すこし医療をかじった外来人で有ることから永遠亭にちょくちょく呼ばれる事があった○○。
そんなこんなで数年過ぎ、輝夜様から招待を受けて外の世界の話をしに行った。
夜も遅くなり酒も入っていたことから、永遠亭で一夜を明かしたその朝の事だ。
「おーい、鈴仙」
部屋の前から声が聴こえる。この声は多分てゐだ。
この客間は鈴仙の部屋の隣なのだろうか。なんにせよ部屋を間違っているようだ。
「鈴仙ってば、永琳が呼んでるよ」
昨日の酒が抜けないのか少し頭が痛い。
まあ少しすれば部屋が違うと気づいてくれるだろうと返事をせずに布団を深く被った。
だが予想に反しててゐはガラリと部屋の襖を開くとずかずかと中に入って来る。
「2,3日徹夜したぐらいでその様じゃ、妖怪が聞いて呆れるねぇ」
僕は妖怪じゃないんだ、放って置いてくれと布団から手を出しシッシッと追い払う動作をした。
「ほーら、鈴仙ってば!」
てゐは○○が被っていた布団を勢い良くひっぺがすと、更に枕を蹴飛ばした。
「私は起こしたからね!永琳に怒られても知ーらない!」
全くなんてウサギだ、と頭をかきながら上体を起こした。
なんだか体が重いなぁと部屋を見渡すと○○と同じように状態を起こしてうつろな目をした鈴仙の姿が目に入った。
「あっ……れ、鈴仙さ……」
と、ここである違和感に気づいた。
自分の声がイヤにたかい。まるで女声のような……むしろ鈴仙さんの声のように聞こえた。
恐る恐る鏡に近づき食い入るように見つめる。
「あれ……鈴仙さんに……なってる?」
「なに寝ぼけてるのさ。夢の中で○○にでもなってたっていうの?」
怪訝な顔をしててゐが鏡を覗き込む。
「お熱なことだね。でも私ぁオススメしないね。どうせあんたの”お師匠さん”にとられちゃうよ」
そう言い残すとてゐは部屋を出ていった。
唖然と鏡の前で凍りついた○○に背後からやってきた永琳が話しかけた。
「どうしたのかしら?」
○○は永琳にすがりつくと自分が今置かれている状況を説明した。
「そう……つまり〇〇の肉体ではなくなってしまったと、そういうわけね?」
「は、はい……」
落ち着きなさいとばかりに鈴仙(○○)の頭を撫でながら永琳はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
その時、永琳の後ろから自分を覗き込んだ人物に鈴仙(○○)は目を見開いた。
「あれ、どうしたんですか?」
そこに居たのは、他でもない自分自身、つまり○○だった。
「えっ……えぇ!?」
目の前に居るもう一人の自分と永琳の顔を交互に見ながら鈴仙(〇〇)はただ呆然と口を開く他なかった。
永琳は鈴仙(○○)の前に座り込み視線を合わすとゆっくりと話し始める。
「貴方がね、いつまで立っても振り向いてくれないから、こうするしか無かったのよ。
知ってるのよ?貴方が私たちを一歩引いたところから見てる事。
そんな折に鈴仙がいっその事○○さんになってしまいたい、なんてことを言うから、閃いてしまったの。
鈴仙が私を愛してくれる○○になってくれれば、全てが解決するって事にね」
「うふふ……私〇〇さんに包まれて……とっても素敵です!
私、いっつも〇〇さんのこと見てたから貴方を演じるのには自信があるんですよ♪
貴方の癖も、趣味も、好みも、ぜーんぶ、知ってるんです」
○○(鈴仙)が歪んだ笑を浮かべるのが永琳の肩越しに見えた。
「じゃ、じゃあ僕はどうなるんです!?鈴仙さんを演じろっていうんですか!?
冗談じゃない!博麗神社の巫女さんに訴えればそんなこと……!」
その時、永琳は素早く鈴仙(○○)を羽交い絞めにした。
「鈴仙、恋が実らないことはとっても辛いことよね……貴女はとっても疲れてしまっているの。
だから、ね?”いつもの鈴仙”に戻るまでしっかり治療しましょうね。てゐ、手を貸して頂戴」
嘘だ、僕が○○だとわめきちらす鈴仙(○○)の顔をさも痛ましいといった様子で○○(鈴仙)が眺めている。
「あぁ鈴仙、ごめんね。僕が気づいてあげられなかったばっかりに……
僕も君が早く外に出られるよう、責任をもって協力するよ……」
他のイナバ達によって縛られた鈴仙が連れ出されるのを永琳と○○は肩を寄せ合って見送った。
「永琳、僕らだけでもしあわせになろう。鈴仙さんの分まで」
「そうね。愛してるわ、○○。誰よりも……」
最終更新:2011年11月11日 09:49