「・・・見られている」
見られている。
街中の女子高生から果ては横断歩道を集団で渡る小学生。
果ては家や定食屋の神棚からも視線を感じる。
ヤンデレ少女による拉致監禁凌辱が日常的に行われる、恐怖の幻想郷から奇跡的な帰還を果たした○○にとっての悩みはそれだった。
なぜだ?
彼は幻想郷に居た時は産休に入った教師に変わって、寺子屋の代用教師をしていたが受け持ったのはまだ色恋をしらない幼児と妖精だけだった。
無論、外界に影響を与えられるような強大な力を持つような存在はいない。
そのため、彼は他の外来人のように「お婿さん」という名のダッチハズバンド地獄を味わうことはなかった。
しかし安定と収入は比例しない。
寺子屋の収入では帰還に必要となる金子は用意できなかった。
美術の時間、元プロモデラーである彼が龍のフィギュアを作ったのを見た教え子の
諏訪子ちゃんの知り合いが彼に融資したいと申し出た。
自分は外界では名の通った神であったが、信仰を失くして幻想郷に落ちのびることになった。
幻想郷の御蔭で新たな信仰を得て自分たちは安泰であったが、外界に残してきた分霊達が心配だ。
携帯用の自分たちの姿をデフォルメしたストラップを作り、それを通して得た「信仰」を分霊達に分配し存続を図りたい。
もしそれが可能であるのなら、外界帰還に手を貸そう。
こうして彼は蛇と蛙を可愛らしくデフォルメしたストラップの原型を作成し、その出来に満足したクライアントが用意した金子で外界へ帰還した。
原型をどうやって外界へ持ちだすのか、彼にはどうでもよかった。
「
神奈子~おまかせカエルくんとのんびりヘビちゃんの売れ行きはどうなってる?」
「ああ諏訪子。増産に次ぐ増産で思ったよりも儲かってるし信仰も全て分霊に分配するのも惜しいくらいだよ」
妖怪の山にある守矢神社では二柱の神が紫に内緒で引いたダイヤルアップ回線でインターネットをしていた。
「意中の殿方を落とす霊験あらたかなストラップ!一家に一個ってね」
「そうさ!私が見つけた○○は腕のいい土師になるよ。昔の彼と同じくね・・・」
「あたしも驚いたさ!○○が作った龍の置物があんたの旦那の昔作ったものにそっくりで」
「せっかく安定した居場所を得たんだから、今度は旦那もいなくっちゃね」
「でも、ストラップを通して○○を監視するのはやりすぎだと思うがね」
「・・・約束は忘れてないよね?」
「わかってるよ。彼が全てに絶望して現実を捨て去ったとき迎えに行くのに力を貸すってことは」
神奈子はため息をついた。
意中の男性を見つけた諏訪子は始末が負えない。
遥か昔、諏訪子の旦那の今わの際、「やっと逃げられる・・・」と彼が呟いたことを諏訪子は知らない。
「やっぱり逃げきれなったね・・・・」神奈子はそっとそう呟いた。
最終更新:2011年11月10日 21:39