マンガ物理学(マンガぶつりがく、Cartoon physics)とは、アニメーションでは通常の物理法則が、ユーモラスな方向で無視されるという事実を、冗談めかして指す言葉である。
例えば、カートゥーンアニメのキャラクターが走って崖の端を越えてしまっても、しばらくそのキャラクターに重力が作用しない、など。
マンガ物理学という語は、ほとんどの有名なアメリカのアニメーション、特にワーナー・ブラザーズやメトロ・ゴールドウィン・メイヤーのカートゥーンアニメで、アニメーションに普遍的に適用される「法則」が、無意識のうちに生まれたことをも指す。
進化心理学の支持者は、このマンガ物理学のユーモラスな効果は、物理学と心理学に適用された、異なる心理モジュール間の相互作用によって生まれたのだと示唆している。物理学的モジュールは、カートゥーンアニメのキャラクターは崖からただちに落ちるだろうと予測する一方で、心理学的モジュールは、重力の作用を擬人化し、登場人物が自分を欺いている間は、重力も欺かれるのだと見る。
アニメーションの登場人物は、面白い限りは自然の法則を曲げたり破ったりしてもよいのだということを説明するため、ロジャー・ラビットやボンカーズ・D・ボブキャットのようなカートゥーンアニメのキャラクターは、そのテーマに応じた自分自身のバリエーションを持っている。
アニメーションが現実世界と異なる風に振舞うという発想は、アニメーションそのものと同じくらい古い。例えば、ウォルト・ディズニーは、「もっともらしい不可能 (plausible impossible)」について言及している(プローザブルと韻を踏むようにわざとインプローザブルと発音している)。
特にマンガ物理学に言及された最も古い文献は、1980年6月、"Esquire magazine" に掲載された記事『オドネルのマンガ運動の法則』に遡る。1994年にIEEEが技術者向けのジャーナルの中で印刷した版が、この語が技術系の人々に広まるのを助けた。彼らはこのアイデアを拡張し、洗練した。何十ものウェブサイトが、これらの法則を紹介している。
日本のアニメ、特に若者向けまたはコメディーもののアニメは、やはり面白くまたはドラマチックな効果を与える風に物理法則をねじ曲げたり無視したりする、一連の法則を生み出してきた。多くはアメリカのテレビ漫画で使われるものと似ているが、一部は異なっている。以下はその一例である。
ハンマースペース (Hammerspace) とは、一瞬でアクセスできる超次元的な入れ物である。このコンセプトは、(特に日本の)アニメーション、マンガ及びゲームのキャラクターが、なぜ空中(たいていは背中やその他の隠れた空間)から物体を生み出すことができるのかを説明するために、冗談めかして使われる。
ハンマースペースの名前は、ユーモラスなアニメやマンガでのお約束場面に由来している。男性キャラクターXが、女性キャラクターYの感情を害したり怒らせたりしたとする。するとYは何もない空間から木槌を取り出して(サイズは大型からまったくばかげたほど巨大まで様々)、Xをそれで殴る。ハンマーで殴ることは純粋にコミックリリーフであって、それによってプロットを進めたり恒久的なダメージを与えたりすることはない。この用語は『らんま1/2』のファンによって知られるようになった。代表例として、『シティーハンター』など。
同様の現象は木槌のみならず竹刀、日本刀、ハリセン等でも起こることがあり、これら三者の場合は「低軌道までXを叩き出す」ための道具として用いられていることが多い。
ハンマースペースは西洋のアニメーションにも同様のものがある。例えばワーナー・ブラザーズのカートゥーンキャラクターは、しばしば背中からあらゆる種類のもの(銃、変装道具、傘など)を取り出している。
ハンマースペースは、ある種のコンピューターゲームの異様な現象を説明するのにも有用である。ロールプレイングゲームでも、ハンマースペースならばこうした疑問にも説明がつくのである(身長の半分もの大きさの剣を持っているキャラクターは、戦闘に入るまでは剣を持っていないように見えるのは何故か?や、FPSでプレイヤーのキャラクターがあらゆる種類の大量の武器を持てて、その上外見上手持ちの武器以外持っているように見えない等)。
ハンマースペースの性質は、尖っていない物体であればかなり膨大な数入れられるらしいということ以外は、あまり解明されていない。ハンマースペースの中の物理法則はかなり異様だということは解っている。それは、例えば、多くのファイナルファンタジーシリーズのヒーローが99個のポーションと99個のハイポーションを何の問題もなく持ち歩けるのに、ハイポーションを1個も持っていないとしても198個のポーションを持ち歩く空間はないというような風に、観測されている。
