う…ん…あれ?ここは?


「あ、気がついたかい?
ウチの娘が郷で気を失って倒れた君をここに運んで来たんだよ。」

郷で争奪戦の対象にされていた外来人の青年〇〇は突然、自身が何か恐ろしい環境に身を置かれているのを悟って保全のために気を失ったのは微妙に覚えているが気がつけば見知らぬ場所の寝室で寝かされていて、少々混乱していた。

「とりあえずは、始めまして〇〇君。」

え?何故、自分の名前を?

「娘が『〇〇が、〇〇が!!』って騒いでいたし、悪いが君の所持品を漁って免許証を拝見させて貰ったよ。」


そ…そうですか…。


「自分も君と同じ外来人だよ。もっとも、そう言っても今じゃ『元』が着くし幻想郷に迷い込んだのは数十年前だけどね?」


元…?あの…意味がわかりませんし、数十年前?そんな馬鹿な…。


「そんなことより、外の世界はどうだい?相変わらず金が有る奴はある、無い奴は無い二極化した社会や無能な政治家、いい加減な報道が蔓延っているかい?」

え…えっと、まぁ…そうですが。


「そうだろうな。だから君もこの幻想郷のノスタルジックと言うか牧歌的な雰囲気に見入られたんじゃないかい?」


そう…ですね。懐かしい雰囲気もそうですが向こうでは見られないものが見られるとも聞いていたし。


「そうだろう?そんなことよりすまないねぇ。ウチの娘、妻に似て【色々な意味で】積極的だし、常日頃から『結婚するなら父さんみたいな外来人の方がいい。』って妻が娘に教えているんだよ。」


……え?


「ここでは好奇心は猫は殺さない。捕まるんだよ。さっき言ったろ?『元外来人だ。』って。それはつまり、妻と同じ存在になったんだよ。」


それって、つまり…。


「大丈夫だよ、〇〇君。いや、これから家族になるから〇〇でいいよな?幻想の存在になればデメリットよりメリットの方が多いことに気付くよ。」


あの…僕は…。


「父さん、〇〇は気が付いた?」
会話の途中、寝室の扉を開けて入って来たのは郷で会ったあの娘。

「あぁ、ついさっきな。」

「よかった。母さんに『ご飯出来たから呼んで来て。』って言われたからちょうどよかったわ。今日はご馳走よ。」


「お、そうか。新しい家族が増えるから母さんも頑張ったな。」


「さ、行きましょう〇〇?私も手伝ったから沢山食べてね?」


「なんだか、もう娘の晴れ姿が見れとはなぁ…。」

そう言って〇〇に腕を絡ませて組む娘と、それを微笑ましく見る父。

しかし二人の親子の目は淀んでおり笑顔もまた歪んだものだった。

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最終更新:2011年11月06日 11:54