最近視線を感じる、何処からかと聞かれれば答える事が出来ないが、確かに視線を感じるのだ。
まるで四六時中見られているような感じがする。俺は怪しく思い普段では全く信じていなかった近所の坊主にお祓いを頼んでみた。

「何じゃい、何時もはハゲハゲと言ってくるお前がワシを頼ってくるとは、それほどに奇怪な現象が続いているのか?」

「朝起きたら1人暮らしの男の家に朝飯が用意されているんだぜ?これを奇怪な現象と言わずに何と言うクソ坊主」

「相変わらず口の悪いガキじゃわい」

そう言いながらもこの坊主、仕事はしっかりとする。
俺を畳の部屋で正座をさせ、俺の正面に座り経を唱え始める。
……嫌に線香の独特な匂いが鼻につく。これだから此処は嫌なんだ、昔此処で得体のしれない物を見たこともあるし

「…小僧、お主何をした?」

「……何がだ」

いきなり顔を蒼くする坊主。
その顔はまるで信じられない物を見たと言う目だ。
俺には解る、これはあまりにも不気味で、あまりにも恐ろしいモノを見た時の人の目。
自分が得体の知れない物を見た時もこういう顔をしていた。

「お前には、普通守ってくれる筈の守護霊すら付いていない。まるで何者かに消されてしまったようじゃ」

――――――――俺はその話を聞いて、急に背筋が冷たくなった。

この坊主、普段は酒は飲むは肉は喰うわで坊主らしくない坊主だったが、こんな坊主でも日本で指に入るほどの霊能力者。
それが恐ろしそうに体を震わせているのだ。
坊主は俺にお札を大量に渡し、家から出るなと言ってきた。

「どうなってんだよ……」

朝飯が作り直されている。しかも朝は洋食であったが、今回は見事なまでに日本食。
そしてその横には【ごめんね、朝から洋食は重いよね、だから、日本食に作り直しておきました。】と書かれたメモが置いてある。

おかしい、俺の部屋のカギは俺が勝手に変えたモノだ。大家すら侵入不可能だと言うのに……。

坊主に言われたとおりに寝室の隅から隅までお札を張る。
もちろん飯には手を付けていない。何が入っているか判ったものではないからだ。
空腹は辛いが、菓子が有るので今日はそれで我慢しよう。


坊主に部屋を出るなと言われた日の夜、俺は寝室に籠っていた。視線は感じない。
ようやく怪異もおさまったか、と思ったその時誰も居ない筈の廊下を歩く音がする。
何かを引きずる音と共に……

トントン、とノック。

しかし、鍵が掛る俺の部屋には入って来れないだろう。
ドアノブがガチャガチャと音を立てるが、一向に開かない。俺は坊主がくれたお札の残りを強く握る。手には、嫌な汗がにじんでいた

「……ねぇ」

少女の声、俺の全身に力が入る。その声は冷たく、しかしどこか甘い声色だった。

「どうして、私が作ってくれたご飯……食べてくれなかったのかな…?
 美味しく作れるように、いっぱい、いっぱい私、頑張ったのに……」

トン、トンとドアを叩く音が少しずつ強くなっていく。
俺は部屋の隅々に張ったお札に目を向けた。お札が溶けてきている……!?

ガチャンと、開く筈のないドアが開く

「ごめんね……無意識で、あけちゃった……」

その少女は、…まるで2次元から飛び出て来たような容姿で、不思議な球体が胸のあたりに付いていた。
それから伸びるコードのような物は、ゆらゆらと揺れ、さらに恐怖を増大させた。

「ごめんね、和食は嫌いだったかな? 洋食は苦手だったかな?
 …何でそんなに怖がっているの?
 ……そんなに怖がらなくても大丈夫だよ?
 君に憑依していた幽霊も、貴方に何か言っていたお坊さんも、私が始末してあげたから、もう怖いモノは無いよ?」

この時、月明かりで初めて解った。彼女が引きずっているのは、首の無い―――――――

「君は何をしたら喜んでくれるかな? 
 なにを見せたら私に笑顔を見せてくれるのかな?

 私に出来る事なら何でもしてあげるよ? だから私と一緒に居よ? 君が昔、神社で怖がっていた時の顔は、もうしないで良いよ?
 私が、全部守ってあげるから」


 ―――――かわりに、私に貴方の笑顔を見せて?―――――


そう言った彼女の目は深い闇に染まっており、愛おしいモノを撫でるように、俺の頬を撫でて来るのであった。


その日以来、寺の坊主と、○○の姿を見た者は、誰も居なかったと言う…。

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最終更新:2011年07月09日 22:46