勇儀「なぁ〇〇?しばらくは休肝日じゃないのか?そうだろ?」
〇〇「え…いや…そうだけど…。」
勇儀「なのに何故、あんな烏天狗と呑んでいるんだ?嘘だったのか?鬼は嘘が嫌いなのを知っているだろう?」
そう言って幻想郷の人外で一番深く知り合いになった鬼の星熊勇儀がゆっくりと〇〇に近づいて来る。
〇〇と言う名前の外来人の青年が幻想郷に迷い込んで来てもうすぐ一年になる。
外界の大都会で働いていた〇〇だが、金持ちと貧乏人が二極化した現代社会に嫌気がさしていた。
そんな時にテレビで見ていたアイドル(と、言ってもオッサン達だが)が出る村作りと言う名の田舎暮らしている番組に憧れを抱き、フラフラと地方の山に足を向けた時に幻想入りしたらしい。
幸い迷い込んだ時に人里近くで保護され、幻想郷について説明を受けると驚き半分、すぐにー
〇〇「ここに移住させて下さい。」
と、頼み込み里人を驚かせた。
体力が気さくな性格な〇〇はすぐに受け入れられ、日雇いだが様々な職種から声がかかり食い扶持は十分に稼いでいた。
ある日、仕事が早く終わり明日は休みだから今日は呑もうと酒屋に行き気に入っていた日本酒を徳利で買い意気揚々と帰っていたが、持っていた徳利が急に爆ぜた。
あまりの突然なことに驚き、周り見渡すとさほど遠くない所で弾幕勝負している女性二人が見えた。恐らくはその流れ弾が当たったのだろう。
幻想郷について説明を受けた時に妖怪が居ることや、弾幕勝負のことは聞いていたが、今は台無しにされた酒のことで腹が立っていた〇〇は後で考えたら恐ろしいことだと思う行動に出た。
〇〇「あの、すみません!!」
勝負が終えた後に怒気混じりの呼びかけに振り向く二人の女性。
一人は取材を受けたことある烏天狗だとわかったが、もう一人は金髪で角が一本生えた鬼だった。
文「あややや、〇〇さんじゃないですか。どうしましたか?」
勇儀「知り合いかい?」
〇〇「お二人の弾幕勝負の二次被害がありましてね!!」
そう言って割れた徳利の欠片を前に出す〇〇。
文「あやや!?こ…これは…」
勇儀「す…すまない人間!!楽しみを奪ってしまって。これで勘弁してくれ!!」
瓢箪を出して頭を下げる勇儀。
文「勇儀さん、鬼が呑むお酒は人間には強過ぎますよ。」
勇儀「じゃあ、どうしろってんだい?」
〇〇「もういいですよ、わざとではないみたいだし。何より謝罪はして貰ったし。」
二人のやり取りを見て、怒る気が失せた〇〇は家路についたのを二人は呆然と見ていた。
数日後の夕方ー、いつもの家路を歩いていると「ちょっと。」と不意に声をかけられた。
〇〇「はい?」
声がした方に振り向くと、星熊勇儀が徳利を引っ提げていた。
勇儀「この前の詫びだよ、ホントにすまなかった。今日はちゃんと人間が飲める酒だから。」
〇〇「気にしないでいいですよ。」
勇儀「そういかないよ、鬼は酒が大好きなんだ。それを奪われたらかなり腹立つしね。それにそっちもイケる口みたいだしね?一緒に飲みたいし今日、邪魔していいかい?」
そう言う勇儀の謝意とお願いを聞いて、一緒に呑むことにした〇〇は家まで案内した。
正直、種族は違えど綺麗な女性と呑むのは悪くなかった。それに、姐御肌の彼女と呑むのは楽しかった。
それは勇儀も同じで、気さくな〇〇と呑むと楽しく、それから毎日とは言わないが〇〇の家を頻繁に訪れいつしか恋慕の思いになっていた。
しばらく経ったある日、いつものように〇〇と呑んでいると、〇〇が申し訳なさそうに彼女を呼んだ。
勇儀「何だい、〇〇?」
〇〇「実はしばらく酒を控えようかと思っています。」
勇儀「な…何でだ!?急に何で!?」
〇〇「最近、飲み過ぎて肝臓を壊した人が知り合いに居るんですよ。それで『明日は我が身』なんて考えが出てきて…。」
勇儀「だ…大丈夫だよ〇〇、そんなすぐには…。」
〇〇「勇儀さん、俺は人間です。人間の体はそれほど強くないんですよ?」
勇儀は焦ったし迷った。
一緒に酒を呑むと言う口実が無くなり〇〇と会えなくなるのを。
だが、同時に〇〇が体調を崩してしまってもダメだとも理解していたからだ。
勇儀「わかったよ…。しばらくはな?」
それから、二人が合わなくなって二週間、事は起きた。
仕事が休みで家でゴロゴロしていると、誰かが訪ねて来た。
玄関の戸を開けると射名丸文が一升瓶を抱え立っていた。
文「遅くなってすみません、〇〇さん。この前のお詫びに天狗の大吟醸を人間が飲めるほどに改良するのに時間がかかちゃっいました。どうぞこれを。」
そう言って一升瓶を差し出す文。
〇〇「いや、実は今は酒を控えているんだ。」
文「あややや?そんな〇〇さん、やっぱりまだ怒っているんですか?」
〇〇「いや、怒ってはいないけど…。」
文「だったら私の謝意を受け取って、呑んで下さいよ。はい、どうぞ。」
玄関から居間に上がり込み躙り寄られ文が何処からか出した盃を差し出され、観念して呑もうとする〇〇。
その時、ドンッ!!と大きな音がし家が激しく揺れた。
音がした方を見ると開けっ放しの玄関の隣の壁に穴が空き側には勇儀が立っていた。
勇儀「〇〇…何故だ…?酒はしばらくは控えるって言ったじゃないか?」
そして、冒頭に戻る。
射名丸はすぐに危険な雰囲気を察し窓から一目散に退散した。
勇儀「私もな〇〇…この二週間、我慢したんだぞ?大好きな酒と大好きな惚れた男に会うのを!!」
〇〇「勇儀さん…」
急の告白といつもと違う勇儀の雰囲気に完全に気圧される〇〇。
勇儀「体を気遣ってやったらこれだ。こうなったら、〇〇も鬼になればいいんだ。そしたらずっと一緒に居られる!大好きな酒も一緒に呑むことも出来る!!嘘をついたお前を攫ってもいいよな〇〇!?」
淀んだ目と歪んだ笑顔の勇儀は〇〇を掴み決して離さないように抱き抱え飛んで行った。
この時、〇〇は思った。
〇〇(『のまれた』のは俺だったか…。)と。
最終更新:2011年11月12日 21:16