あなたを聞かせて


今日も私は人里に赴く。

愚かで無知な愛すべき民草を導くためだ。

私が人里までの道を開き、広場に降り立つとすぐさま民草に囲まれた。


民草は私に独りよがりの願望を話す。

ああ、なんて卑しいんだ。

私は見下げた彼らの話を聞きわけ、訓等を与える。

そんな時だ。

○○の声を聞いたのは・・・

冷たい氷のように突き放した声。


その声に私は貫かれた。

そうお遊戯だ。

だが、信仰という色眼鏡でしか物事を見れない民草は意味のある儀式と思い込んでいる。

私は彼、○○に興味を持った。

日に何度も私は人里に赴くようになった。

○○の声を聞くためだ。

だが○○の声は聞こえない。

昼がだめなら、夕闇にまぎれて○○の声を探す。

夜の帳が下り、居酒屋や賭場が開く時間になって私はやっと○○の声を聞いた。


人里の奥、遊郭やちょんの間に挟まれた男娼館。

その一室で○○は蜘蛛の足を持つ下賤な妖怪と重なりあっていた。

○○が喘ぎ声を奏で、絶頂を迎えるその時まで私はその声を聞いていた。


歴史学者は言う。

古来より聖人を堕落させるものは色恋であると。

「聖人」豊聡耳神子の堕落は特筆に値する。

人里の信奉者から金を巻き上げ、男娼館の外来人○○に貢ぎ愛人としていた。

愛人○○が外界へ帰還しようとした時は躊躇わずに殺し、屍人(キョンシー)として再誕させ信奉者を見捨てて仙界の道場へと逃げ込んだ。

今となっては○○という男娼がどういった風体であったかは伝わっていない。


「ねぇあなたを聞かせて○○?ずっとずっと・・・」

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最終更新:2025年04月08日 03:36