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「こら
魔理沙ー! 他人の食いもん勝手に盗るな!」
「いいじゃないか、たった一個なんだから」
「二個ある内の一個だろうが!」
白と黒のエプロンドレス、白いリボンが特徴的な黒いトンガリ帽子。
目の前でお茶請けの饅頭を食べているのは霧雨魔理沙。
自分が幻想郷に迷い込んだ一年半ほど前、最初期に知り合いとなった人物だ。
こいつはたった今、近所の和菓子店で購入してきた黒糖饅をつまみ食いしやがったのだ。
少々お高い逸品だというのに、茶を啜りながら食べるでもなくむしゃむしゃと咀嚼していた。
「大体、こんなうまい物を一人で寂しーく食べてるなんて自分でも嫌だって思うだろ? だから私は一緒に食べてやってるんだ。
少しは感謝くらいしたらどうだ?」
「寝言は寝て言え。ばかたれ」
「ぐ、ばかたれとは酷い言い草じゃないか○○。どんな物でも誰かと一緒に食べたほうがうまいに決まって……げほげほっ!!」
あ、むせた。ざまぁ。
「ほれみろ。食い物の神様が怒ってお前に罰を与えたんだ。反省しろ」
「ちょ……! ぞんなごといっでないで、なんどがじでぐれー!」
「あぁもう……」
俺は飲みかけの茶を魔理沙に渡す。温度もそれなりに温くなっているだろう。
「んぐ、んぐ、……ぷはぁ! 死ぬかと思ったぜ」
「あー、そうなったら俺の食う菓子が増える事になるな。大歓迎だ」
「ひどっ!!」
全く、憩いの時間が台無しだ―そう考えざるを得ない。
「……あ、茶まで無くなっとるがなー!」
「安物だったんだろうが、それなりにうまかったぜ?」
「……はぁ、もう突っ込む気にもならん。淹れてくる」
席を外した○○。残されたのは魔理沙と○○の食べかけの饅頭と、湯呑み。
「―――○、○」
先程まで彼が使っていた湯呑み。
茶色の饅頭の皮が付いているのは先程自分が口をつけた所なのだろう。
そして、少し濡れている所はきっと――彼が口をつけた箇所だろう。
そう考えると、魔理沙の呼吸は荒くなってきた。
「ん――ふぁ……○、○ぅ……」
くちゅ、ぴちゃ、と湯呑みを舐めまわす魔理沙。はっ、と思い直す。
(な、何をしているんだ私はー!? こんなのおかしいぜ……。折角、○○が近くにいるってのに)
(……間接キスなんかで、興奮なんかして)
「どうせなら、○○に直接……」
「あ? 直接なんだって?」
「うわっ!! な、何だ○○か……驚かすのは良くないぜ」
「ここは俺の部屋だろうに。俺が居るのは不自然か?」
「い、いや! 全然そうでもないな! うん!」
そういうと魔理沙は新しく淹れてきた茶を口に含み――
「だっ! おま、馬鹿野郎!!」
「ぶふぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
噴出した。
「だぁぁっちぃぃ! てめー魔理沙! わざとか!?今のはわざとか!?」
「ひらうにひまっへるらろ――!!」
幻想郷は、今日も平和だった
感想
最終更新:2019年02月09日 19:16