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 恋と言うものはとても難解なものだ、書物に答えを求めても何も返ってこない。
下手をすれば、余計にこんがらがってしまうこともある。
 この私、パチュリー・ノーレッジもその答えを出せないでいる。私の恋した相手は○○と言う少年。
いやもしかしたら青年かもしれない。
 彼はレミィが好奇心で攫ってきた人間。もうこの紅魔館で数年は住んでいる人間。
初めて彼を見たときは怯えながら全てを諦めていた、当然だろう、わけの分からない世界に迷い込んだ挙句、
自分より小さい体躯の少女に自分の血を吸われ、帰りたくてもすぐに帰る事が出来なかったのだから。
 メイド達が居過ぎた事もあり、彼は私の図書館の司書となった。まあ司書と言っても、
膨大な量の本を整理するくらいしか仕事がなかったが。とはいえこちらも小悪魔一人しか使役する相手がいなかったため、
誰か欲しかったのも事実だった。
 彼は思った以上には役に立った、飛べない事で高い所の本を整理するのに梯子が必要だったり、
弾幕が撃てないために、図々しくも本を『借りる』と言って図書館から本を強奪する魔法使いを止められない、
これらの事実を考慮しても、だ。
 私の知る限りでは、彼の娯楽は本を読むこと。これだけだった。
本を読む以外に何かしたいと思わないの? と、いつか私が質問した時、彼は表情一つ変えずに。
この館では僕にとってはそれが一番の楽しみですから。と答えた。
そんなはずはない、表情には出さなかったが、私はそう思わざるおえなかった。
……何故彼は本に執着するのか? 分からない、こうして彼と対峙している時でも、
彼は一向に話してはくれない、こんなに好きなのに。貴方をきっと理解できるのに。

「お願いしますパチュリーさん。この鎖を外して下さい」
「ダメよ、貴方の全てを解読し理解するまで、絶対に外さないわ」
「本に執着する理由は全てパチュリーさんが言った通りです。パチュリーさんを拒絶する理由も
全てパチュリーさん言った通りです。お願いしますこの鎖を外してください」
「本当に強情ね、たとえそうだとしても、私は貴方の口から本当の答えを聞きたいだけよ」
「……」
 私は知りたいだけ、貴方の全てを。


                 2
 本に関してレミィはこう言った
「ここでは本以外に楽しみを見出せないのだろう、哀れな奴だ」
 本に関して咲夜はこう言った
「ただ単に会話をするのが苦手なだけでしょう、外界にはそのような人間が大勢います」
 本に関して小悪魔はこう言った
「人は誰でもありえない幻想を見たがります。その媒介が本なだけです」
ここでは本以外に楽しみを見出せない、間違ってはいないかもしれない、だけどきっと違うだろう。
会話するのが苦手これも違う、小悪魔やメイド妖精とは“それなり”の交流があることを私は知っている。
ありえない幻想、これは私達にもありえる事だ、だがそれだけで、ここまで本に執着できるだろうか?
 私に関してレミィはこう言った
「私達の力を畏れているのだ、まあ当然のことだな」
 私に関して咲夜はこう言った
「女性が苦手なだけではないでしょうか?」
 私に関して小悪魔はこう言った
「種族の違い、って奴じゃないですか。これって便利な言葉ですよね」
全て間違ってはいない、間違ってはいない……でも、私はだけは納得できない。

