千四百年もの眠りから覚め、この幻想の郷で暮らしていた我はある日一人の男と出会った。名を○○という。
初見では何とも軟弱そうな奴であると思うていた。だが、中々如何して男らしく勇ましき所もある○○の姿を見る内に、次第に彼に惹かれゆく自身の心に気付いた。
そして今日、何故か大祀廟を訪れていた○○に会った我は、きっとこれも運命の導きに決まっておると思い、この気持ちを告白する事にした。
「○○、おぬしといると心が温かくなる。太子様とはまた違った心地好さが胸に満ちる」
「そうですか? そう仰って頂けると嬉しいですね」
「そうか! いや、当然であろうな。これほどにも強くおぬしを想っておるのだから、我の想いが伝わらぬ筈が無い!」
そうでなければ、今の様に我の抱擁を受け入れる訳も無いであろうしな。
袍の下に秘められし二つの女子力(妖怪の山の神兼巫女曰く)を押し付けるなど少々はしたないかもしれんが、なに、気にする事はない。
我と○○はもう間も無く夫婦となるのだから。
「そして今のおぬしの返答……それはつまり○○よ、おぬしも我の事を女として愛しておる…そうだな? そうに決まっておる(ドヤァ」
我の告白に対する○○の返事は当然肯定の―――
「え、違いますけど」
…………えっ?
「いやあ知人としてならともかく、そっちは流石に謀略で自分の親族皆殺しにして財産奪った方ではちょっと」
「えっ? えっ?」
○○、おぬしは何を申しておる?
確かに我は物部を滅亡させたが、それは太子様と我が尸解仙と成る為に必要な手順だったのだ。
何故その様な瑣末事に囚われる。我と出会えずとも良かったと申すか?
「それじゃあこれから
屠自古さんとデートする系の用事があるのでこれで」
「あ、え、ま、待って○○、待って…」
呼び止める我の声にも振り向かず、立ち去ってゆく我の○○。
嘘だ、どっきりだ、ふぃくしょんだ…こんな事は絶対に有り得ん、有り得てはならぬ。
○○は我を愛し、我も○○を愛しておるのに何故こうなる…?
いや、待て…○○は最後になんと申しておった? 誰とでえとをする用事があると申していた?
…屠自古。そうか、おぬしか、我が娘よ。お前が○○を惑わしたのか。
お前が、貴様が、我の本当の敵か!!!!!
「屠自古……屠自古ぉぉぉぉぉぉ!! 娘のっ…! 我の娘であった程度のものの分際でよくも! 遣われるだけの下賎な亡霊の分際でよくも我の○○を!貴様だけは絶対に赦さんぞ! 屠自古ぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
最終更新:2013年01月08日 14:34