思いも掛けず、幻想の郷に紛れ込んだ○○と呼ばれる少年。
獣のような会話すら通じない化け物に襲われた彼を救ったのは、三人の少年だった。
「うーん、でも、帰らないといけないのかなぁ。ちょっと位観光してもいいじゃんさ」
「ダメだって。ここは危険な場所が多い。外の人間じゃあっという間に喰われてしまうよ」
「そーだ、君子危うきに近寄らずって言うだろ……教わってない? ますます劣化してるのか義務教育は……」
「まぁまぁ、良いからかえれっての。お前だって家族が居るんだからさ……」
ファンタジーな、有り得ない世界に少年の心は色めき立った。
しかし、少年を救った三人の少年は彼を強引に説得し、神社へと連れて行く。
「へぇ……ジャ○プってそうなってるのか。いや、偶にこっちに漫画本が来るからな。
あれを偶に読んでるんだ。えへへ(俺の居ない間にようやく選挙になってたのか)」
日傘をさしながら先頭を歩く、小洒落たスーツを着た吸血鬼の少年。
「カレーって言ったら肉ゴロゴロのカレーだよなぁ。トンカツをどっさり載っけた奴!
……あ、いや、俺って寺育ちだからな。食い物とか躾が結構厳しいんだよ……はは」
金と黒の髪がグラデーションしたような少年が、アハハと苦笑を浮かべる。
「あ、そうだ。神社付いたら記念撮影しようぜ! 無縁塚で拾ったポラロイドカメラがあるんだ」
黒い翼で低空をパタパタと飛びながら、鴉天狗の格好をした少年が手にしたカメラを掲げた。
そして、数時間後。少年は無事に外界へと戻っていった。
たった一枚の証拠である、写真のみを手にして。
「行ってしまったなぁ……アイツ、家に戻れたんだろうか」
日傘をクルクルと回しながら吸血鬼の少年が呟く。
「寄り道せず、誰とも接点を持たず、直ぐに戻ったんだ。この郷との因果は無いはず」
住職の息子は、合わせていた手を静かに解いた。
「アイツ、変な期待して戻ってこなきゃいいな。そん時は俺達の事も忘れてしまうんだろうけどよ」
三人の沈黙を破ったのは、境内から聞こえる甲高い赤ん坊の泣き声だった。
境界を操る博麗の巫女は、恋愛という名の死闘を超えて確保した旦那との間に出来た赤ん坊を去年出産した。
「……赤ん坊か。あの状態は堪えるよなぁ」
「だな、と言うか、今でも寺中で子供扱いされるから正直堪える」
「天狗社会でも同様なので俺も堪える」
三人は、自分の母親であり、同時に愛する女である女性の事を思い浮かべた。
彼女達の度が過ぎる愛情と執着の果てが、今の自分達の姿でもあるからだ。
「今でも時折思うよ……アイツみたいに素直に帰っていたらどうなってたかってな……」
「俺はそこまで外界には執着してないけどな……ただ、カレー喰いたいのと普通に恋愛したかった程度かなぁ」
「俺のかあさ……嫁も、お前等の嫁も難儀な愛情表現しか出来ないからなぁ……ここまで来ると、普通の恋愛の方が普通じゃない気がしてきた」
再び赤ん坊の泣き声が境内に響く。
何故か三人の耳には「霊夢、恥ずかしいから引っ張らないでくれよ~!」と聞こえた。
最終更新:2011年11月15日 17:52