リリーホワイト・リリーブラックのお話



  冬の始めの頃。満開の桜の木の下で私は考えていた、彼女達との出会いを、今こうなってしまった自分を。
「あははー、難しい顔して何を考えてるんですかー○○くん。やっぱりまだ春が足りませんか?」
「そうよ、ここではもう何も考える必要はないのよ?」
 小さい体で私を抱きしめているのはリリーホワイト、リリーブラック、幻想郷では春の妖精と言われている種族だ。
「それじゃ、またいーっぱい春をあげますね」
「遠慮なんてしなくていいわよ、貴方だけに贈る特別な春なんだから」



  初めて彼女達と出会った時は小学二年生の春



 もう完全には思い出せないが、確か私は学校の遠足で山に行き、そこで迷子になって、いつのまにかこの幻想郷に迷い込んでしまった。
 見たこともない森の中で彷徨ったのを覚えている、あの頃の自分にとってはまさに悪夢だった。
 昼なのに薄暗く、妖怪か何かがいつ出現してもおかしくない、そんな風にその時は思っていた。後になってそれが事実だと知ったのだが。
 そんな森の中で歩き続け、何とか明るい開けた場所に出る事ができた。やっと森から抜け出せた! そう思った後、目の前にとても大きい桜の木があるのを発見した、そしてそこに彼女達がいた。
「ブラックちゃんあれって……」
「人間の子供かしら?」
 寂しかった私は二人の元へ駆け寄った、背丈も同じくらいなので迷子になった同学年の子だと思っていた。彼女達の背中に羽のようなものが生えていることに疑問など一切感じなかった。
「どうしたの、もしかして迷子になったのかしら?」
「泣いちゃだめですよー、ちゃんと『村』まで運びますから安心してくださいねー」
 ホワイトとブラックは笑顔で私をあやしてくれた。あの時、私は彼女達が頼れるお姉さんのように感じていた。
「もう大丈夫みたいね」
「じゃ、私の背中に乗ってくださいね、超特急で『村』まで向かいますよっ!」
 そうして私はホワイトの背中に乗せられその『村』へと連れて行ってもらうことになった。

 ……もちろん、同じぐらいの身長の子に背負われて行く空の旅は恐怖しかなかった。
「あれー、お空の上が怖いんですか? おかしいですねー、いつも背中に乗せる子供達は面白がってくれるんですけど……」
「ねえホワイト、この子もしかして『外』から来たんじゃない?」
「なるほど、それなら怖がっちゃいますよね……」
「どうしましょう、そうすると『村』に送って行ってもこの子の居場所がないわよ?」
「う~ん、慧音さんなら何とかしてもらえると思うんですが……」

「せっかくですし、私達の家にご招待しましょう!」
「……いいのかしら」
「大丈夫ですよ!」
 そうして、『村』ではなく彼女達の家に連れて行かれることになった。

「ところで、貴方の名前はなんて言うのかしら?」
「そういえば聞いてませんでした、なんて言うんですか?」
「○○くんですか、良い名前ですねー、これからよろしくお願いしますねー」


 私は彼女達の家でどれくらい一緒に暮らしただろうか……たしか三ヶ月くらいだったか。
 そこで、ここは幻想郷という別世界であることを教えられた。
「ここは幻想郷って所なんですよー、ちょっと物騒なところもありますけど、とっても楽しい所なんですよー」
 彼女達リリーホワイト、リリーブラックは妖精であることや、様々な種族がここには住んでいることも。
「あたし達はね、春の妖精なのよ、○○も聞いたことはあるでしょう? 他にも……」
 彼女達と共に遊んだりもした。
「私達から絶対に離れちゃだめですよー、妖怪さんに食べられちゃいますからねー」
 別の妖精を連れてきてくれたこともあった。
「あたいったらさいきょうね! そこのにんげん、あたいとあそべることをこーえーにおもいなさい!」
「……連れて来る相手を間違えたかしら」
「あははー」
 色々あったが彼女達との暮らしは『外』とは違う楽しさで溢れていて心の底から楽しいと思えた。
 しばらくは帰りたいとは思わなかった。けれど、やっぱり私には『外』の世界が恋しかった。

「どうして泣いているのか、私に教えてくれませんか? きっと助けてあげられますから」
「『外』に帰りたいんですか……でも、ここは『外』の世界よりもずっと楽しいですよ、桜もずっと咲いてますよ」
「ホワイト、貴方……」
「冗談ですよー、じゃあ私達と一緒に帰る方法を探しましょうか!          ……」


