ギュィィィィン!キュルキュル!

「危ない!!」

「へ!?」

ふと見ると自分の指が旋盤に挟みこまれそうになっていた。

ココは人里にある鉄工所。外来人○○は旋盤工として働いていた。

「何やってんだい!!」

「すみません・・・」

所長に怒られ謝る。

「ったく!河童に尻子玉でも抜かれて腑抜けになっちまったのかよ?」

○○の顔が強張る。

「お前は腕のいい職人だが、根を詰めすぎだ。今日はこれまでにしてもう休め。」

「ありがとうございます・・・」

真っすぐ外来人長屋に戻る。
食欲は湧かず、浴びるように酒を飲んでも、ちょんの間で女を抱いても心の渇望は癒えることはなかった。

「にとり・・・」

妖怪の山に住む河童のにとりは○○の務める鉄工所のお得意様だ。
光学迷彩を着て鉄工所入り込んだ時は驚いたが、同じエンジニアということでウマがあったのかちょくちょく螺子や板ばねなどをオーダーするようになった。


あの日、注文の品物をにとりの研究所に届けた後酒盛りに誘われ、そして・・・・


水音が聞こえる

「あれ?俺は確か部屋で寝ていたはず」

目の前の川から人影が立ち上がった。

「やっと来てくれたんだね」

彼女が、にとりがやってくる。

逃げなきゃ・・・・でもなんで?

足が縫いつけられたように動かない。


コートを脱ぎながら、にとりがゆっくりと近づく。

「何をしても私が欲しくてたまらないでしょう?生身の人間が妖怪と交わったらそうなるの。」

目の前には満月に照らされて、一糸纏わぬ姿で「妖怪」が立っていた。

そこには何時もの快活な笑顔はなく、そこには淫欲に彩られた笑顔があった。

にとりの細く細やかな指が○○の作務着の中に吸い込まれていく。

「○○は私が怖い?」

そう言いながらにとりの指が○○自身を愛撫する。

「でもココは私が欲しくてたまらないって」


○○は全てを諦めた

鉄工所で働き、外界へ戻ることも

親友と一緒に笑う日々も

平凡であっても安全な生活も


人間であることも・・・


「はぁはぁぁぁ!!!!にとりぃぃぃぃ!」

狂ったようににとりとまぐわる。

獣欲に支配された○○をうっとりと見つめながら、にとりは○○と過ごす薔薇色の日々を思い描いていた。

ただ二人を紅く穢れた月が見つめていた。

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最終更新:2011年08月10日 16:20