372 :ティアナVSシオン:2008/06/16(月) 03:04:29 ID:+glb95wi
獲ったと思った。シュートバレットで追廻し、クロスファイアーで面制圧を仕掛ける……ように見せかけて、あらかじめシュートバレットに混ぜ込んであったデバインシューターで止めを刺す。

それが、致命打にならなかったとしても、体勢の崩れた所に一斉掃射を受ければ、障壁も張れないような魔導師などひとたまりもない。

そのはずだった。



「……やるじゃない。幾らなんでも初見で見切られるとは思わなかったわ」



焦りを押し隠し、自身を鼓舞するはずの不敵な笑みも、今ばかりは引き攣っていているのを感じている。しかし、笑わずにはいられなかった。

あり得ない。

この本来『魔法技術、及び文明、生物が存在しない』と言われている第97管理外世界に明らかな『現地魔法技術』があるのもそうだが、それと同じように、向こうもこちらの技術を知らないようだった。

未知の手合い同士なら、情報を隠した分だけ有利になる。だからこそ、誘導弾を一切、使わずに直線射撃のみを用いて、最後の最後に不意を付くことを選んだのだ。

にも関わらず、必殺を持って切り替えしたはずの誘導弾は、ゆらりとまるで後ろに目が付いているかのように避けられ、その手に持つ質量兵器――黒い装飾銃に撃ち落された。

完璧な作戦だったとは言わない。しかし、有って無いようなリスクに反して最も有効な策だった。

だが、そこで疑問が生じる。私は、全力でことにあたっていたのだろうか?


答えは否である。


認めよう、私――ティアナ・ランスターは油断していた。未知の手合いに対して、憶測で上限を測り、最低限の労力で勝利を獲ろうとしていた。

相手の魔力値が平凡な自分の半分にも満たないことで、シールドが張れないことで、バリアジャケットすら着ていないことで、私はこの紫色の魔導師を侮っていたのだ。

正直言って、慢心もあったのだと思う。格上の相手に慣れ過ぎて、どうも足元が疎かになっていたらしい。いくら能力的に上であっても、どんな優位にあっても負けるときは負けるのだ。

慢心を妥協を諦観を決して許さず、勝利に手を伸ばしたものこそが、最後に戦場に立っていることを許される。

それは何よりも、誰よりも、自分が証明してきたことじゃないか――!






373 :ティアナVSシオン:2008/06/16(月) 03:06:14 ID:+glb95wi
「もう一度、聞くわ。シオン・エルトナム・アトラシア。あなたは何者? そして、今、何をしたの?」

「……アトラシアと名乗ったことが既に答えなのですが」

「悪いけど、田舎のことは良く知らないのよ」

「…………」


まるで、そんなことも知らないのか田舎者とでも言いたげな物言いに、皮肉って返すと、彼女はムッとした表情を見せた。

冷静沈着を装ってはいるが、挑発には割と弱いらしい。


「……何のことはありません。ただ、予測しただけです」

「予測?」

「ええ、私の有する7つの分割思考を駆使すれば、その程度の予測は造作もありません」


データがほとんどなくても奇襲ぐらいは避けて差し上げます。と彼女は言った。





374 :ティアナVSシオン:2008/06/16(月) 03:06:51 ID:+glb95wi
「マルチタスク?」


空戦適性こそなかった自分だが、マルチタスクぐらいは習得している。現に、今の作戦だって4つ以上のタスクがなければ出来ない芸当だったのだ。

”7つ”と言えば確かに多いほうかもしれないが、それにしたって探せばいくらでもいる数である。少なくとも、あの神業を狙って再現できる程ではないだろう。


「……何か勘違いしていませんか?」


私の訝しげな表情に、言いたいことを感じ取ったのか。この魔導師はその考えをバッサリと否定する。


「あなたの言うマルチタスクとは、“複数の物事を考えられる”というだけのことでしょう?」

「……それ以外に何があるのよ?」

「浅はかですね。そして、舐めて貰っては困る。そんな児戯、アトラスの錬金術師でなくても可能だ」


そうして、彼女は誇るように、そして私の無知を嘲るように語りだした。

どうして、魔法文明の存在するこの第97管理外世界が管理局の“管理から外されている”のか。その一端となりうるその技術を。


「いいですか? 分割思考とは、複数思考における並列演算のこと。つまり――――」


少なくともティアナ・ランスターを含む既存の魔導師の想像を超越するその言葉を。

管理局の常識からはありえない程、特化した魔導師――否、魔術師が数多く存在するこの世界に置いて、その中でも更に“知能”に特化しきった穴倉の怪物――


「あなたの言うマルチタスクで置き換えるなら、823543(八十二万三千五百四十三)個ということになります」


――アトラスの錬金術師は言い放った。


375 :ティアナVSシオン:2008/06/16(月) 03:09:06 ID:+glb95wi
投下終了。単に823543(八十二万三千五百四十三)個のマルチタスクが書きたかっただけ。
真実とかこの際おいておいて貰えると助かります。

あと、考えてる長編とか言峰なのは(短編連作)とかの練習も兼ねてるんで書き方のアドバイスとかあると嬉しいです。

391 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/16(月) 16:50:10 ID:Ri3u4Rq0
展開にも突っ込むなら、これじゃシオンすげーで終わっちゃってるからティアナの方にも見せ場が欲しかった。
>>382の言うとおり、ちょっと蹂躙ぽく見えちゃうからね。
ちょっと閃いたので、書いてみる。

「あなたの言うマルチタスクで置き換えるなら、823543(八十二万三千五百四十三)個ということになります」

――アトラスの錬金術師は言い放った。
その言葉が指し示すこと。それはつまるところ、未来予知だ。並列された思考による徹底的な予測。
演繹的な究極概念。因果律の終着点――ラプラスの魔に限りなく肉薄する生粋の怪物。
だが。

「――は」

ティアナはそれを見て、笑った。
一挙一動、全てが見切られている中で、なお笑う。残酷なまでに。
シオンは不快げに眉を寄せる。

「……何が可笑しいのです。貴女の動作は全て見切った。どんな行動を取ろうとも最大47秒で私の勝利が確定しています」

それは絶対的な勝利宣言だった。シオンがそう宣言したのならば、それは絶対的な出来事。
――計測された予測《せかい》を自己の裡から引き吊り出すのが、錬金術という理なのだから。
それでも、ティアナは笑う。

「あら、分からない? 貴女お得意の計算でも?」
「挑発のつもりですか。私にその類の言は通じませんよ」
「あ、そう。なら言ってあげるわ。貴女は『前提条件』を間違っている」
「――何」

立ちふさがるのはアトラスの錬金術師。
八十二万三千五百四十三個のマルチタスクを用いた絶対予測。
制御不可能な運命という流れを完全に読み切る確率の悪魔。
だが。

「〝たかだか未来が分かる程度〟で、私を止められるという前提。それが既に間違いなのよ――――」

――――そんなもので、ランスターの弾丸は止まらない。
ティアナは髪をかき上げながら、まるで運命に抗うが如く、不敵に笑っていた。



とかどうよ。この後、ティアナがどこぞの影分身的な幻術を使ってシオンをびっくりさせたり、逆に一瞬で本物見切るシオンにティアナが驚いたりする地味なバトルが展開されると予想。
10分くらいで書き上げた駄文で済まない。お目汚しならばスルーで。

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最終更新:2008年06月21日 19:33