べないことと目下の者の食事の誘いは断らないことのはず
―――年功序列です、それに加えて御身は神霊の血統もある
私が王であるということを差し引いても、
霊格としてそちらが目上と呼んで差し支えは無いでしょう?」

物は言い様もいいところである
とは言え世代で言えばクランの猛犬の時代はブリテンの王の時代よりはるか過去、
こねた屁理屈の筋は、屁理屈なりに通っているといえなくも無い

「わかったよ
―――ただし、言ったからにはお前の奢りだからな」

「承知しています」

言いながら一足先に屋上から降りるランサーを追い、
アルトリアも屋上から身を乗り出した


#2

“The communication ties.”

Rヴァリスタが報告し、モニターに一人の人物が浮かび上がる
向こう側も映像がつながったのか、眉を寄せて小首をかしげていたその人物は、
ほっとしたように息を吐くとにこやかな顔で口を開いた

『あぁつながった、
一臣、お母さんだよ―――』

ガッシャーンと盛大に、それこそコントのような見事さでアルバートがすっ転ぶ
直後、猛然と起き上がると真っ赤な顔で彼は叫んでいた

「言うに事欠いて第一声がそれかアンタは!」

空気読めとはまさにこのことである、いろんな意味で緊張感が台無しだった

『酷いなぁ心配だったんだよ、
ヴィヴィオとナノハは其処に居る? モニターからは見えないんだけど』

「いるよ、三人とも大丈夫、
こっちだって子供じゃないんだから、もうちょっと言い方を考えろよ“母さん”」

デバイスがモニターの角度を調節する、
映像の送信も調整されたのか女性は納得したように頷いた

「成る程ね、そういうことか」

傍らで様子を見ながら女性とアルバートのやり取りになのはは納得した
モニターに映るのは十八年後の自分で間違いあるまい
我ながら驚きである、ヴァイスとはそれなりに付き合いがあるが、
どこでどういう経緯があってそういう関係になったのだろうか?
正直自分がそうなる訳ではないとは言え、
自分の可能性のことだけに流石にその辺に疎いといわれる自分でも気にはなる

「納得してんじゃねぇよなのは、おかしいだろアレ」

「なんで? “私たちの未来”だと決まったわけじゃないんだし、
何が起きててもおかしくは無いんじゃない?」

突っ込みを入れるヴィータに首を傾げる、
相対的に未来であるとは言え、決定したものではない
別段糾弾するようなこともあるまい


「いや、そこはいいんだ、後でアレを締め上げて吐かせりゃ済む話だし、
あたしが言いたいのはな―――歳いくつだよ、あいつ?」

『だよなぁ、やっぱ其処を突っ込むよな』

かけられた声にあわせてモニターが調整される、
一歩下がったところにどう見てもなじみの面々が映っていた

「そういうヴィータちゃんが一番変わってないけど?」

『あたしは歳とらねぇんだよ!
お前分かってて言ってんだろ』

『まぁまぁヴィータさん抑えて抑えて
―――フェイトさんとエリオは?』

こちらのなのはの突っ込みにエキサイトする未来のヴィータ、
それをおさえて未来のティアナが話題を変える

「エリオが倒れてフェイトさんはそっちの見舞いに行ってるよ
そっちのエリオは?」

スバルの問いにはいと画面の奥で手が上がる
赤毛以外はほとんど別人な長身の青年に成長した為、
一見しただけでは分からなかったのだ

『そろそろ本題に入っていいかな……』

誰がどうしたと続ける彼女たちをさえぎるように穏やかな声が割り込む
モニターが視点を移し、なのはたちに代わって身なりの良い優男が映った

「あ、えっと……ユーノ君で、いいのかな、
“カレイドスコープ”のことだよね?」

呼び方はお好きにどうぞと言いながら、
なのはの返答に頷いて画像を切り替える
ロストロギア・カレイドスコープの本体の全体像を映したもののようだ


『ロストロギア・カレイドスコープだけど、
伝説上の魔導師シュバインオーグにまつわる物で間違いない』

本人じゃなくて弟子の系譜に当たる人が造った物みたいだけどねと続けるユーノ
魔導師シュバインオーグ―――無限書庫の記録に時折現れる謎の人物で、
記録上の容姿はいずれも高齢の男性であるとされているが、
古代ベルカ史を含め、現れた時期に一貫性が無く正体がつかめない

