「七夕ごっこを○○とやりたいわ」蓬莱山輝夜の気まぐれが、この空気を作り出した主な原因だった。
「と言うわけで、気分を盛り上げる為に。七夕まで○○断ちしてみるわ」
年に一度しか会えない二人。そんな物語が、輝夜の乙女心と言う琴線に触れたようだ。
しかし。「会えない内に誰かがちょっかいをかける事って充分可能よね・・・」
七夕ごっこの準備中にふとそう思った。
そう思ったその時から、普段は隠れていた輝夜の○○に対する偏愛が爆発しだした。
「やっぱり止め!」そう言って離れから○○をかっさらって行った。
元々輝夜はこの永遠亭では姫の身分で、仕事らしい仕事は何一つ無かった。
だから四六時中、彼女は○○の近くにいた。
それは今も大して変わっていないが大きく変わった事がある。○○を自分の部屋からあまり出さなくなった事だ。
「離れてこそ分かるなんとやらって奴ね」
串にさした団子を食べながら、輝夜は自身の変化をそう評していた。
「はぁ・・・そうですか」
それを聞いている射命丸文は生返事を浮かべるだけだった。
スカですね。口には出さないが内心そう思っていた。
七夕と言う事で。一番それにまつわる催し物をやりそうな永遠亭に取材に来てはいたが。
蓬莱山輝夜に直接インタビュー出来たのはいい。しかしそんな彼女の思い人である○○とのツーショットを文は期待していた。
スカですね、口には出さないが内心そう思っていた。このままではなんと面白みの無いことか。
面白みがあるとすれば・・・文は先ほど永遠亭に来たときの事を思い出す。
嫁への取材記事と言うものは数多ある。それに比べて少ないのが旦那への取材記事だ。
今回永遠亭に来たのも旦那が目当てだった。
旦那への接近は非常に難しいのが常だ。それ所か取材対象となるような人物に旦那がいる、と言う情報すら流れていない場合もある。
行方不明となった男の何人かは妖怪に食われたのではなく。恋心を爆発させた者にさらわれたのではないか。
幻想郷ではまことしやかに流れている噂話である。神隠し同然に自宅から忽然といなくなったような場合には特に。
真正面から旦那として迎え入れる場合もあるが。秘密裏に掻っ攫った場合は。誰がの特定は非常に難しい。
その点、蓬莱山輝夜の場合は。昼の、往来が激しい時間に真正面から牛車でやってき連れて行ったので知らない者はいない。
そんな蓬莱山輝夜の旦那へのインタビューをする為に。約束の時間より少し早い時間に永遠亭にやってきたは良いが。
屋敷を動き回る兎に居場所を聞いても脱兎の如く逃げられるだけだった。
何匹かは鈴仙様のような目には合いたくない!と叫んでもいた。
恐らく。来たときに見かけた石庭に突っ伏した、状態で倒れているアレの事だろうな。と文は思っていた。
どうにか、どうにかして。何とかして旦那のインタビューを成功させたい。
嫁相手のインタビューや嫁が主体の騒動に飽いてきた読者を引きつけるには、それが一番インパクトがある。
「所でぇ・・・旦那様はどのように思われてるんでしょ―
言い終わる前に団子が刺さっていた串が文の頬をかすめ飛んだ。
「舐めるんじゃないわ、アンタなんかが○○に何を与えれるって言うのよ」
「うどんげと一緒かしら貴女も?」
「い・・・いえいえそんな私はただ記事のネタは多いほうが良いなーと思っただけで」
微妙に引きつった営業スマイルで場を取り繕う。
「そりゃぁ贈り物の全部が全部○○の好みに合う物ではなかったわよ」
「うどんげが何だか○○に余計な知恵付けようとしてるし。私の方がずっと何かを与えれるのに」
「何が姫様に言い寄ってくる貴族と同じですね、よ。あったま来ちゃう」
「妹紅も最近私じゃなくて○○に狙いを定めてるし。あの翁と婆と同じ思いを味わわせてやるとか言ってるし」
ブツブツと器に盛られた串団子を乱暴に食べる輝夜。文はと言うとまったく別のことを考えていた。
(ついでに妹紅さん辺りに突撃インタビューかましても面白そうですねぇ)
「ねぇ貴女。何で七夕の日に雨が降ると思う?」
唐突に輝夜があやに質問を投げかけた。
「雨の特異日だから・・・じゃ駄目ですよねぇ」
「ロマンが無いわね」文の答えに軽くため息をつく
「雲の上は天気なんて関係ないのよ。わたしたち月人に取っては尚更」
そう答える輝夜が文を見る目はどこか蔑んだ所が合った。
「あんた達みたいな出刃亀の丁度良い目くらましなのよあの雨雲は。誰が逢い引きを見られて喜ぶのよ」
そう掃き捨てると輝夜は立ち上がりふすまの奥へと消えていった。インタビューは終わりのようだ。
奇しくも彼女が閉めていったふすまの絵柄は。雨模様だった。
最終更新:2011年11月17日 12:17