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「○○」
「何だい?『  』」
「霊夢――博麗霊夢を、彼女を立派な博麗の巫女にしてあげて」
「何をまた……これが僕の仕事だろ?」
「彼女も私と同じように、色々な事に巻き込まれるかもしれないわ」
「もしも彼女が落ち込んだり、悩んだりしたら……助けてあげて」
「……みんなそう言うんだね」
「当たり前よ。自分が今までやっていた事を他の人に継がせるんだもの。心配にならない訳が無いわ」
「約束は守るよ。彼女が一人でも役目を果たせるようになったその時に……」
「なぁに? ○○」
「君に会いに行くよ。絶対に」
「……私は仕事一筋だったつまらない女よ」
「……それでも僕は」
「その約束、楽しみにしているわ。……私、待ってるから」
「あぁ、必ず」


「おはよう、霊夢」
「……ん、おはよう。○○さん」
私――博麗霊夢は博麗神社の巫女である。
異変の解決、博麗大結界の管理が主な仕事の博麗の巫女……その手伝いをしてくれているのが○○さん。
手伝いと言っても、食事を作ったり掃除洗濯、その他雑務をこなしてくれる――私の大切な人。
私が博麗の巫女のお役目を正式に継いだ時に紹介された世話役が彼だった。
悲しい事があったら慰めてくれて。
将来必要だから、と家事を教えてくれた事もあった。
あれが食べたい、と言ったら夕食にそれが出てきたり。
雷が怖かった夜には一緒に寝てくれた。……私の大好きな人。
その人が起こしに来てくれた。朝食ができたのだろうか、味噌汁のにおいが漂ってくる。
「冷めない内に来て食べておくれよ」
「んー……わかった」

「はろう、○○さん」
「おや、誰かと思えば」
「あら、紫じゃない。朝早くから何の用?」
何故か三人分の食事が置かれているちゃぶ台の近くで先に朝食にありついているのはスキマ妖怪――八雲紫だ。
朝早くから朝食を他人の家で食うなんて、いい度胸をしているわね。
「あぁ、お先に頂いてるわ~」
「えぇ、見ればわかりますよその位……はい、醤油どうぞ」
「あら、気がきくわねぇ」
この幻想郷の管理を行っている八雲紫。そんな人物を全く恐れない○○さん。
……私から見ても、かなーり仲が良い。
「霊夢。早く食べないと冷めちゃうわよ? 今日のも中々美味しいわ」
「それはどーも」
「はーい。……いただきます」
うん、今日も味噌汁がうまい。
お、浅漬けもいい塩梅の塩加減。
鮭の塩焼きも中々……。
「ほら霊夢。ついてる」
「!? ……ありがと」
いつの間にか自分の頬に米が付いていた様だ。……○○さんはそれを躊躇うことなく自分の口に……。
「――あらぁ? 霊夢、顔が赤いわね」
「えぇっ!? そそそんな事……」
「あ、本当だ。赤いな……風邪か?」
「……し! 知らないわよっ!!」
恥ずかしい気持ちを何とかする為、使い終えた食器を持って台所へ向かった。

「あらら……行っちゃったわね」
そう言って彼女――八雲紫は僕に微笑んだ。
「あの子は少々恥ずかしがり屋な気がしますからね」
「貴方の役目通り……霊夢は博麗の巫女として十分機能しているわ」
「それはどうも……それが僕の仕事ですので」
しん、と場が静まる。次の言葉を待っているかのように。
「○○。三日後、貴方を霊夢の世話係から外します」
「!」
今――何て?
「霊夢はもう一人でも役目を果たし、生活もできるでしょう」
「……はい」
「……貴方も、彼女との約束を果たしてあげなさいな」
「紫……様」
「後は、私達に任せて。貴方は彼女と共に生きなさい」
「……はい!」
長かった。本当に長かった。
霊夢の成長を見届け、遂に許可が出たのだ。
僕が過去、交わした約束がもうすぐそこに―――
待っていてくれ、―――
……あれ?彼女の名前は―――
何故だ! 何故……!?

