やっとだ、やっと準備が出来た。
ここまで長かった・・・・・・
どうやら自分が思っていたよりも神と人間の間にある隔たりは大きなものだったらしい。
あの時の私は神であったがゆえにその隔たりの大きさを見誤っていたのだ。
「時間・・・かかっちゃったな、○○は私のこと覚えてるかな・・・・・・。」
当初人間になるために必要と思っていた信仰の量では到底足りなかった。
神としての力を手放して人間になるだけなのだから信仰の量もそれほど必要ではないだろうと思っていたが甘かった。
最初に予想していた信仰の量では指の先程の力も捨てることが出来なかった。
自画自賛と思われるかもしれないが今回に限っては忌々しいことに私の神としての力は相当のものであったらしい。
この事実から予想される神から人間になる為に必要な信仰の量は莫大なものだった。
今まで幾年にも渡って地道な布教による信仰集めを繰り返してきたが必要な量を集めるにはこの先何十、何百年かけても埒が明かないだろう。
そこで手っ取り早く必要な信仰を得るために私は自らの最も相応しい神としてのあり方に立ち返ることにした。
一世一代の大仕事である。
今の時間は草木も眠る丑三つ時、妖怪達が嬉々として活動している時間。
さしあたってまずは肩慣らしということで私は地面に手を置いた。
瞬間、幻想郷のあちこちで地面が強く、鋭く隆起した。
その際に出来た地割れに飲み込まれた者もいた。
幻想郷全土に渡って起きたこの地殻変動は一切の例外を取らず全てを破壊していった。
もちろん人里も例外ではなく多くの家屋が傾いたり崩れたり、はたまた沈んでいたりした。
この地殻変動から間をおかず私の元に多くの力が流れ込んできた。
流れ込んでくる力は粗雑で、それでいて強大で、信仰というより生き物が元来持っている心、恐怖そのものであった。
正道を行く神ならば恐怖など力となりえないだろうが私は祟り神。
人々が自らの身をを祟りから守るために祀ることによる信仰も力になれば、祟りによって恐怖する人々の心もまた糧となった。
そうして流れ込んでくる力に身をゆだねていると、こちらに迫ってくるいくつかの気配を感じた。
察するに異変解決に乗り出した麓の巫女やスキマ妖怪といったところだろう。
邪魔はさせない、全ては私と○○が対等な存在になるため。
立ちはだかる障害は全て排除する。
結果だけを言ってしまえば完全無傷とは言えないが私は必要な信仰を集め終えた。
途中、予想もしてなかった面々からも攻撃を受けたけれど最終的には私が勝ち、決着を迎えることには幻想郷は見渡す限りの荒地となっていた。
あちこちで境界にほころびが生じ、外界や異界らしき景色が見え隠れしている。
しかし私は気にしない。
この世界にはもう用はないからだ。
ようやく私は人間になれる。
「○○、遅くなったけどやっと、やっと人間になれたよ・・・」
外界では髪の毛は黒いほうが自然だから黒くした。
背も○○の横に並んだときに差がありすぎるかなと思って少しだけど伸ばしてみた。
他にも細かい箇所を手直ししたけれど、○○に会いに行くための一種の化粧だと思えば苦にはならなかった。
服装はどうにもならなかったが、この方が苦労して会いに来たように見えて良いかもしれないと自分に言い聞かせてみる。
目の前には都合よく昔自らが暮らしていた故郷が見える境界のほころび。
向こうの景色は月明かり以外雲一つない空と広大な山々、そして湖。
最後に自分のトレードマークでもあった特徴的帽子を投げ捨てる。
これは今までの自分との決別の印だ。
たった今をもって自分は祟り神にして土着神の頂点であった洩矢諏訪子ではない。
好きな人と一緒になることを夢見る、どこにでもいる少女の一人となった。
そうして私は幻想郷に別れを告げ、境界をくぐった。
幻想郷から外界に戻って、もうどれ程の時が流れただろうか・・・・・・
俺は人間という種族から神になるべくありとあらゆる手段を尽くしてきた。
それこそ、少しでも神になれる可能性が上がるというならば最先端の科学技術から怪しげな呪術まで節操なく。
その甲斐あってと言うべきか、徐々にではあったが俺の身体は姿見はそのままに人間という枠から外れていった。
力、速さ、強靭さ、ありとあらゆるものが人間という枠ではありえないものとなっていった。
これならば神という存在になるのも夢ではないと思えた。
その頃にはこの身体はより強力なものになっているだろうと考えていた。
しかし、ある地点を境に思いとは裏腹に身体は衰えていった。
最初は理由がわからなかったが、もし本当に自分が神という存在になりつつあるのなら合点がいく。
もし今の自分が人間という枠、さもなければ妖怪となっているならば、最悪は個でも生きていけるだろう。
だが、もし畏れ多くも神と言う枠に足を踏み入れているとするならばそうはいかない。
