「……どうなってるんだろう」
今私が向かっている場所は、昔のたった一人の親友、いや、昔の恋人との思い出の場所。
 昔の自分にはあまりいい思い出はない。私は物心が付く前に両親が妖怪に殺され、
引き取ってくれる知り合いもおらず、所謂孤児院に入れられた。まあ、孤児院と言うほど設備は充実していなかったし
そんなに入っている子供も多くはいなかった。自分も含めて5人程だったかな?
 そこでの暮らしは、あまり楽しくはなかった、自分は周りの子供達となじめず孤立した
だけど、そこまで言うほど酷い状況にはならなかったし、別に虐められなどもしなかった。
ただ、ちょっとばかり、あの頃の私は悲観的になり過ぎていたのだろう。
 そういえば村を守っている慧音さんは何時でも身寄りの無い僕達の事を気にかけてくれていたっけな
……きっとここにいる自分は慧音さんと大妖精さんがいなければ成り立っていないんだろう。
そう思うと、少し不思議な気分になる。

(見えてきた)
道中にある様々な目印(いままで残っているのが驚くぐらい単純なもの)を追って
あの場所へとたどり着いた。

「……大妖精、さん」
「あ、やっと来てくれたんですね。あと大妖精さん、じゃなくって
大妖精お姉ちゃんって呼んで下さい!」
彼女の姿も性格も昔の頃とまったく変わっていなかった……様に見えた。
「まさかとは思いますけど、僕が来なくなってからもずっとここに?」
「来なくなってから? 変なこと言わないでくださいよ○○くん、ちゃんと会いに来てくれたじゃないですか。
でもちょっと遅かったですね、10年ほど待っちゃいました」
10年? 10年もの間彼女はここにいたのか!?
「なんでそこまで……」
「だって私は○○くんの恋人ですから。あ、そういえば○○くんももう18歳になったんじゃないですか?
これで結婚できますね。お姉ちゃん嬉しいです!」
顔に笑顔を浮かべながら胸元に飛び込んでくる彼女。
あの頃の自分が心を開けるたった一人の親友。そして、恋人。
彼女はずっと待っていた、昔からずっとずっと。
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 僕はこの場所にいるのが好きだ、静かだから、僕の事を分かってくれる大好きな大妖精お姉ちゃんがいるから。
「大妖精お姉ちゃん、お願いがあるんだけど……いい?」
今はお昼、大妖精お姉ちゃんが作ってくれたお弁当を食べ終わって、
僕はじんせいさいだい? のお願いをする。
「なんですか? お姉ちゃんに出来ることがあるなら何だってしてあげますよ」
「あのね、僕、大妖精お姉ちゃんと結婚したい!」
「……だめです、人間は子供じゃ結婚は出来ないんですよ」
「えー、でも……」
だって、大妖精お姉ちゃんと一緒にいるときが一番楽しいんだもん、
僕、大妖精お姉ちゃんとずっと一緒にいたい! ずっと一緒に遊びたい!
「我儘を言っちゃだめだよ。でもね、結婚が出来ないかもしれないけど
変わりにお姉ちゃんと○○くんは、恋人同士にはなれるんだよ?」
恋人? 恋人ってなんだろう、そういえば大人の人がそんなことを言っていたなー。
「恋人ってなんなの大妖精お姉ちゃん?」
「う~んなんて言えばいいのかな~……とりあえず
 殆ど結婚と同じことだと思うよ。結婚しなきゃ出来ないこともあるけど……」
「じゃあ僕大妖精お姉ちゃんの恋人になる!」
「じゃあ私も○○くんの恋人になるね」
けど僕が大人になって結婚できるようになったら、大妖精お姉ちゃんは……
「……もしも、僕が子供じゃなくなったら大妖精お姉ちゃんは結婚してくれるの?」
「もちろん、結婚してあげるよ」
「やったー!」

「……○○くん、本当にいいんですね? お姉ちゃん本気にしますよ?
いまなら、冗談にしてもいいですよ?」
今のお姉ちゃんの声はさっきと少し違う。
「なんでそんなこというの?
僕、大妖精お姉ちゃんが好きな気持ちは嘘じゃないもん」
そうだよ、僕、大妖精お姉ちゃんに嘘なんてつかない。
「そうだよね、変なこと聞いてごめんね。
……じゃあ恋人同士でする遊び、しよっか」
「どんな遊びなの? 大妖精お姉ちゃん?」
「とっても気持ちよくて、幸せになれる遊びだよ」
大妖精お姉ちゃんが服を脱いでる、どんな遊びなのかな?
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 頭をあの忘れていた最後の記憶が蘇った。ああ……そうだった、なぜ私はあの記憶
を今まで忘れていたのだろう、あの時、私の初めては大妖精に優しく奪われ、包まれ、抱きしめられ、
強烈な快楽が心と体に刻まれた。
 その情事の後、私は外に出ていた事が発覚して、
長い間外出を禁止され彼女に会いに行けなくなった。そして、忘れた。
あんな記憶がありながら、私は彼女の存在を今日まで忘れていた。
何故だろう、分からない……
「ね、○○くん。こんどは貴方が私を犯してくれませんか?
こうすればあの時の私とおあいこですよ?」
大妖精、いや、大妖精お姉ちゃんがあの時と同じように服を脱いで裸になる。
「大妖精お姉ちゃん……」
「ちゃんと思い出せましたか? この体を貴方の好きにしていいんですよ?
私はもう貴方の妻なんですから」

