ビュウビュウと吹き荒ぶ雪風が窓を叩いている。
部屋の中は温かく、洋式の暖炉の薪はパチパチと心地よく爆ぜていた。
「○○、御飯よ。温かいポトフを作ってみたの」
レティの声に直ぐ行くと返事をし、僕はリビングへと向かった。
食事は室内で大半の生活をする冬の生活で最大の楽しみだ。
レティがあらゆる工夫を凝らして僕の退屈を紛らわしてくれるが、やはり食事は重要な楽しみに位置づけられている。
「どう、美味しい?」
「ああ、美味しいよ。よく煮込まれてるね。肉も柔らかいし」
「ふふ、秋口に捕まえた子羊の肉を氷点熟成させてみたの」
最近はその手の保存食品を開発し、金子には困らなくなったそうだ。
僕のアイディアのお陰だと凄く誇らしげに言われると流石に照れる。
「でも、熱くなかった? きつかったら僕が御飯を作るから」
「いいのよ○○、確かに霊力は減るし苦手だけど、貴方が温かい料理を楽しんでくれるなら我慢するわ」
彼女は僕の気遣いを感じ、端正な顔が緩みきっている。
心底嬉しそうな彼女を見て、僕は俯いてポトフを啜った。
本当に美味しかった。彼女は、僕の好みの味を熟知しているから当然かもしれないけど。
僕は書斎で本を読む。
レティは外に出て霊気の補充中だ。
流石に風呂へ一緒に入るのはどうかと止めては居るが、気象が冬の間は止めようとしない。
僕の身体を洗い流しながら、僕の身体を丹念にチェックする
レティ。
彼女は僕の健康管理には非常に細かかった。
恋愛小説『恋する巫女は切なくて~絶対逃が早苗編』を読み終えた僕はファと欠伸をする。
そろそろ寝る時間だ。彼女も戻ってくる頃合いだろう。
ふと、僕は窓の外を見る。
僕の目に映るのは厳しい幻想郷の冬だ。
真っ白な、晴れた日ですら家の外の周りしか見えない白の世界だ。
冷たい雪で覆われた世界だけしか、僕は見ることが出来ない。
レティに囚われて何年経ったのか解らない。
もう永い事、冬の時節しか僕の意識は覚醒しない。
他の季節は、僕は彼女によって冷凍睡眠させられているからだ。
だから僕は、この家と家の周りにしか、出かけた事はない。
……ガラスに映る嘆息を付く僕の顔を見て思う。
何十回か解らない位に繰り返された季節。
僕の外観は全く変わらない。そう、殆ど。
書斎の本にある魔法の本を読んでいて推測したのだけど、これは僕に
レティの魔力が及んでいるからじゃないか。
僕の身体は1年の内冬を除いてずっと
レティと彼女の作った氷に包まれている。
それらの存在は魔力の固まりだ。その中に覆われていたら何らかの影響を僕の身体に与えるかもしれない。
全ては素人の憶測に過ぎない。だけど、現実に僕は殆ど歳をとっていない。
そしてそれは、僕は
レティにずっと囚われてる事を意味する。
僕は、冬の季節をこれからもずっと繰り返す事になるのだ。
だけど、不思議と絶望感や喪失の気持ちは無かった。
ただ、本当にこれで良かったのかなとは思った。
もっと、普通に彼女と幸せになる事が出来たんじゃないかと思って。
「……○○、愛してるわ」
暗い寝室の中、大きなベットの上で彼女が僕に覆い被さってくる。
窓から指し込む雪明かりに浮かび上がった彼女の裸身は、とても白くて綺麗で。
彼女の白い笑みに囚われた僕は、何時もこう言ってしまうのだった。
僕と
レティの、冬の夜はこうして更けていく。
今夜も激しく吹雪くようだ―――。
最終更新:2018年09月13日 07:04