 最初の別れは初めて私が『村』に行った時。
 私と彼女達は帰る方法を探すために、慧音さんと呼ばれる『村』の賢者と話をしていた。
「『外』の世界に帰す方法ならあるぞ」
「え、本当ですか……」
「簡単だ、博麗神社にいる博麗霊夢と言う巫女に頼めばいい。不安なら私が案内しようか?」
 そうして、あっけなく私は『外』へと帰る方法を発見したのだった。

「明日、帰っちゃうんですよね……」
 『うん』と私が返事した時、ホワイトはとても悲しそうだった。
「ずっとここに居ても――「ホワイト、それ以上はダメよ!」
 ブラックも同じくらい悲しそうにしていた。


「さようなら○○、短い間だったけど楽しかったわ」
「え、ホワイト? あの子なら……ううん何でもないわ」
「別れの挨拶は済んだの? 帰還の儀式をするから早くしてよ」
「……はい」
 結局、ホワイトは最後まで姿を見せることはなかった。




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「ブラックちゃんは寂しくないんですか! せっかく仲良くなれたのに『外』に帰っちゃうんですよ!」
「あたしもあの子と一緒に居たかったわよ! でもそれはあたし達の我儘よ!
 あの子は『外』に帰してあげるべきなの、分かってホワイト……あたしだって別れるのは辛いわ」
「……また来てくれるんでしょうか」
「できればあたしもそう願いたいところよ……」
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 その後の『外』での事は割愛しよう、長くなる。



  二度目に会ったのは中学二年生の夏



 中学二年生と言えば多感な時期である。グレてしまったり、親に反抗したり色々とある……私も例に漏れず両親と喧嘩をして家出をした、それがきっかけだった。
 もう説明は不要だろう、いつの間にかまた幻想郷に迷いこんでしまったのだ。見覚えのある森の中、しかし今回は厄介なことに夜であった。
 私はすぐに小学生の頃来たことを思い出した、同時に夜中に妖怪が活発化することを彼女達から教わっていたことも。
 直後、後ろの茂みから聞いたことのない獣のような唸り声がした、私は恐怖しあの時と同じ方向に駆け出した。

 どれくらい走っただろうか……時間が経てば経つほど獣の声は大きくなり、足音も聞こえてきた。
 そんな中、なんとか桜の木の下につくことができたが、考えてみればそれだけでは獣からは逃げられるはずがなかった。
「○○くーん」
 その時、空の上からあの妖精、リリーホワイトの声が聞こえたのだ。
「今助けますね~」
 そう言ってホワイトは、鷹が獲物を足で捕まえるように急降下し、私の体を手で持ち上げて、空の上へと舞い上がった。
 彼女の体躯からは想像もつかないほど、強い力だった。


 その後、私は当然のように彼女達の家へと連れて行かれた。
「いやー危なかったですねー」
「……また来ちゃったのね」
「ブラックちゃん、○○くんが来て嬉しくないんですか?」
「……あたしだって嬉しいわよ」
「そうですよね!」
 ブラックは少しだけ複雑そうな顔をしていたが、ホワイトの方は曇りのない満面の笑みをたたえていた。

「明日からまた○○くんと一緒に遊べます! 今度からはずーっと一緒ですよ」


 この時ここで暮らしていた月日は長かった、一年ぐらいだったか?
 あの頃の私は家に帰りたくもなかったし、彼女達が私の存在を本当に喜んでいてくれて、ずっとここに住んでもいいんじゃないかとすら思っていたほどだ。
 そうして、またここでの楽しい日々が始まった。

 夏、ホワイトとブラックや他の妖精達と湖で花火をする。
「わー! チルノちゃんロケット花火を背中に背負っちゃだめー!」
「このロケットでつきまでとんでくぞー」
「そういう意味のロケットじゃなーい!」
「○○くんーブラックちゃーん、今から私打ち上げ春火しますねー」
「ホワイト! 打ち上げ花火の筒の先端に乗るのはやめなさい!」
 ……まあ、何と言うか、していることは彼女達らしかった。

「ん、どうしたの?」
 一緒に遊んでいながらも、私は種族の違いというものを今あらためて感じていた。
 背の高さ、姿の違い、能力……数えればきりがない。
「自分が場違いじゃないかって?」
「少なくともあたしとホワイトはそんなことは気にしないわよ」
「そうですよー、そんなことで○○くんを差別したりなんかしませんよ」
 しかし考えはすぐ余計なことだと、彼女達の話を聞いて分かったのだ。
「あたいたちとちがってそらとべないけどね」
「「「……」」」
「え、あたいなにかわるいこといったの?」
「チルノちゃん空気読もうね?」
「えーん、だいちゃんがこわいよー」