私は一つの疑問を口にした。
「結婚するとどうなるの?」
「私が貴方から離れられなくなります。貴方も私から離れられなくなります。
とっても幸せですよ? お互いが満たされる最高の世界です」
私は彼女の小さな体にもたれかかり、全てを委ねる事にした。
「分かりました、貴方がそう望むのなら、妻として母として貴方を愛しますね」
彼女はしっかりと、私の体を愛おしそうに受け止めた。
暖かい……この温もりが僕は子供の頃から好きだった。
「私がずっと傍にいますから」
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 数週間後……
丑三つ時、人里から少し離れた竹林を、妖精と人間が歩いている。
「やっと見つけたぞ大妖精! さあ○○を返すんだ!」
「大妖精だな? 慧音から話は聞いたよ。本当に妖精ってのは厄介だな」
二人の目の前に鳳凰の羽を生やした少女と頭に角を生やした少女が現れた。
「最近は空気が読めない人が多いですね、そう思いませんか慧音さん? 妹紅さん?」
大妖精と呼ばれた妖精が笑顔で言葉を返す。しかし彼女の語気は尋常ではない冷たさが含まれている。
「空気ねぇ、生憎私達はそんなものを読む為に登場したんじゃないんだ」
「ふーん、じゃあなんの御用ですか? 私は愛しい夫とお散歩の最中です、早くご用件を言ってください」
「……」
夫の○○はただ黙って成り行きを見守っている……
「用件なら簡単だ、○○を里に返せ!」
「夫を貴方達に渡すわけにはいきません。この人は私なしでは生きていけないんです」
「黙れ、子供に色欲を教えた売女が! 貴様がどうやって私の能力を破ったのかは知らないが、
貴様のせいで○○は苦しんでいるんだぞ!」
「苦しむ? 違いますよ。私が○○くんと体を合わせた時、私は確かに○○くんの心を感じたんです。
一人きりで寂しく絶望に染められた心を。それを私は救ったんです」
「救う? ふざけるな! 貴様ら妖精や妖怪はいつもそうだ、過剰な愛情を相手に与え相手を壊してしまう……
貴様が○○を犯した時、また同じ事が起こらないかと私は危惧した、だから私は自分の能力でその歴史を隠蔽し隔離した、
それが最善の策だった。だが貴様はそれを破った! またお前達は里の人間に手を出すのか! 同じ過ちを繰り返すのか!
それなら私は里を守るために、その歴史を何度でも無かった事にしてやる!」
「慧音さん、貴方のその里の人達に対する考えも、ちょっと過剰じゃないんですか?
あーそうか、結局貴方自身も半人半妖だから、私達と同じなんですね~あははっ」
「貴様ぁぁぁぁ!!」
満月の夜空に慧音の咆哮に等しい声がこだまする。
「け、慧音、落ち着いて、私達は争うために来たんじゃない!」


「はぁ……はぁ……」
「なあ、大妖精とやら、どうあっても○○を返そうとはしないんだね?」
「当然です。○○くんには人里ではなく、別の帰る場所がありますから」
「そうか、じゃあ――「弾幕勝負ならお断りです」
「負けるのが怖いの?」
「違いますよ妹紅さん。私達の仲を引き裂きたいのならそんな生温い勝負じゃ相応しくないってことです」
「じゃあどうするのさ」
「殺し合いをするんですよ。妹紅さんが輝夜さんと殺し合いをしているように」
「大妖――「大丈夫ですよ私はどんな事があっても絶対に負けません。安心してくださいね」

「はあ……分かったよ、もう返せだなんて言わない」
「妹紅!」
「無理だよ慧音、狂気には勝てない。それこそこっちも狂わなきゃ対抗できない……」
「ぐうっ……」
「分かったら早く帰ってください。夫が怖がってます」
慧音達は渋々といった様子で帰っていった。

「大妖精お姉ちゃん、クナイはちょっと物騒だよ」
「さすがですね、隠してたのバレちゃいましたか。でもこれは○○くんを守るために必要なんです
許してくださいね」


 夜空の満月の下で一組の夫婦が散歩をしている。なんでも妖精と人間の夫婦らしい。
この夫婦はいつまでも幸せに暮らしていけるだろうか? それは誰にも分からない。
幻想郷ではありがちなそんなお話。
最終更新:2011年11月14日 09:33