「貴方にだって分かるでしょう? 私の言った答えと、貴方の答えは微妙にズレていることぐらい。
 それが許せないのよ」
「……誰にだって知られたくない事ぐらいあります」
「そう、分かったわ、そこまで言いたくないなら本に執着する理由は聞かないであげるわ。
 貴方が苦しむのを見るのは私も嫌だもの。でも、私を拒絶するくらいの理由は聞かせてくれるわよね?」
「パチュリーさんの望む“好き”には私は答えられません。それだけです」
「またズレた答えを言うのね。核心から逸らさないでほしいわ」
「嘘ではありません!」
「ふうん、じゃあなんであいつらとの情事には全く抵抗しなかったのかしら?」
 私は懐から一枚の写真を取り出して彼に見せた。
「う……」
 写真の内容は……あまり人には言えないだろう。
「驚いたかしら? 私、あの場面を見てたのよ。複数とするなんて、ほんといい趣味してるわね。
 それともメイドさんがお好きなのかしら。私もメイドの格好をすれば愛してもらえるのかしら」
「そんなんじゃない!」
「じゃあ何故こんな事をいつもしてるの? 小悪魔からの誘いは断った癖に……
 私、嫉妬であいつらを殺してしまいそうよ」
「はあ……羨ましいわねほんと、いつもと違う、あの時の貴方に抱かれてみたいわ」
「僕は彼女達の――「“好き”には答えられたのね、私と何の違いがあったのよ?
 私と一緒にいるのは嫌がるくせに、あいつらとは一緒にいてもいいのね。
 ねえ、私はそんなに怖いの? 叱った事なんて一度もないじゃない、
 貴方の本心が知りたいからなるべく傍にいる時間を増やしたのに、
 何も分かりはしなかったわ。貴方だって私と一緒にいて分かったでしょう?
 私は恐怖する対象じゃないってことぐらいは」
「分かっています。ですが僕はパチュリーさんが怖いのです」
「……本当の事みたいね。じゃあどうしてかしら?」
「地下に住んで居るのは確か……フランドールさんでしたっけ」
「ええ、その通りよ。それがどうかしたの?」
「ここに来てから数日くらい経った時、フランドールさんが地下から脱出した事件がありました
 その時からです、僕がこの館に居る皆さん……小悪魔さんとメイド妖精のみなさんを除く全員に恐怖を抱いたのは」
「詳しく話してくれないかしら」
「……どうせそれしか選択肢はありません」


                 3
 僕がこの館に来てから、数日後あの事件は起こった。
あの時の僕は、館の一室でどのような処遇になるのかを待っていた。
そんな時だった、地下の方からとてつもない轟音が鳴り響き、激しく地面が揺れたのだ。
何がなんだかわからずに外へ飛び出すと、廊下の奥に赤い剣を持っていた一人の少女が立っていた。
その少女の見て僕は制御できないくらいの恐怖を覚えた、怯えて元の部屋に戻り、
また外を見ると、この館の住民達が戦っていた、僕はその姿に見覚えがあった。
僕を連れてきた本人、レミリア・スカーレット、名前は知らないが、メイドの格好をした人
パジャマを着て魔法を唱えている人、チャイナ服を着て格闘している人。
……ただひたすらに怖かった、あの人達は館を守ろうとしてあの少女と戦っていることは見ていて分かっていた。
けれどやっぱり怖かった、あの狂った少女も少女と対等に渡り合えるあの人達も。
 その後結局僕はパジャマを着ている人、パチュリー・ノーレッジさんの図書館に配属される事になった。
帰りたいと言い出せなかった……あの時の記憶が恐怖が頭から離れなかった。
 僕は一生懸命にそして忠実に働いた、あの力が絶対に僕に向けられることがないように。
しかし、僕は毎晩悪夢に悩まされた、あの狂ったような何かが僕を押しつぶしていた、
いつも夢の中で僕は殺された、何回も何回も、この悪夢を解決する方法は今でも見つけていない。
だけど、それをやわらげる方法は見つかった。まず一つは何かに没頭してその記憶を一時的に忘れてしまう方法、
これは図書館にある本を読み耽ることで簡単に実行できた。しかし、読んでいる本によっては逆に恐怖を増幅させるという弱点もあった。
二つ目は……これは偶然見つけた方法だった、言い方によっては傷の舐めあいとも取れる方法である。
きっかけはあるメイド妖精と仲良くなったことから始まった。
 仕事の休憩時間の合間に彼女と話していると、彼女からある相談をされた。
毎晩私は悪夢を見るの、と、詳しく聞いてみると若干の違いこそあれど
僕の見ている悪夢と内容もほぼ同じだった。この事を彼女に伝えると彼女は最初は驚いていたが、
その後に、同じ悩みを抱えるメイド妖精が他にも居る事を話してくれた。
それから一週間経った後の事だった。その夜、また悪夢を見ないように難しい本を読んでいると
扉をノックする音が聞こえた。こんな夜中に誰かと思い扉を開けると、そこに居たのは
あの時悪夢を打ち明けてくれたメイド妖精だった。何故ここに来たのか? と聞くと
一人で眠るのは怖いと言われ、一緒に寝てくれませんか、と、頼みごとをしに来たのだった。
その時の彼女の頬は心なしか赤くなっていたような気がする。
 断る理由もないので彼女と一緒に寝ることにすると、ベッドの中で彼女は、怖いから僕に抱きしめてほしいと
潤んだ瞳で弱弱しそうに言ってきたので、断りきれず、僕は小さい彼女の体を抱いて眠ることになった。
……その晩僕と彼女は悪夢を見ることはなかった。
 この事があってから、彼女は同じ悪夢を見る仲間を連れてきて、毎晩、皆と一緒に僕は眠ることとなった。
そのお陰かもう殆ど悪夢は見なくなっていた。
 そんな事が続いてからある晩の事。深夜、下半身に重圧を感じて目を覚ますと、あのメイド妖精が腰の上に跨って……
そうして、これを皮切りに、彼女達と僕の長い長い情交が始まったのだ。


