満月の明りの中で、二人の男女が抱き合っていた。
いましがたまぐわいを終えたのだろう。
二人の肢体は月明かりに照らされ輝いていた。
男女の片割れ、銀髪の少女が男に囁く。

「・・・いくよ」

その声は抑揚がなく、聞くものによっては怖気すら感じさせた。

中身の詰まった袋を突き破るような音が響いた。

男の背中からは少女の腕が突出していた。男の心臓を掴んで・・・


妖怪の山
高度な社会組織を生み出した天狗の根城。
そこへ一人の少年が一軒の家の前に立っていた。
目を瞑り、意識を集中させる。
「母親」程ではないが、少年は白狼天狗としての空間把握能力を受け継いでいた。
煩い「鳥頭」がいないことを確認し少年は玄関を開ける。

「帰ったよ、椛」

「おかえりなさい○○さん」

そういうと中から出てきた少女は少年を抱きしめた。


ことの起こりは全てあの「鳥頭」の所為だ。
白狼天狗「犬走椛」は○○と時折合い、話しをし愛し合うだけで満足していた。
だが、あの「鳥頭」の奴はそれを面白おかしく書きつらねばら撒いた。
「白狼天狗MIさん、外来人○○とハメながらの哨戒行動。らめぇー頭がフットーしそうだよぅ」
すぐさま天狗社会で問題となった。

男を選んで天狗を捨てるか、それとも男を捨てるか。

生れてから天狗社会に所属していた椛が外界で生きていくことは難しい。
しかし、○○さんを捨て生きることはできない。
椛は妖術の研究と称して○○と生きる方法を模索した。
「答え」は思わぬところから見つかった。
幻想入りした外界の小説。
そこには一度死んだ人間の欲を種に、肉体を再構成する方法が描写されていた。
椛はそのヒントを元にある術を完成させた。

○○とまぐわい、その精を己の胎内に満たした後で○○の心臓をえぐりだしその魂を自らの胎内に宿らせる。
それにはパチュリーから教えてもらったホムンクルスの作成法が参考になった。
後は派手に弾幕を放ち、ギャラリーを呼んで泣きながら「○○だったもの」を貪り食えばよかった。


○○に妊娠したことを伝えたら、別れ話を切り出された。
気がついたら○○を殺し貪り食っていた。

我ながら会心の芝居だったと思う。
すぐさま堕胎を勧められたが、涙ながらに子に罪がないことを訴え無事に○○を出産できた。
あの忌々しい鳥頭が上役を説き伏せてくれたのは思いがけない幸運だった。
まあ、あの鳥頭はただの野次馬根性で手助けしただけだろうが。
○○が話せるようになってから、椛は今回の「落とし前」として自ら去勢手術を受けた。
そのおかげで半妖○○は妖怪の山の居住を許された。
○○の子を授かれないのは残念ではあるが、石女となった椛に関心を向ける雄はいない。
誰にも邪魔されず○○との新婚生活を愉しむことができた。

人里の寺子屋に通わせ「母親」椛としての体裁をとり、外来人としての知識を生かせる道具屋での仕事に○○を就かせてやる。
もはや、○○と椛の「不幸な」出来事は誰もが忘れ果てていた。


椛は思い描く。

全ての生き物が去り、塵に帰っていく幻想郷。

一糸纏わない姿で抱き合う○○と椛。

やがて二人も塵に帰っていく。

その瞬間でも抱き合ったまま・・・

「墓場まで一緒だよ○○。あなたは私が愛した唯一の雄なんだから・・・」

鬼灯のような満月に見守られ母と子、いや椛と○○はその魂までも貪るように絡み合った。

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最終更新:2011年11月23日 13:20