 秋、近くの森でのキノコ狩り。
「……というキノコが安全なのよ」
「ふーん、そんなにいっぱい種類があったんですね」
「また闇雲に食べたりしないでよ!」
「分かってますよ、ちゃんと覚えましたから」
「○○! ホワイトのことちゃんと見ててよ!」
「二人とも心配性ですねー、大丈夫ですよー」
 この時は何事もなくキノコ狩りは終了したが、その後にブラックから前回のキノコ狩りでのホワイトの有様を聞いた
 ……監視していたのは正解だったようだ。

「今晩の夕食はキノコ三昧ですね!」



 冬、湖での雪遊び。
 この時期、湖の水は凍っていて誰でも上を歩けるようになっていた。
「○○くーん、よくすべりますよー」
「こらー、あたいのきょかなしにみずうみであそぶなー!」
「あははー」
「ホワイトー、くれぐれも湖に落ちないようにしなさいよ!」
「大丈夫ですよー、それより二人とも一緒にすべりましょー」
「……仕方ないわね、一緒に行きましょう」
「……え、すべったことないから自信がない?」
「大丈夫よあたしが教えてあげるから、ね?」
 そう言って差し出したブラックの手を取り、一緒に凍った湖でスケート?を楽しんだ。



 季節は巡り春、ホワイトとブラックと一緒に春を伝えに行く。
「春、ですよー」
 ……共に弾幕も。
「あー……」
 ピチューンという音と共にホワイトが墜落していく。
「春を伝えるあたし達にはよくあることよ。危険はないから安心して」
 前の前に極太の光線が迫ってきていた。

「やれやれ、そういやもうそんな季節だったぜ」



 ここに来てから二度目の夏。彼女達とまた別れることになった夏。

 深夜、私はブラックを呼んで話をした。ホワイトを呼ばなかったのは直感的に話してははいけないと感じたからだ。
「……そうね、やっぱり○○は帰りたいのね。またこうなると思ってたわ」
 私ですら何故この気持ちが沸いてくるのが分からなかった、何一つ不安のない生活なのに何故ここまで『外』に対して望郷の念を抱いてしまうのか。
「本当はあたし分かってたの、貴方はまたいつか帰りたくなるんじゃないかって。でもあたしは何も考えないで先延ばしにしていたわ」
「あやまらないで、悪いのはこっちよ。貴方は『外』の人間、この幻想郷に住んでいる人間とは根本的に違っている……
 だから惹かれてしまったのかもしれないわね。始めて会った時もすぐに『外』に返してあげるべきだったわ」
「なのに私は貴方を傍から離したくなくなっちゃった、きっとホワイトだって……」
「ともかく、ホワイトを起こさないでおいたのは正解よ、あの子なら貴方を監禁しかねないから」

「……」
 帰りたいはずなのにここに残りたい……そんな気持ちが私の心でせめぎあっていた。
 泣いてはいけないと思っていても涙を止められなかった。
「……泣かないでよ、あ…あたし…だって……」
「だ…抱きしめ…ないで……あたしも…貴方を…帰したく……なくなっちゃう…」
「…ぐすっ……ううぅ…うわぁぁぁん!」
 ホワイトを起こさないように、しばらくの間二人で抱き合って泣いた。



「今日の朝5時に起こすわ。帰る準備をしといて……絶対にホワイトを起こしちゃだめよ」



 ここに来てから二度目の博麗神社。
「ねえ、これだけ受け取ってくれないかしら」
 別れ際に渡されたのは白百合と黒百合のペンダント。
「……忘れてほしいけど、忘れてほしくない。あたしの我儘よ、受け取りたくなかったら受け取らなくてもいいわ」
 拒絶する理由がない。
「受け取ってくれるのね、ありがとう……」
 でも受け取らなかったらどうなっていただだろうか?
「さよなら、もう二度と会いたくないわ……嘘よ」
 そう言いったとたん、一瞬でブラックは空の向こうに消えた。