                 4
「そう、そういう事だったのね……」
「分かっていだだけましたか、パチュリーさん」
覚悟はしていた……けれどやっぱり辛い。
「ねえ、貴方がいままで私の為にしてくれた事は全て偽りなの?」
「……そうなります」
「あんなに私に忠実だったのに? 私、嬉しかったのよ、貴方みたいな人が居るなんて夢にも思わなかったんだから」
「ごめんなさい」
普通、こんな事を聞いたら怒り狂うか絶望するかの二択だろう、でも私は……
「それでも私、貴方のこと好きよ」
嫌いになんてなれない。
「え?」
「たとえ、私が見てきたのが、付き合ってきたのが、嘘の貴方でも、もうこの気持ちは止められやしないわ。
おかしいかしら? そうね私はおかしな魔女よ、嘘の貴方を知って、それでもそんな貴方が好きなんだから。
でもね、こんな風にも考えられないかしら、貴方が演じてきた嘘の貴方も、本当の貴方の一部じゃないかって。
そう考えれば、私が今でも貴方を好きでも何もおかしくないわ」
 しばらくの沈黙の後。
「……そう……ですね、何も……おかしくないです」
 そう言った彼の顔は初めてここに来たときの顔と良く似ていた。
「パチュリーさん、一つだけお願いがあります。僕と交わったメイド妖精の皆さんには手を出さないでくれませんか?」
「いいわよ、貴方がもうあいつらと関わったりしないのなら、私と一緒に居てくれるのなら」
「約束します」
「交渉成立ね、そうと決まったら貴方には幾つかしてもらいたいことがあるわ」
「なんでしょうか」
「まず始めに貴方の部屋を移すこと。場所は私の部屋、いわゆる同棲ね。
二つ目は、図書館の奥深くで仕事すること。あいつらが貴方を奪おうとやってくるかもしれないわ。
まあ、私も一緒に居るから、貴方を奪われることなんてありえないと思うけど。
三つ目は、貴方の夜の相手は私だけにすること。これら全てを守って頂戴」
「了解しました」
「そう、それでいいのよ」

やっと貴方を捕まえた。けれどあんなに苦しんでいるとは思ってもみなかった。
でも、もう大丈夫、私がいるから。貴方の悪夢も、恐怖も、全て消してあげましょう。
そしたら、その後はゆっくりと、お互いの事をもっと知りましょう。
……ごめんなさいね、貴方の気持ちに気づいてあげられなくて。


                 5
どうやら、○○さんとパチュリー様のお話が終わったご様子。結局○○さんは折れて、パチュリー様のお傍に居る事になったみたいです。
これで私は○○さんに手を出せなくなってしまいました。ちょっと残念、とっても美味しそうだったのに……もちろん性的な意味で。
 どうしても分からないのは、なぜ私の誘いを断ったのかということです。そっちの技術は誰にも負けないつもりだったのにー。
この答えをどうしても知りたいのですが、結局分からずじまい。もう○○さんにも用意には近づけそうにもありません。
 一つだけ私が推理して答えを出すのならば、きっと○○さんは私の事を淫魔のような者だとでも思っていたのでしょう。
……果てて死ぬのも悪くないと思いますよ? なーんてね。

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最終更新:2011年11月12日 21:53