一番最初に感じたのは、痛みよりも熱さだった。
腹に、包丁が、刺さって……。
「う……ぁ……ぐぅ……」
たまらずその場に崩れ落ちた。熱さの後に強烈な喪失感と寒さが襲ってくる。
「も、こう……そんな、どうして……」
俺の視線の先には、泣いているようにも笑っているようにも見える顔でこちらを見下ろす恋人――藤原妹紅の姿があった。
全てが、怖いくらいに順風満帆だった。
彼女と出会って、少し世間話をするようになってから次第に親しくなって。好きになって。そして、……告白した。
俺の告白を聞いた彼女は、しばらく悩む素振りを見せて……それでも告白を受け入れてくれた。
幸せだった。人生のピークはいつだと聞かれたら、迷わず「今がそうだ」と答えられるくらいに幸せの絶頂だった。世界が輝いて見えた。
そのはずだったのに………………どうして?
「私はね、今とても幸せだよ。○○だってそうだろう? ……だから、殺すんだ」
俺の視線を受け止めながら、妹紅は何かを思い返すような表情で歌うように言葉を紡いだ。
「なに、を……?」
訳が、分からない。これから先、自分は妹紅と幸せな日々を過ごせるのだと思っていた。なのに、どうして。どうしてなんだ。
「私はこれからも、このままの○○でいて欲しい。だから私は、一番幸せな時に…。
○○の愛が感じられる、一番輝いている今を永遠にするために○○を殺すんだ」
「お、俺は……死にたくない。これから先も、妹紅と一緒に……」
「駄目だ」
全ての感情が消えたような、冷淡な口調だった。
「どんなに美しい愛も、時間が経てば醜く変わってしまう。この気持ちが醜く変わる前に、終わらせることに意味があるんだ」
ゆっくりと、妹紅の顔が近づいてくる。
「愛してるよ、○○」
唇が軽く触れ合い、それを感じた後に、……俺の意識はブツリと途切れた。
物語がエンドマークで完成するように
人もまた死で完成する……
世界は早く終わらせなければならない
優しく美しいうちに
醜く変わる前に終わらせなければ……
最終更新:2011年11月12日 22:00