ハンマースペースから物を取り出すために、あらかじめその物を入れておく必要があるのかどうか、それともハンマースペース中のどこかにそれが存在しているということだけを知っていればよくて、必要なときに手の届く場所まで呼べばいいのか、それも確かなことはわかっていない。
類似のものとして、銃を使ったアクションシーンを持つ作品に見られる「装弾数が異常に多いマガジン」がある。ドラマ『コンバット!』を例にとると、通常、トンプソンM1928A1の箱型マガジンの装弾数は20ないし30発、すなわち最大でもマガジンの交換をしていない状態で発射できる弾数は31発まで(薬室に1発入るため)だが、サンダース軍曹は時折マガジンを交換せずに32発以上の射撃を行うことがある、という具合である。日本では、装弾数5発のニューナンブM60で20発以上をフルオート射撃のごとく乱射する『天才バカボン』のお巡りさんのケースが有名であろう。
RPGでは、ハンマースペースはしばしば魔法のかばんと呼ばれている。魔法やSFなどが存在する世界観であれば、持ち物を縮小化するなど、いくらでも理屈は付けられるだろう。
これは戦隊シリーズのロボットが必殺技を発動する際に異次元空間から剣を出現させたり、平成シリーズの仮面ライダーが武器を繰り出すのと同じ理論である。
なお、ハンマースペースより取り出されたハンマーの破壊力はしばしばそのハンマーの質量で表される。質量の単位は「トン」であり、ハンマーの表面に必要以上に大きく表示されている。
宇宙戦艦ヤマトで破壊された主砲塔や第三艦橋が翌週には修復されていたが、このような艦内工場での製作が難しい物の補給経路として類似のものが利用された可能性がある。
ストーム・トルーパー効果 (Stormtrooper effect) とは、フィクション作品中において、あまり重要でないやられ役(雑魚キャラクター)はプロット上重要なキャラクター(ヒーロー)との戦闘では役に立たないという、お約束の現象のひとつである<ref name="nikkei">Template:cite web。
非現実的であるにも関わらず、ストーム・トルーパー効果は、アクション映画、カンフー映画、アニメ、漫画で共通に見られる。しばしば、批評家やファン層に笑いの種を提供しているが、一般的には笑わせるための誇張表現と受け止められている。
ストーム・トルーパー効果の主な役割は、ヒーローのすることが何であれ、より英雄的に見せることである。また、プロットの上で、ある特定のキャラクターを他の力のあるキャラクターよりも優勢であることを際立たせるために使われることもある。
命中精度、誘導方式、最終ガイダンス、防御手段、発射弾数と費用対効果比などということを言い始めると、画面に華がなくなるため、これは許容範囲内として甘受している(むしろ歓迎している)向きが多い。また、銃撃についても、ベトナム戦争での統計では、北ベトナム兵を1名殺害するのに平均4万発の弾丸を使い、カラシニコフ小銃を乱射された場合に身体の一部でもかすめる確率は30万発に1発という説があるので、問題ないと思われる。ただし撃たれる時はあっけなく撃たれたりすることもある。
シューティングゲームでは雑魚キャラは弱く、ボスキャラは異様に強い設定がありがちのものとなっており、英語圏の好事家からは 忍者反比例の法則(The Inverse Ninja Law、またはアニメニンジャ効果)と呼ばれている<ref name="nikkei"/>。
アニメ、漫画、時代劇、カンフー映画、ロールプレイングゲームなどで発生する現象である。これは、「忍者の集団の人数は、その集団の構成員の技量や能力と反比例する」というものである。敵である忍者(あるいは特殊部隊隊員等)が一人の場合は主人公に対する深刻な脅威となりうるが、忍者が多数出てくる場合は数が多ければ多いほど脅威の度合いが薄れ、より簡単なやられ役になる。水戸黄門での悪代官の家来が助さん、格さんにやっつけられるのも、雑魚キャラは弱いという法則に従ったものである<ref name="nikkei"/>。
スーパー戦隊シリーズなどの特撮番組、あるいはガンダムシリーズや『鎧伝サムライトルーパー』などのアニメでは顕著にこうした現象が見られる。主人公の最初の戦いでは、敵の歩兵や戦闘員の、たった一人やごく少人数相手に必殺技を使わねばならないまでに追い込まれる。しかし戦い(番組)が進むにつれ、主人公は大人数の戦闘員や雑魚メカを簡単に葬るようになるのである。
ガンダムシリーズなどでは「試作機より、その量産型の方が弱い」という現象が見られる。たとえば、ガンダムは試作機であり、ジムはガンダムから得られたデータを基にした量産機であるが、一般兵の乗る量産型より、試作機であるガンダムのほうがより多くの攻撃に耐える、という具合である。実際の軍事兵器の位置づけとは必ずしも一致する概念ではない。
鉄道車両では、当初の過剰性能をスペックダウンした例として、EF200(出力6000kW)→EF210(出力3390kW)や681系(最高時速160km)→683系(最高時速130km)があげられる。