神はどこまで行っても人の信仰がなければ存在を保つことすらできない。
諏訪子達がそれが理由で外界から幻想郷に来たと言っていたのに、焦るあまりそんなことすら失念していた。
両親は自分が外界に戻ってきた数年後、ともに他界し、今となっては俺という存在を外界で覚えているものもいないだろう。
祀る者のない神となってしまった以上、俺はこのまま消えゆくしかないのだろうか・・・・・・
ならば、せめて消え行く場所くらいは自分の望む場所がいい。
そう思い立つと俺はまだ人並み程度には残されていた身体の力を使って移動を始めた。
目指すはかつて自分の愛した者の暮らしていたあの場所へ。
目的の場所に到着したのは夜明けも間近の頃だった。
まさか神に片足を突っ込んだ存在になってまで乗り物を使うとは思っても見なかった。
しかしそれも人並みに衰えた現在の自分では無理からぬこと。
更に言うなら今の自分には人並みも力は残されていなかった。
俺は湖に足を入れるとそのまま全身を水面に預けた。
大人しくしていれば人間は水に浮くとは聞いてはいたが、実際今の自分は仰向けに水面をプカプカと湖の中心へと流れて行ってる。
空の月夜もいよいよ終わりを迎えるようで山の間から日の光が少しずつ湖に差し込んできた。
差し込んでくる日の光は穏やかで、しかし目には眩しく映りこみ、あの日を思い出させた。
『あぁ、諏訪子(○○)と別れた日もこんな日の光だったなぁ』
・・・・・・ん?
聞き覚えのある声が横からした気がした。
残された力を振り絞り横へと首を傾けるとそこには、
「○○・・・迎えに来ちゃった」
髪が黒くなっていても、背が少しばかり伸びていても、えらく特徴的な帽子を被っていなくても見間違うはずがない。
自分の最愛の者の姿があった。
「諏訪子・・・様?何でここに?」
「二人っきりの時は様は付けないって約束でしょ?まぁそれは置いといて、遅くなったけど私○○と対等になるために人間になっちゃった。」
「まったく大変だったんだから、人間になるために力を集めようと思ったら皆から邪魔されちゃって・・・」
あーだこーだと自分が人間になってここに来るためにどれだけ苦労したのかを言っているため、こちらからは言い出しづらいが言ったほうがいいだろう。
「あの・・・諏訪子様?」
「諏 訪 子 」
「諏訪子・・・ちょっと聞いて欲しいんだけど?」
「何を?あっ私折角人間になれたんだしハネムーンって行ってみたい」
「俺の方が神様になっちゃったんだけど?」
「・・・・・・え?」
「しかも現在進行形で信仰不足で消えそう」
「えぇ!?」
「あと何で人間なのに湖に立ってるの?」
「それは今気にすることなの?」
幻想郷からスキマを通って懐かしい外界の故郷に戻ってくるとこれが運命なのか最愛の人が目の前の湖に浮いていた。
さっそく会いに行こうとしたが向こうは湖の上、人間になってしまった自分では湖の上は歩けない・・・・・・
かと思いきや人間になってみたものの、何故だか神だった頃の力が多少残っていたので貯めておき、○○と一緒になった後、○○を守るために内緒で使おうと思っていた力の余りでここまで移動。
人間でも神の力は使えるという実例が子孫にいてよかったとつくづく思う。
「と、いうわけなの。」
諏訪子はそう締めくくってどうして水の上に立っていられるかを教えてくれた。
「そして○○ってば本当に神になっちゃったんだね。まさか○○がそんなこと目指してたなんて知らないから私人間になっちゃったよ・・・」
「ごめん・・・でも俺も諏訪子が人間になるなんて思ってもみなかったよ」
まさか幻想郷を壊滅寸前にしてまで人間になって会いに来るなんて到底予想もつかなかった。
「でも○○は消えないよ、だって私が信仰するから。これからずっとずっと・・・ね?」
そう言われるや否や体中に流れ込んでくる何かを感じた。
始めて感じる感覚だったけれど何だかわかる。
これこそが信仰を得るという感覚なのだろう。
「あ、そうだ○○、あなたの姿を維持しているのは私の信仰だけだから私から離れたら消えちゃうから気をつけてね」
「具体的には?」
「手を繋いでいられるくらい?」
「数十センチじゃないですか」
「・・・・・・もう絶対離さないんだから」
そう言って捕まれた手を掴んでいる諏訪子の腕はピンと伸ばされた状態だった
こうしてここに一つの世界を犠牲に信者という名の嫁から一切離れることの出来ない一柱の神が外界で生まれたが、案外満更でもないようなのでこの一柱と一人の未来は明るいだろう。
・・・・・・なんと言うか皆さんゴメンナサイ
最後えらくご都合主義だし、ケロちゃん全く病んでないじゃないですかヤダー
一応完結させたほうが尻のすわりがいいと思って急ごしらえで作ったらこうなりましたorz
最終更新:2011年07月09日 23:07