「ただいまー……って、どうしたのよ紫」
いつにもなく険しい表情をしてるわねー。
「霊夢。良く聞いて。とても大切な事よ。貴女にも、○○さんにも――」
え?
「三日後、○○さんは貴女の世話役から外れます」
「……え?」
え? 嘘よ。
「これからは私や藍が手助けを行います。貴女は今後、一人で博麗の巫女の役目を果たす事になる」
嫌。そんなの嫌!嘘よ!
「○○さん、お勤め御苦労さまでした」
「……えぇ、そう――ですね」
嘘よ。○○さんが私から離れちゃう。
嫌!嫌!そんなの嫌ぁぁぁぁ!!!
何で!? 私が我儘だったからなの!? もう我儘言わない!! 行かないで!!!
ちゃんとお仕事頑張るから! だから○○さんもここにいてよぉ!!!
ちゃんと素直になるから!! 言う事聞くから!! 真面目になるからぁ!!!
見捨てないでっ……!! ○○―――!!!

どうしようどうしよう……。明日○○がいなくなっちゃう……。
嫌嫌嫌っ!!! ○○は私とずっと一緒に暮らすの!! この神社で!!
この二日、必死で考えた。彼が私と一緒に居る方法を。
彼には悪いけど、仕方ないのよ。私が○○を好きになってしまったんだもの。
夜這いするのも、仕方ないわよね。
「うん。仕方ないのよ……これも、二人の為なんだもん」
○○のいる寝室の襖を開く。○○はぐっすりと眠っている。
「えへ、○○さん……大好きよ」
布団を剥ぎとり、彼に跨る。無防備な彼の唇を貪った。
「ん……ふぅ、っ……・んくっ」
水音が部屋に響く。とても、いやらしい音だ。
「ん――れ、霊夢!?」
「あ。起きたんだ」
起きちゃったんだ……まぁ、いいや。
「何で、こんな事……!?」
「だって、○○さんが好きになっちゃったんだもの。……離れたくないのもあるわ」
「……霊夢、君が抱いている感情はきっと、僕を父として見ているんだ」
何を言っているの○○。私は貴方を男性として――
「ううん、私は○○さんが好きなの。一人の男の人として、ね」
「――そんな訳」
「ずーっと好きだった。なのに私の所からいなくなっちゃうなんて、許せる訳ないじゃない」
「それは―――そういう事なんだよ。決まっている事なんだ」
何を言って―――

「霊夢、そこまでよ」

「紫様!」
「……ゆ、紫っ! どうしてここに!?」
何で!? どうして邪魔をするの!?
四肢が―――スキマに繋がって動かない……!
「○○さん、行って。彼女に会ってあげなさい」
紫が別のスキマを用意した。○○がその中に―――
「!! 嫌ぁ!! 置いてかないでぇ!!」
「霊夢―――ごめん」
スキマに――消えた。
「あ……・あああぁぁぁぁあぁぁあ!!!!」
何で何で何で!!!
どうして!? 私を置いて行っちゃうの!?
「霊夢、落ち着いて聞いて」
「紫……っ!」
この女が、憎いっ……!
「○○さんは―――」
返答次第では、ただじゃおかない―――!

「好きな人がいるのよ」

え―――?
「その人はね、とても真面目で仕事熱心で、貴方とは間逆の女性ね」
「○○さんはその人の世話役も行っていたわ。今のままの姿で」
「彼女はそんな○○さんを好きになり、彼もまた彼女が好きになってしまったわ」
「でも、彼女は貴方が博麗の巫女を継ぐと同時に姿を消した。そういう役目だったのよ」
「彼は今の仕事が一段落したら、一緒に暮らすと彼女と約束をした」
「その仕事が―――霊夢、貴女の世話役よ」
何を、言って……。
いや、それよりも……。
「○○さんは、この仕事を、『世話役』をしていたの……?」
「そうよ。彼は代々の博麗の巫女の世話係を担当しているわ。……もう、何代も、ね」
なんで、そんなに生きているの―――?
「どうして老いを知らないのか、って顔ね。……数代前の博麗の巫女と彼は、仲が良かったわ」
「ある時、その巫女が死んでしまってね。その時に彼が約束していたの」
「君と同じ、博麗の巫女を守り続ける――って、ね」
「私も手を貸したわ。彼を老いる事の無い身体にして、役目を果たせるように」
なんで、そんな。じゃあ……私と一緒だったのは――それが役目だったから?
「じゃあ、○○さんの好きな、人って」
「あら、まだ気付かない? 先代の博麗の巫女よ」
―――ッ
「二人はこれから仲睦まじく暮らすわ。貴女もいい人を探しなさい」
「――あの人の事は忘れて、ね」

