子供の頃の約束
子供の頃、不思議な子供と遊べる事があるという。
近所にも住んでない、他方から旅行で来た子供でもない。
どこから来たのか解らない、だけど確かにそこには居た子供。
かくいう僕もそんな不思議な子供と縁を持ち、何度も遊んだ事があった。
大好きだったお婆ちゃんにその事を話したら、お婆ちゃんは困った顔で言った。
遊ぶのは構わない。だけど、その子との約束は遊ぶ約束以上の事はしちゃ駄目だよ、と。
僕は大好きなお婆ちゃんの言葉に頷いた。
ただ、細かい意味までは理解していなかったと思う。
その不思議な女の子はとある日、諏訪湖の湖畔で寂しそうに言った。
僕は昔一緒に居た人によく似てるって。
僕はその女の子の事が気になってたので、一緒に居て楽しかったかと聞いた。
彼女は頷いた。ずっと一緒に居たかったけど、当時の友人が荒れていてそのおかげで死に別れたとか。
子供ながらに重い話を聞いて、僕は涙を我慢できなかった。
じゃあ、ずっと僕が一緒に居てあげるよ。
その言葉を我慢できなかった。
小学生から中学生、高校生と僕は年月と成長を重ねた。
不思議なモノで毎日遊んでいた女の子の記憶はいつの間にか薄れ、年相応に男友達と遊ぶようになった。
「○○ー、一緒にカラオケいかね? ××の奴が隣の女子校の女の子達呼べたって言ってたから楽しいぞぉ」
「んー遠慮しとく」
何故か女の子との縁が無い僕は友人の誘いを断る。
女の子が同席すると、何かしらトラブルが多発するジンクスがあるんだ。男だけで集まった時は何も無いのに。
諏訪湖の湖畔で、僕は佇んでいた。
思い出の地。名前しか知らない女の子との秘密の場所。
偶に、来てしまう。あの子が確かに存在していた事を確かめる儀式の様に。
「待っていたよ○○」
振り返ると、彼女が居た。
初めて出会った時の姿ではなく、僕と同じ位の年齢になっていた。
「えへへ、どうかな。○○も年頃だしね、○○と同じ位の外観にしてみたんだ。
あ、前の方が良いって言うなら戻すけどね。ま、見た感じ概ね好評ってトコかな」
どう反応したものか途惑っていると、彼女はクスクス笑いながら満足げに頷いた。
「……本当、瓜二つになったよ○○は。いい男に育った。
他のおなごにくっつかれないよう苦労したよ。本当はもうちょっと大きくなるまで見守りたかったんだけどねぇ……」
ザワザワと辺りの草木が鳴り響く。
「
神奈子の奴が勝手に別の場所へ神社を移すと決めたのよ。
止めるにも主導権はあっちにあるしね。もう、此処を離れる他ないのさ。だから……」
ギラリと彼女の目が光り、僕の身体が動けなくなった。
ガチャンと手足に鉄輪が嵌り、これはいよいよ動けないと思えてきた。
「さて、約束を果たして貰おうかな○○。童の頃の約束を」
「諏訪……子」
舌なめずりしそうな妖艶さを秘めた笑みで、彼女……
諏訪子は僕の耳元で囁いた。
「『じゃあ、ずっと僕が一緒に居てあげるよ。』。
神前で発された約束は、決して違える事は許されず。
ずっと、ずっと一緒だぞ○○。今度こそ絶対に離さない。
何、私が神へと到らせてあげるからさ。ずっと、永遠に、私と一緒に暮らそうよ……○○」
僕が現世で最後に見た物は、諏訪湖の湖上に浮かんだ神社。
そして全身から妖気を漂わせ、僕を神社へと嬉しそうに連れ込む諏訪子の姿だった。
ああ、婆ちゃん。婆ちゃんの言葉の真意ってこれだったんだね。
最終更新:2011年11月06日 13:24