ここは幻想郷のとある居酒屋。
そこで○○と友人の××は二ヶ月振りに酒を飲んでいた。
○○は子供の頃から霊感が異常に強く、浮遊霊や地縛霊以外にも、
通常なら見えない守護霊を視て、そして会話する事が出来た。
その事で昔から散々虐められたので、こちらに来た時は、周りには黙っていた。
普段だったら、浮遊霊や地縛霊の類を視ても声すら上げない○○だったが、
××の背後に立つ守護霊を視て、思わず絶句してしまった。
○○が以前に視た××の守護霊は、××の祖母だったはずなのに、いま背後に立っているのは、謎の男の霊だったのだ。
本来守護霊は、その人の先祖がなるもので、赤の他人がなるなど絶対にありえない。
守護霊をすり替えるなどという芸当が出来るのは、幻想郷に能力者多しといえど、あの人しかいない。
「なぁ、××。ここ最近、なにか変わった事はなかったか?」
「んっ……、あぁ、
幽々子様が家に茶を飲みに来るようになったが……」
「はぁ、お前、いつから幽々子様とそんな関係になったんだよ!?」
「おぉ……、○○よ、良くぞ聞いてくれました!実は一ヶ月前に道端で偶然幽々子様に会ってな、
『あなたはお饅頭のように甘くておいしそう。見てたらお茶が欲しくなったわ』って言われたんだ。
あんな美女のおねだりを無視する訳にもいかないから、家で茶をご馳走してやったんだよ。それからほぼ毎日」
異常だった。お茶を飲むためだけに××の守護霊を別なものにすり替えるなど、常軌を逸している。
注意しようと声を出そうとしたが、男の霊に睨まれた。この霊は監視のために××に取り憑いているのだ。
「幽々子様は美人で、教養があって、それでいて俺みたいなのにも飾らないで接してくれる最高にいい人なんだぜ。結婚するならあんな人がいいね、死んでるけど」
そんな事も知らない××が盛大に惚気始めた。その惚気話を聞いた男の霊が、ふっと消えた。
手遅れか、○○は確信した。あと一日か二日で、××はこの世からいなくなる。それが分かると涙が出そうになった。
「それにしても、なんでお前が幽々子様との事を知ってるんだ。まだ誰にも話してないのに?」
「そんな事はどうでもいいじゃないか。今日は俺がおごってやるから、好きなだけ飲め、食え、そして歌え」
「おぉ、○○、そのお言葉に甘えさせてもらうぜ!」
せめて楽しい思い出を作らせてやろう、○○はそう思った。
その二日後、××は心筋梗塞でこの世を去った。その表情は安らぎに満ちたものだった。
最終更新:2011年11月29日 04:42