「お前さんは死んだんだ」

 かちゃん。
 首にかけられた金属の冷たさが、急所の薄皮を舐める。
 黒と白、極限の二色で彩られた曲刃が、抱くように喉元を這った。

「だめじゃないか」

 背後の気配。静寂の波を伝う息遣い。声音で辿る必要もない。誰なのかはすぐにわかる。
 扉に添えた手を、止める。されど、引かず。

「死んだ奴が出てきちゃあ」

 恐れることは無い。自分にはわかっているのだ。口で何と言おうと、彼女は殺せない。
 死を運ぶ歪んだ神は、生殺与奪を握りながら、その権を行使しないから。
 出来ないのではない。しないのだ。彼女は、そこまで非情になりきれないから。

「……そう言う約束なのさ」

 そう、まだ生きている。生きているのだ。彼女の鎌が示すとおり。
 大人しく棺桶で眠る亡骸ではなく。声を失い物言わぬ亡霊でもない。
 彼女は、殺せない。そも、約束などないのだ……死を強いる指導者の、どこに真実があろうものか。
 それでも。騙りで埋めた虚言を並べ、嘘で固めた仮面を被り。

「お前さんは、私が運ぶんだから」

 何を。世界はこんなにも、簡単だと言うのに。何故、本心をさらけ出さない。

(お前さんを離したら、もう追いつけなくなってしまいそうだから)

 分かり合うこともできず、ただ距離が開くばかり。

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最終更新:2011年11月13日 14:01