出ると有名なとある神社に肝試しに来た時、僕は神隠しに遭い、幻想郷にやって来た。
博麗神社の低級妖魔除けのお守りのお陰で、僕はそれなりに充実した幻想郷ライフを送る事が出来、
つい最近、この郷に永住しようと決心した。

幻想郷に来て一年、ある日僕は『未来を視る程度の能力』に目覚めた。
その事を仕事仲間に話したら、羨ましがられたが、全然嬉しくなかった。
なにせこの能力は、結果しか見えないからだ。
例えてしまえば、映画館に入ってオープニングを視ていたら、
いつの間にかエンドロールが流れていた、という様な感じである。
肝心の過程が分からないので、頭に浮かんだ未来がなんでそうなったのか全く理解できない。
それにこの能力のせいで、最近周りに怯えながら生活する羽目になった。それは、
「やぁ、○○、肉じゃがを作りすぎてしまったのでお裾分けに来たのだが。
(ウフフッ、幻想郷内全ての人妖の歴史を消したから、ここにいるのは私と○○……いや、旦那様だけ……)」
「○○、今日外の世界から新しい機械が入ってきたから、一緒にばらそ。
(ごめんね、○○。○○が寝ている間に、体に爆弾を仕掛けちゃったの。
私から少しでも離れたら爆発しちゃうから、もう離れる事出来ないよね)」
「おぅ○○、この大吟醸借りてくぜ!
(○○がいけないんだ……。私の事を女としてみるから……。もう、お前がいなかったら、私は……)」
親しく付き合っている幻想郷内の実力者の未来が勝手に視えてしまうのだ。
一体彼女達になんて言ったんだ、未来の僕。


このままではまずい。本当だったらここに永住するつもりだったけど、
こうなったからにはなにがなんでも幻想郷から脱出しなければならない。
でも、出るにしても霊夢も紫様も災いを与える存在でしかない。
下手に動いても動かなくても酷い未来になってしまうので、どうすればいいのか分からない。
考えれば考えるほど宜しくない未来が浮かんでは消えた。
そうこうしている内に疲れて眠ってしまっていたらしい。
しかし、その夢の中で希望を見つけた。
森の中をさまよっていると、いつの間にか元の世界に戻っている、という夢を見たのだ。
この幻想郷内で森といえば魔法の森しかない。
起きてすぐに身支度を済ませて、僕は魔法の森に向かった。


――――――○○移動中――――――――


「○○さん、最近身に付けた未来を視る程度の能力について聞きたい事があるのですが。
(○○さん、これであなたも私達と同じ天狗になりました。
もう他の天狗の目を憚る事なく愛し合う事が出来ますね。嬉しいですか、○○さん)」
「あの、今急いでいるので、取材は後で」
「○○さん、今晩山の神様達を招いた宴会があるのですが、一緒にどうですか?
(大丈夫ですよ。私も半神なんて止めて完全な神様になりますから、これからは一生一緒ですよ)」
「あぁ、その時間は仕事の都合で……」
歩き始めてから数刻も経たない内に、僕の後ろには知り合いの少女達が列をなしていた。
様々な未来が頭の中を過ぎっていった。どれもこれも、いろんな意味で人生が終わりそうなものばかりだった。

――――――○○早歩中――――――――

なんとか魔法の森までやってこれたけど、どうすれば元の世界に戻れるのかは相変らず分からなかった。
それどころか、最悪な事に十重二十重に囲まれ、身動きが取れなくなっていた。
「こんなたくさんの女の子に囲まれて、あぁ……妬ましい……。
(私に愛されて嬉しいの、○○?あんたの幸せそうな顔を見てると、こっちが妬ましくなるわ!)」
「こんな所まで来て疲れたでしょう。近くに私の家があるから、そこで少し休まない?
(私の可愛い可愛いお人形さん、今日はなにをして遊びましょうか、うふふふふ……)」
「○○、閻魔である私の話を無視するとは、失礼にも程がありますよ。とりあえずそこに直りなさい。
(○○、あなたがこれまで他の女に色欲をばら撒いた罪、私で以って償いなさい。それがあなたに出来る善行です)」
というか、少女達に包囲されるなんて夢には無かった。まさか、未来が変わってしまったのだろうか。
絶望し、後退りした瞬間、僕はなにかに躓き、後ろ向きに転んでしまった。
目に火花が散り、気が付いた時には、僕を包囲していた少女達は一人もいなくなっていた。
それどころか、森にいたはずなのに、僕がいたのは神社の境内だった。その神社を、僕は知っていた。
博麗神社でも、守矢神社でもない。ここは間違いなく、僕が神隠しにあった神社だった。つまり、元の世界に戻れたのだ。
「いやったぁああああ、帰れたぁああああ!!!」
「なにが帰れたの、○○?」
振り向くと、懐かしい声がした。
「蓮子先輩とメリー先輩、どうしたんですかこんな所に?」
「それに答えるのは本来君の方からなんだけど、まぁいいわ。
メリーがこの神社に隙間があるっていうから来ただけよ。
っで、君は午前三時三十三分五十秒になんでこんな所にいるの?」
相変らず異様なくらい時間に正確な蓮子先輩に驚きながら、僕は幻想郷での出来事を掻い摘んで説明した。
なぜか女の子の名前を出すと、先輩二人の表情が一瞬翳った様な気がした。
途中でちょくちょくメリー先輩が声を出した。どうやら、メリー先輩も幻想郷に行けるらしい。
それにも驚いたが、本当に驚いたのは、幻想郷での一年が、元の世界では僅か四時間しか経っていないという事だった。
全てを話し終えると、二人はにやにやといやらしい笑みを浮かべていた。
「メリー、○○の幻想郷脱出記念に、これから居酒屋でパァーとやらない?」
「いいわね、さぁ、そういう訳で一緒に行きましょう、○○。大丈夫、お金ならたくさんあるから」
有無を言わさず、僕は先輩二人に引っ張られて、夜の街に消えた。


翌日、○○と蓮子、それにメリーが大学を自主退学した。

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最終更新:2011年09月16日 01:16