死に損なってからこのぶっ飛んだ世界に放り込まれて何年経ったか、多分3年は経っていると思う。
法則的には『居なくなっても影響のない人間』を放り込んでいるらしいから、俺は元の場所では要らない存在だったのだろう。
賢者か何だか知らないが、自分が存在価値の無い存在だって事を身を持って教えてくださった訳だ。くだらない。


記録と文字を書く練習、及び正気を保つためにこうして何か有る毎に日記を付けている。
外来人の集まりにも元外来人の集まりにも、里にもその他のコミュニティにも属さない俺は物資のつぶしが効かない。
手にしているボールペンやら手帳は、俺の自宅の裏で首を吊っていた迷い人が持っていたもんだ。
どうやら里にたどり着く前に散々程度の低い化け物に追い回され、絶望して首を吊ったらしい。遺書にそう書いてあったもんな。
賢者様ももうちっと難易度の低い場所に放り込めば良いのに。
俺達外来人の存在価値の1つは妖怪の餌だろうがむごい事だ。


独り暮らし、しかも人里から離れた暮らしはキツイが、このイカれた世界ではコミュニティに属する事は危険を意味する。
俺は観測者として散々それを見てきたし、性格上ああ言う目に遭うのは死んでもごめんだ。
古ぼけた舶来物のセミオート拳銃を握り締める。もう、奪うのも奪われるのも俺には厳しすぎる。特に、女は。


銃声が響いたので、そちらの方を単眼鏡で見やると木の上で小銃を構えた男が居る。
残留組の古参である火傷顔の男だ。一度だけ直接話した事がある。
思えば、あの男も嫁の存在の重さでああなっちまったんだっけな。正気と狂気が同居している奴とは付き合いにくい。
実際、ああなると男が狂っているのか女が狂ってるのか判別が付かなくなる。付かなくなるからこそ、あの二人は寄り添っているのかもしれないが。


久し振りに天狗の記者がやって来て取材だのと言ってきた。どうやら手頃なネタが尽きたらしい。
こんな誰からの縁も遠ざけている野郎にお前が喜ぶネタなんざ出来るかと言ったら、納得して帰っていった。
あの天狗も愁嘆場ネタは流石に避けている様子。以前神社の巫女絡みで危うく刺殺されかけて懲りたらしいが……本当に懲りたんだろうか。


帰還したくて嫁から逃げている連中が近くでキャンプを張っているので、数キロ離れた別の洞窟に移動する。
案の定数日後に派手な弾幕戦が繰り広げられているのが洞窟の入り口からでも観察出来た……ありゃ、ウチの拠点まで巻き込まれたなくそったれ。
物資の大半は移動させておいたとはいえ、拠点ってのは作るのに手間がかかるんだぞ。夫婦喧嘩なら家でやれ家で。


人里外れのお寺で住職を相手に柄でもなく懺悔をした。
好きだった女を他の男との痴情の縺れで死なせてしまい、相手をぶち殺した事、死のうと思って樹海を歩いてたらこっちに来た事を話す。
住職は親身に話を聞いてくれ説法をしてくれた。心に染みる説法をしてくれるこの住職はいい人なんだろう。
相手が居るから俺に危険が及ばないしな。相手である寺男は女の尻に敷かれている事に関して複雑そうな顔をしてたが。


「こうすれば貴方がずっと私の事を思ってくれるんじゃないかなぁって」
瀕死のあいつはそんな事を言ってた。あれがヤンデレだっけか?
こっちに来てから死ぬ直前のアイツの顔がヤケにちらつくと思ったら、ああ、そう言う事だったのかと得心した。
俺を無気力にして『現世に要らない人間』へ変えたのは死に誘う為だろうか。まぁ、その前に俺がこっちに移動したのは誤算だろうがな。
死んででも俺に自分を刻みたい、アイツがそんな業深い愛を出来る女だとは。馬鹿な女だよ本当に。
そう言う馬鹿な女が一杯居る幻想郷ってある意味終わってるのかもしれない。このままで大丈夫なのか賢者様よぉ?



安全だと解ってから、ダラダラとお寺に通う事が多くなった。
寺のメンバーも自分の男の世話やらストーキングで忙しいので、安全極まりない。
偶に男から助けを求められるが無視。俺は平和主義者なんだ。


懺悔するネタが尽きた。でも、俺は未だに燻っている。
寺の裏辺りをブラブラしてたら昔懐かしのキョンシーが彷徨いてたので追いかけたら、いきなり穴が開いて落ちた。
そして落ちた先には中華っぽい姉ちゃんと、烏帽子被った姉ちゃんと、足が真っ白な姉ちゃんと、ヘッドホン付けた姉ちゃんが居た。
何だ此処?

「おろかものめが!」

何故か怒られたよ。どういうことなの……。


続く。

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最終更新:2011年09月29日 20:14