外界から隔たる幻想郷でも天候は関係無いみたいだ。
ビュウビュウと強い風が吹き荒び、重く垂れこんだ雨雲から今にも降って来そうだ。
幻想郷にも野分【台風】の影響があるみたいで只今、自分が住んでいる小屋の雨戸を補強していた。

コンコンコン…。
「ふぅ…補強はこれでいいかな?ひどくなる前に中に入るか。」


雨戸に板を打ち付けて戸を開けて急いで閉める。
「さてさて、食料よし、蝋燭よし、暇潰しの文庫本よし。戸も補強して野分が止むまでゆっくりとするかな?」

そう呟くと、トントントン。戸を叩く音がした。


「はい!どちら様ですか?」
こんな天気の中、誰が訪ねて来たのだろう?


「〇〇私だ。慧音だ、見廻りに来たからすまないが開けてくれ。」

それを聞いて驚いた。幻想郷に迷い込んで人里に住むにあたり世話になった守護者の慧音さんが訪ねて来たらしい。


「は、はい!すぐに開けます。」


戸を開けると、見廻りに来たはずの慧音さんが何故か鍋を持って立っていた。


「…慧音さん、見廻りに来たんですよね?」


「そうだが、どうかしたのか?それより〇〇、ちゃんと補強してあるようだな。感心感心。」


「あの、その鍋は?」


「あぁ、これは見廻り序でに肉じゃがを作って来たんだ。夕食はまだだろう?」

「…ここで食べるんですか?」

「迷惑だったのか!?見知らぬ土地で住み自然が牙を向くかもしれない状況なんだぞ!?そんな時に厚意向けた者を無下にするのか!?」

「す…すみません、とても有り難いです。」

ズズイッと迫って来た慧音さんに気圧された自分が、受け入れると慧音さんはすぐに微笑み「すぐに出来るから待っていてくれ。」
と言って台所に立って準備を始めた。


(そういえば…慧音さん、野分が収まるまでウチに居るのかな?だとしたら、参ったなぁ。余分に布団無いんだよなぁ…。)
文庫本を読みながらそう考えていると「食事が出来た。」と呼ばれた。


ご飯にみそ汁、肉じゃがとお浸し。嬉しい献立だ。
そう思い手を合わせ「いただきます。」と挨拶をし、ご飯を口に運ぶ。
ホントに美味い、流石は慧音さんだ。
そう思っていると慧音さんがまじまじと自分を見ているのに気づいた。


「あの…慧音さん?自分の顔に何か着いています?」

「いやぁ…。そんなことより〇〇、この肉じゃが美味しいだろ?」


「え?はい、美味いですよ。」


「そうだろそうだろ。野菜は農家からの採れたてだし、牛肉から良い出汁も出ているからな?」
得意げにそう語る慧音さん。

「は…はぁ。そうだ、慧音さん。今からじゃあ帰るのは困難だと思いますから野分が去るまでウチに居ますよね?」


「あぁ、そうさせて貰おう。」


「眠くなったら遠慮しないで布団を使って下さい。自分は一晩中起きていて文庫本を読んでいますから。」

「気を使わないでいいぞ〇〇。二人で寝ればいいのだからな?」


「え?」ガチャンッ…。
慧音さんの発言に困惑していると持っていた茶碗を落としてしまった。

「???」
おかしい…体が痺れる!?

「〇〇に三ついいことを教えよう。一つ、野分の後に懐妊する里の女性が多数居るのだ。外の音が大きいから安心して励めるからな?二つ、なぜ体が痺れるか?それは、あの肉じゃがにちょっと隠し味を入れたんだよ。それにあの肉は…私のだ。そして三つ、私はお前が好きなんだよ。誰にも渡しくないんだよ。誰にも…な?」

そう言って瞳孔が収縮し淀んだ目と歪んだ笑顔で躙り寄って来る慧音さん。


「さて〇〇…野分が収まるまでに新しい歴史を作ろうじゃないか。」


吹き荒ぶ風と降り頻る雨が小屋を叩いていた。

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最終更新:2011年11月06日 13:45