「シュバインオーグ……
確か、宝石とか万華鏡って言われてる人だよね」

なのはの相槌にユーノが頷く
今回のロストロギアの名前も万華鏡(カレイドスコープ)である、
なるほど、言われてみればつながっている

『平行世界同士で量子的に繋がっている状態になっているから、
破壊や封印―――ひょっとしたら移設も難しいかもしれない』

造られた本来の目的は平行世界干渉、
つまり可能性を自在に操ることだったようだが、
現在はいろいろと付け足された結果大げさな干渉は出来ないらしく、
本来の用途に使うには動いているカレイドスコープ同士を“認識する”必要があるらしい

「私達が帰るにはこっちの本体を見つけないと駄目ってこと?」

『そうなるね、まぁ座標自体は分かってるから、
後はそっちに回収した端末を収めればいいはずだよ』

「そううまく行けば良いけどな」

その“端末”を少なくても一つ、
万全な状態のシグナムを返り討ちにする存在が持っているのである
ヴィータならずとも楽観できる要素は少なかった

『あと伝えておくことがあるとすれば、
これをもともと所有していた人物は日本人だってことかな』


記録には日本語で遠坂なる家の者がこれを所有していたこと、
それとマキリ、衛宮、アインツベルンなる人物の記述があったらしい

いずれも心当たりのある名前である、
地球に行った際には彼女たちにその辺りを聞いてみようとなのはは思った

あとは―――とユーノが言葉を続けようとしたところで不意に映像がぶれた、
デバイスによると通信が不安定になってきているようだ
試験的な通信だから仕方がないという彼らの言葉に頷く

調整の為一旦切るという彼らに頷いて通信を終了する、
次はフェイトも交えてゆっくりと話したいなぁと、なのはは暢気な感想を持った
そこへ―――

「ありゃ、皆さんおそろいで」

タイミングが良いのか悪いのか、シグナムと話しながらヴァイスが休憩室に現れた
途端、全員の視線が集中し、彼は事態が飲み込めず首を傾げた

「いいところに来た、ちょっとツラ貸せヴァイス」

アルバートの首根っこを引っつかんだ状態で言うヴィータに対し、
反射的に回れ右して逃走姿勢に入るヴァイス
その襟首を黙って彼の隣に立っていたシグナムが掴んだ

「なにやら面白いことになっているな、
―――そろそろテスタロッサも戻ってくる頃合だ、
じっくり話を聞かせてもらうとしよう」

あれ、俺なんか悪者っぽい?
と事態が飲み込めず、とりあえず目の前のなのはに視線で助けを求めるも

「あ、あははは……頑張ってね、二人とも」

と苦笑いと共に送り出されてしまう
その顔が赤いのは気のせいだと思う、心当たりなど無いし

―――多分、隣の奴のせいだろうなぁ

と思いながらヴァイスはずるずると引きずられていった


#3

「冬木か……ずいぶんと懐かしい町の名だ
もっとも私は其処で生まれたわけではないがな」

ユスティーツアの話に男はそう答えると祭壇へと向き直った

「霊器盤に一つ印が出た、
アサシンめが器を満たしたようだ」

「以前からアレには三つ持たせていたはずだが、今頃になって漸くか」

「なにぶんああも何体も居てはそれが単一の英霊とは聖杯も認識できなんだのだろう、
―――それで、その冬木の管理者は遠坂“凛”で間違いないのだな?」

「管理局側の話によればその筈だが」

「そうか、そうなのか!」

ユスティーツアの返答に叫ぶようにそう言うと男は狂ったように嗤い始めた
そのままひとしきり嗤い続けると男は祭壇の最上部を仰ぎ見た

「ならば此処にはある、
本物の聖杯がまだこの世に存在するということだ!」

ロストロギア『カレイドスコープ』は大元の機構に付け加えるカタチで
聖杯を模倣したものに過ぎない、ゆえに真実“魔法”を扱う物であるとは言え、
その役割においてはオリジナルには及ぶべくも無い

「―――」

最上部の乙女が目を覚まし、磔の枷を軋ませながら声を上げる
数日前に比べると明確にもがいているように見えるのは気のせいではないようだ

「行くか……」

男の言葉にユスティーツアは珍しいなと思った、
この場から片時も離れたことの無いこの男が自ら出向くなど本当に珍しい

「月並みな質問だが、どういう風の吹き回しだ?」

「なに、ただの挨拶だよ
偉大なる先人への、ね」

煌々と輝く左腕の刻印を掲げてそう答える
だが、男の目的が決してそれだけでないことを、
その瞳がはっきりと物語っていた

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最終更新:2010年11月17日 15:51