これが……坂の上か。
確かに階段状の坂が空中へと続いている。
その果ては見えず、まるでそのまま天界にでも続いてそうに見える。
「まさか実在してたとはな……」
「知っているのか、これの正体を?」
火傷の男は無表情に呟いた。
「慧音から聞いた事がある。何かしらを『終わり』にしたいと願った時に現れる坂があるという。
その坂を駆け上りきれば、どれような出来事も『終わり』になる。どれ程昇ってない奴らが『未完』にしたくてもな」
終局の概念、それがこの坂だという。
半透明の石畳で出来た階段。これを登りきれば全て終わるのか。
それがどんな終わりなのかは俺も解らない。
外界に戻れるのか、それとも俺自身が滅びるのか。
「本当に昇るのか?」
「言わずもがなだ。俺が昇らなきゃ、何も進まない、何も追われない」
「……そうか。じゃあ、俺も昇ろう」
火傷の男の意外な言葉に、俺は驚いた。
遠くを見る目で、男は階段の果てを見詰める。
「俺も、決めたいんだ。終わるべきなのか、続けるべきなのか」
何故か火傷の男の後ろに、竹林の案内人と里の守護者の幻影が見えた。
二人は淫靡な笑みを浮かべ、男にしがみついている。
愛してる、愛してるの、ずっと、一緒に居て。
「愛の業、か」
「……何を、言っている?」
俺の言葉を、階段を上りながら火傷の男が不思議そうに反応した。
俺は自分の手を、身体を見下ろす。
青白いと言ってもいい、チャイナの手が俺の左手に絡まる。
帳面をぶら下げた手が、マミマミの手が俺の右手に絡まる。
後ろから抱き付いてきた腕の袴には、緑と赤の帯が。
「……んぅ、まさか、此処に来て、自分だけじゃなくて他人の縁まではっきり見えるようになるとはな……」
はは、彼女らは俺がこの坂を昇りきるのを望んでないらしい。
当然、火傷の男を想っている二人の女もだ。
縁が本人の姿を取り、どう考えてるかを可視、いや、思念すら理解出来るとは……。
勘弁してくれ。
こんな、幻想郷でこんな能力を持ったら俺は間違いなく狂うぞ!?
「おい、しっかりしろ!」
坂の途中で蹲った俺を、火傷の男が抱え上げる。
「こんな所で蹲ってる場合じゃないだろ……」
「うう、すまない。あんたがいなきゃ、ここまですら到達出来なかったろうな……」
「構わないさ。それよりも無事に坂の上に到達出来たら、何か奢れよ?」
「ああ、約束するよ」
そう呟いた時―――。
「見つけたぞぉぉぉぉぉぉ、何故、我から逃げるうぅぅぅぅぅぅ!!」
凄い勢いで空中を舟がこちら目掛けて飛んでくる。
その上に乗っていたのは……。
最終更新:2011年11月13日 09:59