「八雲殿、考えていただけましたかな?」
外来人○○はマヨイガにて妖怪の賢者 八雲紫と相対する。
紫からは力なき人間ならショック死するような威圧をかけてくる。
だが、彼は動じない。託されたものがあるから。
「あなたが言う、ヤンデレという概念の永久追放?そんなことをして私に何の得があるの?」
「得が無い?あるさ!人里の人間は使い捨てにできる人種を妖怪の実力者とまぐわらせ得た平穏で助長している。人間の助長は妖怪の貴方には面白くないはずだ。」
○○の脳裏を狭い長屋で病に伏した同胞の姿が過る。
「人間がより弱い人間を蔑むのは人の業ですわ。」
「人里の人間があんたらをどう言っているか知っているか?男狂いの化け物ってな!」
「頭に乗るな!人間が!」
紫の手が○○にかかる。
「・・・・勝った」
「?」
○○の身体には精巧に書き込まれた術式が見える。
見る見る紫の表情に焦りが見えてくる。
「吸血鬼に嫁いだ男、鬼に同族にされた男・・・皆苦しみ、この術式を編んだ!」
○○の術式が鈍く輝く。
「俺が死んだら、術式に署名した同胞の妖力を暴走させ結界に穴をあける。たとえ、被害が軽微であっても伴侶を失った女たちはどうなるかな・・・」
「死と引き換えのトラップ。デッドマンズハンドね・・・・」
「境界では解除はできない。霊夢に幽閉されている男が盗み出したニ重結界を施しているからな。」
○○は目を閉じた。
永遠亭の研修医から得た痛みを無くす薬を服用しているから恐怖はない。
紫の指に力が入る。
さあ殺れよ。おまえは人間に馬鹿にされているんだぞ
ふと唇に温かな感触を感じる。
目を開けると紫が○○と唇を合わせていた。
「面白いわ人間!それでこそ我々を現実世界から駆逐した種族だわ」
紫の瞳には怒りはなく、より深い深淵が覗いていた。
そう同胞を攫っていった彼女たちのように・・・
「くっ!!」
○○がペンに偽装した単発銃を咥えて引き金を引く。だが・・・
「あなたは二つ間違いを犯した。一つその術式は優秀だがあなたの死が引き金に作動すること。二つ、そのことをいい気になってしゃべったこと・・・」
○○の四肢がスキマで拘束される。
「あなたが死なない身体になったら・・・どうなるかしらね?」
○○の身体が焼けるような痛みが走る。
「ほぅら、どう?同族になった気分は?」
「殺せ!!!このスキマババァァ!」
「その罵声も今に嬌声に変わるわ・・・・」
○○は一糸纏わぬ姿になった紫に飲みこまれた。
八雲紫がヤンデレを幻想郷に向かい入れたのには意味があった。
消えゆく妖怪を保護するために幻想郷を。
妖怪の弱体化を防ぐためのスペルカードルール。
全てが後手に回った対策法だった。
そこで、紫は人間の力に着目した。
霊夢や白黒の魔法使いのようなイレギュラーを生み出し、時には妖怪や幽霊ともまぐわい半霊、半妖、半神といった今まで存在しなかった種族を生み出す汎用性。
強制的に人間と妖怪、神、幽霊とまぐわらせ、生み出された存在を使い幻想郷を変革させる。
そのきっかけがヤンデレという概念だった。
「幻想郷は何でも飲みこむわ・・・・私やあの子の子供たちもね・・・・」
八雲紫は自分の子や伴侶を得た妖怪の子孫たちが生み出す新たな幻想郷に思いを馳せていた。
最終更新:2011年11月15日 17:51