「げふぅ!!」
スキマから出ると、そこは見慣れない和室だった。
「……どこだ、ここ」
何か、懐かしい匂いもする。
ふと目をやったほうに、布団があった。しかも誰かが入っている。
「……まさか、ね」
そう呟いた。……その声に反応したのだろうか。
「ん、誰だ……?」
その人が起きてしまった様だ。……ヤバい、かな。
「あぁ、自分は決して怪しい者ではなくて――!」
「え、その声―――」
そう言った『彼女』の姿は、自分が追い求めていた他人の様な形で―――
「○、○……なのか?」
声までも、凄く似ていて―――
「あぁ……っ!! ○○--!!」
彼女が僕に抱きついた時に漂った、香りも似ていて―――
「あぁ……っ! 僕だ! ○○だ!」
気付けば僕は、泣いていた。
「○○……っ!私、もう駄目なのよ……!」
「もう、自分の名前も思い出せないのよ!」
「けど、私は貴方が―――!」
僕は、彼女をそっと抱きしめた。
「――君は、君だよ。僕が好きな、君だ」
「うぅ……・! ○○……っ!!」

あぁ――○○さん。
どうして、私がまるで馬鹿みたいじゃない。
貴方は役目で私に優しくしていたの……?
嘘よ……そんなの、嘘よ……。
そうよ。これは夢なんだ。
目が覚めたら、そこに○○さんがいて―――。
朝ご飯ができたよ、って起こしてくれるんだ。

「――夢」
「―――ん」
「霊夢、朝だよ」
ほら、やっぱり! あれは夢だったんだ!
「――おはよう、○○さん」
「おはよう、霊夢」
ほら! やっぱり○○さんは私と一緒がいいのよ!
まったく、紫もどうかしちゃったのかしらねー。
「家事とかちゃんとできるね?」
「――ん?できるわよ」
だって、貴方が教えてくれたんだもん。
「ご飯、しっかりと食べるんだよ」
ちゃんと作れるわよー。貴方が教えてくれたんだもん。
「あ、家事もそうだけど、お役目もしっかり果たすんだよ」
まかせなさいよー。だって私は博麗の巫女なのよー。
「……じゃ、もう行くから」
―――え?
「ま、待って……!」
○○さんが襖を開けて神社の外に出る。そこで○○さんを待っていたのは―――
「あら、早かったのね、○○」
「うん、霊夢がちゃんと起きてくれたからね」
紫の言っていた、先代の博麗の巫女―――
何処となく私に似ている雰囲気の――長い黒髪の女。
「あ―――」
もう、○○さんは、あの女の餌に―――
「ん?霊夢。どうしたんだい?」
「あら? この子が今の博麗の巫女?」
そこをどけ!! ○○さんが汚れるだろっ!!!
「お役目、頑張ってくださいね」
いい笑顔でそう言い終えて、アイツは○○さんの腕をとって―――
「――――――フッ、小娘が」
私だけに聞こえる様に、囁いた。

「ああぁああぁあぁぁぁあああ!!!」
私は、二人の背中に向かって弾幕を放った―――。







先代巫女のお話が少ないので、絡ませる程度に出演させてみました。
ついでに○○も人外になっているという……うん、好みが分かれると思います。
あ!アリスのお話も書く書く言いながらまだ出来ていないんだ!すまんね





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最終更新:2019年02月09日 18:10