「此処は終わりの場所、幻想の郷で起こった出来事のあらゆる結末が流れ着くの……例えば、貴方の場合」
八雲紫、妖怪の賢者はヘラっと笑うと手を軽く振った。暗い頭上に幾つかの映像が映る。
「霍青娥との終局」
チャイナが息絶えた俺を抱え、枯れ果てた桃園の中で自害する光景。
「物部布都との終局」
何やら大きな方陣の真ん中、壊れた表情の俺に寄り添う壊れた笑みを浮かべた烏帽子。
「二ッ岩
マミゾウとの終局」
ひたすらに月に向かい、虚ろな希望を湛えた顔で飛んでいくマミマミ。その腕には動かない俺の身体が。
「貴方に執着した哀れな人間の女の終焉」
真っ赤なシーツと、吹き込む風雨。その中で頭に穴が開いて倒れている野郎と、其奴に致命傷を負わされたアイツ。
「過去の女の終わりと、未来の女の終わりを見た感想はどうかしら?」
「……最悪だ。袋小路だと思っていたが、これ程だとはな……」
「ええ、そうよ。ここに来る人はみんなそう。終わりを求めてくるのだから当然よね」
妖怪の賢者はズルリと起き上がり、ニヘラと笑った。
その笑みは、何故か凄く懐かしかった。
「みんな、此処で自分の終局を見るの、そして諦めるか絶望して果てる。○○、貴方はどうしたい?」
笑みが懐かしい訳が解った。いつの間にか、紫の顔はアイツの顔になっていた。
畜生、腹黒女め、人間の身なのに妖怪のボスよりキツイとはどういう事だ。
「宇佐見が、あいつが今のお前見たらどんな顔するだろうな」
「蓮子なら受け入れてくれる筈よ。貴方だって解るでしょう。私が貴方の腕の中で死んだ後で私の後追いをしてくれて、ほら……」
「……宇佐見、お前もかよ」
「そうよ○○君、私は今、物凄く幸せなんだから。
メリーが女として愛した貴方よりも、深くメリーと共に居られるの。
ずっと二人で一緒だったメリーを奪った貴方を憎んだ、憎んで横恋慕していた男を嗾けてああなってしまった。
本当は貴方の事も女として好きだったのに。メリーも貴方も両方とも私の一番奥に居て欲しかったのに、あんな事をしてしまった。
だけど、結果として私達は共に一緒になれたの。だから、メリーもメリーが愛した貴方も大好きよ。矛盾なく、二人とも私の最愛の存在なの」
うっとりとした陶酔の笑みを浮かべる宇佐見の顔。
「○○、私達と一緒になろう」
女の顔が、次々と入れ替わる。
「私は宇佐見蓮子であり、」「マエリベリー・ハーンであり、」「マエリベリー・ハーンの同一体である八雲紫なの」
女の手が、俺の両頬をそっと挟む。
「ほら、○○(君)、私達と身も心も1つになりましょう。それはとてもとても気持ちのいい事なの……」
俺達を仕切っていた境界が、一瞬にして切り替わった。
遠離る意識の中、俺は二人に1つの願いを告げる……それは
天にも届きそうな階段が消え失せた後も、三人の戦いは続いた。
制止の声が聞こえ、三人が振り返ると○○が居た。
三人が一斉に駆け寄ると、その姿は一瞬にして紫色の瀑布となり彼女達を包んだ。
紫色の空間の中、三人は困ったような顔をした○○と、寄り添う二人の女性を見つけた。
○○は言った。「みんな、仲良くしないとダメだぞ」
○○は観測者ではなく、当事者になった。
1人じゃなくなった。7人になった。
そして、幸せになったのかも、しれない。
最終更新:2011年11月14日 09:39