「なんだかよく分からないけど、朝早く起こすのはこれっきりにしてよ!  帰還の儀式もけっこう疲れるんだからね!」




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「……酷いことするんですね」
「いくらでも言って、あたしは○○のことを考えて帰したまでよ」
「でも許してあげますよ、絶対に○○くんはここに戻ってきますから」
「……」
「おかしいですか? 私には分かるんです。どうあってもここでの暮らしはあの人の心に深く刻まれているのですから
 きっと近いうちにまたここに迷い込んでくるはずです。絶対に」
「それはありえないわ!」
「……ブラックちゃんは、○○くんに何か渡しましたよね?」
「ど、どうしてそれを貴方が……」
「私はこんなに○○くんに未練があるんですから、ブラックちゃんにだけ何もないはずがありません」
「……っ!」
「素直じゃないんですね、ブラックちゃんも○○くんも……ふふっ」
「あぁ……どうしてどうして、いけないことなのに! あの人を苦しませるだけなのに! あたしは……あたしは……」
「第一、どうして妖精と『外』の人間が一緒なっちゃいけないんですか?」
「それは……彼岸で閻魔様のお話を聞いて『外』の人間と深い関係を持つと、両者にとって悪いことだって、それで……」
「そんな理由で諦めるんですか?」
「……ぅぅ」
「次、○○くんがここに来たら協力してくれますよね?」
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  三度目に会ったのは高校二年生の秋



 私には彼女達との思い出が忘れられなかった、だからきっとまた幻想郷に来てしまったのだ。
 いや、もしかしたらこの白百合と黒百合のペンダントのせいかもしれない。


「もうどこにも行かせませんからねー」
「……『外』に対する思いも、あたし達が壊してあげるわ。春でね」
 ホワイトは相変わらずの満面の笑みを浮かべ、ブラックはどこか吹っ切れたようだった。



  そして現在に至る。
 私自身、幸せかどうかは分からない、しかし、確実に『外』に対する思いは、少しずつだが消えているような気がする。





           メディスン・メランコリーのお話(読みにくくてごめんね)



 あるところにひとりの○○というしょうねんがいました。しょうねんはあるおにんぎょうをたいせつにしていました。にんぎょうもしょうねんがだいすきでした
 けれど、しょうねんのおとーさんやおかーさんは、そのしょうねんからにんぎょうをとりあげでしまいました。
 なぜなら、りょうしんはもっとおとこらしいあそびをしてほしいとおもったからです。
 しょうねんはなきました、じぶんのたいせつなにんぎょうがすてられてしまったからです。
 にんぎょうはかなしみました、もうしょうねんとあうことができなかったからです。
 にんぎょうはうらみました、じぶんをすてたものたちを。


 すてられたにんぎょうはべつのせかいにある、おかへとながれつきました。そのおかにはすずらんがさいていてどくでみちていました。
 そのにんぎょうはながいながーいじかんをへて、いしをもちうごきだしました。
 しかし、そのにんぎょうはなにもおぼえてはいませんでした。

 にんぎょうはそのせかいでくらし、めでぃすんめらんこりーというなまえをえました。


 あるひ、めでぃすんがおかをあるいていると、すてられているにんぎょうをみつけました。
 そのにんぎょうからは、とてつもないぼじょうとうらみのねんをかんじました。かつてのじぶんのように。
 そのときめでぃすんはすべておもいだしました、なぜじぶんがすてられたのかを。
 めでぃすんはしょうねんにあいたくなりました、どうじにしょうねんからじぶんをとりあげたものたちをころしたくなりました。


 めでぃすんはそのせかいにいる、はくれいれいむとやくもゆかりというひとにたのみこんで、しょうねんのいるばしょへととばしてもらいました。

 めでぃすんがとばされたさきはおはかでした、そう、しょうねんはもうしんでいたのです。
 めでぃすんはなきました、けれどなみだがでませんでした、にんぎょうだったからです。
 めでぃすんはすてたものたちをうらみました、けれど、かれらももうしんでいました。
 めでぃすんはおはかをほりました、まだしょうねんがいきているとしんじたかったからです。
 けれど、おはかからほりだしたものはしょうねんのほねだけでした。



 めでぃすんは、しょうねんのほねをもちかえり、にんぎょうをつくりました。
 ほねをくみたて、はりあわせ、ふくをきせ、むかしのしょうねんにもどそうとしました。
 そうして、しょうねんのにんぎょうはかんせいしました。
 かんぜんではないけれど、そのすがたはむかしのしょうねんそのものでした。
 めでぃすんはしあわせでした、やっとだいすきなしょうねんのもとへかえることができたからです。

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最終更新:2015年05月06日 20:33